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俺はスマッシュボーアを倒しつつ、旨味干し肉を量産する。といっても、そこまで量産する訳でもなく、俺、蓮、イデア、アリシアが一塊分ずつ持つくらい。つまり4頭分だ。この数なら特に難しい事も無くさっさと作り終わり、今度は肉の冷凍を始める。
その傍らで土のテーブルと椅子と焼き場を作った俺は、蓮に麦飯を、イデアとアリシアにはスープを頼む。俺はさっさとタレを作り、後は冷凍肉を量産していく。周囲にスマッシュボーアも居なくなったころ、昼食が完成した。
肉は既に用意していたので、野菜も焼きつつバランスよく食べていく。ちなみに、今日の肉は呪いの魔物の肉だ。早め早めに食べるに越した事は無い。
「ん~~~! 呪いの魔物のお肉は美味しい!! 噛むと美味しい味がね、ジワーって出てくるの。やっぱり美味しいお肉はさいこう!」
「うん。呪いの魔物が美味しいのは、この星も変わらないね。焼きたてのお肉が美味しいのもあるけど、呪いの魔物はやっぱり美味しいんだよね」
「全然違いますね。本当に美味しいです。呪いの魔物って触手が生えていたり、目が沢山あるおかしな生き物なのに美味しいです。美味しいんですけど……私も美味しかったんでしょうか?」
「さてな? 何となくだけど、人間種が呪われて変わったのと、魔物が呪われたモノは同じじゃない気がしている。何というか、魔物の方には理性が感じられないんだよな。魔物だっていうのは無しで」
「本能剥き出しというか、相手を殺すって感じでしかなかったですからね。アリシアは大猿の時も普通に考える事が出来ていたようですし……。それに、呪われていた時の事を覚えてもいますしね」
「ええ。確かに覚えてますけど……。確かに嫌な思いもいっぱいしましたが、理性を無くすような事にはなってませんね? となると、人間種と魔物では呪われ方が違う?」
「まだ分からないな。俺も呪われた奴に会ったのは2人だけだ。その2人だけで決めてもいいのか、正直微妙なところではある。少な過ぎてよく分からないし、他のパターンの奴も居るかもしれない」
「他のパターンって、暴れたりするだけのも居るってこと? アリシアが暴れるだけの大猿だったら大変だったろうね? 騎士とか兵士を薙ぎ倒してたし」
「薙ぎ倒すって……まあ、そうでしたけどね。それより、美味しいお肉は嬉しいんですが、私と皆さんの武器って違いませんか? 何処が違うかと聞かれても分からないんですけど、何か違う気がするんです」
「気付いたか……。アリシアのメイスは、アリシアを襲った連中が持っていた剣などをそのまま加工した物だ。一塊にして変形させたりして完成させた物だからな。で、俺達が使ってるのは超魔鉄という物に加工してある」
「超魔鉄……」
「この星で知られているのかは知らんが、魔力金属と呼ばれる金属があってな。魔銅、魔鉄、魔銀、魔金。基本はこの4つ何だが、これらの金属は魔力を流すと強化される性質を持つ。だから魔力を流しながら使うと、切れ味が鋭くなるし硬くもなるので便利なんだ」
「はあ、何となく分かりますけど……私のは普通なんですね?」
「アリシアがどうかは分からなかったからな。信用出来るかも分からなかったし、このままチームの様にやっていくかも分からなかったんだ。俺が超魔鉄を作れるとなれば、アリシアから情報が洩れるかもしれん。だから普通の物しか渡してないんだよ」
「そうですか……まあ、仰りたい事は分かります。それで……」
「分かるんだがなぁ……メイスは超魔鉄にしたところで、そこまで威力なんかが上がる訳じゃないんだよ。むしろ刃が付いている武器の方が威力の向上はあるんだ。だがなー、アリシアがそれを使えるか……」
