サタン
キーファによる突然の裏切り。
ミカエル騎士団に一体何が起こっているのか?
またサタン達の目的とは?
「ローズっ!」
近くにいた俺やハイルが攻撃するより先に50メートル以上離れていたフリードが一瞬でキーファとゼロ距離まで間合いを詰めた。
『スパンッ。』
腰を低く下して振り上げた刃はキーファの肩より先の腕を丸ごと切り裂いた。
「へえ、噂通りの強さだね。」
キーファから発されたその声は、キーファのものではなかった。
甲高い女性の声。一体どういう事なんだ。彼は、キーファ参謀長じゃない?
「お前、一体何者だ?」
キーファだと思われたその身体は殻を纏っていたかのように外角がぽろぽろと崩れ落ちた。
背中からは漆黒の翼が現れ人間離れした長い肢体と、悪魔とも人間とも似つかないその造形は、ある種の美しさを感じた。
瞳は真っ黒で髪も真っ黒。ゆるくウエーブがかった髪の毛は女性らしさを強調して妖艶さを引き出していた。
女は翼を羽ばたかせて宙に浮かぶとこちらを見下し、腰まで伸びた髪をかき上げながら不敵な笑みを浮かべている。
「あら、ご存じないかしら?キーファ・ゴルドーよ。いつもあなた達の傍にいたでしょう。ふふふっ。あはははっ!!」
「本物のキーファ参謀長はどこだ。」
「うるさいわねぇ~。あたしがそうだって言ってんだろーが。」
そう言うと女は切られた腕を瞬時に再生して凄まじい速度でフリードに突っ込んできた。
両方の爪を真っすぐにたてながら。風圧で周りにいた俺やミアは吹き飛ばされた。
『ガキンッ!』
刃物が擦れあうような嫌な音がした。フリードは何とか女の攻撃を剣ですんでの所で受け止めた。
「ハイル!ローズを急いで避難させろ。道は覚えているかっ!?」
「はいっ!で、でも。」
「ローズを早くハキミさんの所へ連れていけっ!今ならまだ間に合うっ!お前の天馬ならっ!」
「分かりました……。ローズ……。お姉ちゃん……。あたしが絶対助けるから。」
ハイルはそう言うと身体に穴の開いたローズ隊長を担ぐと出口に向かって走り出した。
「流星っ!お前も今すぐ逃げろ!この悪魔もマルケル司祭も、お前が叶う相手ではない!」
フリードは依然、女とつば競り合いを続けている。
怪力のフリードと渡り合うなんて……。
無理だ……いくらフリードでも分が悪すぎる。マルケルの実力は分からないがあの女は危険だ。
ただでさえ疲弊しているフリードではこの二人相手には敵わない。
俺だって役に立ちたい。ここに来てからは、皆に助けられてばかりだ。
大事な仲間も失った。それに俺の知りたいことはきっと、この悪魔たちが知っている。
知るのは怖いが、そうしないといつまで経っても心のもやもやが残ったままだ!
「へっ!逃げてーとこだけどよ。俺もそこの悪魔に用があるんだよ!」
「な、流星!何を言っている!」
「あんたがあたしに用ですって?あははっ!笑える。」
「俺の知りて―ことの前に、てめーらにはまずはたっぷりお灸を据えてやらねーとな。」
「面白いねぇ~あんた。やっぱりそう言う奴じゃないと。あの人には選ばれるだけの事はあるわね。あははっ!」
「選ばれるだと?」
「おめーは黙ってろよ、ブス女っ!」
そう言うと女は自身を高速で回転させるとまるでドリルのようにしてフリードを抉りにかかった。
フリードはなんとか剣を当てて耐えている。
「くっ!」
「おいマルケルっ!月野流星を捕らえて連れて帰れっ!殺すんじゃねーぞっ!」
「ひっ!はいぃ!」
「月野流星っ!まずはあんたの力を証明して見せなぁ!あははっ!」
「流星っ!お前!」
「フリード!お前の説教は後で聞くとしてよー。まずはこいつらをサクッとやっちまおーぜっ!」
「……ふっ。お前に言われなくてもそうするつもりだっ!偉そうにっ!」
そう言うとフリードは足に力を込めて思い切り女を力任せに弾き飛ばした。
明後日の方向に飛ばされて制御ができない女は天井に勢いよく激突した。
フリードは大丈夫だ。一緒に修業してきた俺が、彼女の強さを一番良く分かってる。
俺は目の前の相手に集中しよう。ついでに目の前に見えるこの気持ち悪い悪魔の巣もぶっ壊してやる。
