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 35層までは魔物も変わらないだろうと思って進んだが、35層は荒地で強烈な呪いを感知する。そいつは目の前に見えており、巨大な虎だった。真っ黒な毛皮に赤く血走った目、そして体高が2メートルを超えている。


 頭から尻尾の先まで5メートルはあるのではないかと思うほど大きいが、既に【浄化】の権能を受けて身動きがとれない。正直に言って、呪いの魔物を前にして俺が動かないなんて事はあり得ない。


 既に動けない奴に対して更に権能の力を強めていき、集中して完全に【浄化】した。いつも通り空間まで真っ白になっているが気にする事じゃない。黒虎が白虎になってしまっているが、俺は近付いて早速血抜きを始める。


 子供達も近寄ってきたが、アリシアは近寄って来ない。俺はアリシアを綺麗に【浄化】しつつ、血抜きした虎を捌いて心臓を取り出す。俺達はスライスして一口ずつ食べるものの、やはり強化される事は無かった。


 残りをアリシアに食べさせるのだが、正気に戻ったアリシアは顔を真っ赤にしつつも嫌そうな顔をする。それでも皿に乗せて渡し、俺は解体を続けていく。全て食べたアリシアは呻く羽目になったが、今までで一番キツイみたいだ。


 体の各所が相当変化しているが、どうにもおかしな変化をしている気がする。もしかしたら猿に変化できる事が、何かしら影響しているのかもしれない。そんな事を考えつつ皮をそのまま毛皮にし、残りの骨や牙や爪を【圧縮】する。


 骨を中心にして牙を被覆、最後に刃を爪で作ればメイスの完成だ。荒い息を吐いているアリシアに言って、メイスを交換させる。呪いの魔物の素材となれば、超魔鉄よりも強力だからな。アリシアはこっちの方が良いだろう。


 ついでに盾の鉄を剥がし、超魔鉄を被覆しておく。元々とは違って肉体も強化されているので、少し多めの超魔鉄で被覆しておいた。これでかなりの攻撃を防げるようになった筈だ。そう説明してアリシアに渡す。



 「今回が一番痛かったんですが、それを耐えた私に労いの一言も無しですか!?」


 「アリシアだけじゃなく、皆耐えてきてるよ? それにさっきのは今までで一番呪いが強かった。間違いなく外で出てきた奴とは違うからね、しょうがない。強力な魔物であればあるほど、体が強くなるし痛いの。蓮だってそうだったし」


 「ボクもそうでしたね。ハッキリ言って物凄く痛いんですよ。それでも耐えてきたからこそ戦えますし、矢を受けても助かったのかもしれません。かつて一度、ボクと蓮は矢を受けて大怪我をした事がありますから……」


 「体が頑強になっているんだから、それが痛みとして出るのは仕方ない。それに身長が伸びてるんだから痛いのは当然だ。身長が伸びたのは今まで何人かいるが、全員激痛を味わっている」


 「………そういえば視点が今までより高いような……? 身長が伸びて……ああ、ズボンの裾が合ってませんね。確かに身長が伸びているようです」


 「それでも165ぐらいだったのが、170に届いた程度だけどな。前の星の仲間だと、150が190超えになっていたからなぁ。3回ぐらい激痛を味わっていたか」


 「あれを3回ですか? いや……それって、どんな地獄ですか。よく耐えられましたね、その人。私は素直に尊敬できると思います」


 「それは知らないが、どうやらこのダンジョンの最奥は35層らしい。猛烈に呪いの強い虎だったが、呪いだけなら俺の相手じゃないな。そもそも俺が借り受けている権能は【浄化】だから、奴等の天敵みたいなもんだし」


 「でも、呪いの魔物以外に呪いは無いね? 今までは薄く呪いが広がってたのに、この層だけは呪いの魔物以外に呪いが無い。変わってるけど、そろそろ出ようよ」


 「そうだな。このまま居てもしょうがないし、武器は作ったしな。骨はまだ余ってるが、骨だけ余ってても使い道が殆ど無いんだよ。そのうえ大した量も無い……【分解】していくか」



 俺は骨を【分解】し、見えている脱出紋に乗ってダンジョンを脱出した。そういえばアリシアの肌の張りとか艶、髪の艶とかも変わってるんだが言わない方がいいな。本人に自覚は無さそうだし……。


