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美味しい昼食も食べ終わり、片付けた後で午後の狩りを始める。ウロウロしながらも魔物をアリシアに狩らせ、俺もちょこちょこと狩っておく。アリシアに狩らせたのは、主にグレイウルフにミニボーアにゴブリンだ。俺は熊。
それなりに王都から離れたが、何だかんだといって魔物は居るようだ。あまり沢山狩ると、他の狩人の獲物を奪うだけなので夕方前に止め、俺達は王都に帰る事にした。
王都に入り狩人ギルドに直行し、裏に回って獲物を売る。木札を持って建物に入り、受付の所へ持っていき精算を始めた。その精算で俺はランク3に、アリシアもランク3になった。結構な獲物を持ってきたので一気に上がったらしい。
その美貌もあって「おおー」と騒がれているようだ。その後はギルドを出て少し早めの夕食をとる事にし、食堂へ行って中銅貨6枚を支払って待つ。適当に雑談をしていると、近くに座った王都民が大きな声で話し始めた。
「今日よ、久しぶりに貴族様から仕事が来たのは良いんだけどよー。何でも、王女様方の嫁ぎ先でえらく王城が揉めているらしいって聞いたんだよ。何か嫌な嫁ぎ先に送り出さなきゃ駄目だそうだが、王女様方が全員行きたくないんだと」
「お前さん針子だからなあ、服はお貴族様が来て大変だな。ウチは大工なんで関わる事は殆どないけどよ。たまの補修であるくらいか。それはともかく、嫁ぎ先ねえ……。王族の嫁ぎ先なんて良いトコばかりじゃねえの?」
「それがそうでもないっていうか……凄く失礼な話だけどよ、貧乏領地っつうのもある訳でな。それと、その息子が暗愚だとかな。そういう噂は耳に入るんだと。そういうトコには行きたくないらしい」
「貧乏な領地とか、息子が暗愚なトコなんかに娘を送らなきゃなんねえの? 王族っつーのも楽に暮らせる訳じゃねえんだな。いや、王様は楽なのかねえ……。そういえば猿王女は本当に亡くなったのか? 煙みてぇに消えるなんて本当にあるのかよ」
「ああ、それな。貴族の中でも噂になってるらしいけど、眉唾もんだっていう話だ。実際に死んだところを見たのか騎士が問い詰められたらしいんだが、最後には見てねえって言い出したらしい。でも煙のように消えた筈だって今も言ってるそうだぞ。……牢の中で」
「おいおい、もしかして猿王女は死んでない? その割には猿王女を見たって話は聞かねえし……変だな? あれだけの体の大きさだ、隠せはしねえと思うんだが……夜中に動き回ってるのかね?」
「さあ? ただ、オレの聞いた話じゃあ、王女様方が猿王女を探せって喚いているそうだぞ。自分が嫁ぎたくないところに押し込もうと思っているらしい」
「ひっでぇもんだ。猿だなんだと言っておいて、今度は自分が嫌だからかよ。そもそも猿王女って散々殺しとかさせられてきたんだろ? 王様も含めてクズばかりかよ」
「おい、止めろ。誰が聞いてるか分からねえんだぞ」
「すまん」
ふーん……そろそろマズいな。それにしてもあの近衛騎士は役に立たない奴だ。もうちょっと色々アドリブとか効かせろよ。そうすりゃ牢屋に入る事もなかったろうに。まあ、牢屋に入ったところで自業自得だ。あれもアリシアを襲った1人だからな。
食事を終えた俺達は宿の部屋に戻り、明日からの予定を話し合う。流石に王都に悠長に滞在しても居られなくなった。狩人ランクも上がったし、アリシアも走る事は問題なくなった。呪いの心臓を2つも食べたからな。王都に留まる意味は十分にあったと言える。
「確かにそうだね。だってアリシア遅かったっていうか、今も遅いけど、それでも走れるようになっただけマシ。これで遅くて面倒なのは楽になる。でも、次は何処に行くの?」
「次はアリシアの母親の故郷っていうゾルダーク侯爵領だな。目的はダンジョンだが、そこを攻略したら獣国に移動する。いつも通りと言えばそうだが、この星では初めてのダンジョンだ。気合い入れないとな」
