五日目
「んぐぐぐぐぐ」
俺は久しぶりにしっかりと睡眠をとっていた。そして夢を見ていた。やけにリアルで、恐ろしい夢だった。
身体が痛い。きっと夢の影響だろう。のびーと身体を伸ばす。今日という一日はいつもより波乱が多いだろう。そんなことを感じていた。理由なんてない。ただそう感じたのだ。
「にゃーにしようかな」
今日という一日を少し考え、俺は人が集まるようなところに行ってみようと思い少し離れの図書館に行ってみることにした。それが彼女との出会いだった。
「おー。図書館、初めてきたけど本当にみんな静かだな」
想像以上の静かさに少し圧倒された。それでも俺は探索をしてみることにした。いろんな本があった。俺の知らない常識が書いてあるその紙の束は俺には宝石のように見えた。一つ一つの本を手に取ってみたい。でもそんな時間俺にはもうないからな。あと二日だし。
といろんなことを考えながら俺は探索をしていたが、
……………は?そこには一番の宝石のような一人の少女が座っていた。本を読んでいて、メガネをしていて、可愛い?
へ?俺が人を可愛い?てかなんだよそれ。よくわからない感情が俺の頭を支配した。
でもその大人しめで髪が長く、サラサラとしたその少女を見ているとなんだか、心が安らぐような、そんな気がした。
「それ、何読んでるの?」
………あれ?なんで俺声かけてるの。
「あ、え?これですか。ファンタジーの小説で、」
ほら困惑させちゃってるじゃん!てかそんな仕草もかわいいな。じゃない。なんとかしなければ。
「そうなの?俺さあんま本読まないから、教えてくれない?おすすめとかある?」
「おすすめ、ですか。これなんてどうでしょう」
そうして進められた小説を手に取ってみる。題名、あらすじからして面白そうだとは思った。でも本を読むよりこの少女と関わっていたいと、心からそう思った。
「これはどんな本なの?」
「えっと、あらすじにも書いてある通り、主人公が願いを叶えるためにいろんな試行錯誤をするんですけど、その際出てくる登場人物の思想や価値観がリアルで…」
「めっちゃ面白そう。ちょっと読んでみるね。隣いい?」
何をしているのか、自分でも理解が追いつかなかった。でも今俺はその少女の隣で少女におすすめされた本を読んでいた。幸せだと、そう感じる時間だった。
それからどのぐらいの時間が経過しただろうか、小説を読みたまに会話を挟む。そんなことを繰り返していた時、事件は起こった。
リリリリリリリリリリ
なんの音だ?
「なにこれ?」
「さい、れん?」
サイレン、病院でも一回聞いたことがある。俺はその時も逃げなかったが今は状況が違う。急いで逃げよう。そう思い俺は逃げようとする。きっと火事だろう。出口の方からは煙が立っていた。俺は安全な道を見つけすぐに逃げる準備をする。もちろん少女も連れて…
「いない?」
さっきまでいたそこに、少女の姿はなかった。でも荷物はある。ただ一つの小説を除いては。
俺は直感的に理解した。大切な小説をとりに行ったのだろう。燃えるのが嫌だったのだろう。でもそんなの嫌だ。とりあえず俺は外へと向かいながらもその少女の姿を探す。
瞬間ーバーンという大きな破裂音と共に大きな火花が散った。爆発?大きい。しかも一回じゃない幾つもの場所で爆発が起きた。俺はその爆風と共に外に投げ出される。
「がは、」
身体全体が悲鳴を上げてた。それでも俺は立ち上がる。周囲を確認する。
「…いない」
その少女の姿はどこにもない。確実にまだ中にいる。
「はぁ、はぁ。行くしかない」
「まって、これ以上進まないでください!立ち入り禁止です」
嗚呼止められてしまった。でも嫌だ。こんな終わり方嫌だ。まだ中に…
「大丈夫。私はいいから」
どこからだ?空耳か?でも確かにその声は俺に届いた。そして図書館の中を見る。窓から少し見えたのはもたれかかっていた少女の姿だった。二階の窓で大事そうに本を抱えている。その隣の隣の部屋ではまた爆発が起きた。
「行かせてください!まだ中にいるんです」
警備の人を押しのて避けて俺は図書館の中に入ろうとする。何度でも挑戦する。絶対に死んでほしくないから、余命だなんてもう頭の片隅にも置いてなかった。とにかくあの子を救いたかった。
「あれ?」
俺は図書館の中に入っていた。爆発音が聞こえる。外では俺を黙認したのか全員非難に当たっている。よくわからないがチャンスだ。俺はすぐ二階に向かった。
勢いよく扉をこじ開ける。
「早く逃げるぞ」
「さっきの?なんできたんですか」
「もいいから早く」
そうして俺はすぐさま少女の身体を抱えて走る。階段はもう使えなかった。この部屋が爆発するのも時間の問題だ。
「しっかり捕まっててね」
「何する気ですか。死にますよ」
「大丈夫。余命までは死なない」
それだけを残し俺は、窓から飛び降りるのだった。
その瞬間背後ではとてつもない爆音が鳴り響いた。
「なんとか、生きてたね。大丈夫?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
「いえいえ」
「…、でも」
「え?」
「なんであんな無茶をしたんですか。死ぬかも知らなかったんですよ。見ず知らずの私を助けて、あなたが」
「いいじゃん」
俺はできる限り優しい声音を出していう。
「どっちも生きてた。それでいいじゃん」
俺はこの少女を助けたかった。その気持ちに間違えはないのだから、それは事実を口にするのだった。
なんなんだろうこの男の人は。自分の命を顧みず、私を助けてくれた。身勝手な行動をした私はあそこで死ぬべきだったのかもしれないのに、なんで。本当に訳がわからなかったけど、最後のあの人の優しそうな声を裏切ることはできなかった。だから最後に伝えたかった。
ーーありがとうーー
その言葉は俺に取ってとてつもなく嬉しかった。これが生きる意味だったのかもしれない。俺がここに来れて良かった。なんやかんやで全ての行動に意味はあったのかもしれない。とそう思うのだった。
「ニシシ、どういたしまして」