第9話 初黒星
「ちょっとまて」
街の関所で、さっそくリリィが捕まった。
もちろん、。王家の手形を持つ俺たちは、フリーパス。
が、リリィは、そうではなかったからだ。
メードラでは、陸路をとった。だから、密入国の可能性は否定できた。
しかし、今回は船だ。
さすが、防人の街。警備が厳しい。
「こっちこそ、ちょっと待て、だな」
リリィは、役人に対峙する。
いや、抵抗したらだめだって。お役人の心象悪くなるから。
「悪いのは、手形の準備がない、お前の方だぞ」
思わず、突っ込む俺。
「・・・仕方ない。しばらく捕まるか。2、3日もすれば、誤解も解ける」
関所って、そんなに甘かったっけ?
思わず、顔を見合わせる俺たち。
「ということだ。街で2、3日待っててくれ」
役人に連れられて、リリィが兵士に引き渡された。
「戦時下ってことをすっかり忘れてたな」
今まで街に来るたびに、会う人それぞれに、念を押されてたはずだった。リリィがそれを知らないはずはない。どうして、彼女は手形を持っていなかったのだろう?
「どうする?シン」
フゥが見る。「普通に考えたら、悪いのはリリィだ。しかも、その上でよく考えたら、密入国は立派な犯罪だぞ」
彼女の素性をよく調べなかった自分が、愚かしい。
「お人好しだな」「騙されやすいな」「スケコマシ」
例の口調で、3人が口を合わせる。
「・・・ほかのはともかく、誰がスケコマシだ!」
1人だけおかしな意見が混じってる!
「おおかた、鼻の下伸ばしてたんでしょ。リハビリ中」
ミラーだった。皮肉を言われて返事が返せない自分が憎い。
「それくらい確かめてよ。お願いだから」
宿へ案内される。途中で話し込む俺たち。
「どうする?」みんなへの確認。「まぁ、本人は2、3日待てって言ってたが」
「ハラーラの行方は、少しでも聞けたのか?」
それにも答えられない俺。
「あー、こりゃ、まったくだめだ」フゥが頭をかかえる。
確かに、リリィとの会話を楽しいと思っていた俺がいたのも事実だ。
しかし、それは、あくまで知的探究心の上での話。
断じて言うが、決して、異性とベタベタしたかったわけではない。
断じてない。
断じてない。
断じて、、、ないと思う。
「何か盗まれたものはないか?」
フゥが尋ねる。
宿の部屋で荷物を開く。ほっとした。確かめてみたが、何も盗まれた形跡はない。
「ほらみろ。大丈夫だ」
胸をはる。
しかし、今更、3人のジト目は変わらない。
「・・・ごめんなさい」
「素直でよろしい。ーーでも、彼女がハラーラと繋がっているのは確かそうね」
ミラーが言葉を発した。「あれは、嘘を言う目じゃなかった」
「ご飯を食べながら、話すことにしよう」
ルークが先頭を切って、街に出ることになった。
情報が足りない。
4人で話し合った結果、出たのはそれだけだった。
アリアステで、少し早めの夕食をとる。
青魚のムニエルをつつきながら、考える。
新鮮がウリなのだとか、店員さんが話していた。
ご飯が美味しかったら、頭はまわる。
「聖典は、なんと予言している?」
「先日も言ったけど、聖典には、彼女に関する記述はないわ」
ミラーが念を押す。
ということは、彼女との関係は、それほど重要ではないということだ。
「だとすると、この街とマークーシーは近いのか?」
「うーん」
頭をかかえるルーク。「近いといえば近い。そうでないと言えば、そうでもない」
「?」
「地図上近い。でも、時間がかかる・・・つまり、湿地帯を抜ける必要があるんだ」
行程にして、丸4週間。
砂丘を越える10倍近くの時間がかかるというのだ。
とても路銀も食料も間に合わない。
地元の冒険者たちはどうやって、この沼地を越えている?