「そうですね。ダンジョンは危険な所ですし、気を引き締めないと何が起こるか分かりません。実際、盗賊みたいな人達に襲われる事もありますし、狩人も敵だと思うくらいで居ましょう」
「何というか、子供達が慣れ過ぎのような気がするのですが……? 何だか、敵を見つけたら一切情け容赦をしなさそうな気がします」
「当たり前だろ? アリシアは何を言ってるんだ……? 敵に加減する阿呆はいないぞ。敵と見れば即座に殺せ、でないと仲間が死ぬ。当たり前の事だろうに」
「え、えぇーー……。普通の事を言った筈なのに、子供達からも「何言ってんの?」という顔で見られてるんですが……。私が言ってるのって普通のことですよ?」
「アリシア……普通かどうか何て極めてどうでもいい事だ。必要なのは生き残るのに何が必要かであり、一般常識じゃない。殺し合いが当たり前の所に一般常識を持ち込むな。敵を見たら殺せ、が基本だぞ」
「「うんうん」」
「ニャー」 「………」
「……あれ? 私がオカシイ? いやいやいやいや、私はおかしくないですって! 幾ら<愚者の墓場>と呼ばれている場所でも、そんな敵を見たら即殺すなんて事にはならないでしょう」
「あまいねアリシア。ダンジョンの中の狩人なんて盗賊と同じで、こっちから奪えると思ったらすぐに襲ってくるよ。前の星でも何回もあったもん。アリシアが知らないだけだよ。ダンジョンの中なんて、殺してしまえば犯罪にならないし」
「そうですよ? 死体なんて消えてしまうんですし、人の通らない所に誘き寄せて殺すとか、色々な方法で殺しに来ると思うぐらいで丁度良いんです。余裕みせて殺されたら、唯の間抜けですからね」
「何か子供達が辛辣なんですけど、前の星っていう所はそんなに危険が多かったんですか? 幾らなんでも警戒し過ぎだと思いますよ」
「いや、そんなに危険がある訳じゃない。ただな、ダンジョンの中だと変わるんだよ。死体は勝手に消える、上手くやれば犯罪じゃなくなる。誰も見ておらず、死体の処理もしなくていい。人間種の欲望が簡単に出てくる場所なんだ。アリシアはそれを分かっていない」
「………普通の生活場所と、ダンジョンの中は全く違うと?」
「ああ。人間種というのは基本的に、欲に流されやすい生き物だ。ここならバレない”かも”。たったこれだけで容易に犯罪の方に傾くのも人間種だよ。例えば追いかけられている魔物を他人に擦り付けたりな」
「それって……!」
「そう、魔物を利用した狩人殺しだ。自分は手を出していない、魔物から逃げていたら”偶然”出くわした。そんな言い訳で勝てる魔物を擦り付けて、間接的に狩人を殺させる。勝ってしまいそうなら逃げればいい。そういう奴等は大抵顔がバレないように変装していたりする」
「最っ低……!!」
「言いたい事は分かるが、犯罪者なんてそんなものだ。そういった表ではしないような事も、ダンジョン内なら箍が緩んでやる奴は増えるんだ。ダンジョン内は魔窟だと言っていい。アリシアは愚者が死ぬと言っていたが……」
「同じ狩人に殺された人が大量に居るかもしれないんですね?」
「ああ。特に新人とか不慣れな奴は狙われやすい。とにかくダンジョン内は味方以外は全員敵だと思うくらいで丁度いい。そうでなければ死ぬ。まあ、俺達は慣れてるんで、襲ってきた奴等は皆殺しだがな」
「………」
おっと、子供達が舟を漕ぎ始めたな。ダリアやフヨウをブラッシングしながら話をしてたんだが、子供達の髪もブラッシングしておくか。……それにしても、この組紐は何故か残ったままなんだよな。神様も意外に過保護というか、保険をかけたのかねえ?。
子供達を寝かせたら、部屋と体を【浄化】してベッドに寝転がる。目を瞑っておやすみなさい。アリシアも早く寝るようにな。




