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第2話 巫女と小鬼と魔術師と

 少女は巫女だった。年齢は、三桁を超えていた。

 

 話を聞くと、巫女として、祠で祈りを捧げていたらしい。

 一週間、祈りを続け、その間、絶食していたという。衰弱は、空腹のためだった。

 その祈りに応えて、俺たちが異世界から、、、召喚されてしまったのだとか。

 近くの小屋でひといきをつくことになった。

 食卓に並べられたサラダを食べながら、話を聞くことにする。

 ドレッシングも出てきたフルーツも、新鮮な野菜で、あとトマトがあれば最高の味覚だった。ルークは、それ以上に肉料理を求めていた様子だったが。

 異世界かどうかは別にして、ご飯が美味しかったら、頭はしっかり回る。

「で、どうやったら、家に帰れるんだ?」

 巫女は、慌てふためく。

「え?」

 巫女がとたんに泣き弱りながら、足元に縋り付く。

「見捨てないでくださいー」

「知るか!」

「お願いですぅ!頼みますぅ。困るんですぅ」


「鬼だな」「畜生じゃないか?」「外道よね」

 サラダをおかわりしながら、フゥ、ルーク、ミラーが口を揃える。

「お前らはどっちの味方だ! 第一、400歳のロリババアのお願いが聞けるかよ!」

 淡い期待が裏切られた感を付け加えて、俺は怒鳴る。

「で、お嬢さん、私たちは何をすればいいのでしょう?」

 フゥが急に紳士になって、巫女を視線を合わせる。お前の下心は手に取るようにわかる。ただ、目の前の女性の実年齢と見かけの差は、いい加減認めた方が身のためだと思う。

「悪魔をやっつけてほしいんですぅ。できれば、生首をもってかえってほしいんですぅ」

 フゥがすかさず巫女から後ずさる。気持ちはわかる。聖戦と称して、大量の人間が虐殺された歴史があることを俺たちは知っている。

「報酬は?」今度はルーク。

「勇者の称号を授けるって、王様は言ってますぅ」

 聞こえはいいが、実質、報酬は用意できないということだ。

「ちょっと聞いていい?」

 ミラーが、口を挟んだ。

 さて、妹からの説得が終わったら、巫女を脅して、元の世界に帰ろう。

「あなたは、私たちを元の世界に送ることができるのかしら?」

「できません」(きっぱり)

・・・

「なにぃいいいい!」


 4人がかりで、巫女を簀巻きにして、小屋の天井から吊り下げた。

 召喚しておいてから、帰せないとは何事か。

「、、、扱いが悪魔よりひどい、、、」巫女が涙を流しながら、つぶやく。

 さて、どうしてくれよう。

「誰の指示で、俺たちを呼んだんだ?」

 黒幕がいるのは、巫女の様子でわかった。こうなれば、次の行動は、責任者出てこい、だ。

 その答えは、簡単に解決した。

「その辺にしておいてほしい」

 背後に顎に白髭を蓄えた男性がたっていた。口調からすると、彼が責任者だろう。体格は、ほっそりとして、頭にとんがり帽子をかぶっている。身に纏っているのは、パジャマだろうか?見るところ、ダボダボの寝巻き姿にも見える。もはや、何を見ても驚くまい、と決心した。そう、それが変質者であっても。

「私の指示で、娘はあなたたちを召喚したのだ。謝罪はきちんとする。対価もきちんと払う。役目を終えたら、必ずあなた方をもとの世界に返す。だから、許してやってほしい。簀巻きのままでは、あまりにも不憫だ」

「、、、娘?」

 このロリババアの父親ということは、つまり、、、。

「ちなみに、私の年齢は16歳以上だ」

 某国の女王様が話したと言う超有名なセリフを片目をウインクしながら言ってのける老人。

「言葉を慎め。この方は、この国の三大魔術師の一人、フルタク様だぞ」

 老人の陰から、小鬼が2匹飛び出した。

 キーキー声で構えた円月刀をちらつかせる小鬼。「使い魔」という単語がとっさに浮かんだ。

「魔術師、、、というと、俺たちを家に帰せるのか?」

「もちろん、ゲートを通れば」

「ゲート?」

「他の異世界とこの世界をつなぐゲートだよ。そこを通せば、簡単に世界間を移動できる」

「どこにある?」

「一方通行のものなら、あなた方が通ってきたものがある。双方向で通行できるものとなると、一番近くても、マークーシーの砦ぐらいだろうか。ここから歩いて、徒歩でも最低一ヶ月はかかる」

