表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

第4話 魔術師の残響

 旅が始まった。

 朝日が眩しい。

 魔術師フルタクのもとを出発したのは、早朝であった。

 船を降り、徒歩で陸路をとることに。

 クリスタルの山々の峰が朝日に染まり、空に輝きが灯っていく。峰々の間から、生まれた卵がこぼれるように朝日がつるりと空に飛び出した。

 神託を求めて、シルベスタスの街へ行こうと思う。

 そう決心したのは、国王陛下からの助言があった。

 あわよくば、神の加護を受けることができれば、とのこと。

 戦時下で、関所の通過はかなり厳しいと聞いた、王家のお墨付きがどこまで通用するか、不安は今も残っている。


 フルタクからも、アドバイス。

「神託を終えたら、ハラーラとコバヤーを探せ」

 フルタク自身を含めたその3人は、マクシリア国三大魔術師を呼ばれる。

 フルタクと同様、それぞれに聖地の奪還に行動を起こしているということだ。

 連絡が途切れているので、今はどこにいるかはわからない。

 しかし、話せば、必ず力を貸してくれるだろうとのこと。

 実は、俺たちはフルタクにも旅の同行をお願いしていた。

 ここから、マークーシーの砦までの道、俺たちにとっては、まったく知らない土地への旅となる。地元人の案内がほしいと誘った。

 、、、丁寧にお断りされてしまったが。


 手元の路銀は、4人で金貨20枚。つまり、一人当たり金貨5枚。

 細かい物価が、俺たちの世界とは若干変わるので、なんとも言えないが、金貨一枚が安宿2泊分の価値を持つといえば、伝わるだろうか。それ以降の路銀は、現地での調達が求められた。

 山の麓は、霧に覆われた高原地帯。

 地図によると、ここを越えれば、シルベスタスの街はすぐだ。

 朝露が降りた大地を歩くと、靴も足も体も心も濡れそぼる。

「荒天になりそうだな」

 矢先にルークが周囲の匂いを感じて、ぼそりと呟く。「近くに、雨宿りした方が良さそうだ」

 果たして、山肌を目指すと、ひとつの洞窟があった。

 強くなる雨。危機一髪で、難を逃れた。

 マントを脱ぎ、雨露を落とす。

「・・・ここは、何かしら?」

 洞窟の岩壁には不規則な壁画が当たり一面に描かれていた。「象形・・・文字?」

「解読できるか?」ミラーに問うてみる。

「ちょっと難しいかも」

 ルークがフルタクの準備した食料で調理を始めた。さっそく薪を集めるのを、手伝う俺たち。

 薬草の葉を炙った簡易のお茶を入れる。

 香ばしい香りが、気持ちを和ませてくれる。

 行動中は、携帯の食料で済ませるのが常識だが、濡れそぼった体には温もりが必要だった。

 フゥが笛を取り出した。どこかで聞いた祖国の旋律を思いだす。

 ーーその時、軽い振動音が洞窟の奥から聞こえてきた。

 俺たちは目を見合わせる。

 フゥも演奏を止める。

 音の主は、やがて、俺たちの目の前に現れた。 

 つがいの巨人だ。

 とっさにブレードに手を回す。

「待ッデ、オレたち、命タスケテ」

 しゃべった? しかも命乞いだ。どうやら、知能を持っているようだ。

 俺は構えを解く。みんなもそれにならった。

 それから、小一時間は、巨人とのコミュニケーションがあっただろうか。

 拙い言葉で語った話を聞くと、このつがいの巨人たちは、この洞窟の主らしい。

 笛の音に魅了されて、誘いだされたのだとか。

「オデ、オンガク大好き、モット、笛のネ、聴カセテホシイ」

「・・・フゥ、お願いできるか?」

「あ、ああ」

 再びメロディーが流れ始めた。巨人にはわからないと思うが、今度は、クラシック。かの有名なモーツアルトの「魔笛」。今、部活で練習している曲だと話していた。

 巨人が巨体を揺らしながら、聞き入っている。

「マスター、ナツカシイ」

 師?

 巨人は曲が終わると、涙をながしていた。

 話を要約すると、数年前まで巨人がお使えしていた魔法使いがいたらしい。

 音楽系の魔法を使う魔法使いだったらしく、よく笛の音を聞かせてくれていたとのこと。

 数年前、ふらっと旅に出ていなくなったらしい。

 結局音楽のお礼に、巨人は、この洞窟で一泊することを許してくれた。

 その日は、ほっこりした気持ちに包まれた一夜になった。


 翌朝、その洞窟を旅立つ。天候は、極めて良好だった。

 そうか、笛を使う魔術師、、、ねぇ。

「あいつら、マスターと再会できるといいな」思わず、言葉が漏れる。

「そうだな。でないと切ないからな」フゥは、そう答えた。

「いつか、この国の音楽を聞いてみたい気がする」



 その日の昼過ぎ、寄り道もあったが、シルベスタスの街へとたどり着いた。

 果たして、王家の通行手形の効果は目を見張らんばかりだった。印籠を持った水戸黄門よろしく、関所はなんなくクリアした。それどころか、高貴な方々が使うという上等の宿を紹介される。そのうえ、お代はいらない、とのこと。