「おいマルケルさんよー。カレドニアの住民のてめーが、なんで悪魔の味方なんかしてんだよ!てめーのせいでどれだけの人が犠牲になったか分かってんのか!」
「う、うるさいっ!新参者のお前が、偉そうな口を利くんじゃないっ!」
「今この上には、今まで住んでたセインツの住民はもういないっ!全員悪魔に殺されて無残に死んでいったっ!あんたここの先生だったんだろう!心が痛まねーのかよ!」
「……この世界にある真理に気付かないまま。のうのうと生きてる貴様らに……おおよそ人の心のない貴様らに……人の心を侮辱する筋合いなんて何一つないっ!」
そう言うとマルケルは持っている杖から紫色の球体を3つ出した。
サッカーボールほどの3つの球体はそれぞれ意思を持っているかのように円運動をしている。
マルケルはそれらの球体を自在に操ると俺に向かって飛ばしてきた。
俺は剣を抜いてそれらを迎え撃つ準備をした。
10メートルまで近づくと突然運動の仕方を変えた。
それぞれ速度や方向を不規則に変えながら俺の周りを旋回している。
これに触れたらまずい。このままだと徐々に距離を詰められてしまう。
俺は地面に左手を当てると力を込めた。
「獄炎っ!!」
地面に押し当てた炎は俺の周りに渦を作り近くにいた紫色の球体を巻き込んだ。
攻撃を受けた球体は動きが明らかに鈍くなった。
チャンスだ!そう思った俺は一直線にマルケルの元に突っ込むと攻勢に出た。
「ひぃ、この……炎はっ!」
「あははっ!間違いないわっ!こんなに色濃く力を受け継いでるなんて!」
「……いつもそうだ……。神よ!なぜ私に力を下さらなかったのですか!憎い……貴様が……殺したいほどに!!」
そう言うとマルケルはさらに5つの球体をその杖から出した。
5つの球体で前進する俺の動きを封じるとさらに戻ってきた3つの球体で俺を取り囲んだ。
「へっ!何度やったって同じだぜ!数が増えたところで変わらねえ!」
「吸収球体」
そう言うと俺を八方から囲んでいた球体同士で空間を作り俺を囲んで捉えた。
「なんだ……こりゃあ……。力が……入らねえ。」
空間に囲まれたとたん全身の力が抜けて立っているのすら困難になった。
「よくやったわマルケル。あははっ!月野流星っ!どうしたの?もうお終いなのかしらっ!」
「くっ!流星っ!今行く!待っていろ!」
「あら、自分の事で精一杯のあんたが、どうやって助けるっていうのよっ!」
「お前の動きはもう慣れた。次の一撃で確実に首を切れる。」
「確かに……。あんた、思ってたより厄介ね。その天啓、ただ身体能力が上がるだけじゃないのね。」
女はそう言うと髪をかき上げて高笑いして見せた。
「あははっ!なら、こんなのはいかがかしら。」
「……!?なっ……何故……。あなたは……。」
――球体に捕らわれた俺はまるで大蛇に丸呑みにされたように、為す術がなくただくたばるのを待つだけだった。
いくら力を出して天啓を出そうにも、思うように力が出ない。視界も遮られ、完全に閉じ込められた。
くそっ!あいつっ!こんなに強力な天啓を持っていたなんて。
今は立っているのも難しく膝をついて四つん這いになってしまった。
そしてこの球体の壁は俺の力を吸い取ってどんどん厚くなっていやがる。
俺がいくら抵抗しようとも、力を振り絞れば絞るほど強大になっていく。
このままじゃあ死んじまう……。いっそこのまま死んだ方が、この天啓を打ち破れるんじゃないだろうか。
「おい!マルケル!月野流星はどうなった!?」
「は、はい!確実に奴の生気を吸収しております!……!?な、なんだ?」
「どうした!?」
「生気が……奴の生気がなくなりましたっ!」
「このグズッ!生け捕りにしろと言ったはずだ!」
「い、今すぐ解除します!」
「おい!マルケル!ちょっと待て」
女がそう言いかけた時すでにマルケルは自身の天啓を解除していた。
解除された瞬間、俺はマルケルの懐に飛び込みフリードさながらマルケルの身体に向けて剣を思い切り振りぬいた。
『ザシュッ!』
「ぐはあぁ!」
「はあ……はあ……。危なかった。」
「き……貴様……。何故……。」
「へへっ!……作戦……成功!」
そう言うと俺は自分自身でかき切ったお腹の傷をマルケルに見せた。
「貴様……!自分で腹を切ったのか!」
