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悪魔襲来

戦場では多くの犠牲の中、地獄と化していた。

窮地の中で自らの力を覚醒させた流星はハイルやローズとともに一矢報いようとしていた。

そこで見つけた荒らされた形跡のない教会に何かがあると感じた3人は地下に通路があるのを見つける。

通路の奥で流星たちが見たものは一体!!

どうやって出したのかわからない。

ただ反射的に彼女を助けたいと思っての行動だった。


「あんた……今の……。」

まずい、俺のこの炎はサタンの力によく似ているんだっけ。

カレドニアの人たちには恐怖や憎悪の象徴。助けたとはいえ良い印象を持たれないだろう。


「これは、その……。」

「すごいじゃないっ!!」

「えっ!?」

「手負いとはいえあの死竜を倒しきるなんてっ!あんた何者?どうして今までこの力を隠していたの?」

「いや、隠してたわけじゃねーんだ。精霊の泉での一件以来、初めて使えた。」

「噓でしょっ!?初めてであんなに強力だなんて……。」

「それより大丈夫なのか、ローズ隊長。」

「……あぁ!そうだったわ!」

彼女はそう言うと天馬に跨り俺にも乗るように促した。

「あんたも戦えるわよねっ!乗って!」

言われるがまま俺も天馬に跨る。

「そうだ、良い忘れてたわ。」

彼女は後ろを振り返り俺の方を見ると少し照れ臭そうに言った。

「ありがとう……。お陰で死竜に喰われずにすんだ……。」

「お礼をするのは俺の方だ。ありがとう。あんたが居なかったら死んでた。」

そのまま俺たちはローズ隊長の居る最前線に向かって進みだした。

「怖くねぇのか?」

「何が?」

「俺の天啓はサタンの手先だと疑われるくらい奴の炎に似てるんだろ?」

「……ビクトリアが怖がってないし、何よりあんたはあたしを助けた。それも反射的に……。サタンの手先だったり、本物の悪人なら、そんなことは出来ない。」

「ビクトリア?」

「この子の名前。女の子よ。」

そう言って彼女は乗っている天馬背中を撫でた。

「……あたしはハイル。ハイル・シュバルツ。」

「俺は月野流星。ほんと助かったよ。ハイル、ありがとう。」

「……お礼を言われるほど何もできてない。」

「えっ?」

「誰も助けられなかった。耐えるので精一杯。死竜たちの相手でセインツの住民を守れなかった。」

ハイルは悔しさに顔を歪ませていた。

「……前線には天馬騎士隊約半数とリアン隊長の部隊が約4分の1、残りの3隊が補給隊としてそれぞれ数十名ずつ。全部で約1万5000。3時間前に来た悪魔の襲来でほぼ壊滅。」

3時間でほぼ壊滅?

「ある程度死竜を倒したところで伝令に一人と住民の救助にあたしが向かった。それが一時間前だからまだまだ増援は来ない。これからローズ隊長の元に行って状況報告をする。まあ十中八九撤退になるわね。」