「練習すれば私だって使えるのでは?」
「言いたい事はよく分かるんだが、刃を垂直に相手に当てるって簡単な事じゃないんだぞ? まあ、練習するなら構わないんだが……何の武器にする? アリシアには盾を持たせるから、片手で振れる武器に限定する事になるぞ?」
「それは……剣でいいのでは? 兵士が持っているのも剣ですし。牽制する兵士は槍を持ってますけど」
「相変わらず不思議だよなー。何かっていうと、”とりあえず”剣なんだよ。意味が分からん。剣っていうのは、武器の中ではどっちつかずで扱い難い武器なんだ。リーチなら槍、威力なら斧かメイス。な? 剣って中途半端だろ?」
「それは………そう……なのかな? でも多くの兵士が剣を持っているなら、剣が優秀なんじゃないですか?」
「いいや? さっきも言ったがリーチなら槍だ。子供達にも槍を持たせているが、槍というのは扱い易く威力も高い。リーチがあって剣などよりも敵に近付かなくて済む。いろんな意味で良い武器だ。俺だって持ってるのは矛だしな」
俺はそんな事を話しつつ、簡単な剣を超魔鉄で作ってやる。剣の形はグラディウスだ。それをアリシアに渡して何もアドバイスせずに振らせる。その後、スマッシュボーアと戦わせたが、案の定の展開に。
「このっ! ……何で、切れないの!? ……このぉっ!!!」
予想通り滅茶苦茶に振り回しているだけ。それじゃあ、切れる訳もない。流石に危険になってきたので、俺が矛で首筋を刺して殺した。アリシアは肩で息をしているが、納得がいかないようだ。
「何で……です、か? 私は……剣で、こう……げき、しましたよ?」
「俺が獲物に刃を垂直に立てるのは難しいって言ったろ? そういう事だ。刃物はな、獲物に対して垂直に刃を立てないと切れないんだよ。角度が悪いと全く切れないんだが、正しい振り方と角度は練習しないと身につかない。そのうえ相手が速いと、それだけ刃を立てるのは難しくなる」
「………」
「俺がアリシアに刃物じゃなくメイスを薦めたのも、それが理由だ。素人が振り回しても使える武器じゃないんだよ、特に剣は練習がいる。簡単に使えるのは槍だ、突き刺す武器はそこまで難しくない」
「………」
「他か? 斧も刃を立てないと切れないしな。ハンマーは駄目だし……短剣は剣より簡単だが接近しすぎる。……必死に努力するか、大人しくメイスを使うのが一番だ」
「……メイスでお願いします。まさか、あそこまで切れずに叩くだけになるとは思ってもみませんでした。もっと簡単な物だと……」
「どんな事でもそうだ。見ている分には簡単なんだよ。実際に自分でやって難しさを知るんだ。何度でも言うが、刃を立てるって素人に簡単に出来る事じゃない。動いている相手に刃を垂直に立てる必要があるんだよ。動いてる相手に」
「動いてる相手……だから私はズレてしまい、上手く切れなかったと? 真っ直ぐ振ればいいってだけじゃないんですね。昔、騎士の訓練を見ていた事があったので、見よう見まねで使えると思ってました」
「そりゃ無理だろうよ」
俺はアリシアから剣を渡してもらい、フランジが4枚付いた超魔鉄のみのメイスを作って渡す。太い柄とフランジの刃の重厚感。結局、アリシアは気に入ったらしく、他の物が使ってみたかっただけだったようだ。
気持ちは分からなくもないし、特に何かを損した訳でもない。超魔鉄の足りない分は、昨日のスラムの連中の武器を一纏めにして超魔鉄に変えた。忘れていたので、ある意味ちょうど良かったとも言える。
アリシアも納得したところで先へと進もう。流石にこんな所で暇を潰してもいられない。俺達は呪いの少ない方へと移動していき、転移紋で32層へと進む。
当たり前だが代わり映えしない地形と魔物だ。次に変わるのは35層かな? それまでは一気に走って進んでいこう。