「ビーストマスターを雇ってるぞ」
近くで俺たちの話を聞いていた屈強そうな男が口を挟んだ。「すまない。面白そうな顔ぶれだったんで、声をかけさせてもらった」
「ビーストマスター? 魔物使いをどうやって?」
ミラーが尋ねる。
「沼地から入ったバスバラという村で、ロック鳥を飼育しているんだ」
ジョッキに入っているのは、発泡酒だろうか?
空のジョッキをテーブルに置く男。
「彼におかわりを頼む」俺がすかさず言葉をつぐ。
すぐさま、店員が次のジョッキを持ってきた。
口を開くと、人は口が軽くなるらしい、亡き父がよく言った言葉だ。
「おー、兄さん、話がわかるね」
「そのバスバラには、どういけばいい?」
ビーストマスターがいるというバスバラと、どうやって、連絡を取るのか。
専属の契約が必要なのらしい。
翌日、宿をチェックアウトして、店を目指した俺たち。
男から紹介された店は、街のはずれの貧民街にあった。
治安が悪い。
家の影から、ちらりちらりと伺う気配があった。
「兄さん、これ、まずい話かも」
「そう・・・みたいだな」
道を引き返そうとした時、周囲を複数の男たちに囲まれた。
思い思いの粗末な布を身につけた人々だった。
「旅人よ。去れ」
男たちの手には、少し太めの棍棒が握られている。
言わずもなが、引き返した方がよさそうだ。
「勇者さん御一行、いらっしゃい」
甲高い声がその人々の後ろから、響いた。
蹴散らした蟻のように、散り散りになる人々。
声の主は、俺の2倍の背丈のある巨人と、その肩に乗った小柄な細身の男だった。
直感でわかった。
ビーストマスターだ。しかも、とても味方とはいえない。
鞭を鳴らした次の瞬間、巨人が一気に襲ってくる。
罠か。
でも負ける気はしない。
一気にブレードを引き抜いた。
「フゥ、ルーク、支援を頼む。ミラー、雷撃だ」
「ちょっと!人使い荒いわよ!」
ブレードを構える。ミラーの雷撃が剣に宿った。
フゥとルークが巨人の足止めをしているうちに、俺はひといきで、細身の男にきりかかる。
剣が、一気に、男を真っ二つに両断した。手応えが・・・軽い。
巨人の拳が迫る。
ルークがとっさにその拳を戦斧で払った。
「おいおい。シン、頼むよ」
何かこれには仕掛けがある。俺に果たして見抜けるか?
巨人の拳が、再び襲う。
雷撃のブレードで巨人の腕を焼いた。
が、巨人は痛みを感じないのか、その勢いを止めない。
フゥも苦戦している。ナイフの投擲では、巨人の足取りを封じられないからだ。
今までの戦い方では、ここは切り抜けられない。
その次の瞬間、無意識に力を集めた
思いの限り、気合を集中し、一気に放つ。
剣圧が髪を吹き流した。
気がつくと。
巨人が横一文字に真っ二つになっている。
上半身と下半身が離れ離れとなり、遅れて血飛沫が周囲に飛んでいた。
「そこまで」
男の声が、背後で聞こえる。
しまった。こちらが本体か。
振り向くと、ミラーがその男に拘束されていた。
「仲間を返してほしくば、バスバラの村まで来い」
姿が消える。
あたり一面の血の海の中、俺ひとりが取り残されていた。
はじめまして。はるのぱせりです。放課後の異世界旅行第1章を読んでいただきありがとうございます。
この物語の発端は中学1年生の頃、執筆した作品。それを4年ほど前に加筆したものになります。もともとがTRPGのゲームシナリオとして、宿題の合間をぬって書いたものです。
日の目をみるきっかけになったのは、先ごろのステイホーム。安価で楽しい娯楽を、と家族にこの物語を読みきかせしたところ、なかなかの好評。ならば、と調子に乗って、友人に公開して、ホームページを作り、と発展していきました。
大人になっての習作としての意味も強いので、みなさん、温かい目でみまもっていただいたら嬉しいです。