第4話 魔術師の残響
旅が始まった。
朝日が眩しい。
魔術師フルタクのもとを出発したのは、早朝であった。
船を降り、徒歩で陸路をとることに。
クリスタルの山々の峰が朝日に染まり、空に輝きが灯っていく。峰々の間から、生まれた卵がこぼれるように朝日がつるりと空に飛び出した。
神託を求めて、シルベスタスの街へ行こうと思う。
そう決心したのは、国王陛下からの助言があった。
あわよくば、神の加護を受けることができれば、とのこと。
戦時下で、関所の通過はかなり厳しいと聞いた、王家のお墨付きがどこまで通用するか、不安は今も残っている。
フルタクからも、アドバイス。
「神託を終えたら、ハラーラとコバヤーを探せ」
フルタク自身を含めたその3人は、マクシリア国三大魔術師を呼ばれる。
フルタクと同様、それぞれに聖地の奪還に行動を起こしているということだ。
連絡が途切れているので、今はどこにいるかはわからない。
しかし、話せば、必ず力を貸してくれるだろうとのこと。
実は、俺たちはフルタクにも旅の同行をお願いしていた。
ここから、マークーシーの砦までの道、俺たちにとっては、まったく知らない土地への旅となる。地元人の案内がほしいと誘った。
、、、丁寧にお断りされてしまったが。
手元の路銀は、4人で金貨20枚。つまり、一人当たり金貨5枚。
細かい物価が、俺たちの世界とは若干変わるので、なんとも言えないが、金貨一枚が安宿2泊分の価値を持つといえば、伝わるだろうか。それ以降の路銀は、現地での調達が求められた。
山の麓は、霧に覆われた高原地帯。
地図によると、ここを越えれば、シルベスタスの街はすぐだ。
朝露が降りた大地を歩くと、靴も足も体も心も濡れそぼる。
「荒天になりそうだな」
矢先にルークが周囲の匂いを感じて、ぼそりと呟く。「近くに、雨宿りした方が良さそうだ」
果たして、山肌を目指すと、ひとつの洞窟があった。
強くなる雨。危機一髪で、難を逃れた。
マントを脱ぎ、雨露を落とす。
「・・・ここは、何かしら?」
洞窟の岩壁には不規則な壁画が当たり一面に描かれていた。「象形・・・文字?」
「解読できるか?」ミラーに問うてみる。
「ちょっと難しいかも」
ルークがフルタクの準備した食料で調理を始めた。さっそく薪を集めるのを、手伝う俺たち。
薬草の葉を炙った簡易のお茶を入れる。
香ばしい香りが、気持ちを和ませてくれる。
行動中は、携帯の食料で済ませるのが常識だが、濡れそぼった体には温もりが必要だった。
フゥが笛を取り出した。どこかで聞いた祖国の旋律を思いだす。
ーーその時、軽い振動音が洞窟の奥から聞こえてきた。
俺たちは目を見合わせる。
フゥも演奏を止める。
音の主は、やがて、俺たちの目の前に現れた。
つがいの巨人だ。
とっさにブレードに手を回す。
「待ッデ、オレたち、命タスケテ」
しゃべった? しかも命乞いだ。どうやら、知能を持っているようだ。
俺は構えを解く。みんなもそれにならった。
それから、小一時間は、巨人とのコミュニケーションがあっただろうか。
拙い言葉で語った話を聞くと、このつがいの巨人たちは、この洞窟の主らしい。
笛の音に魅了されて、誘いだされたのだとか。
「オデ、オンガク大好き、モット、笛のネ、聴カセテホシイ」
「・・・フゥ、お願いできるか?」
「あ、ああ」
再びメロディーが流れ始めた。巨人にはわからないと思うが、今度は、クラシック。かの有名なモーツアルトの「魔笛」。今、部活で練習している曲だと話していた。
巨人が巨体を揺らしながら、聞き入っている。
「マスター、ナツカシイ」
師?