「お前、すげえな。そんな状態で一人で住民の救助を請け負って悪魔を倒して回ってたのか。」

「……すごくなんかない。結局救えたのはあんた一人だし。天馬弓兵は地上の相手には負けない。それにあたしは。」

そう言いかけた時ハイルと俺は通りかかった村の噴水の近くに人影を見つけた。

「おい、ハイル!あれって!」

「見ればわかるわ。誰かいる。」

「もしかして生き残った村の人なんじゃ!」

だが様子がおかしい。明らかに俺たちに気が付いている筈なのに身動き1つ取らずにただ俺たちを見つめていた。

なんだか気味が悪い、よく見ると衣服はボロボロで髪の毛はぼさぼさしている。

「ビクトリア、どうしたの?」

ビクトリアの身体が小刻みに震えている。

「どうする、ハイル!」

「……笑ってる。」

「えっ?」

「あの女の人、こっちを見て笑ってる。」

「えっ?笑ってるって。」

ミアは視力がよいのだろう、俺を助けてくれた時も悪魔たちですら認識できない距離から正確に射抜いて見せた。

俺からはぼんやりとしか見えていないが彼女にははっきり見えているのだろう。

「まずい!何か来るっ!!」

おぼろげながら女が両手をこちらに向けているのが認識できた。

ハイルはすぐさま弓を取り出すと素早く女に向かって狙いを定める。

すると凄まじい強風が吹き俺たちはそれをもろに受けた。

「何よっ!これっ!いやっ!!」

強風をもろに受けたハイルはビクトリアから体を離されて大きく後ろに吹き飛んだ。

「くそっ!やべえ!」

俺は咄嗟に離れそうになるハイルの手首を掴んだ。

俺ももう片方の手でビクトリアの手綱を握った。

ビクトリアは体勢を立て直すことが出来たが俺とハイルは今にも落ちそうだ。


「くそっ!」

「流星!あたしの手を離して!」

「駄目だ!万が一にもお前が死んだらローズ隊長の加勢に行けなくなるだろうが!」

「またあの強風がいつ来るか分からないでしょ!今度来たらあたしもあんたも飛ばされる!」

「なら……こうするだけだっ!」

俺はミアを掴んでいる右手に力を入れると思い切り真上へ飛ばした。

「ビクトリア!後は頼んだぞ!」

俺はビクトリアの手綱から手を離した。

ビクトリアはミアの元に移動すると上手く彼女を背中に乗せた。


「流星っ!」

俺はそのまま地面に落下した。

上手く受け身を取ることが出来たがかなりの衝撃だった。

火事で陽太君を助けた時に団地から飛び降りた事を思い出した。

「痛ってぇぇ!」

俺は顔をすぐに上げて先ほどの女の位置を把握しようと試みた。

女は噴水に近くにいたはず。

俺は急いで噴水近くの広場に急いで移動した。

「ここには、いねえか……。」

噴水近くには女の姿はなく嫌なほど静かだった。

すると上空からハイルの声が聞こえてきた。

「流星っ!後ろっ!!」

後ろを振り向くと俺の背後3メートルの距離まで迫っていた。

俺は反射的に剣を振りぬくと横に薙ぎ払うように払った。

殺しにいくというよりも身を守るためのものだった。

距離も離れていたので俺の振りぬいた剣は当たることはなかった。

女は不敵な笑みを浮かべながら俺の事を見ていた。

「なんだてめえ。気持ちわりぃ。」

「……天馬に……乗ってた……ひひっ!」

「はあ!だから何なんだよ!」

「お前が、ひひっ!」

「お前、俺の事知ってんのか?」

「ひひっ!知ってるって……ひひひひぃぃい!」

女は気持ち悪いくらいに激しく笑った。不安を煽るような深いな笑い声。

女は攻撃するでもなく俺を笑いながら眺めていた。

「……随分と、優しくなったんだね。」

「……なんなんだよ、お前。」

「優しくなったお前は……気持ち悪いぃ!!」

「流星!危ないっ!!」

女は手を前に出して先ほどの構えをしている。

ハイルは俺より先に弓を射って女を攻撃している。

矢の速度も変わらずに早い。だがそれよりも女の速度の方が早かった。

風と共に女は姿を消した。

と思ったら今度は噴水の上に姿を現した。

まるで口裂け女を思わせるような大きく左右に裂けた口から大きな笑みを浮かべて女は俺に向かって怒声を上げた。

「優しくなったお前もあの女も……いらないっ!気持ち悪いぃ!!」

彼女が手を伸ばすとそこから突風とともにかまいたちのように斬撃が襲ってきた。

ただ斬撃を躱す(かわす)だけなら簡単だが突風によって思うように体が動かせない。

『ザシュッ!ザシュ!』

上手く斬撃を躱し切ることが出来ず攻撃をもろに受けてしまった。

皮膚が裂かれて気持ち良いくらい傷口がパックリ割れている。

「くっそ!」

「ひひっ!優しくて弱いっ!そんなお前に興味はないよ。」

「不気味な野郎だ。こっちだってお前に興味はねえっつーのっ!」

そう言うと俺は左の手に力を込めた。

さっきより力を出した時よりも感覚が研ぎ澄まされている。

もう一度あの炎が出せる。

「今度はこっちからいくぜっ!」

俺は一気に距離を詰めると一気に力を解き放った。

獄炎(ごくえん)っ!!」

俺の手から出た炎は瞬く間に口裂け女の元へ広がった。

先ほどよりも範囲も威力も大きい。

『ドガ――ンッ!』

激しい轟音とともに噴水ごと破壊した。

俺の出す炎はただの炎ではなく触れたものを溶かし、通常燃えないものでも焼き尽くす効果があるらしい。

炎の先には塵1つ残らなかった。

「すごいっ!さっきよりも速く、強いっ!」

「やったかっ!?」

手応えはあった。だがこんなにあっさりやられるか?

「ハイルっ!女が見えるか?」

「いないっ!どこにもっ!」

本当にやったのか?

