最終日。〇と〇〇で死を完成させるまで…
「どうしよっかな」
たくさんの出会いがあった。もう遠くまで来た。それでもまだ俺は何か成し遂げた気がしなかった。これから何をするか、何をすべきなのか今になってはわからない。…いやそんなの最初からわかっていないのだろう。俺がここまで来たことに明確で論理的な理由はない。あそこにいても俺は腐敗して、つまらなく人生を終えると言うことをわかっていた。なら楽しみたい、楽しい方に行きたい。その一心だった。世の中の生物はその思想をどこかに忘れてしまったのかもしれない。だから俺は、俺だけはまだ死なない。この特性だけを持って、突き進もう。
「ぉぉ、そこの坊や」
死なない。余命の後を迎えるまでは。
「あれれ、聞こえてないのかぁな」
ん?
「ぼーうや」
「あ、え、俺ですか?」
「そうだよ。聞こえてたのかい」
「あぁ、すみません。ちょっと考え事してて、」
「そうだと思ったよぉ。顔を見ればわかる」
「?顔ですか?」
「そうだ。君は今真っ直ぐ前を向いて、次に歩もうとしている。それも性格上だろう。ただなぁ、少しの迷いが最近生まれたんじゃないか?」
「迷いですか?特にないですが」
「そうかい。それじゃわしの間違えじゃったな〜」
なんなんだろうか、この老人は。長い杖のようなものを手に持ち大きな帽子、垂れそうな顔をしている割には足腰はしっかりしていて、とにかく頭の中をはてなが回る。
「でもねぇ、わしの勘は当たるんじゃ」
「そうですか、」
でもそうかもしれない。きっと俺は何かを忘れていた。………いや、何かを忘れている?それは人生を…あれ?このまま死ぬのは嫌だった。あ、あ、あぁ。もく、てき?
「ほら、少しなにか考えがついてきたのかなぁ?」
「あ、いや。なんだろう」
「あぁ、言ってみなさい」
「なんだろう。けどきっと、俺何か忘れてるような」
「ほほぅ」
「でもそれはわからない。ここにきた目的なんてわからない。いや、わかる。腐りたくなかった、楽しいことをしたかった」
「楽しいことかぁ〜?なんで腐ると?」
「あ、あれ?俺は余命がある」
「余命となぁ?」
「でも、でも俺はなぜか、余命がわからない。明日死ぬ。それは確実にそうなんです。でもじゃなんで余命なんて…」
「落ち着いて、落ち着いて」
そういい老人は杖で俺の頭をポンっと叩いた。心なしか落ち着いた気がした。呼吸が軽くなる。頭が整理されていく。心地が良かった。
「俺…、死ぬんですよね。あと一日で。でもそれに別に悔いや後悔はないです。でもなんでいきなりそんな余命をつけられたのか、なんで余命があるのにこんなにピンピンしてるのかわからなくなっちゃって」
「それが悩みなのか?」
「いつもなら、楽しそうとか次は何があるかって普通に生活していました。いい出会いもあった。学ぶべきものもあった。なのに、なんか違和感がいきなり」
「そうかそうか。言っておくがわしは魔法使いなんて便利なものではない。だからお主の記憶を、悩みを完全に復活させることはできない。だから落ち着かせるそれしかできんのじゃ。お主が救った人の数がお前の死の重みになるんだ」
「救った、人?そんな人俺には」
「だとしたらわしなんかの声に耳を傾けることなんてないんじゃぞ?」
「そう…ですか。待ってください。あな…」
「それ以上は良いぞ。だから忘れてたものを少し思い出すのじゃ」
そういい次は杖を鼻につける。落ち着いた。心地よかった。そして、思い出す。鮮明に俺と言う人を。
「お爺さん。ありがとうございます」
「ふぉっふぉっそんな眼差しわしとしても初めてじゃよ?迷いは無くなったわけじゃない。乗り越えたわけじゃない。共存を認めたその顔はお主の成長じゃ」
「お爺さん?少し話聞いてくれません?」
「あぁ」
「俺さ、死ぬんですよ。だから楽しい方に、悔いのない方に行きたいって勇気なんてその一言でいくらでも出てきました。でもきっと逃げてたんです。死ぬと言う現実じゃない、孤独という寂しさじゃない。自分という弱さから、逃げてたんです。でもそれじゃダメだと思った。勝たないとって思ちゃったんです。だから迷った。生き抜くことが辛く、どこかで感じていたんです」
「あぁ」
「でも違うんですね。逃げなくてもいい。勝てなくてもいい。それを認めて全部持っていこうってそんな簡単なこと今気づきました」
