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甘え終わったダリアを横にやり、布団などを片付けてから部屋を綺麗に【浄化】する。あの客は汚かったと言われない為にも、綺麗にしてから宿を出る。食堂に行き、中銅貨6枚を支払って朝食を注文したら席に座り、雑談をしながら待つ。
運ばれてきた朝食を食べていると、周りから噂話が聞こえてきた。特に聞く必要もなさそうだが、一応聞いておこう。
「塩の湖の近くで今年もドラゴンが目撃されたんだってよ。毎年のように塩を樽に入れてるらしい。カーナントでは村や町に近付いたり、ブレス吐いたりするらしいが、我が国じゃ塩を持っていくだけだな」
「まあ、毎年の光景らしいからな。こっちなんて一度もドラゴンを見かけた事すらねえけどよ。塩の湖ってホッディ町の北だっけ? そこに毎年来るドラゴンっつうのも変わってるなー。塩取って帰って行くだけだろ?」
「確かその筈だ。大きな樽1つか2つに入れて、そして去っていくらしい。ドラゴンって聞くと恐いけど、ここ獣国に来るドラゴンは塩を持ってくだけだからなぁ……。いや、強いのはしってるけどよ」
「強いどころか、軍でも逃げ出すぐらいだっての。そもそも剣とか槍とかが効かねえんだから、どうにもならないらしいけどな。キィンって跳ね返るだけで、全く傷が与えられねえらしい。何やったって無駄なんだと」
「魔法はどうなんだ? 我が国にも魔法使いの部隊があるじゃねえか、あれなら何とか出来るんじゃねえの?」
「剣とか槍が効かねえのに、魔法が効くわきゃねえだろ。ドラゴンなんて何もしなきゃ通り過ぎていくだけなんだから、大人しくしてりゃいいんだよ。一番暴れ回ってるのは聖国か? 何故か分からねえけど、聖国ではドラゴンが暴れ回るらしいしな」
「それは聞いた事あるな。ドラゴンの人達を怒らせたから報復されたって。そもそもドラゴンの人達って人間種と同じ姿になれるからなー、反則もいいところだぜ。人間種かと思って喧嘩を売ったら殴り殺されっちまう」
「ドラゴンの方々もなー。暴れる方とか迷惑なんだから、同じドラゴンの方に何とかしてほしいぜ。人間種と同じ姿してるんじゃ、何処に居るか分からないけどさ。ドラゴンを何とか出来るなんてドラゴンだけだろうに……」
ふーん。この星のドラゴンって変身するタイプなのか。まさか人型になるドラゴンとは……質量保存の法則とか言っちゃ駄目なんだろうなー。ファンタジーはファンタジーにしておくべきだな。
そういや、アリシアだって大猿から普通の人間の姿になってるんだ。アレだって質量保存の法則から考えるとおかしいんだから、今さらな話でしかなかったな。腕や足も猿に変化させられるんだし。
朝食後、町を出た俺達は西へと走っていく。ワッテ町から西へと進み、オーウェ村、カレウ村を過ぎて昼休憩を行う。ささっと作れるタコスモドキで昼食を終わらせたら、更に走ってインドウ町へ。
そこをスルーしてそのまま走り、アリシアを背負い子供達を両腕で持って身体強化で一気に走る。その御蔭で夕方には王都ガルラに到着した。何とか間に合って良かったと言うべきか、それとも子供達ですら届かなかったと言うべきか。
王都前には長い行列があるが、夕方だから仕方ないのかもしれない。特にこの時間に集中するんだろう。馬車なんかもそんな感じで到着するし。村と村の間が馬車で一日ぐらいだからなぁ、ちょうど到着はこんな時間になる。
アリシアと子供達を下ろし、ゆっくりと待っていると見慣れた光景が。馬車が横に連れて行かれている。また御禁制の何かを入れようとしたんだろう。前の星でもそうだが、アレをやる商人は本当に居なくならないなー。
そんな無駄な時間を待たされたものの、夜になる前に何とか入れた俺達は、王都に入ってすぐに宿へ行き部屋を確保する。ところが満室で他の宿を教えて貰い、そこに行っても満室だった。
