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第8話 交易都市メードラ

 少女が意識を取り戻したのは、1日後のことだった。

「どうしたの?大丈夫?」

「わたしは・・・?」

「サソリに刺されたみたいね。解毒はしておいたわ」

 女性は、右足の傷口の痛みに、軽く顔をしかめる。

「・・・傷は痛む?」

 水を含んだ布で、傷口の布をとりかえる。軽く冷却魔法をかけてあるので、ほどよく冷たいはずだ。

「もう少し発見が遅かったら、足を切り落とすことになっていたかもね」

「・・・ありがとう。礼をいう」

 少女が一言、つぶやくように声を絞り出した。

 ミラーが傷を冷やすための布をかえる。

 俺たちは、オアシスで休憩をとっていた。灌木の木陰が涼しい。かげろうの向こうに街が見える。メードラの街は目前だった。

「気がついたわよ。兄さん」

「そうか」返事を返す。

 助けてはみたものの、少女の傷は思ったよりも深かった。

 先を急ぐ旅だ。本来なら、1日でも時間が惜しい。

 しかし、かと言って怪我人を放っておくのも正直、気の毒だ。

 振り返れば、このお節介が、自分の悪いところなんだと、心から思う。

「歩けるのか?」

「しばらく、メードラに滞在した方がいいと思う」

「そうか」

 思わずため息が出た。

 フゥとルークは、先行して、メードラの街に向かっていた。

 先に宿と商談を済ませておくとのこと。

 甲殻類の殻が、魔法の触媒のひとつだとミラーから聞いた2人が、引き取ってくれるお店を探しに出かけたのだ。

「『最悪のサソリ』にやられたのか」

 その時、少女が男言葉でつぶやいた。「・・・お前たちは何者だ?」

 言われても困る。旅人だ、としか答えようがない。

「かなりの手練とみた。一個師団で戦っても、あれを倒せるものはそういない」

 しっかり、少女から警戒されている様子である。

 こんな時、軽く対応できるフゥか、お調子者のルークがいてくれたら、と心から思った。

 黙っていると、少女が話を進める。

「見たところ、夫婦か兄妹か。この戦時下でどこへ向かう?」

 困る質問その2。まさか、悪魔を倒しに旅をしています、なんて言えない。

「私たちは兄妹よ。三大魔術師を探してるの」

 ミラーが助け船を出してくれた。ああ、確かに、それなら嘘じゃない。

「そうか。ならば、私と目的は同じだな」

 意外な言葉が返ってきた。「ハラーラを探しているのか?」

「知っているの?」

「ああ」

 傷の痛みで再び顔を歪めた後で、少女はうなづく。

 俺とミラーは、顔を見合わせた。

 どうやら、旅のお供が決まったようである。少女が許してくれれば、の話だが。

「ちょっと待っててね」

 ミラーが、軽く息を吸い込むと、軽く印を切って、呪文を唱えた。

 ヒーリングの光が、右手に集まり、少女の足の傷を包み込む。

 少女の顔から、苦悶の表情が消えた。

「治った」

「まさか。全治一週間の傷よ」

 ミラーが軽く、少女の頭をこづいた。

 側から見ると、小学校を卒業したばかりの少女が2人、戯れあっているようにしか見えない。

 よし、ここは、妹に任せよう。

「待って。兄さん。彼女を運んでくれる?」

 困るお願いその3。

「お姫様抱っこか?」

 振り回されてばかりもくやしいので、冗談を返す。

「まさか!」二人が声を合わせてはりあげた。


 少女は、カサンドラ=リリィと名乗った。

 結局、対応は2人ですることになった。治療のために、妹が近くにいてはくれているが、俺の背中を移動手段にするのは、やめてほしい。

 フゥとルークは、関所から入ったすぐの食事処で待っていてくれた。

 『最悪のサソリ』とやらの殻は、存外のビジネスチャンスだったみたいで、フゥの売り込みもあって、路銀を一気に2倍にするほどの価格になったのだとか。

 その売り上げで、しばらく、メードラを過ごすことになりそうだ。

「全治1週間?!」

 フゥが思わず、声を張り上げた。「時間が惜しいのに、何考えてんだ?!」

「仕方ないだろ」

 答える俺。ため息が口癖になりそうな日も遠くない。

「そーだなー。でも、たまには息抜きが必要なんじゃないかー?」

 ルークのテーブルに積んであるのは、甘味の皿だろうか?