「本当か?」

 小鬼の円月刀を指先で軽く弾きながら、尋ねて返す。「では、そこへ案内しろよ」

「残念だが、今、そこには悪魔が棲んでいる」

 簡単ではないと思ったが、、、。

「その悪魔を倒してほしい、というのが、私たちからのお願いだ。それが、私たちとあなたたちの目的を共に叶える近道でもある」

「話を聞こう」

 仲間達に目配せして、俺たちは椅子に腰掛けた。


 話は、半年前に遡る。

 精霊魔術の聖地マークーシーを3人の魔術師が占領した。

 魔術師は、そこに砦を作り、禁呪を用いて、ゲートから異世界の悪魔を呼び出すのに成功した。

 世界の魔力のバランスが崩れ、天変地異が国を襲った。雨が降れば洪水。風が吹けば、嵐。寒くなれば、豪雪。日がのぞいたかと思うと、日照りが続く。世界のバランスを取り戻すために、だれかが、聖地を取り戻すための戦いに挑まなければならない。そう結論が出た。

「数々の猛者が挑戦したにも関わらず、この半年、まともな成果は出ておらず、こう着状態が続いたまま。もちろん、私たち魔術師も軍に率いられて、砦を目指した。しかし、今まで一度も攻略できていない」

「それで、俺たちが呼び出された、と。同じ異世界からの存在なら、同じ異世界の悪魔と対抗できるかも、と考えたわけだな」

 フルタクはうなづいた。

「でも、俺たちがいる間は、この世界のバランスとやらは、ますます乱れる一方なんじゃないか?」

「今のところ、何も影響はないが、まあ、時間が惜しいとは、そういうことだ。したがって、私たちとしては、あなた方をさっさとこの世界から追い出したい本音もないわけじゃない」

「なるほど」

 理想は共倒れ、ということ。手の内をどこまで明かせば、誠実なのかよくわからなくなる展開だ。その代わり、結論は至極シンプルだった。

「悪魔を倒し、そこにあるゲートでもとの世界に戻る」

「ついでに生首も忘れずに、ね♪」

 吊るされた巫女が、ちゃっかり付け加えた。


「で、どう思う?」

「無茶だろ。どう考えても」とフゥ。

「そうだよなぁ」

 俺たち4人は、席を外して、話し合うことにした。

 普通、突然、こんなバランスの悪いRPGのプレイをお願いされても、やはり、困ると思うんだ。

 第一、これまでの人生、悪魔を倒したことなど、一度の経験もない。というか人生のうちに悪魔と戦った人の話などそう聞けるもんじゃない。現実味がない、というか。

「でも、帰るには、それしかないんだろう?」

「今のところ、一つの可能性だが」

 ロリババアとか変質者とか小鬼が示した信憑性のない可能性だが。

 考える時間が欲しい。そう思ったときだった。

「ところで、兄さん?」

 ミラーが、神妙な顔をして見る。「私、魔法が使える気がする」

「は?」

 3人の頭をトンボが飛ぶ。

 ここは、本当に異世界らしいし、実際、魔術師を自称する老人も、小屋の中で俺たちを待っている。小鬼もいたし、俺たちを召喚した巫女もいた。可能性はゼロではない。

「あのフルタクに教えてもらうことはできないかしら?」

「ずいぶん、いきなりだな」

「ゲームにおいて、クエストを完了させるには、経験値を稼いでレベルアップするのはよくある話だし、この世界の常識についても学ぶ必要がある。もしかすると、他のみんなにも、経験値に応じた、別のアビリティが隠されていてもおかしくはないわ」

「まぁ、RPGの理屈でいうと、十分考えられる話だな」

「そう、これはゲームよ。そう思うようにしましょう。そう考えないと、この事態を乗り越えるのは難しいと思う」

 妹にしては、賢明な判断だった。この世界に合わせて、自分たちの固定観念を変える。思えば、何かしらのパラダイムシフトがなくては、この世界観の違いは乗り越えられない。

「私、やるわ。1ヶ月、時間をちょうだい」

 ミラーはそう宣言した。

はじめまして。はるのぱせりです。放課後の異世界旅行第1章を読んでいただきありがとうございます。

この物語の発端は中学1年生の頃、執筆した作品。それを4年ほど前に加筆したものになります。もともとがTRPGのゲームシナリオとして、宿題の合間をぬって書いたものです。

日の目をみるきっかけになったのは、先ごろのステイホーム。安価で楽しい娯楽を、と家族にこの物語を読みきかせしたところ、なかなかの好評。ならば、と調子に乗って、友人に公開して、ホームページを作り、と発展していきました。


大人になっての習作としての意味も強いので、みなさん、温かい目でみまもっていただいたら嬉しいです。

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