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<呪いの星22日目>
おはようございます。今日はカーナント王国を離れる日です。そういえばアリシアにはこの国を離れるのか聞いてなかったな。何か済し崩しになっているけど、キチンとこの国を離れるのか聞いた方がいいか。
アリシアが離れる気が無いなら、ここでお別れとなるしな。俺達とすればこの国を離れれば色々な意味でセーフなんで、残る気とか欠片も無いし、アリシアも残るとは言い出さないだろうけどな。
王が命を取れとか言ったり、妹達が嫁ぎたくない所にアリシアを押し込めようとしたり、この国の王族も碌なもんじゃないし。
朝の日課を終わらせて、紅茶を飲みながらそんな事を考えていると、そのアリシアが一番最初に起きてきた。
部屋を出たので適当に見送り、紅茶を飲みつつ考えていると、戻ってきて紅茶を飲みつつ話し始める。
「起きた時にジーッと私の顔を見ていましたけど、何かありましたか?」
「今日でこの国を離れるんだが、アリシアが故郷を離れ難いならここでお別れだなーと思っただけだ。まあ、王が命を取れと言ったり、妹達が嫁ぎたくない所に押し込めようとしてたんで、そんな国に残るとは言わないだろうが」
「ですね。不幸になるのが分かりきっているのに、そんな国に残るほど私は愚かじゃありませんよ。私を殺せと近衛騎士が陛下から命じられていた。アレを知った時に家族や国に対しての愛想は完全に尽きましたし、もはや他人でしかありません」
「ま、普通はそうなるわな。幾らなんでも命を狙われて許すような奴はいない。むしろ怨み憎しみの復讐を企てても不思議じゃないしな。それぐらいやっちゃいけない事を命じている訳なんだが、この国もどうなるのやら?」
「さあ? もう本当に私としては想いも無いので、何とも……。正直に言ってこの国が傾いたとしても興味はありません。母の実家であるゾルダーク侯爵家でさえアレでしたしね。とてもじゃないですけど、母が言っていたことさえ信じていいのかどうか……」
「そこまでの事をやらかしたという自覚は無いんだろうなぁ。所詮は権力者階級だ。国が崩壊するまで勘違いしていそうな気がするし、それこそ権力者だと思うが……まあ、それはいいか。アリシアは俺達と一緒に行くって事でいいな?」
「ええ、問題ありません。私も色々な国を見てみたいですし、祖国に居ると探されて見つかる可能性がありますしね。危険という意味でも、祖国に居続ける事は出来ませんよ」
だろうなあ。呪いを【浄化】した結果なんだが、一時的に猿の手足に変えられるとなれば、また殺し合いをさせられる日々に戻されるだろう。どのみち残っても戻っても不幸しかないな。それが父親や家族が望む事なんだから、逃げて当たり前だ。
自分の為にアリシアを不幸に陥れようっていうんだから、碌な家族じゃないな。いや、どう考えても家族じゃないだろう。離れて正解だ。おっと、子供達も起きたし考えるのはもう止めるか。
子供達も2匹も起きたので、布団などを片付ける。トイレから戻ってきた子供達は、紅茶を飲みつつ頭が覚醒してきたようだ。2匹も既に神水を飲んで覚醒しているので、紅茶を飲み終わり、全てを片付け終えたら部屋を出る。
食堂に移動して、中銅貨6枚を支払い朝食を注文したら席に座る。適当に雑談をしつつ運ばれてきた朝食を食べるも、気になる噂話は無かった。
朝食後、デカート町を出たら身体強化で一気に走っていく。ある程度進むと国境の砦が見えてきたので少し速度を落とし、国境の兵士に登録証を見せて通過する。特に調べられる事も無かったが、傭兵だから調べる事も殆ど無いんだろう。おまけに出て行く連中だし。
