第5話 神託と加護
結局、黒幕はわからなかった。
あまりに実力差の違う戦いに、戦意喪失どころか、彼らのほとんど卒倒してしまっていたからだ。はでにやりすぎてしまった・・・と反省してももう遅い。
あらためて、神託は改めて行われるはずだった。
・・・が。なぜか。
慌てふためく寺院の関係者。
司祭に神がおりなかったからである
何回試しても、だめだった。
「こんなこと初めてです」
しきりに、弁解する司祭たち。
どうやら、適当に誤魔化すことをしなかった様子を見ると、ここの神託は本物だ、ということがわかる。ならば、と神の加護だけでも受けられないか、と相談したら、
「とんでもない。あなたたちには、必要ありません!」
なぜか、戦いを見ていた関係者から、声を揃えて、怒られてしまった。
つまり、初陣には勝利したものの、ミニクエストには見事に失敗した俺たちだった。
宿に帰って、反省会。
「なぜ、あんな派手な戦いを選んだんだ?」
フゥが聞く。「転移の直後にレーザー光線、普通はビビる」
「派手な見かけの割に殺傷効果が低い呪文を選んだだけよ」
ミラーは、薬草茶を飲みながら言い返した。「誰だって、人殺しにはなりたくないでしょ?当たっても、せいぜいやけどで済むわ。全治2週間ほどかしら」
「全治2週間の全身火傷は、せいぜい、とは言わない」
「だったら、あなたたちのブレードふた薙ぎ15人斬りだって、十分に異常だわ」
「一人も殺してない!それにやったのは俺じゃない!」
「何よ。文句ある?」「何だよ。そちらこそ」
ミラーとフゥが睨み合う。
さっきから、ミラーとフゥは、ずっとこんなやりとりを続けているのだった。
けんか友達ほど、仲がいい。微笑ましい気持ちで、俺とルークは、生暖かい目で2人を見守っていた。
「ところで、どうすんだ?」
ルークが、テーブルの上の焼き菓子をつまみながら、問うてくる。
パーシラ神の神託を受けたのは、国王陛下からの助言があっただけで、別に何かを期待したわけではなかった。大した問題ではない。
「予定通り、三大魔術師を探しながら、マークーシーを目指すことになるだろうな」
フルタクがそう言っていたのを思い出す。
幸い、地図もコンパスも初期装備に入っていた。そのうえ、パーティーには、地図を読めるルークもいる。
「ここから、砂丘を超えて、メードラの街へ陸路を取ろう」
「船を使わない理由は?」
「少し寄り道をしたい」
あきらかに、神託の礼拝堂に入ってきた男たちは、俺たちが何者かを知っていた。
なぜ、旅の邪魔をするのか、はっきりさせたい。
「・・・さっきの戦いで、あきらめてくれないかなー?」
ルークの呟きに、俺の口から思わず、ため息が漏れた。
その日は、宿屋の食堂で夕食を取ることになった。
この地方の主食は小麦なのだろう。パンとスープが食卓を飾っていた。主菜は、ルーク念願の肉料理。ロールキャベツと根菜のソテーは、飽きない味で、定番のようだ。副菜の、香草サラダも絶品。
さすがVIPの宿。さりげなく、ほしいものを出してくる。
「こりゃ、うまそう」案の定、ルークが目を輝かせる。
舌鼓を打つ俺たち。
ふと、宿泊者の一人なのだろうか、6歳くらいの貫頭衣をきた少年が、駆け寄ってきた。そして、突然、俺たちに向かって、手をあわせた。
「おいおい、どうしたんだ?」
思わず、問い返す。
「お兄ちゃんたち、神様の転生者なんでしょ? みんなそう言っているよ」
「?」俺たちは顔を見合わせた。
「だって、神託が降りなかったって」と少年。
「、、、どういうことだ?」
思わず、聞き直す。
「だって、当たり前じゃん。神託って、つまり、神様からの助言でしょ?神様が、自分自身にアドバイスするわけないもん」
少年は少し興奮気味だ。「それに見てたよ、寺院前の20人斬り!」
「こら!やめなさい!」
遠くから見ていた母親が平謝りする。「すいません。息子がおかしなことを・・・・」
「いえ、かまいませんよ。・・・それにしても今の話は?」
母親は少し躊躇していたが、申し訳なさそうに話を始めた。
聞けば、殉教者を中心に噂が少しずつ広がりつつあるというのだ。
