第19話 決戦(中)
やるしかない!
俺は、グリフォンから、一気に、空中に躍り出た。
ドラゴンの背中目掛けて、とびかかる。
トワイライト=ブレードを大きく振り抜き、その反動でバランスをとった。
十分、意表をつくことができた。
ドラゴンの背に乗り移ることに成功したのだ。
2体のドラゴンは、おそらく、つがいだろう、と判断していた。
だから、、、お互いを攻撃しあうことはしない。
結論から言うと、当たっていた。
背中から、ドラゴンの背にトワイライト=ブレードを突きつける。
必死で、振り落とそうとするドラゴンは、急旋回や急降下を試みる。
もちろん、俺も必死だ。
この地上30メートルからの落下で大丈夫なはずがない。
グリフォンの上から、リリィが何かの力を集めている。
ビーストマスターとしての、支配力を高めているのだろう、と推測する。
次の瞬間、2匹のドラゴンの動きが止まった。
鞭を一閃して音を鳴らす。
リリィがビーストマスターの力を使うときの、いつもの行動だ。
「ドラゴンよ。聞け」
リリィが呼びかける。「我が名は『漆黒の翼』。交渉しようじゃないか」
『・・・ほぉ、面白い』
初めて、ドラゴンの声を聞いた。やはり、知能が高い。
「今、お前たちの背中に突き立てられている剣は、オリハルコンのブレードだ。
ーー無益な殺生はしたくない。ここは引いてほしい」
リリィが、支配力を帯びた声で、呼びかけた。
説得がうまくいくかどうか。
しばらく、間があった。
「そこまでだ」
ドラゴンの正面から、一人の男の声がした。「この場所がお前たちの墓標となる」
「・・・モンリー!」
宙を飛んでいるのは、7宝具のモンリーだった。
俺は、ドラゴンの背中から離れて、もう一度、グリフォンの背に飛びのる。
アクロバットの連続で、まったく、生きた心地がしない。
「宝具ハルビンの靴・・・!」
リリィがぼそりとつぶやく。「モンリーが飛べるのは、その飛翔用の宝具のおかげだ」
空中戦は、明らかに不利だ。
「リリィ、俺をおろしてくれ!」
「わかった」
リリィが、いったんグリフォンを砦に向かって急旋回させる。
砦の屋根の一つに、俺は飛び移り、体制を立て直した。
「これで3度目。もう終わりにしようじゃないか」
「奇遇だな、俺も同じことを考えてたよ」
嫌味を返し、トワイライト=ブレードを構えた。
「マグマ=パーンチッ!」
「だから、そこでマグマは関係ないだろうがっ!」
フゥは、ヤマキンとの距離をおきながら、ナイフと素早い体躯で攻撃を交わしていた。
「雷撃よ!」
ミラーの呪文の詠唱が完了する。
指に集めた魔力が、一気に収束し、電撃を飛ぶ。
はたして、ヤマキンに、直撃した、、、はずなのだが。
「我が筋肉は不死身」
気持ち悪い踊りをクネクネと繰り広げるヤマキン。「やはり、小娘の魔法は効かぬわ」
さっきから、こういった展開を繰り返していたのだ。
ミラーの魔法も、フゥのナイフも、ヤマキンの筋肉には、一切、傷をつけることすらできていない。
「マグマ=アターック!」
かわした拳が、再び、砦の地面に穴をあける。
今度は、地響きが轟いた。
「どうする?!」「私が知りたいわよ!」
周囲には、数百人もの兵士が集まり始めていた。
時間が稼がれてしまっている。
ヤマキンとの戦いが長引けば長引くほど、砦への侵入は難しくなる一方である。
そもそも、このあと撤退すら可能なのかどうか。
「次の曲で勝負する!」
フゥが、魔笛を構え、呼吸を整える。
「どの曲を使う気?」
「ウンディーネの舞踏会、だ」
水の精霊ウンディーネ召喚。
さきほどの風の精霊シルフの召喚と同様、精霊の召喚術になる。
今度は、ミラーが風の魔曲の発現まで時間を稼がなくては、いけない。
「・・・わかった、じゃあ、いくわよ!」
印を結び、ヤマキンが砕いた地面に手のひらを乗せる。
「ゴーレムよ!」
イメージをしっかり練って、呪文を省略する。
砕かれた穴がさらに大きく深く広がって、その破片がヤマキンと同じ大きさの岩人形を作り出した。
「あの錬金術師を倒せ!」
ゴーレムが、ヤマキンに向かう。
簡単に倒せるとは思っていない、ミラーの狙いは他にある。
ひとつは時間稼ぎ、だ。
もう一体!