ぞわっと嫌な予感がした。

予感のした見てみると口裂け女がミアの真下にいた。

「ハイルッ!下だ!!」

「!!」

風塵殺(ふうじんさつ)!」

塵のように無数の刃が竜巻のようにハイルとビクトリアに襲い掛かる。

「やられっぱなしでは終われないわよっ!」

ミアの手から3本の矢が生成される。真下の3方向に飛ばされた矢はいつものように速度を上げることはなくミアの真下数メートル先で停止した。

3つの矢はそれぞれの光がバリアのように広がると口裂け女の風塵殺を防いでみせた。

「ちっ!」

「くっまた消えた。」

口裂け女の攻撃は風を使って巻き上げるように攻撃をする技に仕様上姿が見えなくなる。

どんなトリックをしているのか瞬間移動しているように見える。これがあいつの能力なのか。

常に先手を取られて優位に立たれている。

間一髪のところで防げて入るが不利な状況は変わらない。

それにあの口裂け女、まだ何か隠している気がする。


「ハイルッ!真上に飛ぶんだ!口裂け女の視界に入らない距離まで!そこからあいつを射抜けっ!」

「でも、そしたらあんたにあいつの位置を伝えられない!」

「いいんだっ!それでいい!」

「……わかった!」

ハイルは大きく宙に上がった。

これでいい。ハイルとビクトリアが負傷してしまえばローズ隊長を助けに行くことも困難だ。

それに俺はこの口裂け女に聞きたい事があった。

「おいっ!口裂け女!」

すると物陰から口裂け女が出てきた。

上空に行ったハイルに見つからないように屋根の下に居る。


「何?」

「お前、明らかに他の悪魔とは違う。それに俺の事も知ってるんだろう?」

「……何も覚えてない……ひひっ!まるで別人みたい。」

「俺と会ったことがあるのか?」

「ひひっ。」

「お前、サタンに連れられて獄門から来たんだろう。下界で俺と関係があったのか?」

俺はまるで見覚えがない。だがこいつは明らかに俺の事を知っている。

俺のこの天啓の事を知っているのではないか。

この天啓には散々振り回された。殺されかけもした。

俺自身が俺の事を知らないと、いつか周りに迷惑がかかる。

それにもっと早く天啓を使いこなせていたら、アーノルドやセリカを、セインツの住民を守れていたかもしれない。


「下界……ひひっ!お前と私が会ったのは……」

そう口裂け女が言いかけた時ミアの光の矢が口裂け女目掛けて突き刺さった。

「ひぎゃあぁぁぁぁぁ!!」

甲高い叫び声とともに女は消滅しようとしていた。

ハイルの攻撃は離れていればよりその威力を増す。

ハイルの言う通り地上の相手には文字通り無敵なんだ。

消える寸前に口裂け女は意味深な言葉を残した。

「お前……と会った……のは……。」

口裂け女は満面の笑みを浮かべながら俺に言った。

「……獄門だ。」

「獄門……だと!おいっ!ちょっと待て!!」

俺の言葉も空しく女は塵のように消えていった。

俺の心には自分への疑念だけが残った。


「流星っ!やったの?」

「……あぁ、ハイル。寸分の狂いもなく命中したよ。やっぱすげえな、お前。」