「あぁ」
「にしし、にしししし。俺さぁ。生きてていいんですね。こんな化け物でも」
「当たり前だろ。ふぉっ。お主は強いな。自分で自分の価値を知れる。強さが明確にある。人に勇気を与え続けた。いかに人を助けたか、それを考え続けるんだな」
「ありがとうございます」
この坊やが、自分で悩みを見つけ、解決をする。人の強さを知って弱さを知った。そうなったこの坊やは、協力できる。強さを見出した勇気は誰よりも高く広く飛ぶのだとわしはそう思ってる。この坊やが今笑っているように。
いつもなら俺はすぐ次に向かって走るけど、今日はやめた。もう少しだけここにいようってそう感じた。ここは落ち着く。俺がどんな人を助けたのかそんなことまではわからなかった。でもわかっちゃったんだ。
初日にあったあの女性はずっとあそこにいた。立ち入り禁止のはずのところにずっといたし、タバコを吸いにきたお医者さんにも気づかれなかった。それはそうだ。もう彼女は死んでしまっている。幽霊の女性に気付ける人がいるわけなかったんだ。
二日目、俺に親切にしてくれたお爺さんが悲しそうな顔をしたのは俺と重なるところがあったのだろう。俺の行動はそのお爺さんに刺さった。病人で自由に動けないはずなのに。
五日目、俺は初めて命をかけて一人の少女を救った。命をかけてまで助けてあげたかった。未来を感じたから、いやそれだけじゃないあの少女の行動言動一つ一つを愛おしく感じたからだ。そんな気持ち初めてだった。だから体が動いていた。知らぬ間に動いていた。ほぼ死ぬようなあの場面で生きているわけなかった。
全部全部説明がつく。俺が…怪物の、、不死身だったからだ。点滴を抜いても、ビルから落ちても、満足にご飯を食べなくても死なない。そんなの不死身しかない。そして俺の余命。それは俺をこの地獄から逃げ出してくれるために作られた設定。だから病はなくても死ぬ。その事実からは抗えない。余命が出て気づいたんだ。楽しいことしたい。腐りたくないって、その前はずっと腐ってたんだ。
終わりを知った。俺は親に愛されてなかったんじゃない。親を愛せてなかったんだ。終わりは今を教えてくれた。生かさせてくれた。不死身なんてそんな夢はいらない。だから親は俺にユメを教えたんだ。楽しくなるようなユメを。夢物語にいま興味はない。だってもう、今という時間を生きちゃったんだから。
そうして俺は地面に膝をつく。もう歩けない。余命があった。ただこれで良かった。実はなかったとか言われたら俺はまた腐敗しているだろうから。
「はは。に、にしし。あ〜」
自然と溢れたのは笑みだった。俺は生まれてから多くの時間を過ごしてきた。でも、生きたのは六日間だった。
口から血が流れてきた。足は言うことを聞かない。俺は辛うじて手を単にあげて、呟く。最後の力を振り絞って。
「この手、俺の手だ。これを認識できるって幸せなのかな?ニシシ」
あ、ぁ本当に幸せだ。今を生きることの大切さを知った。走ることの大切さを知った。今を変えれるのは今を生きてる人だけ。結局それが一番なのだ。死ぬ人を自殺する人を否定するわけじゃない。でもさ、生き抜くってそういうこと。生きてるやつが一番偉いんだ。だから生きないとダメなんだ。大切な何かを見つけるまでは絶対に、生きてさえいれば今は変わるんだから。絶対生きたい。
今を知ってしまったからね。俺の人生はどうだった?俺の六日間は。病院も親も関係も全部全部全部。
「ニシシ、俺にも関係あったんだな」
そうだ。ここまでの間の多くの出会い。ずっと支えてくれてた両親。その全ての関わりが今の俺に繋がっていた。友情も感じたし、愛も知れた。だからきっと
これが…これこそが、俺の完璧な死。
ーーー愛と友情で死を完成させたんだ。ーーー
後書き
それから数日後、テレビのニュースである少年の死が放送された。一人で亡くなったその場にはたくさんの笑顔が見えたのだとか、私はその子の母だった。私なんかのせいで不死身になんてなったせいで、きっとこの結末を作ってしまったのだろう。…でも死ぬ時、私たちに見せなかった、そんな満遍な笑顔だった。そしてその手には、花がしっかりと握られていたのだった。
〇と〇〇で死を完成させるまで…完結