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朝食を終えて後片付けをし、ゆっくりと休んだ後で焼き場やテーブルなどを壊す。準備を整えたら領都方向に出発し、地図を頼りにバツ印の場所を探して歩く。程なく見つかり、地面を掘ると小さな木箱が出てきた。
中には大金貨2枚と、呪いがこびり付いた短剣が入っている。とにかく手を触れず、【浄化】の権能で呪いを完全浄化してから取り出した。それなりに良い物で出来ているのかと思ったらそんな事も無い。素材は魔銀だ。
便利と言えば便利ではあるが、主に魔道具を作るのに使うくらいか。それまで短剣のまま仕舞っておこう。これ以外には何もなさそうなので出発し、歩きながら領都へ。それでも朝の早い時間になったが、怪しまれるほどでは無かったようだ。
門番に登録証を見せて中に入り、町の人に話を聞きつつ宿を探す。早めに部屋を確保しておきたいし、色々情報収集もしたい。少し入った所の穴場の宿を教えて貰い、そこに言って10日間宿をとる。
1泊中銅貨2枚だったので、20枚払い部屋を確保。その後は町に出て情報収集を開始する。町の人に話し掛けて情報を得ながら、ギルドに行ってお勧めの獲物なども聞く。どうやら盗賊のアジトがあった森がお勧めらしい。
森って結構な危険地帯だし、盗賊がいるのに狩人に勧めるのか? そう思っていると周りはニヤニヤしている。まあ、そういう事だろう。新人の洗礼というか、そういうものなんだろうと思ったので、さっさとギルドを出た。
その後もウロウロしながら話を聞くと、実際に森の中にはオークが結構いるらしく、実力者には本当にお勧めしている事が分かった。ただしギルド内のニヤニヤを考えるに、実力関係無く教えてるっぽいけどな。新人が逃げ帰ってくるのを笑うんだろう。
子供達も疲れ、お腹も空いたようなので、食堂に入り中銅貨5枚で昼食を頼む。劇的に料理が変わったりはしないが、流石は領都、雑穀飯に米が一粒も入ってない。前の星でも都会の方が貧しかったりしたが、どうやらこの星でも変わらないらしい。
人間種が多いとその分食べる量も増える。人口が多ければ多いほど輸入が増え、質が悪化していく。だから町の雑穀飯には米が入っていたが、領都の雑穀飯には米が入っていない。代わりに蓮は納得しているが。
「お米が入ってるかどうかより、やっぱり美味しくない。今は水が良くないのが分かるけど、こんなに違うなんて思わなかった」
「本当だね。水が違うと美味しくないって聞いてたけど、ここまで違うと呆れてくるというか納得するというか。水の質はどうにもならないんだろうね」
その時、横のテーブルに座っていた狩人と思しき一行の男が、急に大きな声で笑い始めた。何だと思って見ると、ウチの子達を見て笑っている。
「お前さん達スゲーな。子供なのに良いモン食った事があるなんて羨ましいぜ! この国の中でも西の方に行きな。そしたら多少はマシな料理が食える。オレ達も行ってビックリしたからな。水が違うとこんなにウメェのかってな」
「はん? 水の話しかい? ………成る程ねえ。この子達が……よっぽど良いモン食ったことあるんだろうけど、30年か40年前だかに呪いの塊が壊れてから、水も土地も悪くなってく一方だ。聖国は綺麗な水があるらしいけどね」
「「せいこく?」」
「……ビックリするほど綺麗だし可愛いし、この子達ちょっとおかしくないかい? いや、言い方は悪いけどさあ。ちょっとあり得ないレベルだよ。それはともかく、聖国はこの国の3つ西の国さ。間に獣国と帝国があるね」
「この国は東の端だからなあ。俺達も色々な所を旅してこの国に落ち着いたんだよ。元は帝国の者なんだけどな。とにかく帝国は塩が高いんだ。岩塩鉱山は持ってるけど少なくてな。獣国と争ってるのも、獣国の塩湖欲しさだよ」
「そんなに、お塩たかいの?」
「高いねえ。あたしが子供の頃なんて、まともに塩が入ってる料理なんて無いんじゃないかって思うくらいさ。無理矢理ダンジョン行って中から塩を手に入れてたね。あそこの子供が生きていくには、ダンジョンで塩集めをするしかない」
「それでも生きていけるだけマシさ。地方の子供なんてもっと悲惨だったからなあ。……おっと、すまねえな。飯時にシケた話しちまって。まあ、本当に綺麗な水は聖国ぐらいしか持ってねえよ」
「「へー……」」
ヤバイな。この星では神水の価値は非常に高いという事になる。まさか水が不味いのが惑星規模だとは思わなかった。前の星と同じく、自分達の食べる料理は【浄化】してるけどさ、まさか水そのものが何処に行っても悪いとは……。
っていうか、だから魚が高値だったのか。海の水も汚染されていて奇形の魚や毒魚が増えて、食べられる魚が減って見向きもされなくなった。だから誰も獲りに行かず高値になっている。しっくりは来ないが一応筋は通るか。
それと前にも聞いてたけど、【呪魂環】が破壊されてから30年くらいは経過してるんだな。神界と下界の時間の流れが違うとはいえ、思っているより経っている。これぐらい経過していた方が良いと判断されたのかは分からないが。
昼食後、再び町の中をウロウロして聞き込みを行う。色々分かったものの、なかなか面倒な事も起きているな。どうも近々ソーゼンの町が、<ドクロの花>の支配下になるんじゃないかという噂があった。
問題は市井の連中まで<ドクロの花>が支配するのは仕方ないと諦めている事だ。何でそこまで達観というか諦められるのかは分からないが、この領都では<ドクロの花>が猛威を振るっている。
夕方になったので食堂に行き、中銅貨5枚を支払って夕食を食べる。今回も米の入っていない雑穀飯だ。子供達は諦め顔で食べ、さっさと宿の部屋へと戻る。口直しに蛸とイカの干物を食べているが、放っておこう。
子供達と過ごしていると、宿の周囲に怪しい連中が集まり始めた。情報収集の時から怪しい連中が近くをうろついていたが、予想の通り<ドクロの花>の連中だったのだろう。さて、どうしたものかな?。
そう思いながら、子供達と2匹を寝かせて息を殺していると、宿の中に進入してきやがった。俺達の部屋の前に来て、扉の鍵を針金でガチャガチャしている。それ好きだねーと思うも、さっさと【衝気】で気絶させて部屋の中に入れる。
賊を引き入れて扉を閉め、素早く【忘我】と【白痴】で情報を聞きだす。案の定<ドクロの花>だったので殺害し、アイテムバッグに死体を収納したら、隠密の4つの技を使って外へ。殲滅の開始だ。
宿の近くの見張りを殺害して収納し、スラムへと素早く移動していく。スラムに入ると手当たり次第に短剣で殺害を始める。何故ならスラムは完全に<ドクロの花>のテリトリーで、そもそも所属していない者がいない。
一つの裏組織がスラムを牛耳るというのは凄いのだろうが、俺にとってみれば選別しなくていので都合が良い。とにかく見える範囲の連中を次々に殺していると、流石に変だと気付かれたらしい。それでも俺を捉える事は不可能なので次々に殺していく。
段々とスラムの中が静かになっていく為、焦った連中はアジトに篭もる事にしたらしい。そもそも【探知】で監視しているから、仮にスラムから逃げたとしても追跡は可能なんだよな。そんな事を考えながらアジト外の者の殲滅を終える。
ようやくアジトに突入か。今日の内に終わらせたいもんだ。