ゴーレムがさらにもう一体、地面を削って、作られる。
2体のゴーレムが構成された。
魔笛が最初のフレーズを鳴らした。
ハラーラがフゥに伝授した魔笛の曲は、すべてミラーは知っている。その場に、彼女はいたのだから。フゥの練習風景も、ずっと見守った。
だから、わかる。
今回の魔曲は、発現が少し「シルフのささやき」よりも遅い。
「だからどうしたっ!」
ゴーレムを2体、瞬く間に砕くヤマキン。
ミラーは、すでに次の呪文の詠唱にはいっている。
しかし、そのとき、ようやく魔曲が発現した。
周囲から現れた、美しい水の精霊たちが、宙を舞う。
「!」
ヤマキンが一瞬ひるんだのが見えた。
「・・・よしっ」
その水の精霊に、魔力を乗せる!
「させるか!」
ヤマキンが、精霊に対してではなく、魔術を使おうとしている術者・・・つまり、ミラーとフゥに対して、拳を振り下ろしたのである。
魔術に集中していた2人は、砕けた足元に足をとられて、転倒した。
空いた地面の穴の底へ落ちるフゥとミラー。
ヤマキンが穴の淵から、2人を見下ろしていた。
「なぜ、先生がこんなところに、、、?」
ケンザンの姿にルークは驚いていた。
ルークとローザは、闇の預言者ケンザンと向かい合う。
「自分たちだけが、異世界へ渡ったと思ってたのか?」
不敵に笑うその数学教師は、もはや、生徒を思う教師の笑顔ではない。
「今の私は、闇の預言者であり、軍師ケンザンだ」
ケンザンがルークを見渡す。「この世界のお前が『長友』ではないように」
途中、ケンザンが遠い目をして、すぐに2人に視線を戻した。
「松尾と風野も、この世界に来たのか。しかし、モンリーとヤマキンにつかまった今、あいつらにも、未来はない」
ルークと数学教師が話している間に、ローザは行動を起こしていた。
右手で護符を引き抜き、不可視の刃を手元に準備する。
すきがあれば、相手を戦闘不能にするために。
「私は、お前たちが、この世界に来る前に、このマークーシーのゲートで、とある召喚士に呼ばれたのだ。それ以来、世界を移動して、異世界の存在を呼び込み続けている」
「!」
ルークがハッとする。
「知りたいのだろう? 私たちがマークーシーのゲートを開き続けている理由を」
ケンザンは、ニヤリと笑った。
「異世界の人間は、この世界に渡る時に、力を得る。結果、異世界の人間は、この世界では、常人離れた存在となる。あたかも、神や悪魔のような存在に」
心当たりはある。ルークとローザは沈黙する。
「異世界の存在を集めることによって、この世界の魔力のバランスは崩れる。それが、マクシリア王国で起きている天変地異の正体だ」
「一つ聞かせてもらおう」
ローザの手元には、いつでも不可視の刃を放つ準備ができている。そのうえで、ケンザンに問い詰めた。「なんのために、そんなことを?」
「神を作り続けて、この世界を理想郷に変える。それが、私たちの目的だ」
はじめまして。はるのぱせりです。放課後の異世界旅行第1章を読んでいただきありがとうございます。
この物語の発端は中学1年生の頃、執筆した作品。それを4年ほど前に加筆したものになります。もともとがTRPGのゲームシナリオとして、宿題の合間をぬって書いたものです。
日の目をみるきっかけになったのは、先ごろのステイホーム。安価で楽しい娯楽を、と家族にこの物語を読みきかせしたところ、なかなかの好評。ならば、と調子に乗って、友人に公開して、ホームページを作り、と発展していきました。
大人になっての習作としての意味も強いので、みなさん、温かい目でみまもっていただいたら嬉しいです。