「えぇ、分かったの、こんなの初めてよ。自分でもなんでなのか分からない。」

「あぁ、そうだな。ほんと、ここに来てから分からねえことだらけだ。」

「それよりあの女、あんたの事知ってたみたいだけど。」

「ああ。あの女と俺は……獄門で会ったことがあるらしい。」

「えっ?獄門で?」

「俺の方は全く覚えてねえけど。」

「そんなわけないわ。」

ミアは頑として言い切った。

「なんでだ、獄門でも何万年もして罪を継ぐなったら、下界に還ってこれるんだろう。」

「人の本質は変わらない。何万年経とうが悪人は悪人のままよ。」

「どーいう事だよ。それじゃあ獄門の意味がねえだろうが。」

「いいことっ!天馬は神様の使い。悪人には乗れないっ。罪を獄門で償ったとしてもその本質は変わらないの!」

「それはお前の解釈だろう?ハキミさんは獄門で汚れを削ぎ落として魂を磨くんだって言ってたぞっ!」

解釈なんかじゃない、俺にだってわかってる。人の本質は変えられない。どんなにチャンスがあろうとものにできない奴は一生ものに出来ないのだ。

だが俺は何故だかどうして今のハイルの発言が気に入らなかった。

「あんたが何と言おうと悪人は一生悪人のままなのっ!そしてこのカレドニアにはそんな悪人は一人としていないっ!そんな世界を、あたしは守りたいのっ!」

出会って間もないが、ハイルがこんなに激高したのは初めてだ。呆気に取られてる俺を見てハッと我に返ったハイルは恥ずかしそうに俺に言った。

「と、とにかく。今はこの状況を切り抜けることを考えなさいよね。あんたは天馬に乗れた。その時点であたしはあんたを信頼してるから。」

「あぁ、俺の方こそ悪かった。励ましてもらってたのに。」

「べ、別に励ましたわけじゃないわよ!」

照れくさそうにハイルは言った。

「言ったでしょっ!あんたは死竜に喰われそうなあたしを助けた。頭より先に心が動いた行動なの……。あたしはそんな人を知ってる。とにかくっ!考えたってわからないんだからっ!」

ハイルの言う通りだ。考えても仕方がない。今は前線に向かうことに専念しよう。

ローズ隊長とは月に一度の審問で何度か話したことがある。

裁判の時にも俺を庇う発言をしてくれた。

「お前の言う通りだ、ハイル。ローズ隊長のところに行こう!」


ハイルとともにビクトリアに跨りローズ隊長のいる前線に駆けた。

「いたっ!ローズ隊長っ!!」

ローズ隊長は数十体の死竜を相手にしながら立ち回っている。

他に天馬騎士は居ない。

地上には数十体の悪魔が落下してくるのを心待ちにしているようだった。

一人でこんな数を相手にしていたのか。

悪魔たちが襲来してもう4時間が経つ。

流石隊長クラスといったところかたった一人で戦況を変えている。


ローズ隊長は上手に死竜達をいなしながら上空へ飛び上がった。

それを追うように死竜達が続いた。

ローズ隊長の天馬は身体が大きく死竜と並べても遜色はない。ビクトリアの2倍程の身体を操り死竜の猛攻をしのいでいることからもミア以上に天馬との連携が取れてると言える。