俺が、光の神パーシラの生まれ変わりではないのか、と。
どうやら、俺たちを見ていた寺院の関係者から、神託の情報が漏れたらしい。
「困ったことになったな」
食事を終えて、もどった部屋で、俺たちは、頭をかかえた。
初陣の反省会をやっているうちに、周囲は黒山の人だかり、なんて冗談ではない。しかも、ここは殉教者が集う信仰の街。「生き神様」の噂は、たちまち囁かれることだろう。
旅の邪魔をしている追手に、自分の位置を知らせることにもなる。
「今更悩んでも、もう間に合わないんじゃないか?子供が声をかけてるくらいだし」
ルークが切り出す。「それに、まんざら有名人も悪くないと思うぞ」
「そんな悠長なこと言ってられるか」
「開き直りも必要だってこと。この状況を活かせば、もっと情報が集められると思うんだ。それに、国王陛下お墨付きのこの宿にいる限りは、身の安全は確保できると思うし」
言われて、少し気持ちが落ち着いた。
それもそうだ。確かに、今は、ここを離れる方が、危ないかもしれない。
「今の立場を活かせば、この街の有力者にも面会が通るだろ?」
果たして、ルークの狙いは的中した。
この街のトップ。
つまり、大司教シルベストロ5世の興味を引くことに成功したのだ。
普通にやったら、無理だった。
が、うわさが十分に行き渡った3日後、ミラーに頼んで書いてもらった面会の手紙を寺院に届けると、その日のうちに宿に使者がやってきた。
宿が国王御用達であることも、十分効果があったし、神託がおりなかったという事実は、寺院でもかなり広がっていた。
「今一度、証明せよ」
使者が、俺たちに告げたのは、その一言。
「証明?」
「あなたが大神パーシラの生まれ変わりかどうか、試したい」
「方法は?」
「大司教の前で『ギルド』と戦ってもらう。1対1で勝ったら、あなたを認めよう」
「ますます、変なことになってきたな」
ルークがひとりごちた。「欲しいのは、情報だけだったんだど」
「『ギルド』って、『協会』って意味だよな?」
宿屋のスタッフにチップを渡すと、答えがかえった「この場合、言っているのは、固有名詞ですよ。シルベスタスの僧兵集団で神の加護を受けた選ばれた人のみが、名乗れる称号です。ちなみに人気者です」
「あー。つまり、流石にその人に勝っちゃったらまずいよねー」
「勝てるものなら」
さて。
「どうする?」「知るか!」
思わず、ツッコミを入れる俺たち。
「少なくとも誰が戦うかだけは、決まってる気がするなー」
3人の視線が俺に向く。
あー。言わなくても、そういうことですよね。はいはい。さっさと負けてきますとも。
「ちなみにわざと負けたら、神を語る嘘つきとして、処罰がくだるかもー」
前言撤回。
「どうすればいいんだ?」
「真面目に戦って、周囲からひんしゅくを買うしかないだろうな」とフゥ。「頑張れ、シン」
「・・・人ごとだと思って・・・」
「今思ったんだけど、その対価として『聖典』の閲覧も追加して許してもらえないかしら?」
「『聖典』?」
「まぁ、言ってしまえば、この世界における聖書のようなものよ。予言書でもあり、魔術書でもあるわ」
「つまり、ここで戦いに勝てば、ミラーが新しい術を覚えることができるということか?」
「そういうことね」
条件としては悪くない。
仕方がない。やれるだけベストを尽くそうか。
俺たちは、使者を連れた馬車に乗って、寺院へと向かったのだった。
はじめまして。はるのぱせりです。放課後の異世界旅行第1章を読んでいただきありがとうございます。
この物語の発端は中学1年生の頃、執筆した作品。それを4年ほど前に加筆したものになります。もともとがTRPGのゲームシナリオとして、宿題の合間をぬって書いたものです。
日の目をみるきっかけになったのは、先ごろのステイホーム。安価で楽しい娯楽を、と家族にこの物語を読みきかせしたところ、なかなかの好評。ならば、と調子に乗って、友人に公開して、ホームページを作り、と発展していきました。
大人になっての習作としての意味も強いので、みなさん、温かい目でみまもっていただいたら嬉しいです。