0016
荷車屋で小さいというか普通の荷車を大銅貨2枚で借りて、村の外に出て荷車を牽きながら北へと進む。
初めての道は凄く新鮮だ、ちゃんとした道がある。今まで道なき道を歩いていたんだと、否応なしに突き付けられてしまった。
道を歩きながら周りを見ると、地面を確認しながら歩いている人がいる。あれはネイルラビットを探しているんだろう。
ネイルラビットは体長70センチぐらいで穴を掘り地中に巣を作るウサギで、奇襲で倒すのがセオリーらしい。
掲示板に情報が載っていたが、新人や低ランクの狙い目で、弱くて食べられる魔物だ。魔石含めて一匹大銅貨2枚の値段で売れる。
一匹狩ればギリギリ生活できる魔物で、この辺りの新人傭兵の最初の試練だ。弓が使える者は比較的楽に狩れる。
先に進んでいくと、地面の穴に手を突っ込みウサギを引っ張り出す人が見えた。おめでとう! と心の中で呟きながら進んでいく。
左右に道が分かれている分岐点まで来た。ここから西がココ山で、東に行くとサングの町があるとダナに聞いた。
山向こうには遊牧民が住んでいるらしいが、交流はあまりないそうだ。たまに馬や家畜を売りに来て、塩を買って帰るだけらしい。
山の魔物は危険なものも多く、北から迂回して来るから仕方がないんだろう。ある程度の強さがないとこっちに来る事もできない。
サングの町は宿の女将さんの息子が修行している所だが、ルーデル村を多少大きくしただけで、特徴は無いと聞いた。町への期待が一気に無くなった瞬間だった。
ダナは笑いながら、都市でもなければそんなものだと言っていたが。
分かれ道を西に真っ直ぐ進み近くの平原に出る。
この平原で狩れるのは、先ほども見たネイルラビット、大きなだけのビッグフロッグ、徘徊しているダッシュボーア、そして近くの森から出てくる森の魔物だ。
ダッシュボーアは普通の牙を持つ猪で、突進の危険以外の特徴は特に無い。
【探知】を使うと地面の下にぽつぽつと反応があるがウサギなのでスルーする。地面の上の反応を遠目で確認すると大きな蛙だった。
どこに猪がいるのかな~と探していると、森の近くをウロウロしているのを発見した。
周りに人が居ない事を確認し【土魔法】の【土弾】を適当に当てて気を引く。
「ブルルルッ!」
唸ったあと突進してきたので、すれ違いざまに鉈で脳天をかち割った。直ぐに処理をし荷車に載せる。体長150センチほどなのでまだ荷車に空きはある。
次の獲物を物色していると何故か森からコボルトが飛び出してきて、そのまま走り去っていく。
何かに追われているのか? と思っていたらソイツが目の前にやって来た。
「グルルルル! ……グルゥグルッ!!!」
レッドパンサーだ! 稀に山から下りてくると聞いていたが出くわすとは、運が良いのか悪いのか。レッドパンサーは茶色の体色だがルビーの様に目が赤い。
その目で最初から俺を警戒している、どうやら油断は無いらしい。俺も油断せず槍を構え、お互いに隙を探す。
レッドパンサーが低い姿勢になり、四肢に力を溜め、一気にこちらに飛びかかる。それが成功するより速く、俺の本気の身体強化を使った回転突きが、目を抉り脳を破壊し頭蓋を貫く。
本気で身体強化を使えば”後の先”は必ず取れる。取れない相手はジジイ達、つまり神様くらいだ。
当たり前だが脳を破壊されて生きている魔物はいない。脳が無い植物系の魔物はいるが。
死体を直ぐに【冷却】して【浄化】し、【抽出】で血を抜く。レッドパンサーの処理を終えて武器と自分を浄化し、荷車にレッドパンサーを載せる。
体長2メートル以上あるレッドパンサーで荷車が重い。身体強化を掛けて荷車を牽きながら帰路につく。
すでに夕方となり夕日を浴びながら村に到着した。村の入り口で門番が荷車の中身を見て驚いた。
「コレは……レッドパンサー! 一体ドコで!?」
「いや、平原の森からいきなり現れて驚いたよ」
「驚くも何も、よく勝てたな!?」
「運良く勝ててよかったよ」
運良くとか言っておいたら、きっとそこまで騒がれないだろう。村に入り解体所に向かおうとすると、横から武具を装備した妙な4人組が現れた。
そいつらは何を思ったのか、突然アホみたいな事を言い出す。
「おい、荷物運び! ここまでご苦労だったな! 帰っていいぞ!!」
「兄貴が帰れ! って言ってんだ、さっさと帰った方が身のためだぜ?」
「ボクちゃんはお家に帰ってママに甘えてな!!」
「そうそう!」
こういうテンプレはラノベでよくあるが……。当事者になるとこんなにムカツクんだな、初めて知った。