「地上での戦いで、俺は自分の傷の治りが早いことに気が付いた。そしてお前らは俺を生け捕りにしようとしていた。俺を殺すわけにはいかないもんな。死ぬ前に力を解除する筈。」
「き……気力で復活したというのか。」
「傷の治りが早いってことは、回復が早いってことだ。お前が力を解除したらすぐに気合を入れなおして、突っ込んだ。」
先ほど切った傷はもう塞がっていた。賭けに勝った。かなりリスキーだったがこのピンチを乗り切った。
「はあ……はあ……。フリード。やったぜ。」
俺はそう言ってフリードの方を振り向いた。
しかしそこには、信じられない光景が広がっていた。
「おいっ!フリードっ!!」
デジャヴなのか……。女の長い爪は再び俺の大切な仲間を貫いていた。
「てめえっ!何しやがるっ!」
俺は女に向かって無鉄砲にも突っ込んでいた。身体が勝手に動いた。完全に切れていた。
女は一瞬で俺の視界から消えると瞬時に背後に回り込み俺の脇腹を抉るように蹴り込んだ。
「ぐはぁ!」
数十メートルは吹き飛んだ。
回復しきれていない俺の攻撃は彼女にとっては欠伸が出るほど遅かったのだろう。
「相手をわきまえろよクソガキっ!てめえが勝てる相手じゃねーんだよっ!」
く……何故。フリードが負ける筈がない。
「てめえ……どんな卑怯な手を使いやがったっ!」
「卑怯……あははっ!何甘っちょろいこと言ってんのよ。勝てばいいのよ。勝・て・ば♡」
「くっ……フリード。」
俺は四つん這いになりながら、必死でフリードの元へ向かった。
まだあの女はフリードを殺しきれていない。
俺が動ければまだ助けられる。
「あーあ。かわいそうに。死にかけのくそ虫みたいに必死に這いつくばって。あははっ!」
女は俺の元に近寄るとしゃがみこんで俺の顔を覗き込んだ。
「また惨めに這いつくばって。あんたにはこの地面がお似合いね。」
そう言って女は俺の頭を足で踏んづけるとグリグリと地面に押し付けた。
「ぐあぁぁぁ!」
「ほっとけばあの女はもう死ぬ。苦しんで死んでいく姿をじっくり眺めるとするわ。」
俺は何もできないのか、折角強くなったと思っていたのに。守れると思っていたのに……。
「くそっ……くそっ……くそおぉぉぉぉ!!」
フリードは貫かれた腹部からの出血が止まらない。
早く行かないといけないのに……。
俺は最後の力を振り絞って、抵抗した。
「く、くそがあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
踏んでいる力に負けないように、必死でもがいた。
「あははっ!まだそんな力残ってるんだ。少しはおとなしくしてないと……本当にぶっ殺すわよ。」
『グキャッ!』
「うわあぁぁぁぁぁっ!!」
女は俺の左肩に向かって足を思い切り踏んづけた。
鈍い音がして、肩の骨が折れた。
俺は自分を支える力を失い、またもや地面に倒れてしまった。
「あははっ!ごめんね~。あんたが抵抗するから、ムカついちゃって。」
「……くっ!」
「もうすぐあの方が来るわ。それまで黙ってろ。」
女はそう言うと俺の頭を鷲掴みにして片手で持ち上げた。
そして俺の服をめくると先程マルケルの天啓を抜け出すために自分で付けた腹部の傷を眺めた。
「ほんとだぁ、もうこんなに治ってる♡」
そう言うと女は治りかけていた俺の傷跡を爪でなぞると再度傷を抉りった。。
「くっ……あぁぁっ!」
「……あははっ!我慢できないわぁ。」
傷から血がどんどんと流れていく。
ドクドクと俺の脈に合わせて血液はどんどん流れ出ていった。
「あの方が来る前にあたしが試してあげるっ!あんながこの世界を変えうる存在なのかどうかっ!!」
女は再度爪で俺の腹を抉った。
「ぐわあぁぁぁぁぁっ!!」
血が止まらない。傷は内蔵にまで到達している。指先の感覚からどんどんなくなっていく。
心臓の鼓動が弱くなり力が入らない。
もう……ダメだ……。意識が……なくなる……。
「……あははっ!死んだ?」
『ドサッ!』
「あーあ。やっぱり死んじゃったかぁ。」
「かはっ!……流……星……。」
「あははっ!あんたはまだ生きてるのね!丈夫なのも考えものね。」
「流……星。」
「なに?あんた達付き合ってんのっ?未練がましく名前なんて呼んで、健気なものね。」
