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「15層から出てくる猪は、それなりには美味いな。あくまでもそれなりでしかないが、それでもミニボーアに比べればマシだ。とはいえ、デスボーアと比べると全然違うし、金牙や銀牙とは比べ物にならない」
「金牙と銀牙はしょうがないよ。あの2頭は滅多に出なかったから凄く美味しかったもん。デスボーアが出てきてくれたら良いけど、難しいかなぁ……。何かこのダンジョン、魔物が弱い気がする」
「このダンジョンの魔物が弱いのか、前の星のダンジョンの魔物が強かったのか……いったい、どっちなんでしょうね? ボクは前の星が強かっただけじゃないかと思います。邪気が大量にありましたし……」
「まあ、それはあるかもしれん。莫大な邪気が降りてこなかったとはいえ、その影響は相当なものだったかもしれないし、そうなると邪気で魔物自体も強化されていた可能性はある。ま、あくまでも可能性だがな」
「まだ19層だし、次から急に強くなるかもしれないよ? 前の星でもいきなり魔物が強くなったりとかあったし。できれば牛か猪の強いのが出てきてほしいなあ。もしくは鹿か鳥」
「鳥は良いね。羽は使えるし、お肉は唐揚げに出来るし。呪いの魔物の脂もあるから、美味しい唐揚げは作れると思う。……香辛料は諦めよう。どうしようもないし」
「そういえば、この国は香辛料が殆ど無いし、売っててもビックリするほど高かったなあ。おそらくは遠い所からの輸入なんだろうけど、それにしても高かったぞ」
「香辛料ですか? 香辛料は確か聖国からの輸入だった筈です。聖国から直接ではなく、帝国からの輸入だと聞いた事がありますけど……。間の獣国と帝国が対立していますので、なかなか安定して運べないらしいんです」
「安定して運べない事にして高値で売ってないか、それ? 俺としてはその可能性が高いと思うが……。それと、またしても聖国かよ。水といい香辛料といい、何かと出てきやがるな。面倒臭そうな国だ」
話をしつつの昼食も終わり、後片付けや準備を整える。最後にテーブルや椅子などを破壊し、20層への転移紋に乗る。次の地形が洞窟じゃなきゃいいんだが……。
光が止むと、周囲360度に森が見える。20層からは森かー、と思っていると「ブブブブ」という羽音が聞こえてきた。これは間違いなく蜂系の魔物の羽音だ。俺は【探知】と【空間把握】を使いつつ、この魔物の事を調べる。
すると、それなりに大きな体を持つ蜂である事が分かった。俺は先頭を歩きつつ、皆に静かにするようにと【念話】を送る。皆も羽音が聞こえているのでヤバいと思ったのだろう、誰も声を発さない。
蜂の魔物を【念動】で捕まえて【冷却】を使って凍らせて殺害。近くに持ってきて確認する。大きさは縦に12センチ、デッカい針を持っていて【浄化】すると明らかな引っかかりがあった。間違いなく、かなりの毒を持っている。
俺はそれらの事を【念話】で伝え、【念動】と【冷却】を使いつつ進んで行く。途中から数が多くなったので【冷嵐】に切り替えて倒していき、ついに巣を発見した。森の開けた所に花畑があり、その真ん中に大きな巣が聳えている。
まるで巨大な木のようだが、あれは丸々蜂の巣だ。怖ろしい事このうえないが、俺は【氷嵐】を使って一気に蜂を撃滅していく。蜂も俺に気付いたんだろう、すぐに攻めてこようとしたが凍って死んでいく。
徹底的に凍らせてやった結果、巣の周りと巣の中の蜂は全滅した。【探知】にも生きている者の反応は無い。俺はそこらの木を引っこ抜いて大樽を2個作り、その後に巣に近寄っていく。
蜂が攻めてくる事もないので巣を壊すと、中で大量の蜂と蜂の子が凍っていた。巣を幾つかに分けて【念動】で浮かせた俺は、樽の上でハチミツだけを【抽出】する。綺麗な黄金色のハチミツだけが樽の中に入って行き、巣から無くなったら捨てる。