 注目はされるだろうが、そこまででは無いだろう。それにダンジョンを攻略したんだから、さっさと町を出れば済む話だ。おそらくゾルダーク侯爵家と絡む事は無いだろう。俺達は解体所で魔物を売って木札をもらう。


 そのままゾルダ町へと戻り、狩人ギルドで報酬を受け取る。スマッシュボーアを倒したからか、1頭で大銀貨1枚だった。熊と変わらないぐらいなので、あの熊はフォレストベアより上だったようだ。アームベアとか言われていたヤツ。


 報酬を貰ってギルドを出ると、俺達は足早に宿へと戻る。部屋に戻ったらアリシアは完全に気を抜き、ベッドに寝転んで目を閉じた。寝るのは構わないが、装備を外してからにしろ。



 「すみません。それにしても最奥に居た呪いの魔物はオカシイですよ。明らかに今までのとは違いました。あんなの異常です、異常。私も周りからそんな感じで見られてたのかもしれませんが、あれは絶対にオカシイです! 何かが違う!」


 「あれも呪いの魔物だよ? アリシアは濃い呪いを感じた事が無かっただけ。蓮も皆も、もっと濃い呪いと戦った事あるもん。そんな相手が出てきたらアリシア、また漏らしちゃうかな?」


 「「「………」」」



 蓮……皆が敢えて黙っていた事を抉ってやるなよ。最奥の呪いの魔物を認識した瞬間、アリシアは派手に漏らしていたからなあ。だからこそ俺が【浄化】してやったんだし。


 最奥の奴には耐えられなかったみたいだが、あれ以上の呪いの怪物は存在するからなー。その時アリシアがどうなるかは、ちょっと怖い。暴れられると2次被害が出る恐れがある。まあ、今日の様子を見るに硬直するだけっぽいけど。



 「どうして、そういう事を言うんですか!? 言わなくてもいいでしょう? 人には恥ずかしいことの一つや二つはあるんです! そこはスルーすればいいでしょうに!」


 「アリシアが無かった事にして文句言うからだもん。あれ以上の呪いの魔物だって居るんだよ! 蓮だって動けなかったぐらいのバケモノが。あれぐらいでビビってたら危ないんだから!」


 「あれ以上が居るんですか!? ……そっかー、あれ以上が居るんだー……。呪いの魔物っておかしくありませんか? 普通なら絶対に勝てませんし、文句無く全滅するでしょう!?」


 「それが呪いの魔物なんだから諦めろ。目にも留まらぬ速度と、アリシアの大猿以上の怪力。そんな呪いの怪物も居る。呪いというものが、どれほど異常な力を与えるか分かっただろう?」


 「………」



 アリシアは大猿の時を思い出しているのか、何か考えているようだ。放っておこう。


 俺達は少し早い夕食に行き、中銅貨8枚を支払って注文したら席に座る。ゆっくりしていると、周りの人達の話が耳に入ってきた。



 「ここだけの話なんだけどよ。俺の弟は食料店で働いててさ、今日侯爵家のお屋敷に肉とかを運んだらしいんだ。そしたら呪われた跡取りが大暴れしてて、全員で必死に止めてたんだってさ。チラっと見えたらしいんだけど、何か狼みたいになってたそうだぞ」


 「狼ねえ。顔が狼で体が毛むくじゃらって感じか? ……やっぱりそんな感じか。跡取りがそれじゃ、本格的に侯爵家は終わりだなー。遠縁の奴を養子にして後を継がせるのかねえ……」


 「さあな。庶民が呪われないって事は何か理由がありそうだけど、どうなんだろう。貴族って同じ血筋のヤツで子供を作ってたらしいし、その影響か? 昔そうだったって聞いた事あるんだけどよ」


 「どうなんだろうな。そんな話は聞いた事あるけど、影響があるかどうか何て分からねえしなー」


 「そうか」



 近親まではいかなくても、それに近い連中で固まり続けてる? それで血の澱みに近いものが出た? まあ、分からなくはないが、それと呪いの関連性が分からんな。


 それに、それが原因なら、もっと多くの貴族が呪われてないとおかしいだろう。


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