 城壁をくぐると、荘厳な鐘の音が、俺たちを出迎えた。

 街の中央にある寺院へは、メインストリートを道沿いに進むだけだった。

 神託のための寄付金は、宿賃がういたおかげで、簡単に工面することができた。

 俺たちは、待合室に通される。

 部屋には、10人程度の旅人が待機しているところだった。

 この街へは、巡礼客も多いらしい。

 その際は、別の簡易宿泊施設が準備されているとのこと。


 このシルベスタス寺院が祀っているのは、創造神。

 「光の神パーシラ」という名前らしい。

 事前に魔術書で事情を学んでいた妹が教えてくれた。

 果たして、信仰心の薄い俺たちに神託は、役に立つのだろうか?

 不安が俺の胸をよぎった。

「勇者御一行様、どうぞこちらへ」

 いや、人前で堂々と勇者様と呼ばれるのは、すごく恥ずかしいと思ったのだが、周囲はさしも驚いた様子はない。

 思えば、誰しもみんな、何かの探求者でもあるし、誰かの勇者である。

 そういった上で、この恥ずかしい名称にも、いずれ慣れなければいけないんだろう。

 早くも俺は、あきらめていた。


 礼拝堂へ入る。

 そこに立つ創造神の像の足元で、司祭が祈りを捧げている。

 この司祭に、神々が宿るとのこと。

 いままで、こういう経験をしたことはないが、これまでのものは本当はお芝居だったんじゃないだろうか、と疑っていた。でも、ここは魔法が存在する世界。今回はガチでマジだろう。

 俺たちが祈りを捧げようとした時だった。

 礼拝堂の扉が、乱暴に開かれた。

「そこまで」

 黒ずくめの男たちが、礼拝堂に押し入ってきた。

「勇者たちへの神託は受けさせない」

 円月刀を構えた数人の男たちが詰め寄る。

 人数は5名。

 気配から、外にその倍以上は待機しているのがわかる。

「どうする?・・・ここで戦っていいのか?」

 ルークが俺に確認を求める。礼拝堂で流血騒ぎとか洒落にならない。

 信仰心の薄い俺たちの頭でも、禁忌くらいは想像できた。

 緊張感が走る。

「・・・まったく、魔法の初披露が大技なんて、信じられない」

 ミラーが言うと、俺たちに指示を出した。

「私を中心に手を繋いで!早く!」

 すばやく両手でフゥとルークの手を取る。

 俺の肩に手を置く妹。

 呪文を詠唱を省略し、一気に魔法を発動、、、させたのだと思う。

 澄んだ音が響き、何かが身体中をめぐった。


 気がつくと、俺たち4人は、外の広場に転移していた。

 寺院の中から、騒ぎが聞こえる。

「いたぞ!外だ!」

 男たちが思い思いに、俺たちを囲む。

 ブレードを背中から引き抜く俺。殺さないが、手加減もしない。思いは、フゥもルークも一緒らしい。

 4対20。

 数の上では不利だ。が、負ける気はしなかった。

 フゥのナイフの投擲が取り囲もうとした男たちの足元を牽制する。

 まずはブレードを一閃。一気に5人が吹き飛んだ。

 俺の背中はルークが守っている、さらに4人をその戦斧の腹が、叩きつける。

 体制を立てなおそうとする11人をフゥが再びナイフで翻弄し、足元を誘導する。

 そこへ返すブレードで薙ぎ上げる。6人が宙に舞った。

 これで、残りは5名。

 あと一撃で終わる!

 ミラーがそこを押さえていた。

 呪文を詠唱し、空中を仰ぐ。

 頭上で展開された魔力がレンズを作り、一気に太陽光を濃縮して閃光を放つ!

 閃光は、きちんと計算されていて、5人の足元を正確にえぐって黒焦げにした。

「勝負あり、だな」

 腰の抜けた5人に、俺はブレードを突きつけた。

はじめまして。はるのぱせりです。放課後の異世界旅行第1章を読んでいただきありがとうございます。

この物語の発端は中学1年生の頃、執筆した作品。それを4年ほど前に加筆したものになります。もともとがTRPGのゲームシナリオとして、宿題の合間をぬって書いたものです。

日の目をみるきっかけになったのは、先ごろのステイホーム。安価で楽しい娯楽を、と家族にこの物語を読みきかせしたところ、なかなかの好評。ならば、と調子に乗って、友人に公開して、ホームページを作り、と発展していきました。


大人になっての習作としての意味も強いので、みなさん、温かい目でみまもっていただいたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