スピードも死竜と同じくらいか、それ以上だ。

上空高く上がり死竜との距離を離すとローズ隊長は天馬から手を離し両手で二対の細い槍を持って落下した。

そのローズ隊長目掛けて数十体の死竜が一斉に襲い掛かる。

だが知能が低い死竜は多方向ではなく全員同じ真下から迫ってきた。

ローズ隊長は二対の槍に力を込めると、固まっている飛竜達に目掛けて攻撃を浴びせた。

二対の光柱(ついんぐれいぶ)!」

光の柱を思わせる2本の大きな光の攻撃が死竜達を襲った。レーザービームのように直線に伸びたその攻撃はアルファベットのXに見えた。

数十体の死竜全体を巻き込み一気に消滅させた。

「すごいっ!あの数の死竜を一瞬で!」

「ローズ隊長!ただいま戻りました。」

空中にはもう死竜の姿もない。

さっきの一撃で襲ってきた死竜を倒した様だ。

すごい……。たった一人で持ちこたえたどころか、全滅させるなんて。

「ハイルッ!よく戻ってきましたね。それに君は。」

「月野流星です。ローズさんお久しぶりです。」

「流星。まさか君が来ているなんて。無事で良かった。」

「報告します。ローズ隊長。残念ながらセインツの村は壊滅。生存者も私たち以外いません。」

「なっ!壊滅……。くそっ……ここまで戦ってきたのに、どうすることもできなかったのか。」

「ただ一か所だけ、火の手や魔物の手がなく、無事な村がありました。ただそこには人影はありませんでした。」

「そうか。今回の襲撃は明らかに不可解な点が多い。四方から一気に駐屯地に向けて悪魔が進行してきた。」

「敵の拠点とか、何らかのトリックがあるかも知れないってことか。」

「ああ流星、それに何より、私たちは知らないことが多すぎる。少しでも情報を集められるように、その村に向かおう。」

知らないことが多すぎる、か。あの口裂け女からは何も聞くことが出来なかった。

明らかにあいつは何か知っていた。そしてまだ何か隠していた。

「わかりました。ローズ隊長。流星、あんたも自分の小隊が全滅している。前線で生き残っているのは私たち3人だけ。これからはローズ隊長の指揮で動いてもらうわ。」

「ああ、分かった。」

「では行こう。ハイル、案内してくれ。」

下にいる悪魔をハイルが処理しつつ、ミアの言う村に向かった。


「本当だ、荒らされた形跡がほとんどない。」

「ここには教会があるセインツの中心地。真っ先に狙われても良い筈だけど。」

他の村はすでに悪魔によってこれでもかというくらい壊滅しているのにここだけはおかしなくらい綺麗だった。

俺たちは手分けして村の隅々まで調べたが人の形跡も、悪魔の痕跡もなかった。

「残るはこの教会だけね。」

「慎重に進もう。」

この村だけは襲われる前と変わらぬ姿を保っている。

教会の扉に手をかけた瞬間、ぞっと悪寒が走った。

何かある。この先に。

俺は恐る恐る扉を開けた。

天馬達は上空で待機してもらっている。

扉の先には何の変哲もない聖堂があった。

城のエントランスにもあるミカエル像と同じ物が祭壇に祭られている。

だが通常の聖堂と違うのはミカエル像の前に地下室に続く階段があった。

「この階段……。」

「聖堂ってのは大体地下に階段があるもんなのか?」

「いや、そんなことはない。カレドニアの墓地は外にある。なんなんだこの階段は?それにミカエル様の像が動いているような。」

確かにミカエル像が動かされたような跡が床にはあった。

地下には微かに明かりが見える。明らかに怪しい。ここに何かある。


「おい!ここで何をしている!」

俺たちは地下に釘付けにいなっており背後にいる人物には声を掛けられるまで気が付かなかった。

咄嗟に全員が振り向き、身構えた。

「キーファさんっ!なんでここに?」

「キーファ参謀長!」

「シスからの伝令でな。今しがたリアンと残りの天馬騎士の部隊も出発しておる。天馬騎士に乗ってきて一時間もすれば到着できるだろう。」


