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第14話 今の顔

 リリィの使役するロック鳥は、眼下のマークーシーを超えて、最前線を目指していた。

 森は果てしなく続いている。

 本来ならば、この森林を歩いて乗り越えるつもりだったことを考えると、途中でリリィに出会えたことが、限りない幸運だったことがわかる。

 中継地点の到着は、今日、夕暮れの予定。

 ハラーラが連絡をとってくれた。軍の担当者と落ち合える手筈は進んでいる。

 聖地マークーシーは、マクシリア王国の最西端。

 もともとは、夕日を一番最後に望む場所として、信仰のあつい聖地だった。

 1年前までは。

 そう、聖戦が始まって軽く半年以上、膠着状態が過ぎていた。

 戦況としては、マクシリア王国がやや優勢だと言われているが、それは悪魔側が周囲へ侵攻する意思がないためであり、戦いそのもののアドバンテージはむしろ悪魔側の方に部がある。さらにいえば、なんのための聖地の占拠なのか、それすらマクシリア王国は把握していない。ただ、推測でいうのなら、「ゲート」の存在が要因の一つではないのか、ということだけだ。


 夕暮れ時、果たして中継地についた。

 ロック鳥をキャンプから離れた空き地に放つリリィ。

「よくぞ、参られました。勇者さま」

 出迎えてくれたのは、少尉級の男性士官だ。ほか、2、3人の兵士がつきそっている。

「ありがとうございます」

 礼をねぎらい、俺たちのために用意された幕営地に向かった。

 話では、ここで一泊することになっている。明日は、陸路で前線へ。

「勇者さま。お話があります。夕食後、参りますので、ご準備をよろしくお願いします」

 士官が言うのを、「わかりました」と答える俺。

「それから、皆様の装備を一部用意しましたので、ご準備ください」

 男性にはプレートアーマーと鎖かたびら 女性には魔法効果を付帯したレザーアーマーが準備されていた。体に合わせてみる。ずっしりと鉄と命の重みがあった。


 夜。

 戦況の報告に、士官が来た。

 カンテラの光のもと、マークーシー森の戦況図が開かれる。

 西端の聖地は、中継地から徒歩で7日の距離にある。

 いくつか戦闘が展開されている12の戦局のうち、一つを士官が指さした。

 士官が指さした最前線は、中継地から西へ3日のエイトマイル谷。

「おそらく、半妖の策士もこの付近で戦っていると思われます」と指したのは、とある川辺。

 ロックツリー川と、地図には記されている。

「最終的に、みなさんには、彼と合流してもらうことになるでしょう」


 カンテラが消えた。今夜は一際、風が強い。

 一行は2つのテントに分かれることになった。

 眠れない。寝袋を引き寄せながら、俺は何度も頭で枕を叩いていた。

 食事を済ませた、静かな夜のはずだった。

 

 紅い光と敵襲を知らせるラッパが突然、響いた。

「・・・起きろ!奇襲だ!」

 リリィが俺たちのテントの中に飛び込む。

「なんだって?!」

 眠っていた他の4人も一気に飛び起きた様子だ。とっさに、武器を引き寄せて、テントを飛び出す。


 襲ってきたのは、人間の背丈ほどのダガーで武装したゴブリンたち。

 トワイライト=ブレードを引き抜く。

 今夜は闇夜。空にはない月のように、ひときわ刃が輝きを帯びている。

 その光に一瞬、意識が引き込まれる。

 300年ぶりに目覚めたような冷たい感覚が背中を流れた。

「ここにいたか」

 ゴブリン数匹を連れた一人の魔術師が、テントの外で待ち構えていた。

「・・・モンリー」

 そうか。俺は理解する。

 転移の指輪を使って、奇襲してきたのだ。つまり、今回の標的は、、、俺たち5人。

 モンリーが鋭い眼光で、こちらを見る。使い魔は、ゴブリンだけではないようだ。オークや巨人も多数いるらしい。

 パシッ。パシッ。と鞭の音。ゴブリンたちのコントロールが一部、外れる。

「・・・ちっ、敵の数が多い」リリィが俺の助太刀をしてくれていた。「一匹、一匹コントロールを外していたらキリがない」

「任せろ」

 トワイライト=ブレードの初陣。

 相手にとって不足なし。では。行こうか。相棒。

 意識を集め。力をため。一気に振り抜き。刃風を開放する。

 衝撃波がモンリーを襲った。

 うめきが聞こえる。その隙に、一気に間合いを詰める。

 ゴブリンが俺の前に3匹構えるが、悩まず、剣戟を水平に薙ぐ。

 やすやすとゴブリンが四散、そして、瘴気も共に散る。

「オルハリコンの剣か!」とモンリー。

 今更気がついても、もう遅い。

 俺は、ブレードを持ったまま、頭上に掲げる。刹那、剣に光が宿った。

 魔法剣の一閃が、闇夜を一気に切り裂いた。


 オルハリコンを扱うのは初めてだが、実際扱ってみて、驚く。重すぎもせず、軽すぎもせず、かといって疲れない。

「結局、また、逃げられた」

 気がつくと、周囲には人が集まっている。見つめる瞳は、畏敬と畏怖の念。若干、恐怖が混じっていたかもしれない。

 聖典によると、パーシラの生まれ変わりの一人である、騎士「ライシュール」。

 その騎士が得意とした魔法剣技、それがこの技の名前の由来でもある。

 一度、シルベスタスでギルドから受けて、技のイメージは掴んでいた。でも、何度、練習しても出せなかったこの技を、ようやく今、実現することができたのだ。


 俺を仲間たちが出迎える。

 神獣を抱きしめたままの妹は、俯いたまま、無口だ。

 しかし、沈黙。・・・そして。


「兄さん、・・・今、自分がどんな顔してるのか、わかってる?」

 かすかに絞り出したその声は、怒りと畏れに満ちていた。

はじめまして。はるのぱせりです。放課後の異世界旅行第1章を読んでいただきありがとうございます。

この物語の発端は中学1年生の頃、執筆した作品。それを4年ほど前に加筆したものになります。もともとがTRPGのゲームシナリオとして、宿題の合間をぬって書いたものです。

日の目をみるきっかけになったのは、先ごろのステイホーム。安価で楽しい娯楽を、と家族にこの物語を読みきかせしたところ、なかなかの好評。ならば、と調子に乗って、友人に公開して、ホームページを作り、と発展していきました。


大人になっての習作としての意味も強いので、みなさん、温かい目でみまもっていただいたら嬉しいです。

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