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皆で走りながら進んで行く。既にロロイ村とワイ村は越えているが、そろそろ昼食の時間だ。アリシアの走る速度も速くなっているし、何と言っても魔力と闘気が物凄く増えている。その御蔭で随分と移動の速度が上がった。
土のテーブルと椅子、そして焼き場を作ったら昼食作りの開始だ。蓮に麦飯を炊いてもらい、イデアとアリシアにはスープ作りを頼む。俺はハンバーグを作ろう。呪いの狼の肉とスマッシュボーアの合い挽き肉だ。
合い挽き肉を【破砕】と【粉砕】で作ったら、【念動】で少量の塩と混ぜ合わせる。そんなに早く焼いても仕方がないので、混ぜ合わせたら一旦置いておき、その間にサラダとマヨネーズを作っておく。
それなりに時間も経ったので、フライパンでハンバーグを焼いていこう。呪いの魔物の脂を引いて、まずは表面を焼いていく。表面が焼けたら蓋をして、【加熱】で均等に熱を加える。火を使ってないから出来る方法だな。
十分に熱が通ったら皿へと移し、ソースを作って上から掛ければ完成だ。次の3つを焼いていこう。それなりに大きなハンバーグだから、一度に3つしか焼けないんだ。誰かさん達2人がこの大きさが良いと言ったんでな。誰とは言わないが。
次の3つもじっくり焼いて、出来上がったらソースを作って掛けていると、ご飯の蒸らしが終わったようだ。蓮が土鍋を空けて、早速匂いを嗅いでいる。今日の麦飯もしっかり炊けたようだ。それじゃあ、配膳しようか。
配膳が終わり、テーブルの上には昼食が並んでいる。それでは、いただきます。
「ハンバーグはいつ食べても美味しいね! 呪いの魔物のお肉だから美味しいけど、スマッシュボーアが負けてるかなあ? あの狼の肉、思っていたよりも美味しいんだと思う。イマイチ足りてないよね?」
「うん、何か脂の美味しさが足りない感じ。とはいえ呪いの熊の肉でハンバーグを作っても、多分だけど美味しくならないと思う。あれはあれで脂が多すぎるし。良い感じの猪肉が無いから仕方ないよ」
「十二分に美味しいですし、何なら今までで1、2を争うほど美味しいんですけど、それでも足りませんか? 言葉は悪いですけど、どれだけ美味しい物を食べてきたんです? 王侯貴族以上ですよ」
「水が不味いから仕方ないだろう。水が普通なり美味しい所と比べれば、どうしてもそうなるさ。それは仕方ない。綺麗な水で作るだけで料理の美味しさは変わるし、水によっては質が悪い水の方が良いしな」
「「「「「???」」」」」
「質が良い水は水の中に余計な物が少ないんだ。そして質の悪い水は水の中に多くの物を含んでいる。質の良い水は余計な物が無い分、色々な物が溶け出しやすい。何故なら溶け出た物を含む余地があるからだ」
「まあ、何となく分かります」
「ところがだ、溶け出しやすい水だと肉の臭味まで水の中に溶け出るんだよ。その結果、料理が臭くなってしまう。逆に質の悪い水だと肉の旨味だけが溶け出て、臭味が溶け出ない場合があるのさ。要するに、良い物も悪い者も使い方次第って事だな」
「「「へ~」」」
「呪いはそれ以前の問題だが……」
「「「「「………」」」」」
俺達の場合、俺が肉の臭味の元まで【浄化】しているし、神水の影響で煮込まれながら浄化されるんだよな。御蔭で綺麗な水なのに、肉の臭味は無いっていう不思議な料理になってるけど。まあ、楽で良いとは言えるな。
そんな話をしつつの食事も終わり、後片付けをしたら壊して出発。少しの間はゆっくりと歩き、腹がこなれたら走り出す。ある程度走って行くと、国境前の町デカートに辿り着いた。門番に登録証を見せてさっさと中に入る。