「や……やめ……。」
「えー?聞こえねーよ、このブス女ぁっ!」
「やめろ!流星っ!」
「え?なんて」
『バキキッ!』
固い皮膚から骨まで砕けた音がした。
「ぐはぁっ!!」
『ドガーンッ!』
女を50メートル以上あろう距離を壁にぶつかるまでバウンドせずに思い切り蹴飛ばした。
今までの俺にはない異常なパワー。
全身から力が溢れてくる。
五感は研ぎ澄まされ、よくみえる。感じる。
頭の中は殺意と怒りで満ち溢れていた。
自信もある。さっきまであった恐怖の感情は脳からは一切消え去っていた。
「流星……何故……。それでは……まるで……。」
フリードがそう言いかけた時吹き飛ばされた女が俺の方を見ながら感嘆の笑みを浮かべて言った。
「サタン……様ぁ♡」
そこからの俺は自分でもよく覚えていない。
衝動に駆られるまま女を殺そうとした。
身体の傷は治り折れれた骨も元通りになっていた。
女は回避しようともせず俺の攻撃を受け止めた。
思い切り振りぬいた右の拳は灼熱の炎を纏いながら女の頬に命中した。
壁に思い切りめり込み炎が女を焼き尽くさんとしていた。
「いやあぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げながらもがき苦しんでいる。
女の悲鳴と比例するかのように殺意の衝動は増していった。
『ドガッ!バキッ!』
殺意のままに無抵抗の女を殴り続けた。
気持ちがいい。暴力を振るうことは、誰かを痛めつけることはこんなにも気持ちがいいものなんだ。
「はははっ!くはははははっ!」
俺は笑っていた。まるで心の奥にあった欲求が一気に発散されるかのように。一心不乱に女を殴り続けた。
『バキッ!グキッ!ボガッ!』
女の意識はもうないのか何の抵抗も悲鳴も上げなくなった。
「もういい、流星っ!やめろっ!」
フリードの制止も、俺には届かなかった。
「ふはははははっ!死ねっ!!」
「獄炎っ!!」
大きな衝撃とともに壁は大きく壊れ空いた穴から地下水が流れて出てきた。
女は焦げ臭いにおいを発しながらピクリとも動かない。
流れ出た水は地面に落ちた壊れた壁たちに塞き止められて俺の周りに溜まっていった。
ふと俺は水面に映っている自分の顔を見た。
愕然とした……。そこに映っていたのは月野流星ではなく身体の多くを黒い外角で覆われた悪魔だった。
「……これって。」
「流星っ!こっちを見ろ!」
ハッと我に返りフリードの顔を見た。
フリードは驚きと恐怖が入り混じったような表情でこちらを見ていた。
「フリード……違うんだ……これは……。」
「流星っ!話はあとで聞くから!今は自分を取り戻せ!」
俺とフリードがそう話していると通路の奥から足音が聞こえてきた。
「フリードっ!月野流星っ!大丈夫か?」
「フリード隊長っ!流星っ!」
やってきたのはリアン隊長と数名の兵士、そしてハイルだった。
「リアンっ!……くっ!」
「フリードっ!大丈夫か!まずいな、大分血を流している。衛生兵!フリードを地上にいる天馬騎士へ引き渡し、至急ハキミさんの所へ!」
「はいっ!フリード隊長!こちらです!」
「あいてはこの悪魔一体か……フリード。あとは任せろ。」
「リアン違うんだ、あいつは……。」
フリードがそう言いかけた時、ハイルが気が付いたように言った。
「あれってもしかして……流星っ!?」
「おい……嘘だろっ……あれじゃあまるで……悪魔じゃないか……。」
今の俺は、悪魔にしか見えないだろう。
「……信じられないな。まさかジキル隊長の言っていたことが正しかったとは。フリード、君を傷つけたのもこの悪魔なのか?」
「違うっ!私もローズも、奥にいる女にやられたんだ。」
「……では君とローズを倒した悪魔を、月野流星が倒したと……。」
「信じられない……。それにあの雰囲気、流星じゃないみたい。」
「月野流星。君は敵か味方か、人間なのか悪魔なのか。どっちだ。」
「俺は……俺は……。」
自分でも分からない。俺は人間で、皆と同じカレドニアの住民。悪魔やサタンを倒してカレドニアや下界に安寧を求めて、この戦いに参加している。
でも自分でもわからない。自分が何者なのか。俺は、本当の自分を知っているのか?
