0013
やっと村に戻ってこれたな。さっさと解体所へ行き、荷車の中の獲物を売ろう。いつもの熊の獣人が来たので、すぐに査定を始めてもらった。
「フォレストスネークは大銅貨13枚、フォレストベアは前回と同じ大銀貨1枚、フォレストゴブリンリーダーは残念ながらフォレストゴブリンと同じ大銅貨3枚だよ」
「リーダーは普通の奴と同じ?」
「少し大きいだけで、何も変わらないからね」
「まぁ当然の事か……。それで頼む」
「まいど。後は受付で」
受付で登録証の返却と木札とお金を受け取る。そろそろ夕方という時間なので、少し急いで荷車を返しギルドへ行く。込み合う忙しい時間は避けたい。
ギルドに入ると近くにいたダナに声を掛けられた。
「アルド、今日は来るのが早いね。『宿の食堂で待ってて、一緒に食事しよ』」
「えぇ、今日は結構儲かったので、早めに戻ってきました。『分かりました』」
責任ある立場の女性とコソコソ会話する事になるとは。日本に居る時はこんな事なかったからか、ちょっと新鮮で面白いと思ってしまう。
受付のミュウさんの所へ行くと、ジトーっとした目で見られた。
「登録証と木札です」
「お預かりします。少々お待ち下さい」
「儲かったと言ってたけど、たくさん狩ってきたのかい?」
「少なくとも今までで一番多いですね」
「あんまり無理しちゃダメだよ。とはいえ、その防具代ぐらいは稼いできたみたいだね」
「なんとか朝のお金を取り戻したと言った所です」
「そうかい、充分過ぎるね。新人は普通、半季節ほどお金を貯めて初めての防具を買うんだよ。新人の間は大変だからアルドに武器を作ってもらったんだけど……でも、アルドも新人なんだよねぇ」
半季節とは40日の事だ。1年は320日で季節ひとつにつき80日ある。現在は風の季節5日で、丁度この惑星に来た日が風の季節1日だった。
季節は風火土水と巡り、これがこの星の春夏秋冬だ。季節によって属性の強弱が変わるなどという事は無い。単なる季節なだけだ。
武器の事についてだが、新人は持っている武器が壊れたら悲惨だ。
お金を稼ぐ方法が村の中の雑用しかなくなり、1日の収入が宿泊所と食事で無くなるというのが当たり前になってしまう。
そうなると、何の為に傭兵になったんだという話しになる。そういう時には先輩方が助けてくれて、なんとか立て直すらしい。立て直さず雑用先に就職する者もそれなりに居るそうだが。
なんだかんだと言って、傭兵として生き残っているベテラン連中は優秀だと言える。
ただしその理屈でいくと、絡んできたランク3のオッサンも優秀という事になってしまうのが、なんとも言えない。
「登録証の返却です」
「ありがとうございます」
登録証を返して貰い宿に帰り、鍵を受け取り一旦部屋へ戻る。体や装備それと部屋を浄化して一息吐いた。
夕食までは時間があるので何か暇を潰せるものはないだろうか? そう考えて、折角だから全力で部屋を浄化してみる事にした。
本気でやったらどうなるか俺にもわからないし、一度はやってみないと分からない。そう心の中で言い訳して本気でやってみる。
【浄化】の権能は音も何も無いが、徐々に神界の雰囲気に近づいて……。
ストップ! ストップ! これヤバい。神界と同じ雰囲気って絶対ダメな奴じゃないか! 全力で使っちゃ駄目だ、流石に俺でも判る。
部屋の中の明らかに澄みすぎている空気どうしよう? ……放っておけば薄まるだろう。そうだ、そうしよう。
食堂に行き飲み物を注文する。ワインかエール、他には果実水とかがあるらしい。迷ったので、とりあえずワインを注文する。
なんだコレ? そういえば地球でも古い時代のワインは、熟成させず直ぐに飲んでいたと漫画で読んだ事があったな。ワインを一気に飲んで、水を出してもらう。
水はタダだったが、美味しくないワイン一杯で銅貨3枚とか……。と、ボーっと考えているとダナがやってきた。すでに注文して大銅貨4枚は払ってあるので直ぐに料理が運ばれる。
「今日は狼肉のシチュー、それといつものパンとサラダね」
「宿の狼肉は下ごしらえが上手いから、柔らかくて美味しいんだよね」
「ウチの人が喜ぶよ、ダナさんが褒めてたって知ったら。それじゃごゆっくり」
料理に箸をつける。狼肉は筋張っているんじゃないかと思っていたが、ダナの言ってた通り柔らかくて美味しい。
狼の肉なんて異世界じゃないと食べられないからな、しっかり味わって食べよう。俺が口の中の狼肉を味わっているとダナがジッとこちらを見ていた。
「箸を使えるんだね。昔、仙女族が使っているのを見た事があるよ」
「仙女族が箸を?」
