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第13話 ロリババアとの再会

 結局、ハラーラがフルタクに連絡をしてくれることになった。本来、こんなことで三大魔術師が話し合いを開くことはないのだが、それはそれ。「5英雄の伝説」の関係者としての特権だと思うことにした。

 水晶球でフルタクとしばらく通信したのち、ハラーラが俺たちに話しかけた。

「衣服については、ルピアがこの街まで持ってきてくれるそうですよ。今度は彼女を簀巻きにしないでくださいね」と、ハラーラが苦笑いする。

 無論、彼女が王妃様だとか、この世界では偉大な召喚士の一人だと知ってからは、気軽に彼女をからかえなくなっていたのだが。

 そんなわけで、さらに2週間は、アリアステに滞在することになった。


 俺は結局、リリィの申し出を受けることにした。

 最後の3つ目の条件についての交渉が多少大変だったものの、代わりに追加のお願いを聞いて欲しいとのこと。

「悪魔との対決に、ぜひ同行させてほしい」とリリィ。

 相談すると、ハラーラは首を笑顔で縦に振った。

 聖典の伝承が気になるのだが、それが敵に筒抜けだった事を考えると、予言の裏をかかなければいけないだろうと判断した。つまり、これからは、聖典の中の「5英雄の伝説」に載っていない行動も重ねていく。

 そして、オリハルコンのブレード。

 組織内でかなり重要なやりとりがあったらしい。しかも、聞けば、歴史に何度か登場するくらい神具の扱いを受けた剣なのだとか。リリィの元に、今朝、そのひとふりが届けられた。

「トワイライト=ブレード」

 黄昏の剣、という恐れ多い名前が、このブレードの名前。

「なんか、逢魔時に使ったら、逆に悪魔を召喚しそうな剣なんだが」

「大丈夫。魔法の付帯効果はもうほとんど消えている。ここ数百年は、誰も触れた人はいないそうだ」

 渡されたさやから、剣を引き抜いてみる。刀身はまるで鏡のように、恐ろしくピカピカに磨かれている。素振りをしてみると、驚くほど、軽い。バランスがよくて、手になじむ。これは確かに気に入った。

「もともとのブレードは、私が預かろう。ルピアを通じて、フルタクへ返しておく」

 フルタクから預かった今の剣も銘がついた名匠の剣だったらしいが。

「この世界には「猫に小判」のことわざはないのか?」

「うみゃあ」なぜか神獣が自慢げに鳴き声を上げた。


 さて、一方で、しばらくゲームセンターへ通い詰めのルークはというと。

 彼が最近はまっているのは、俺たちの世界でいう、将棋やチェスの類らしい。

 俺も1回ついて行ったのだが、彼の通うゲームセンターとやらは、将棋や将棋のサロンといえる場所だった。

「このゲームってすごいんだー。まるでシュミレーション並みに、実戦を再現しているんだー」

 とは、ルークの談。

 異様な熱気に包まれている場所だった。

 いざゲームが始まると、一気にそれがヒートアップする。

 ルークも10数人のギャラリー背負っているし、対戦相手もそれなりの熟練者。

 3時間の真剣勝負の対戦が行われることもあるらしい。

 が、ゲームを覚えて、わずか半月で、そのサロンでの最強の人を負かしてしまった。

 なんでも今では、逆にお金をもらってゲームを指導しているとか。

 彼は今、ゲームセンターにおいて、『冥王』の二つ名で呼ばれている。


「やっほー。みんな元気にしている〜?」

 果たして2週間後、軽いノリのルピアがアリアステの宿にやってきた。やっぱり簀巻きにしたい。そういう感想を持ったのは、俺だけだろうか?

「ほい。頼まれものをもってきたわよー。少しは感謝しなさい」

 巾着袋だ。大きさにして、上履きをいれるシューズケースくらいの大きさだろうか。

「四次元ポケットよ♪」

「・・・ちがうだろ!」

 藤子不二◯氏も恐れない言動に、思わず、ツッコミを入れる俺。

「ルピアさん。旅の道中はいかがでしたか?」

 ハラーラがルピアを労いながら、お茶をいれる。

 ルピアが椅子に腰を下ろす。

「天候の悪化は続いているわ。魔力のバランスは、相変わらずといったところかしら。街の閉塞感は進んでいるわね。食料の備蓄は一定量あるとはいえ、今年中に決着つけないと」