答えられずただその場に立ち尽くしている俺に、痺れを切らしたリアンが言った。
「もういいっ!月野流星っ!今一度、君を見極める必要があるのは間違いない。君をもう一度拘束して、裁判にかけるっ!今度は俺も味方はできないが。」
「待ってくれリアンっ!」
「信じられない……。」
フリードが衛生兵のよって広場を離れた。
リアンは手にしている剣を抜くと、俺に向かってにじり寄ってきた。
「抵抗するなら、今ここで斬る。」
もう俺は何も考えることが出来ず、リアンの警告に従い、拘束されることを望んだ。
俺とリアンとの距離が10メートルをきったところで天井から轟音が響き渡ったかと思うと、俺とリアンに向けて凄まじい業火が降り注いだ。
「っ!?」
リアンは間一髪のところその業火を回避したが,俺はその業火をもろに受けた。
「ぐわあぁぁぁぁ!!」
熱い。焼けるように。
その感覚は火事で焼けた時の痛みを思い出させた。
「まずい、崩れるっ!」
そのまま天井も大きく崩れ落ちた。
リアンや、ハイル、他の兵士は通路に逃げ込むことで何とか回避できたが俺は躱すことが出来なかった。
「流星っ!!」
……下界で俺が死んだときと同じ死に方だ。
死を悟った俺は以外にも冷静だった。
崩れ落ちてくる無数の瓦礫がスローモーションに見えた。
崩れた天井の奥からはうっすらと光が見えた。
まだ……死にたくない。
自分が悪魔だったとしても死ぬ前に知りたい。
さっき受けた業火でもうほとんど身体は動かなかったが不思議と落ちない場所が理解できた。
隙間のない天井をかいくぐりながら光の差す方へ、空に向かって飛び上がった。
多少被弾はしたが致命的な深手も追っていない。
まさに奇跡だった。
天井は崩れて外に生還することが出来た。
そこは先ほどセインツの聖堂のある村から数キロほどの距離にある森の中だった。
こんな所に繋がっていたなんて。
それにしてもあの業火は何だったのだろう……。
地面を貫くほどのあの力……天啓でも悪魔の力でもそう簡単に出せるものではないだろう。
フリード達は無事だろうか。
あの広場からは避難していたのは見えたが、無事だといいが。
先ほどのまでの緊迫した空間とは打って変わって、目の前には自然の美しい景色が広がっていた。
ここには悪魔の姿も見当たらない。
俺は疲労で倒れ込んでしまった。
身体を包んでいた悪魔のような黒い外角は徐々になくなり、元の姿に戻った。
あの外角を纏っていなかったら恐らく先ほどの業火で死んでいただろう。
なんなんだ、あの力は、感覚が研ぎ澄まされたような、そんな感覚だった。
だがそれと同時に心の奥にあった自分の残虐性が前面に出ていた。
あれが俺だなんて……。まるで暴力を楽しんでいた。
あのクソだった親父のように。母を殴っていた時の親父のように、俺は笑っていた。
俺が一番嫌いだった人種になっていた。
あの感触が忘れられない。骨の砕ける音、たんぱく質の焦げる匂い。
「月野……流星。」
「……!?」
俺は飛び起きた。まるで気配を感じなかった。
声の先に視線を向けると長身に黒のウエーブがかった肩まで伸びた長髪をなびかせた青年が立っていた。
芸術家によって造られたかのような美しい顔立ちはダビデ像を思わせた。
目には知性を感じる。聡明で実直そうな雰囲気に、俺は張り詰めていた警戒心を解かざる終えなかった。
「……あんたは?なんで俺の名を?」
「……俺の名はサタン。月野流星。少し話をしようか。」
最後までご覧いただきありがとうございます。
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