巨人は曲が終わると、涙をながしていた。
話を要約すると、数年前まで巨人がお使えしていた魔法使いがいたらしい。
音楽系の魔法を使う魔法使いだったらしく、よく笛の音を聞かせてくれていたとのこと。
数年前、ふらっと旅に出ていなくなったらしい。
結局音楽のお礼に、巨人は、この洞窟で一泊することを許してくれた。
その日は、ほっこりした気持ちに包まれた一夜になった。
翌朝、その洞窟を旅立つ。天候は、極めて良好だった。
そうか、笛を使う魔術師、、、ねぇ。
「あいつら、マスターと再会できるといいな」思わず、言葉が漏れる。
「そうだな。でないと切ないからな」フゥは、そう答えた。
「いつか、この国の音楽を聞いてみたい気がする」
その日の昼過ぎ、寄り道もあったが、シルベスタスの街へとたどり着いた。
果たして、王家の通行手形の効果は目を見張らんばかりだった。印籠を持った水戸黄門よろしく、関所はなんなくクリアした。それどころか、高貴な方々が使うという上等の宿を紹介される。そのうえ、お代はいらない、とのこと。
城壁をくぐると、荘厳な鐘の音が、俺たちを出迎えた。
街の中央にある寺院へは、メインストリートを道沿いに進むだけだった。
神託のための寄付金は、宿賃がういたおかげで、簡単に工面することができた。
俺たちは、待合室に通される。
部屋には、10人程度の旅人が待機しているところだった。
この街へは、巡礼客も多いらしい。
その際は、別の簡易宿泊施設が準備されているとのこと。
このシルベスタス寺院が祀っているのは、創造神。
「光の神パーシラ」という名前らしい。
事前に魔術書で事情を学んでいた妹が教えてくれた。
果たして、信仰心の薄い俺たちに神託は、役に立つのだろうか?
不安が俺の胸をよぎった。
「勇者御一行様、どうぞこちらへ」
いや、人前で堂々と勇者様と呼ばれるのは、すごく恥ずかしいと思ったのだが、周囲はさしも驚いた様子はない。
思えば、誰しもみんな、何かの探求者でもあるし、誰かの勇者である。
そういった上で、この恥ずかしい名称にも、いずれ慣れなければいけないんだろう。
早くも俺は、あきらめていた。
礼拝堂へ入る。
そこに立つ創造神の像の足元で、司祭が祈りを捧げている。
この司祭に、神々が宿るとのこと。
いままで、こういう経験をしたことはないが、これまでのものは本当はお芝居だったんじゃないだろうか、と疑っていた。でも、ここは魔法が存在する世界。今回はガチでマジだろう。
俺たちが祈りを捧げようとした時だった。
礼拝堂の扉が、乱暴に開かれた。
「そこまで」
黒ずくめの男たちが、礼拝堂に押し入ってきた。
「勇者たちへの神託は受けさせない」
円月刀を構えた数人の男たちが詰め寄る。
人数は5名。
気配から、外にその倍以上は待機しているのがわかる。
「どうする?・・・ここで戦っていいのか?」
ルークが俺に確認を求める。礼拝堂で流血騒ぎとか洒落にならない。
信仰心の薄い俺たちの頭でも、禁忌くらいは想像できた。
緊張感が走る。
「・・・まったく、魔法の初披露が大技なんて、信じられない」
ミラーが言うと、俺たちに指示を出した。
「私を中心に手を繋いで!早く!」
すばやく両手でフゥとルークの手を取る。
俺の肩に手を置く妹。
呪文を詠唱を省略し、一気に魔法を発動、、、させたのだと思う。
澄んだ音が響き、何かが身体中をめぐった。
気がつくと、俺たち4人は、外の広場に転移していた。
寺院の中から、騒ぎが聞こえる。
「いたぞ!外だ!」
男たちが思い思いに、俺たちを囲む。
ブレードを背中から引き抜く俺。殺さないが、手加減もしない。思いは、フゥもルークも一緒らしい。
4対20。
数の上では不利だ。が、負ける気はしなかった。
フゥのナイフの投擲が取り囲もうとした男たちの足元を牽制する。
まずはブレードを一閃。一気に5人が吹き飛んだ。
俺の背中はルークが守っている、さらに4人をその戦斧の腹が、叩きつける。
体制を立てなおそうとする11人をフゥが再びナイフで翻弄し、足元を誘導する。
そこへ返すブレードで薙ぎ上げる。6人が宙に舞った。
これで、残りは5名。
あと一撃で終わる!
ミラーがそこを押さえていた。
呪文を詠唱し、空中を仰ぐ。
頭上で展開された魔力がレンズを作り、一気に太陽光を濃縮して閃光を放つ!
閃光は、きちんと計算されていて、5人の足元を正確にえぐって黒焦げにした。
「勝負あり、だな」
腰の抜けた5人に、俺はブレードを突きつけた。
はじめまして。はるのぱせりです。放課後の異世界旅行第1章を読んでいただきありがとうございます。
この物語の発端は中学1年生の頃、執筆した作品。それを4年ほど前に加筆したものになります。もともとがTRPGのゲームシナリオとして、宿題の合間をぬって書いたものです。
日の目をみるきっかけになったのは、先ごろのステイホーム。安価で楽しい娯楽を、と家族にこの物語を読みきかせしたところ、なかなかの好評。ならば、と調子に乗って、友人に公開して、ホームページを作り、と発展していきました。
大人になっての習作としての意味も強いので、みなさん、温かい目でみまもっていただいたら嬉しいです。