その後、少し進むと獣国の砦が見えてきたので速度を落とし、傭兵の登録証を見せる。こちらでも少し質問されただけで、それに答えるとすぐに通る許可が出た。大して警戒もしていないみたいだ。何でだろう?。
考えても分からないので走る事に集中し、ある程度進むとデメレン町が見えてきた。中途半端な時間なのでどうしようか迷うも、多分だがコノモエ町までは今日中に着けると思う。なので本気で走る事にし、デメレン町をスルーして進む。
それでもアリシアの速度に合わせる必要があるが、魔力も闘気も増えているから行ける筈。駄目なら今日はカマクラで野宿だな。そんな事を【念話】で話しつつ、俺達は身体強化で走って行く。色々なものを追い抜かしながら。
オルエ村を過ぎてある程度走った所で昼食にし、適当な具のタコスモドキで食事を終わらせ、腹がこなれたら再び走り出す。サット村を越えてコノモエ町に辿り着いたのは夕暮れ時だった。既にアリシアは背負っている。
子供達ですら走ったのに、アリシアはペース配分が悪かったのと、身体強化の精度が悪く無駄な消費が多かった所為でダウンした。仕方がないものの、これで身体強化の難しさも理解できたろう。そんな事を教えつつコノモエ町に入る。
町の人に宿の場所を聞き、大通りの宿に泊まる。どうせ二日だ、高値でも問題は無い。2人部屋を頼むと怪訝な顔をされたが、それでも1泊中銅貨4枚なのだから良心的だ。2日分の中銅貨8枚を支払い、外に出て正面の酒場に行く。
大通りを挟んでいるので距離が離れており、そこまで五月蝿くもない。そんな酒場に入り中銅貨9枚分の食事を頼んだ。席に座って待つのだが、アリシアは未だに疲れ果てている。まあ、ギリギリまで頑張ったんだから当然ではあるんだが。
そんなアリシアも食事は別なのか、ゆっくりとだが味わって食べている。獣国も水はアレなんだろうが、それでも味は美味しいな。ミルクが使われているからだろうか? 家畜を飼育してるのか、白い色のスープが出てきている。
これも呪いが微量に含まれていたので、おそらく家畜自体が微量の呪いで汚染されているんだろう。それはこの星の人間種も変わらないので仕方がない。相変わらず料理として完成した状態じゃ、【浄化】しても味は殆ど変わらないな。
それでも呪いが含まれているよりマシだし、寄生虫や毒の事もあるから【浄化】はするんだけどさ。そんな事をウダウダと考えながら食事をしていると、また歌い手の女性が現れてロードエルネムとかいう奴の物語を歌い始めた。
俺は興味ないのでスルーし、食事の方に集中する。多分だけど呪いが無ければ美味しい食事なんだと思う。味わっていると、呪いとは別にきちんと旨味などがあると分かる。分かるだけに勿体ないという思いが拭えない。本当に勿体ない食事だ。
夕食後、酒場を出て宿の部屋に戻ると、アリシアからジト目を受けた。おそらくロードエルネムとかいう奴の歌をスルーしたからだろう。
「そうですけど、ロードエルネムの歌は人気なんです。周りだって聞いていたのに食事に集中してるんですから、むしろ目立ってましたよ? あまり良い事とは思えません」
「そうかもしれないが、料理が冷めるとか言い訳は幾らでも出来るぞ? 別に無理して聞かなきゃいけない訳じゃないし、食事に行っただけだからなぁ。食事に行って食事に集中したら怒られるって、結構な理不尽だぞ?」
「それは……まあ、そうでしょうけど………」
確かに目立ってたかもしれないが、言い訳なんて幾らでもあるから気にしなくていいさ。それにロードエルネムとかいう奴に欠片も興味無いしな。
この星の一地方である、この辺りで有名なだけだろ? 他にもっと有名な奴が居るかもしれないんだから、そんなに強調されても困るんだがな。……他の所にも英雄が居るっていう発想は無かった訳ね。
凄い英雄だって思い込むのは勝手だけど、そんな英雄は色々な土地に居るからな。程度は違えど。




