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朝食後、全員で一緒に町をウロウロしながら情報収集を行う。町や村の場所、ダンジョンの場所、更には国の地形。少々突っ込んだからか多少怪しまれたものの、それでも情報を集める事が出来た。
【白痴】を使っているので嘘を吐く事は出来ない。多少話しにくそうにしていたので嘘を吐こうとしていたのかもしれないが、特にどうでもいい部分だった。何でそんなところで嘘を吐こうと思ったのやら?。
食堂に行き、中銅貨6枚を支払って昼食を食べる。午後からどうするかと思ったが、子供達もアリシアも特にしたい事は無いらしい。何か予定があるならつき合ってもよかったんだが、特に無いみたいだ。
なので買い物に出掛ける。まずは食料店に行き、減っていた野菜を小銀貨1枚分補充しておく。あまり沢山買ってもしょうがないからな。次に雑貨屋に行き、綿を小銀貨2枚分買う。これでもう2つ布団が出来る。
やはり獣国は綿を作ってるだけあって安い。綿布も安くで売っているので、これも小銀貨4枚で買い、大きな布団を作る分は確保した。それ以外にも子供達の服とか下着とか細々とした物を買っていく。
アリシアも細々とした物を購入しているらしい。その辺りは好きにしてほしいところだ。どのみち金が無くなったところで、生活用の金は俺が持っている。なので食べたり泊まったり出来なくなる訳じゃない。
必要な物は好きなだけ買えばいいし、アリシアだって必要な物はあるだろう。店員と色々話しながら購入しているアリシアは放っておき、俺は子供達と色々見て回る。子供達もブラシを買ったり、汗を拭く為の布を買ったりしている。
獣国では綿布があるが、それでも麻布の方が安かった。俺もズボンなどは綿布の丈夫なズボンを買い、全部あわせて中銀貨2枚分も購入する事に。意外とお金を使う羽目になったが、その御蔭で不足していた物が整ったんだからいいか。
アリシアの買い物も終わったようなので、俺達は再びウロウロを開始する。途中で武具屋に寄ったが酷かった。いや、酷いというよりは効率的というべきか……。とにかく無駄な物が無く、金属製の物も殆ど無かった。
あるのは防具ぐらいで、武器は徹底して木材か石製の物しかない。黒曜石で作った剣とか槍、鉄で被覆した盾や鎧などなど。盾はともかく鎧に関しては、木の鎧の上から鉄をくっ付けている物だった。
木の部分の上から鉄板を引っ掛けているだけで、着脱は簡単に出来るらしく、メンテナンス性能は高い物だった。木の鎧は綺麗に作られているのに、その上から引っ掛けるように鉄板を纏うので、何やら残念な見た目になる。
とはいえメンテナンスの効率は良いし、鉄板が悪くなってもすぐに交換できるという便利な物ではあった。なので獣国ではこれがスタンダードなのだろう。その国の実情に合った物になる筈なので、これが実情に合った形だといえる。
アリシアは何とも言えない顔をしているが、防御力などに問題が無いと分かったのだろう、侮れないという顔に変わった。黒曜石の武器でも戦う事は十分に可能だ。実際、黒曜石はガラス質の物なので切れ味は十分にある。
それを聞いたアリシアは驚いているが、そもそも黒曜石は海底火山の噴火などで出てきたガラス質の物が冷えて固まった物である。だからこそ形さえ整えてやれば鋭い切れ味を確保できる。
そんな話をしつつも、見る物は無くなったので食堂に行き、中銅貨6枚を支払って夕食を注文して待つ。食事をしながら周りの声を聞くも、関心を向けるような話題は無かった。
夕食後、部屋に戻って情報を整理する。コノモエ町から西にオッス村、デイシュ村、ワッテ町、オーウェ村、カレウ村、インドウ町、王都ガルラがある。王都までそれなりに遠いものの、それでも俺達にとってはそこまでの距離ではない。
この獣国も思っているよりは広いし、真っ直ぐ西への地理しか聞いていない。北や南にズレると町や村は沢山あるが、北や南にズレる必要が無いからなぁ。呪われている奴が居るなら行くんだが……。
「まあ、そこに関しては何とも言えませんね、それより驚いたのは、呪いが蔓延しだしてから種族が増えたという話ですよ。足が鳥みたいになった子供とか、毛が濃く長くなった獣人とか。色々と新種族ともいうべき人が増えてるって」
「聞いたが、そいつら新種族であって呪われてる訳じゃないからなあ。この町にも居たけど、俺が【浄化】しても何もなかったって事は、アレはそういう種族ってだけだ。背中の翼が大変そうだが、寝にくいぐらいじゃないか?」
「いや、寝にくいって……。そうかもしれませんけど、地味な部分の話をされても」
「周りから見れば新種族かもしれないが、本人からすれば自分でしかないだろうからなぁ。そこまで騒がれても困るって感じじゃないか? 自分は自分で終わるだろうし、翼が生えてる! って言われても本人にとっては邪魔な物かもしれないだろ?」
「まあ……それはそうかもしれませんけど……。ああ、私が大猿のままなのも変わらないといえば変わらない訳ですか。確かにそれなら騒がれたくないというのも分かります。いちいち言われても……と」
「だろう? 騒いでるのは他人だけで、本人にとってはそれが普通だからなぁ。それよりも、そういう子供が生まれた当初、自分の子供とは思われず捨てられた子が沢山居たっていうのがなー、何とも言えない」
「まあ、両親のどちらにもない特徴を持って生まれたら、誰の子だ? となるのも分からなくはないですけど……それでも捨てるってどうなんでしょう?」
「さあ? 前の星では自分と同じ種族じゃないというだけで、不出来な弟を跡取りにしようとした奴も居たらしいからな。家臣と主君から説得されて渋々出来の良い兄を当主にしたらしいけどな。その弟は父親に溺愛されたからか、勘違いしたバカになってたしなー。愛されるのが必ずしも正しいとは限らないぞ?」
「それは、また……、出来の良い兄であるならば何の問題も無いでしょうに、何故種族だけで決めるのか。本当に意味が分かりません」
「周りだって分からんし、俺達も分からなかったよ。結局、その弟は主君を裏切った罪で処刑された。種族しか見ないとか、性別しか見ないとか、何かしか見ないっていう頭の悪い奴は居るぞ? にも関わらず、自分は総合的に評価しろとか言いやがるんだ」
「……頭が悪い人って面倒臭いんですね? 私は関わりが無くて良かったです。呪われても王女だったからでしょうか?」
「多分そうじゃないか? 最初は王女だから、次は呪われているから、それぞれの理由で鬱陶しいのが関わってこなかったんだろうなー。それはそれで良かったと思うぞ? バカの下に嫁がされなくて済んだんだしな」
「それはね、本当に良かったと思います。流石に国内を纏める為とはいえ、親子ほど歳が離れていたり、暴力を振るってくるような相手に嫁ぎたくないです」
「具体的に言い出すって事はそういう奴が居たんだな? 噂とかでも。おっと、子供達はそろそろ寝るみたいだ」
舟を漕ぎ始めた子供達を布団に寝かせ、左右に2匹を寝かせる。その後も少し話しつつ布団を完成させた俺は、さっさと寝る事にした。ベッドよりも大きいので使えないが、外で寝る際には役に立つだろう。カマクラとかで。
この町のスラムはそこまで悪党がいないらしいので、わざわざ殺しに行く必要も無い。余所者を統制したり潰している連中らしいので、迂闊に減らすと治安が悪化しかねない。なので手は出しません。
部屋と体を綺麗にしたら、おやすみなさい。