こいつら……よっぽど死にたいんだろうか? 俺の試験見てなかったのか? それとも聞いてないのか? 見た事ない奴らだが、俺もこの村の傭兵を全員見たワケじゃないし……。
そんな事を考えていたからだろうか、そいつらは更に調子に乗り言ってくる。
「オイオイ、ブルってないで早く失せろや! テメェ死にてぇのか! あぁん?」
「兄貴が優しく言ってる内にとっとと消えろや!!」
「ボクちゃん、動けないなら俺達が動かしてやるぜ?」
「「「「ギャハハハハハハハ!!!!」」」」
何をコイツ等は調子に乗っているんだ? いいかげん殺意が沸いてきたので、そのまま【念力】を使って辺り一帯に殺気と殺意を放出する。
【闘気】まで使うと一般人には危険だ。コイツラはどうでもいいが村人に迷惑を掛ける訳にはいかない。
「お前ら死にたいんだな? なら、今すぐ死ね」
殺意のままに素早く動く。リーダーをやってる奴の喉元に槍で突きを繰り出そうとした時、背後から殺気を感じ横に飛ぶ。
着地し殺気のあった方に素早く向くと、そこにはヴェルさんが居た。
「やれやれ……。気持ちはよーく分かりますが、面倒な事になるので止めさせて貰いましたよ?」
「自己責任でも……ですか?」
「殴るぐらいならともかく、殺すのはさすがに問題です。それが許されると、傭兵が傭兵を襲う様になりますから」
「死ななければ構いませんね?」
「まぁ……死ななければ良いでしょう。代わりにその殺気を抑えてください」
これ以上怒っても仕方ないので殺気を収める。腰を抜かしているバカ4人のリーダーを、身体強化込みで鳩尾を突き上げる様に殴る。全員悶絶させてやった。
「まぁアホ共はあれで。そろそろ解体所へ行った方がいいですよ?」
「ヴェルさんはこれから狩りですか?」
「もちろんそうです! ”この子”の感触を早く確かめたいのでもう行きますね!」
「あー、はい。お気をつけて~」
ヴェルさんは武器を見せればチョロイ人から、アブナイ人にクラスチェンジしてないか? いや……思い出してみたら元々戦闘狂だったな。
解体所に到着し、登録証を預けて査定を受ける。いつもの熊の獣人だが、この人が段々専属みたいに見えてきたな。そんな熊の獣人から驚くべき事を言われた。
「レッドパンサーを狩ったのかい!? 凄いじゃないか! ……脳があれば高く買い取ったんだが」
「へっ? レッドパンサーの脳を食べるのか?」
「何を言ってるんだい? レッドパンサーの脳は薬の材料だよ」
「あぁ……薬の材料ね。前に食べられると高く売れると聞いていたから、つい……」
「そりゃスマン。レッドパンサーの脳は高級精力剤の材料のひとつだよ」
「ふ~ん」
「アンタみたいに若いと要らないだろうけど、貴族には高く売れるんだよ。あの方達は後継ぎを作らないといけないからね」
「なるほど。精力剤使って沢山作って、後継ぎ問題も作ると」
「アハハハハ! アンタ上手い事言うな! 査定だけどレッドパンサーは1匹で金貨1枚、ダッシュボーアは銀貨1枚だ」
「それで頼むよ」
登録証を返して貰い、お金と木札を受け取る。荷車屋に荷車を帰しギルドへ向かう。ギルドに入るとミュウさんが急いでこちらに来た。
何やら随分焦っているみたいだ。ダナが訓練場に居ると聞き、登録証と木札を預け訓練場に行く。
訓練場には木の小太刀を両手に持っているダナと倒れている4人、そしてそれを囲む様に人垣ができていた。
……なんとなく状況が分かったけど、一応他人の前なのでちゃんとした言葉使いをする。
「ダナさん、この状況は一体?」
「アルド……! いや、コイツらは今日村に来たばかりでね。調子に乗らない様にシゴいていたのさ」
「そうなんですか。調子に乗ると”死ぬ”かもしれませんから、良い事ですね」
倒れている4人は、絡んできたアホ4人組だった。俺とダナの会話に周りの傭兵は、頷いたり苦笑いしたりしている。ダナが4人を見る目が凄く厳しい。
「アンタ達、このバカどもをキッチリ”教育”しておきな!」
「「「「「「「ハッ!」」」」」」」
どこぞの軍隊か? この連帯感。ダナと一緒にギルドの建物に戻る。ボコボコにしていたのに、まだ怒りが収まっていない様だ。
怒ってくれるのは嬉しいが、当事者は俺なんだが……。カウンターで登録証を受け取り宿に戻る。ダナは後で来るらしい。
宿へ帰る道すがら、ダナをどうやって宥めるか悩みながら歩いて戻った。
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0016終了時点
金貨6枚
大銀貨1枚
銀貨11枚
大銅貨18枚
銅貨13枚
鋼の短刀
鋼の鉈
鋼の槍
オーク革の鎧
革と鉄の肘防具
革と鉄の膝防具
革と鉄のブーツ