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第6話 聖戦士の魔法剣

 通された部屋は、ちょっとしたホール程度の大きさがあった。

 天井は高く、周囲の壁画が表すのは、神話の英雄たちであろう。

 正面には、猛々しい神像と跪いて祈る一人の聖衣をまとった姿が見えた。

 歳の頃は、20歳代前半だろうか。

 頭からすっぽりベールを被り、口元だけが、離れた位置からわかる。

 まさか。


 そう。シルベストロ5世は、女性だったのだ。


「貴殿が、私への謁見を望むものか?」

 聖女が、背中を見せたまま、俺に声をかける。「すまないが。戦時下ゆえ、簡易の謁見とさせてもらう」

 案内してきた神官が、俺を残して、一礼してその場を退席した。

 ちなみに、ここに来る途中で、仲間の3人は別室に待機している。

 聖女と一対一。

 果たして、これほど、警備が甘くていいのか?

「何を知りたい?」

「・・・実は、何者かが、俺たちの神託を邪魔している。旅をしていく上で、事情を把握しておきたい」

 聖女がこちらを見る。

 ベールが上がって、緋色の瞳が見えた。

「ならば、証を見せよ」

 聖女が一歩下がって、神像の足元へ歩みを進める。

 扉が開き、一人の長身の戦士が入室した。

 噂に聞く、僧兵だろう。宿屋のボーイが言っていた聖戦士ギルドだろうと推測した。


 聖戦士は、こちらを見たまま、対峙する。

 まだ、剣を構えないので、俺もそれにならった。

「貴殿には、神託が降りなかったと聞いた。それは本当か?」

 聖戦士の一言目は、それだった。

 首を縦に振る。

「ならば、・・・ためさせてもらう」

 戦士が抜く剣は、両手持ちの長身の片刃の剣。

 対して、俺もブレードを脇に構える。

 間合いを取り、はかる呼吸。ビリリとした緊張感が、対峙する空間に張り詰めた。

 戦士が上段に剣を構えた。

「光よ!」

 聖戦士の剣に白色の閃光が宿った。そして、一閃。

 俺は、殺気を感じて、とっさに一歩、距離をとる。

 刹那、俺がいた空間を、剣に宿った灼熱の刃が焼いていた。

「『魔法剣ライシュール』。よくぞ、かわした」

「おいおい・・・」

 やばいと思った。

 これは真剣勝負だ。今更、決意が遅いと思うが、真面目にやらないと殺される。

 呼吸が荒くなる。

 聖戦士の魔法剣の波状攻撃。

 利き腕と胴を一気に狙われて薙ぎ払われる。

 それでも、なんとか、体をかわす。怖いと思うすきすら、まったく持たせてもらえない。

 まったく、体勢が作れない。これでは、力のこもった剣戟など放てるわけがない。

 紙一重で、踏み込まないと。

 いつもより浅く、間合いをとる。

 ああ、そうか。こんな時こそ、力をためるんだったな。

 ふと、誰かが言った言葉が、頭に浮かんだ。

 ブレードを八相に構え、しっかり腰を落とし、瞳を閉じる。

 静かに呼吸しながら、相手の気配を探った。

 脇腹にヒヤリと冷や汗が流れる。聖戦士が次に狙っているのは、、、ここだ。

 剣が届く前に!


 甲高い音が聞こえて、長剣が宙を泳いだ。


「そこまで」

 聖戦士ギルドがそこで姿勢を正した。

 俺は、そこで我に返る。

 間一髪。

 放ったブレードの一撃は、ギルドの長剣を真っ二つにたたき折っていた。

「確かに見せてもらった」

 聖女が、祭壇を降りた。「貴殿が、神の転生者であることを認めよう」

 ・・・。

 まだ、感覚が戻らない。

 一拍おいて、一気に堰を切ったように、安堵感で息が漏れた。

 3人が神官に連れられて、部屋にやってくる。

「勝負はついたのか?」

 とフゥ。「俺たちがここに通されたということは、勝ったんだな?」

 まだ、張り詰めた空気がそこにあるのがわかった。

 聖戦士ギルドがそこに残っていたからだ。

 実際のところ、剣を折ったからといって、勝ったわけではない。

 ギルドは実際、無傷だ。むしろ、俺よりも冷静な様子である。

 そうか。

「勝ったと言うより、、、彼は証を見せただけだ」

 俺が思った言葉を、ギルドが告げた。「いつか、戦場でまた会おう」

 退出するギルド。

 事実、試されただけだった。

「この4人に『聖典』の閲覧を認めよう」


「貴殿の神託を邪魔したのは、私だ」

 俺たちの目が点になった。

「どういうことよ?シルベストロ」

 ミラーが聖女に掴みかかる。

「『シルフィー』と、ニックネームで呼んでほしい」

「そういう問題じゃない!」

 ミラーが聖女につっかかる。「あんた、言っていることわかってんのっ!」

 襟首をひっつかんで、詰め寄るミラー。

 思うんだが、この国の女性はこんなのばっかりか?

「あー、やめとめ、やめとけ。この人も誰かの奥さんかもしれないぞー」

「失礼な。私は立派な生娘だ」

 シルベストロ5世、あらためシルフィーは、ベールをあげて不満げだ。

「力試しのつもりだった。フルタクから、話は聞いている」

 やっぱり。

「実際、神託は降りなかったのであろう?」

 シルフィーは確認する。「閲覧の条件はすべてクリアした。少女よ、好きなだけ、聖典を開くがいい」

「その態度!本当に反省してんのっ!」

 ミラーがシルフィーの襟首を、がくんがくんと振り回す。

「あー、それくらいにしないと、護衛の僧兵がきちゃうかもー」

 ルークがようやく、ミラーを引き剥がす。


 今回の事件は、ふりかえれば、力試しと試練だったか。一人も殺してなくて、本当によかった。納得するには、かなり悔しいが、まあ、この世界のチュートリアルとしては、いい腕鳴らしだったと心から思う。

「だから、聖典によると、貴殿には「神の転生者」たる資格がある」

 シルフィーが俺に向き直った。

 立ち止まる。

 部屋の前にたどり着いていた。「ここからは聖域だ。1人だけが入ることができる」

「ミラー。見たいんだろ?」「わかったわよ」

 憮然として、ミラーは、聖典の閲覧のため、部屋に足を踏み入れたのだった。

はじめまして。はるのぱせりです。放課後の異世界旅行第1章を読んでいただきありがとうございます。

この物語の発端は中学1年生の頃、執筆した作品。それを4年ほど前に加筆したものになります。もともとがTRPGのゲームシナリオとして、宿題の合間をぬって書いたものです。

日の目をみるきっかけになったのは、先ごろのステイホーム。安価で楽しい娯楽を、と家族にこの物語を読みきかせしたところ、なかなかの好評。ならば、と調子に乗って、友人に公開して、ホームページを作り、と発展していきました。


大人になっての習作としての意味も強いので、みなさん、温かい目でみまもっていただいたら嬉しいです。

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