ションベール伯爵、幼なじみであるシーコ姫の罠に何度もひっかかる
さすがに恋愛ジャンルにはしなかった。今回ばかりは怒られても言い返せないから。
ションベール伯爵は3人兄弟の長男である。次男がウンチョール、三男がキンチョールだ。彼らには1つ、大きな共通点がある。
それは、シーコ姫に好意を寄せているということ。
その中でも長男のションベールはシーコ姫とは同い年で幼なじみであった。小さな頃から一緒に遊んだりご飯食べたりお風呂に入ったり寝たりエッチしたり、やりたい放題してきた。
しかし当然、弟たちはそれを知らない。シーコ姫の父親であるゲベリン王も知らない。誰も知らない2人だけの秘密である。
今日もいつものように何も知らない弟たちが姫に必死にアプローチをしに行く。ウンチョールは食物繊維を、キンチョールは殺虫剤を持って城へ入った。
「まぁ2人ともありがとう! ありがたく頂戴するわね!」
「姫様に貰っていただけるなんて、この食物繊維の塊もさぞ幸福でしょう!」
「この殺虫剤もより一層力を発揮出来ると思います!」
殺虫剤を1缶撒いた部屋で、まん丸に圧縮された食物繊維で3人でキャッチボールをしながらシーコ姫が言った。
「今日はションベールは来ないの?」
少し寂しそうな表情をしている。
「兄様は昨日猛獣用の罠に引っかかって左足がちぎれてしまったので、明日までは安静にするとのことです」
「んまぁ!」
シーコ姫は驚いたような顔で言った。猛獣用の罠を仕掛けたのは何を隠そうこのシーコ姫なのだ。最近獰猛なモンスターが門番をやっつけて城に侵入してくるので仕掛けていたのだ。
「まさがあの足がションベールのものだったなんて⋯⋯なんで引っかかったのかしら⋯⋯」
シーコ姫は頭を抱えている。猛獣用の罠は基本的に人間が捕まることはないのだ。あからさまな大きさのギザギザの刃物が目立っているし、その真ん中には強い臭いを放つ腐敗した生肉を置いていた。しかも、罠の中に入るだけでは作動せず、この腐った生肉を食べて初めて罠が閉まるのだ。
「腐った生肉を食べた以外考えられないわね⋯⋯フグホ!」
考え事をしていたせいで左頬に食物繊維玉が直撃してしまった。薄れゆく意識の中で姫は考えていた。
(ションベールってバカだったんだ⋯⋯いや、3人ともバカか⋯⋯)
それからシーコ姫は丸3日眠っていた。
「あれ、ここは⋯⋯」
「姫! 目覚めたのですね!」
レトルトカレーを持ったウンチョールが涙を溜めながら言った。
「良かった! 本当に良かった⋯⋯!」
蚊取り線香を咥えたキンチョールが号泣しながら言った。このまま姫が死んでしまったら食物繊維玉を投げたキンチョールは処刑されてしまうところだったからだ。丸3日意識を失っただけで済んだので、キンチョールは皮膚全剥ぎの刑くらいで勘弁してもらえるだろう。
「え、3日も!? ⋯⋯じゃあ、そろそろションベールも元気になったかしら?」
「いえ、それが⋯⋯」
「どうしたの?」
言葉に詰まるキンチョールの肩をポンと叩き、ウンチョールが続けた?
「実は昨日兄様もここに来ていたんですが、帰りに大火傷を負ってしまいまして⋯⋯」
「火傷⋯⋯?」
「はい、何でも城では玉座の近くで燃え盛る兄様が目撃されたとかで。私達も『あれ、兄様遅いな』とは思っていたんですけど、まさかあんな事になっているとは」
シーコ姫は頭を抱えた。玉座の真上に火炎放射器の罠を設置したのは自分だったからだ。しかし、これは王の命を狙う鳥型モンスター用の罠であり、上に吊るされているミミズを3匹以上食べないと作動しないようになっている。つまり⋯⋯
「あいつミミズ食ったのか!」
「えっ?」
突然のミミズ食発言に驚きを隠せない様子のキンチョール。
「兄様がミミズを食べたということですか?」
貴族が一生のうちで1度もしないであろう質問をするウンチョール。
「あ、いや、ごめんなさい、ちょっと具合が悪くて変なことを言ってしまいましたわ」
「なんだ、ビックリしましたよ」
自分のせいでションベールが怪我をしたことを隠し通すつもりのシーコ姫。彼女のせいといえばそうかもしれないが、普通に考えれば全部ションベールが悪いだろう。
その晩、ションベールは死んでしまった。ウンチョールとキンチョールはライバルが減ったと大喜びし、それからも姫のもとへ足繁く通った。
結局シーコ姫は隣町に住むウンコというイケメンな青年と結婚したそうな。
ションベール伯爵1回も出てこなかったね。
ちなみに伯爵というのはションベールたちの苗字なので、爵位とかそういうのは関係ありません。分かんないから。貴族って言ってるのは多分自称だと思います。アイツらがヤバいのは誰が見ても分かるんで、冗談半分に見ておきましょう。