 巾着袋を開けると、俺たちの学生服と所持品が入っていた。袋が小さいのに、かなりの荷物が収まっているのは、何かの魔法がかけてあるのだろう。

「ルピア。さっそく魔曲の譜面がみたい」フゥが、真剣な表情で申し入れる。

 ハラーラが魔術師のフルタクを呼ぶのではなく、召喚士のルピアを呼んだのは、こういった理由からだった。ルピアが渡したのは、一冊の本。中身を開くと、びっしりと記号と罫線がかかれている。五線譜を期待していた俺は、意表をつかれてしまった。譜面のルールだって、世界が違えば、書き方も変わるということか。だが、それを見た瞬間、フゥが目を輝かせていた。

「・・・読める」

「そりゃそうでしょ。前世のあなたのオリジナル曲を集めた本よ」

「前世?」

「そうよ。『風の転生者ファラウス』のね」

 5英雄の一人。風のファラウスの記載は、聖典に確かにある。とミラーが捕捉する。


 5英雄は以下の5人。

 「光の転生者パーシラ」「闇の転生者ローザ」 「風の転生者ファラウス」

 「水の転生者ミラー」 「大地の転生者マーノ」。


「このうち、兄さんはシルベスタスで認められたし、私自身は名前が同じだし。これが旅の仲間を示すのはわかってたけど・・・まさか、フゥがファラウスねぇ」

 ミラーがぼそりと呟く。「最も避けてほしかった話だわ」

「どうして?」

「私は認めないから」妹がなぜか怒っている。

「聖典によると」とルピアが俺とルークに耳打ちする「ミラーとファラウスは許嫁同士。近い未来、結婚することになってるの」

 同級生が義弟? 小姑として、せいぜい、仲良くつきあうことにしよう。


 その夜は、ルークが返ってくるのを見計らって、みんなで酒場に繰り出すことにした。


 グビグビと、一気に発泡酒を飲み干すルピア。

「この一杯がたまらない!」

「巫女だろ!お前!」

 ハラーラ以外のメンバーが、ルピアに鋭くツッコミを入れる。

「あらー。それは偏見ね。神様に使えていても、旦那もいるし、子供もいるわよ。神殿のさがりもののお神酒もしっかりいただくしね。まして、これは神の転生者たるあなたに注がれたお酒だもの。巫女が飲むのは当然でしょ」

 確かに、俺がお酌をした。でも、こういう解釈で、本当にいいのか?

 追加で、今、気づいたことがひとつ。

「しかも、子供もいるのか?!」

「5歳になるわね。今頃、バロバッサの森で神獣と寝てる頃かしら」

 このロリババアのあらゆる規格外設定、誰か本当に止めてくれ。

「あなたたちだって、未成年が酒場にきて本当にいいの?」

 確かに。今まで、こういう場所は、避けてきた。もっとも、フゥとルークは前々から、宿を抜け出していたらしいが。

「いいじゃないか。今日くらいは無礼講だ」

 リリィとミラーの片手には、果実酒のグラス、その他のメンバーは、ジョッキ入りの発泡酒だ。すでに、みんな2杯目に入っている。

 今後の進路は、飲む前にこの2週間でしっかりと話し合った。

 ロック鳥でいよいよ、マークーシー聖戦の最前線に乗り込むのだ。


「現地の責任者に繋いでおきます。この護符を身につけておいてください」

 ハラーラが5つほど、アミュレットを差し出した。「きっとあなたたちに加護が与えられることでしょう。そして・・・白虎の転生体のことも、よろしくお願いします」

 神獣ユズポンを連れてきたのは、このためだったのだ。

「神獣を聖地に連れていけば、異界のゲートが開きます。そこで何が起きるのか、実は誰にもわからないのです」

 声を潜めていう真実。ハラーラもルピアも真剣な顔をしている。フルタクは、悪魔を追い返せ、と言った。それすらも、フルタク個人の推論でしかない。

 この国の最高の賢者たちが、口合わせて「わからない」という事実。

 しかも、ゲートが開いた時が、俺たちにとっての本当の勝負なのだ。

 お酒がはいっていなければ、とてもできなかった話だった。


「勇者たちに、栄光あれ!」

 ハラーラの祝福が、そしてルピアの祝福が、この世界からの祝福が。

 酒場の中にこだました。

はじめまして。はるのぱせりです。放課後の異世界旅行第1章を読んでいただきありがとうございます。

この物語の発端は中学1年生の頃、執筆した作品。それを4年ほど前に加筆したものになります。もともとがTRPGのゲームシナリオとして、宿題の合間をぬって書いたものです。

日の目をみるきっかけになったのは、先ごろのステイホーム。安価で楽しい娯楽を、と家族にこの物語を読みきかせしたところ、なかなかの好評。ならば、と調子に乗って、友人に公開して、ホームページを作り、と発展していきました。


大人になっての習作としての意味も強いので、みなさん、温かい目でみまもっていただいたら嬉しいです。

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