辺境伯のお膝元だけあり、なかなかの堀と壁を持つ町だ。十分に戦争の事を考えられているが、道行く人々は弛緩した空気をしている。アリシアも言っていたが、獣国とは長きに渡り、戦争が起こっていないからだろう。気は抜いていないと思うが。
俺達は町中を歩きつつ、宿があったのでさっさと入った。どうせ一日だけだし気にしなくてもいい。それなりに良い宿なのか、2人部屋を1日で中銅貨8枚だった。気にせず支払って宿を出ると、食料店に行く。
米や大麦、野菜などを購入し、全部で中銀貨1枚を支払う。結構な買い物だったので、店主はホクホク顔をしていた。食料を補充できた俺達もホクホク顔だ。買うべき物は買ったので、後は町を見て回るか。
「特に良い物も無いね? 可も無く不可も無く、とりあえずの物はあるけど。王都で聞いた通り、やっぱり鉄の質が悪くて良い物が作れないみたい」
「子供達が目利き出来るのかい? おっそろしい事もあるもんだ。ま、それはともかく、ウチでもこれが精一杯さ。むしろ家に眠っている古い中古の剣の方が、売り物より切れ味が良かったりするからねえ。仕方ないんだけど」
「そんなに違うんですか?」
「ああ、まったくと言っていいくらいに違うよ。中古の剣が剣なら、今鍛冶師が作ってるのは鉄の棒かねえ? それぐらい違うのさ。御蔭でアンタが持ってるように、メイスの方が昨今は売れるよ。どうせ殴るなら、最初から殴る事を考えている武器の方が良いだろう?」
「まあ、それはそうですね」
「兵士達の剣も悪いし、辺境伯様も困ってるだろうね。剣に比べてメイスは使われている鉄が多いから高いんだよ。買い換えるのもアレだし、でも鈍らな剣を兵士に持たせても……。今はないけど、攻められたらどうなる事やら」
武具屋のおばちゃんの愚痴に多少付き合いつつ、更に情報を聞きながら見回っていく。国境の先にはデメレン町、オルエ村、サット村、コノモエ町とあるらしい。まずはコノモエ町まで行ってから、獣国の本格的な情報収集をするか。
夕日が出てきたので食堂に行き、中銅貨6枚を支払って夕食を注文し席に座る。雑談をしていると近くから話が聞こえてきた。
「獣国が凄い勢いで領土を取り戻してるらしいな。それは帝国との争いだからどうでもいいんだが、帝国との争いに勝って国土を取り戻したら……こっちに攻めてくる気がするんだけど、どう思う?」
「言いたい事は、まあ分かる。獣国は長い間帝国と戦ってきたし、だからこそこっちには手を出さなかったからな。帝国に勝って領土を取り戻したら、そのまま帝国を攻めてくれりゃ良いんだが……」
「帝国って鉄とか以外にあんまり旨味がねえからなー。昔ならいざ知らず、今じゃ質の悪い鉄しかねえ。俺達の商売道具すら困ってるぐらいだ。狩人どもの武器なんて大変だろうさ。なまくらで魔物と戦わなきゃなんねえんだからよ」
「本当にな。それにしても戦争かー……一番良いのは国土を回復したら止まる事なんだけど、獣国も怨みがあるから止まらねえだろうなあ。帝国もやり過ぎなんだよ、幾ら塩が欲しいからってさ」
「まあ、塩がある我が国じゃ、帝国の奴等の辛さは分からねえんだろうさ。塩の無い生活なんてした事ねえしな。したくもねえけど」
「そりゃな」
まあ、味気ないとは聞くな。おそろしく味気なくて美味しくないって。ただ、人間種が生きていくには塩が必須だ。だからこそ美味しく感じるんだと思うけど、それはこんな時代じゃ分かってないか。
食事を終えた俺達は宿へと戻る。部屋に入り布団を敷いてゆっくりとしていると、子供達が瞑想し始めた。急にどうしたんだと思っていたら、魔力の循環の復習というか、確認をしているらしい。ちょっとズレてる気がするそうだ。
なので修正してやると、すぐに納得してトランプで遊び始めた。次に俺はアリシアのズレを修正させる。アリシアはズレている認識すら無かったが、まだまだ始めたばかりなのでしょうがない。
まずは頑張ってズレてるのを認識しような?。




