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第10話 「癒しの手」との邂逅

「大丈夫か?」

 血糊に濡れた俺を出迎えたのは、少女だった。

 カサンドラ=リリィ!

 あらためて、少女の名を呼ぶ。

 どうやって?関所を抜けてきた。と言葉を飲んだ。

 まさか、脱獄?

「冗談じゃない。勝手に犯罪者にするな」

 じゃあ、どうやって?

「身元保証人を呼んだ」

 気づけば、となりに一人の老人がいた。

 ・・・?

 老人が歩み寄って、そっと俺の額に手を当てる。「なるほど。そうですか」

 優しいそれでいて、懐かしい匂いがした。

 リリィも、周囲を見渡す。

 フゥも、ルークも、ミラーも。もう今は、誰もここにいない。

「落ち着きなさい」

 心の中に染み入る声。「まだ時間は残されています」

 感情が沸いた。

 堰を切ったように、涙が溢れた。


 気がついた時、俺は、宿に戻っていた。

「・・・起きたな」

 枕元には、リリィがいた。「安心しろ、今、手を打ったところだ」

「みんなは生きている。それだけはわかっている」

 リリィはいう。「さてはお前・・・魔物を斬ったろう?」

 凄惨な風景が目の前に広がりそうになる。リリィがすかさず、俺の頭を抱きしめた。

「考えるな、また『傷』が広がる」

 甘い髪の香りがそっと俺を包み込んだ。再び安心感に守られる。

「香を炊いている。許してくれ、この方法しか思いつかなかった」

 リリィがすまなそうに俺の頭を、枕におろした。

 扉が開いた。老人が立っていた。

「なんとか間に合いましたね」

 優しい声。

「リリィが使ったのは、時忘れの香ですよ。ーーそして、これが気付け薬」

 老人が俺の鼻にそっとハンカチを当てる。

 きつい獣の匂いが鼻をついた。思わず、肺の奥から、咳がこぼれた

「荒療治でしたが、正気は取り戻せたようですね」

 老人はにこやかに、俺の手を握る。

「何を嗅がせた?!」

「教えませんよ。猛毒も解毒する秘伝の配合ですから」

 老人が笑う。そう瞳の奥が微笑んでいる。安心感のある響きだった。

「この老人は?」

 咳を必死で我慢しながら、俺はリリィに尋ねる。

「・・・お前たちも探していたのだろう?」

 現実に意識がもどった。つまり、この人が、王国の三大魔術師の一人。


「いかにも。わたしが"癒しの手"ハラーラです」


 かいつまんで、経緯を聞いた。

 結論から言うと、リリィは犯罪者ではなかった。

 手形は、サソリに出会った際に、盗賊に奪われていたのだ。

 仕方がないから、身元保証人として、長老を呼ぶことにしたとか。

 アリアステを離れていた長老を呼び寄せるのに、丸1日。

 なんとか、おいついた貧民街で、血糊で真っ赤にそまった俺を見つけたらしい。

 

 いくつか、時間の記憶につじつまが合わないので、頭をひねる。

「精神攻撃をくらったな」

 と言われた。「魔物の瘴気にあてられたのだ。斬った直後に、その血を浴びたから」

 リリィが憎々しげに答える。「ビーストマスターがまれに使う卑怯な方法だ」

 魔物使いであるビーストマスターは、こうやって魔物を使い捨てすることがあるという。

 つまり、あのとき、俺は巨人の返り血を浴びて、正気を失ったらしい。

 振り返り、悔しさが滲み出る。

「みんなを助けたい」

 ハラーラとリリィがにっこりと微笑んだ。

「もちろん。明日の早朝、行動を起こすが・・・来るのだろう?」


 早朝、リリィとハラーラに連れられて、町外れに向かう。

 そこに、一羽のロック鳥が地面に降りて待っていた。

 でかい。

 初めて見る、その巨体に俺は思わず声をもらす。

 普通自動車をその背に乗せてもあまるだろう。

「バスバラのロック鳥だ。千里の距離を3日で飛ぶ」

 うながされて、鳥の背に乗る。そして、ハラーラ、リリィが続く。

 でも、誰が、ロック鳥を使役するのだろう?

 リリィが、にこりと俺を振り返った。

「まかせろ。『ビーストマスター 漆黒の翼』。それが、今の私の通り名だ」

 リリィが口元に指を当てる。

 口笛が鳴った。

 ロック鳥が大きく羽ばたき、ふわりと体が宙に浮かぶ不自然な感覚を味わった。


「シン。今回、あなたを狙った魔物使いは、悪魔側の手のものです」

 ハラーラが言葉をついだ。

 つまり、とうとう現れた、、、本物の敵。

「残念ながら、5英雄の伝説は、相手側にも筒抜けでした」

 とハラーラが説明する

「動いたグループは、秘密結社『黒い百合』。フルタクもルピアも目を光らせてはいましたが、一手先を読まれてました。なぜなら、この世界に存在する聖典は一つではありませんから」

 説明は続く。

「我々は、水面下で、未来を読みあって戦っています。

 バスバラで待つのはモンリー。7種の宝具を使いこなす魔術師です」


 足元に集落が見えた。

「あれがバスバラだ。今のうちに、行こう」

 リリィがロック鳥を操る。俺たちは、村へ降下を始めたのだった。

はじめまして。はるのぱせりです。放課後の異世界旅行第1章を読んでいただきありがとうございます。

この物語の発端は中学1年生の頃、執筆した作品。それを4年ほど前に加筆したものになります。もともとがTRPGのゲームシナリオとして、宿題の合間をぬって書いたものです。

日の目をみるきっかけになったのは、先ごろのステイホーム。安価で楽しい娯楽を、と家族にこの物語を読みきかせしたところ、なかなかの好評。ならば、と調子に乗って、友人に公開して、ホームページを作り、と発展していきました。


大人になっての習作としての意味も強いので、みなさん、温かい目でみまもっていただいたら嬉しいです。

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