第21話 「真実の光輪」と「悪魔の封印」
頭上の暗雲が一度晴れ、光の梯子が、砦に降りた。
今は夜。
つまり、この光は、神の力の降臨。
モンリーの動きが、そこで止まった。
俺はすかさず、トワイライト=ブレードを拾い、構えを直す。
モンリーのハルビンの靴、破邪の剣、そして、おそらくフロッガーリング。
宝具全ての力が今、打ち消されて、なくなっていた。
「・・・勝負だ」
宝具の力が打ち消されたはずのモンリーだったが、思ったよりは善戦した。
つまり、ほどほどに実力のある戦士ではあったのだ。
しかし、残念ながら、、、俺より弱い。
「あきらめて、降参しろ」
俺は、トワイライト=ブレードで、破邪の剣を弾き、モンリーに刃を突きつけた。
「お前には悲しむ存在がいる。斬りたくない」
俺は、自分の中の結論にたどり着いていた。「家族がいるのだろう?」
「何をっ!」
「お前が魔術を放ったとき、描いた象形文字の印を、俺はみたことがある」
俺は、ブレードの剣先を、すっとおろした。
「サルバート高原に住んでいたのだろう?」
「・・・なぜ、それを?」
「眷属の巨人と話したことがある。
彼らは、主人の吹く笛の音を、今も待っていると言っていたぞ」
「・・・」
モンリーが肩をうなだれた。
戦意が喪失している。
そうでなくても、もはや俺には、モンリーを斬ることはできなくなっていた。
「何だとっ?! 『真実の光輪』が成功した?!」
ヤマキンが驚きの声をあげる。
波動が、一気に、聖地を走った。
この魔術を扱えるのは、選ばれた者、しかも、神に愛された者のみ。
ヤマキンの体から、割れた風船のように闇が抜けた。
「おいおい、俺の筋肉、マイマッスル!」
身体中の筋肉が、みる間にしぼんでいく。
「この魔法は、周囲の魔法効果をすべて打ち消す。数日間、この地では魔法が使うことは不可能になる」
ミラーが、フゥをそっと抱き止める。
山嵐のように背中に刺さる10本の矢。
ミラーをかばった報いだった。
「このバカっ!」
魔法が使えないのは、術者であるミラーも同じだ。
治癒の魔法が使えないのが、もどかしいが、止血と薬草の治療くらいはできる。山をおりれば、マクシリア軍から治療を受けられるだろう。
「・・・なんつってな」
フゥがニヤリと笑った。
とても、怪我人のものではない。
そういえば、背中の傷から一滴の血も流れていない。
「どういうことよ?」
「メードラで、俺、最悪のサソリの殻、売ったよな? 全部は売らずに、一部を職人に簡易の胸あてに仕立ててもらってたんだよ」
「なんですって?!」
鎖かたびらの下に着た、胸当てはぐるっと背中まで、上半身を覆っている。最悪のサソリは、一切の刃物を通さない。矢尻も当然、通すわけがなかった。
「プレートアーマーを身につける体力がなかったから、軽くて強固な防具が必要だったんだ」
フゥがぽんぽんとミラーの肩を叩いた。
「まあ、お前の気持ちもおかげでわかった」
「・・・っ!」
ミラーが一気に顔を赤面させる。
「さて、ヤマキン。今のお前なら、俺でも倒せそうだな」
フゥが、後ろを振り返る。
錬金術の消えたヤマキンは、ただの小さな子供。
フゥがナイフを突きつけた。
唐突に、ケンザンの体から、煙が上がった。
隙ができた。
「闇の預言者ケンザン、滅する!」
サーベルを構えるローザ。
間合いを詰め、信じられない速さでサーベルを突き出す。
ケンザンが右腕をふるって、それをつかむ。
ローザは、ケンザンの二の腕にサーベルを刺し、そこから、剣に回転を加える。
ケンザンの右手が、ボロリと崩れて、宙に飛んだ。
続く突きが、ケンザンの胴を深くえぐった。
「いくら、アンデットでも、魔法効果がなければ、ただの動くしかばねにすぎない」
ローザが冷静に付け足す。
「しかし、預言者であれば、この状況は予想されたはずだ」
ケンザンは、身体中から魔法が抜けて、上がる煙の中で笑っている。
「知っているとも、予言に記述されていたことだ。
つまり、ついに「水の魔術師」が、『真実の光輪』を使ったのであろう?
・・・だが、逆にそれが、お前たちの首を閉めることになる」
サーベルがさらに、えぐった胴を真っ二つに裂いた。
ケンザンの体が崩れる。なのに、ケンザンの不敵な表情は、変わらなかった。
大声で奇声を上げる。
叫び?悲鳴? ・・・ケンザンがあげた断末魔は、笑いだった。
それも、爽やかな笑顔とは程遠い、、、狂気だ。
ケンザンの体が、泥人形のように、崩れた。
首だけが残る。
「この地に、封じられていた『悪魔』がついに解放される」
「聖典の予言は、ここからは、ただのおとぎ話だ。
魔法の使えない、この状況で、果たして、お前たちは「悪魔」が倒せるのかな?」
地下聖堂の祭壇の奥で、その現象が起きていた。
祭壇の最上段に飾られた大きな大きな魔法の鏡。
その鏡は、決して、周囲を映し出してはいない。
炭のように真っ黒に広がった闇にみちていた。
大きな闇の塊が、ジョッキから溢れる炭酸水のように、噴き出す。
同時に、今までの規模のものとは比べられないくらいの、巨大な瘴気の大噴火がおこった。
「一旦、ここを離れるぞ!」
ルークとローザは、地下聖堂から出て、地上への通路を走り出した。
はじめまして。はるのぱせりです。放課後の異世界旅行第1章を読んでいただきありがとうございます。
この物語の発端は中学1年生の頃、執筆した作品。それを4年ほど前に加筆したものになります。もともとがTRPGのゲームシナリオとして、宿題の合間をぬって書いたものです。
日の目をみるきっかけになったのは、先ごろのステイホーム。安価で楽しい娯楽を、と家族にこの物語を読みきかせしたところ、なかなかの好評。ならば、と調子に乗って、友人に公開して、ホームページを作り、と発展していきました。
大人になっての習作としての意味も強いので、みなさん、温かい目でみまもっていただいたら嬉しいです。