捨てた巣は子供達に【浄炎】で燃やしてもらい、俺はどんどんとハチミツを入れていく。知っている人なら蜜蝋とかロイヤルゼリーとか採れるんだろうけど、俺は知らないからな。ハチミツだけで十分だ。
巣が一つで、ワインの大樽と同じ規格で作ったのに、丸々一つが埋まった。2個目の樽も3分の1まで入ったし、どれだけハチミツを溜めこんでたんだよ。しかも、遠くから「ブブブブ」っていう音が聞こえる。つまり巣がまだあるって事だ。
俺は新たに木を引っこ抜き、もう1つ大樽を作っていく。これでもう1つ同じ大きさの巣があっても大丈夫だろう。そう思って蜂を倒しながら進む。結構進んだ場所に、やはり大きな花畑と巣があった。
こちらも凍らせて始末し、巣の中からハチミツをゲットしていく。結局大樽2つと3つ目が半分ほど埋まった。皆にも聞いたが、これだけあれば十分だそうだ。まあ、これ以上欲しいと言われても困ったけどな。
その後はさっさと進んで行き25層。蜂の魔物は居なくなり、代わりに熊系の魔物と鹿系の魔物が居るようだ。アリシアに戦わせるのだが、まずは鹿の魔物から。とはいえ、これはそこまで難しくはなかったようだ。
鹿の魔物の突進を、身体強化をして盾で体当たり。真っ向からぶつかる事で、相手を転倒させる事に成功。そして転倒している間にメイスで頭に1撃。これで鹿の魔物は瀕死になる。後はもう1撃で終了。
大して強くもなかったが、代わりにメイスが曲がったので元に戻しておく。血抜きを終えて次は熊だが、アリシアが完全にビビっている。大きいし怖いのは分かるんだが、飲まれたら終わりなんだが……さっさと目を覚ませ。
俺はアリシアに【覚醒】と【心静】を使い、強制的に冷静にする。その結果、飲まれていたアリシアは正気に戻った。熊も威圧が効かなくなったのは分かったのだろう、すぐに切り替えてアリシアを襲う。
腕が振られる度に風切り音がして、大きな爪が迫ってくる。怖いのは分かるが、ここで踏み込めないと先は無い。何度か熊の攻撃をかわした後、意を決してアリシアは踏み込む。メイスを眉間に叩きつけると熊はあからさまにフラつく。
それを見逃すアリシアではなく、何度も何度も叩き付けた結果。熊は崩れ落ちてピクリともしなくなった。アリシアは力を抜いて気を抜くが、俺は「気を抜くな!」と言い熊の首に矛を突き刺す。
すると「グゥォォーーーッ!!」と叫んで立ち上がり、血を噴き出しながら暴れる。アリシアは完全に怯えて腰が引けてしまっていた。仕方なく無理矢理に左腕でアリシアの腰を抱き、バックステップで熊から離れる。
熊はそれなりに暴れたものの、最後には倒れ伏し完全に動かなくなった。【探知】で調べても生命反応は無いので完全に死んでいる。やれやれ、予想以上にタフな熊だな。
「アリシア、止めはキチンと刺せと言っているだろう。倒れて動かないからといって本当に死んでいるとは限っていない。魔物だって死んだフリぐらいはするんだ。ちゃんと死んだ事を確認してから気を抜け」
「す、すみません……。まさか何度も何度も叩き付けたのに、まだ生きてるなんて……」
「熊系は特にしぶといからな、こいつらの生命力は舐めちゃいけない。実戦だったら後ろを向いた時に襲われているか、近付いた時に噛み千切られている。それが自然の魔物の恐ろしさでもあるんだ、覚えておくようにな」
「ええ。忘れられませんよ、あんなの。倒したと思っていたら、あんなに暴れ出すなんて。私の攻撃が碌に効いていなかったって事じゃないですか。あれだけ思いっきり攻撃したのに……」
熊はなー。骨が大きくて太いし、毛や皮や脂肪や筋肉で守られてる。アリシアの武器を変えた方がいいだろうか? でもなー、使える器用さが無さそうなんだよなー。