 そうか、この街のご飯は、そんなに美味しいのか。

 結局、関所から遠い安宿を2部屋とった。

 王家の通行手形を使うこともできたが、リリィを一人にしておくわけにはいかない、との配慮だった。


 街に来て4日目。リリィの右足の回復は早かった。

「今日は街が賑やかだな」

 リリィのリハビリに付き合いながら、俺は街中を眺める。

 人々の雰囲気がやや浮き足立っている気配を感じさせていた。

「聖戦がなかったら、本来、そろそろ、祭り事が開かれる時期だからな」

 一連の戦争のことは、一般人には「聖戦」と呼ばれている、そう知ったのは、リリィを通じてのことだ。

「祭り?」

 俺はリリィに聞く。「ずいぶん、時期外れだな」

「メードラは、交易の街だ。外国の文化も色濃く影響している」

 リリィが話す。

「この時期の季節風に乗って、南の大陸から、多くの商人がやってくるからな。食料の自給率が低いこの国にとって、穀物の輸入は欠かせない生命線だ」

 なるほど、たしかにこの国には農村が少ない。

「一方で、この国からは、多くの魔術書や工芸品が輸出されている。この街に職人が多いのも、それが理由だ」

「だから、『最悪のサソリ』の殻が高価で売れたのか」

 終始この調子で話は続いていた。

 リリィは、商売に精通していた。彼女といると、勉強になると思う。ちょっとした社長気分になってくる。

「だが残念ながら、今回の聖戦で、交易はしばらく下火になるだろう」

「戦いが長期化すれば、自ずと国力は落ちていくわけか」と俺が口を挟む。

「そうだ。早く決着をつけたい」

 リリィの目は、真剣だ。国を愛している、使命を帯びた責任者の目だ。

 三大魔術師の一人、ハラーラを探す彼女にも、俺たちと同じ何かの事情があるのだろうか。

 ふと思って聞いた。

「お前は何歳なんだ?」

「今年で12歳だ。・・・おい、レディに年齢を聞くとは失礼だぞ」

「いや、確認しただけだ」

 フルタクの娘の例がある。聖女シルフィーもそうだったが、この世界の女性の年齢は本当に難しい。

 宿に帰ってくると、ミラーがのんびり出迎えてくれた。

「あら、リリィ。今日もデートは楽しかった?」

「ああ、少し商売の話ができた」

 すっかり、ミラーとリリィは親しくなった様子。

 ただ、多感な時期の男子としての立場から言うと、リハビリをデートと呼ぶのは控えてほしいと思う。

「ほぉ。とうとう、シンにも春がきたか」

 案の定、フゥとルークも待っていた。

 ちなみに、ルークのテーブルには、さりげなくおかれた、食べかけのホットケーキ。

「お前ら、暇なら、たまにはリハビリに付き合えよ」

 ぼそっと、こぼす。

「いえいえ、そんな。ごちそうさま」

 最後の「ごちそうさま」は、ルークが食事を終えた一言だったのだが、この流れだと、リリィと俺をからかっているセリフにしか聞こえない。

 リリィとミラーは、体を休めに、部屋に帰っていった。

「回復具合はどうだ?」とフゥ。

「これなら、少し早めにメードラを出発することができるかもしれない」と答える。

「そうか」

 予言によると、ここから、アリアステの街を目指すことなるらしい。

 メードラに近いアリアステは、傭兵の街だそうだ。

 マクシリア王国が交易をする上で、海からの侵略を防ぐ意味で、自然出来上がった防人の街。

 メードラとアリアステが事実上、南からの交易の要衝になっているのだ。

 メードラからアリアステへは、船で西へ半日。

 大河を挟んでの船旅になる。


 リリィがハラーラを探している。その情報は、すでに4人で共有してある。

「俺たちもハラーラに会いたい」

 リハビリの間に、旅の同行をリリィに誘うと、渋々、了解してくれた。

 フルタクと俺たちに関係性があることをほのめかしたのも大きかったかもしれない。

 5英雄の伝説を思い出す。

 ふと、将来、リリィが仲間になるのか?とも思った。

「どうだろう? でも、直感的に、しっくりこないわね」と、ミラー。

 聖典を実際に目にした彼女がそういうのだから、可能性はゼロに近いと判断した。


 リリィが出発できるまでは、結局5日がかかった。

 2日予定より早く回復できたのは、リリィの超人的な回復力のおかげだ。

 ほめたら、笑ってごまかされた。

 彼女も、まだ何か隠している。そんな印象を受ける。


 早朝、5人で大河を渡る商船に乗った。

 海が近い影響か、特有の潮の香りがする。

 お互い腹の探り合いではあったものの、リリィとの信頼関係は築けつつあった

 

 ・・・はずだった。

はじめまして。はるのぱせりです。放課後の異世界旅行第1章を読んでいただきありがとうございます。

この物語の発端は中学1年生の頃、執筆した作品。それを4年ほど前に加筆したものになります。もともとがTRPGのゲームシナリオとして、宿題の合間をぬって書いたものです。

日の目をみるきっかけになったのは、先ごろのステイホーム。安価で楽しい娯楽を、と家族にこの物語を読みきかせしたところ、なかなかの好評。ならば、と調子に乗って、友人に公開して、ホームページを作り、と発展していきました。


大人になっての習作としての意味も強いので、みなさん、温かい目でみまもっていただいたら嬉しいです。

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