困ったなと思っていると、女性に話しかけられる。どうやら宿の従業員というか、実家の手伝いをしているらしい。ちょっと怪しいが背に腹は換えられないし、何かあっても対処出来るのでついていく事にした。
「まあ、怪しいって思うのは分かるし、実際に怪しい場所にあるから仕方ないんだけどねー」
そう言う女性について行くと、スラムの近くにある宿だった。それ自体は俺達にとって慣れた事だからどうでもいいが、宿と分かるような看板が小さく出ているだけでしかない。王都に初めて来た者は、これじゃあ分からない。部屋が余っているのは当然だろう。
「分かり難いとか言われてもね。ウチはそもそも知っている人は泊まりに来るっていう、穴場な宿だしお客さんも儲かる程度には入るから良いんだよ。無理にお客を集めると、いつものお客さんが逃げちゃうしね」
成る程、こういうのを好む客が泊まってるから売り上げは問題無いのか。まあ、静かな宿が良いっていう客は多いだろうな。案内されるまま宿に入り、2人部屋を1泊中銅貨4枚でとる。値段は良心的だな。
近くの酒場の場所も聞き、皆で食事に行く。スラムの近くだからかガラの悪い連中が居るが、気にせず夕食を注文し中銅貨9枚を支払った。アリシアも子供達も疲れたようだが、仕方ない。かなり強引に移動したからな。
とはいえ、その御蔭で明日はゆっくり観光できるんだ。そこに関しては子供達もアリシアも納得している。休養は2日とっても良いしな。そう話していると、ステージになっている所に女性が上がって歌い始めた。
またロードエルネムかと思ったら違うみたいだ。ま、どのみち興味ないんでスルーするけどな。運ばれてきた料理を食べていると、近くの酔っ払いが絡んできた。
「おいおい。獣国建国の歌を聞かねえお前らはどこの誰だ! 獣国のもんじゃねえな? 何処の奴かは知らねえが、歌を聞かねえバカに食わせるメシも酒もねえ!! とっとと失せやがれ!」
「………」
「てめぇ! オレ様が優しい内に失せろって言ってるのが分からねえのか、ああ!! そこのガキと女に金を置いてったら許してやるぜ? ブルって声も出せねえ奴にはお似合いだろ、ギャハハハハ!!!」
「………」
「さっさと金出して失せろっつってんのが聞こえねえのか! 今すぐブチのめして沈めるぞ!! それともてめぇの前でガキどもを殺してやろうか!!」
「あ”?」
いちいち面倒臭い酔っ払いだから無視してたんだが、今コイツ何つった? ウチの子供達を殺すだと? こういうゴミは正気に戻したうえで、トラウマを刻み込んでやらんとな。という事で久しぶりの【幻死】だ。
周りでヘラヘラしていたゴミどもも居るしな。纏めてトラウマを植えつけてやろう。
「おいクソ。お前、今何て言った? ウチの子供達を殺すって言ったか? 言ったよな? ならばクソであるお前も殺される覚悟があると見做す。いいな?」
「う、あ……い………あ、べ………ち………」
「あ? 何言ってるか分からないが、とりあえずお前は死ね。面倒臭い酔っ払いだと思って無視していたら調子に乗りやがって。そういうゴミから死ぬっていう当たり前の事も知らんらしいからな?」
「ち………ちが。お……べ……い………」
「ああ? お前が何を言おうがどうでもいい。ウチの子供達を殺すとか言った以上、お前が死ね。酒場を汚す訳にはいかないからな、こっちへ来い」
「あぐっ! ま……ちが……そん」
俺は首を掴んで無理矢理に酒場の外に連れて行く。子供達や2匹、それにアリシアには【幻死】の効果を受けないようにしたが、それ以外の者に対しては無差別に撒き散らした。あくまでも酒場内だけではあるんだが。
それでも酒場内に居た奴等は男女関係なく、盛大に漏らして怯えていたな。まあ恐怖で殺す事すら出来るのが【幻死】だ、酒場に居た連中はキッチリとトラウマを喰らったろう。自業自得だ。ヘラヘラ笑ってこっちを見ていやがったからな。
ウチのメンバー以外で【幻死】を喰らわせなかったのは、酒場で歌ってた女性ぐらいか。あの女性は関係無いので入れないのは当然だ。