「箸を使うのは仙女族だけじゃないよ、仙女族に半仙族。それに狐や狸の獣人も使うのを見たね。ちなみにアタシも使えるよ」
「へぇ~……。箸は俺の故郷でも使われているんだよ」
「あぁ、アルドの”故郷”でね」
そんな話をしながら食事を終えた。人の目があると話せない事もあり、落ち着いて話すのは部屋でするべきだ。
お互いに分かっているので部屋に行こうとすると、女将さんが何かを持ってきた。
「ダナさん、頼まれてたお酒持って来たよ。結構強めだけど大丈夫かい?」
「アタシが飲める口なのは知ってるだろう? トーカ」
「ダナさんじゃなくて、お客さんがだよ。……それと昨日はあまり上手くいかなかったのかい? 随分部屋が綺麗だったけど」
「色々使って綺麗にしたのさ。昨日は大満足だったよ!」
「なら今日も大満足させてもらうんだね?」
「その通りさ」
女性の明け透けな会話って男は入り辛いと思います! いや冗談じゃなくマジで。……というか聞いてるだけで若干ダメージ喰うんだが。
取り合えず耐えた後、部屋に戻る。部屋に入り防音の魔道具を使った後、ダナは急に真顔で話し掛けてきた。
「………。一体何したか正直に言いな」
「えっと、暇だったので全力で【浄化】の権能を部屋に使いました!」
「このバカ! なんで神の御業を暇潰しに使うんだい!」
「一度やってみないと、上限が分からないから仕方ないんだ。これでも途中で止めたんだよ」
「途中で止めてコレかい!?」
「そう。途中で神界の雰囲気になり始めたんで、こりゃマズイと思って」
「し、神界の……? 神界の雰囲気ってこんな感じなのかい?」
「さっき言った通り途中で止めたから薄いけど、まぁこんな感じだよ」
神界の事が知りたいのかな? あそこ知ったところで何も無いしなぁ。神様達は必要な物があると創り出しているし、神様個人の空間は俺も知らない。
そもそも俺が居たのは、神様達が使う共用スペースの一部でしかなかったし。だから神界の事も実は殆ど知らないんだよな。
「そもそも普通は神界なんて全く知らないんだよ? 殆ど知らなくてゴメンって言われてもねぇ……」
「ま……まぁ、話しを変えよう」
「そうだね。ところで椅子とテーブル借りるよ」
「どうぞ、酒を飲むの?」
「そう、アタシは甘い酒とキツイ酒が好きでね。この蜜酒はかなり好きなんだ」
「蜜酒? 初めて見たよ」
「初めて? アルドの故郷では無いのかい?」
「蜂蜜酒なら聞いた事はあるんだけど」
「ふ~ん、まぁいいや。アタシはこのハニーフラワーの蜜酒がホント好きでねぇ」
「ハニーフラワーって言うのは?」
「ハニーフラワーは良い匂いの蜜を出す花の魔物でね。蟲の魔物を誘き寄せて、捕らえて溶かして食う魔物さ」
「食虫植物の魔物版か」
「蜜を取っても、蟲の魔物の肉を食べればまた蜜を出すんだ。だから育てて蜜を取る事を仕事にしてる奴らがいるのさ」
「蜜酒が売ってるくらいだしなぁ」
「それに、このハニーフラワーの蜜酒は女が”本命の為に”飲む酒でもあるんだよ。アタシがこれを飲んでから抱かれるのは、アルドが初めてさ」
「本命の為ってどういう事?」
「良い匂いって言ったろ? 飲むと全身から蜜酒の良い匂いがするんだよ」
「俺との為か、ありがとう」
「当然さ。イイ女ってこういうものだよ?」
ほろ酔いのダナは上機嫌だ。俺も一口貰ったが、甘いジュースみたいな味で喉越しは軽い物だった。ダナは俺の鋼の短刀を手に取り色々確認している。
「これをもう少し長くした物を、アタシに作ってくれないかい?」
「言うと思ったけど、小太刀でいいのか?」
「どういう事だい?」
「刀はいくつも種類があるだろう? 最初に訓練場で会った時、木の小太刀を持ってたじゃないか。あれでいいのか?」
「あれ小太刀って言うのかい? 単なる備品で使いやすいから使ってるだけだよ」
「知らずに使ってたのか。まず片刃がいいのか両刃がいいのか、どっち?」
「よく斬れるのがいいね!」
「だったら片刃だなぁ……長さは?」
「木の小太刀? あの長さであれより反って無いの。それを2本。あとその片刃の短剣」
「という事は、大脇差かぁ……それと短刀ね」
ダナが潤んだ目でこちらを見ている。あぁ……無粋な話はここまでって事ね。
……ダナが大満足した後、色々浄化して寝る。今日も一日お疲れ様でした。
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0013終了時点
金貨4枚
大銀貨9枚
銀貨10枚
大銅貨16枚
銅貨3枚
鋼の短刀
鋼の鉈
鋼の槍
オーク革の鎧
革と鉄の肘防具
革と鉄の膝防具
革と鉄のブーツ