「伝令たって、そんなに早くどうやって着いたんだ?」

「そうか、流星はキーファ参謀長の天啓、知らないもんね。」

「私の天啓は獣化。天馬になって空を飛んでここまで来た。」

「獣化って……。あんた変身できるのか。」

「馬にも天馬にも、見たことがある物なら何でも。」

「そうか……。でもあんまり強くなさそうだな。」

「流星っ!あんたね!キーファ参謀長に向かってなんてことを!」

「はっはっは!確かにな。でもいざとなったらきっと役に立つと思うがね。」

キーファ参謀長が来て少し安心した。月に一度の審問でも会っていたし、少しの軽口なら叩ける仲になっていた。

何よりこれから未知の場所に行くのだ、仲間は多いに越したことはない。

「こんなところに地下が。確かここの司祭はマルケルだったな。」

「はい、でも今は御覧の通り、誰の姿も見当たりませんが。」

「疑いたくはないが、カレドニアの民がサタンに加担しているなどと。」

「行ってみないと分かりませんね。」


俺たちはキーファさんを加えて聖堂の地下に進んだ。

百段以上続く階段を降りるとそこには先が見えないほど長い通路があった。

まるで迷路のような構造で左右には100メートル間隔で分岐路がある。

明かりも壁に掛けてある蠟燭のみで薄暗く、足元すら分からない。

俺たちは事前にマルケル司祭の部屋でランタンを拝借していた。

その明かりを頼りに進むしかない。

だが迷ってくださいと言わんばかりの複雑な通路を闇雲に進むことは得策とは言えない。

「もしかしたらマルケルがここに住民を避難させている可能性もある。そうだとしたらこのやけに複雑な迷路も悪魔よけの為と説明がつく。マルケルの部屋に行ったとき、奴の祭服がなかった。もし奴が生きているなら今もきっと祭服を着ておる。ここは私に任せるんだ。」

そう言うとキーファさんは布切れを取り出すとフッと笑った。

「流星、早速私の力が役に立つぞ。」

そう言うとキーファさんの周りに光が立ち込めそのまま包み込んだ。

数秒ほど姿が見えなくなる。

そのまま少しづつキーファさんを包んでいた光がなくなると、目の前には大きなクマが姿を現した。

「うおっ!!」

俺は驚きのあまり腰を抜かして床に尻餅をついた。

「うわぁ、あんた腰抜かしたの?だっさ。」

ハイルが俺の方を見ながら嘲笑している。

キーファさんの能力が変身だとは聞いていたがあまりにもリアルだ。本物のクマにしか見えない。

「気にすることはないよ、流星。私も最初は驚いた。」

あんたもね、と言ってローズ隊長はハイルの頭を軽く小突いた。

ハイルは小突かれた頭を押さえながらぶつくさ文句を言っている。

まるで姉妹みたいだ。



クマは布切れの匂いを嗅ぐと通路を進み始めた。

「クマの嗅覚は犬や狼よりも優れている。あの布切れできっとマルケル司祭のところまで行くつもりね。」

俺たちはこのまま、クマの後を追って司祭のところまで進む。

「ローズ隊長やハイルは、いつからミカエル騎士団に仕えてるんだ?」

「あたしは3年前。ローズはもっと古いよね。」

「おいハイル、今は任務中だ。隊長と付けろ。」

「いいじゃないですかぁ。別にぃ。」

「あんたら、仲良いんだな。」

「あたしとローズは、下界の頃から一緒なの。あんたにとっての未来ちゃんみたいなもんよ。」

「へぇ、そうなのか。」

「6年前の大洪水、覚えてる?」

「あぁ。世界で同時の起こった大洪水。1か月大雨が続いたよな。」

「その時あたしは中学生で、ローズは高校生。家が近所であたしたちは同じ教会に避難していたの。」

6年前、世界中で同時に起こった大雨。人類史上最悪の災害。この雨によって世界の人口が1割減った。

先進国よりも発展途上国の方が被害が大きかった。

水没してしまった都市や国まである。ノアの箱舟を作ろうとした者がネットニュースで話題になってた。

今日に至るまで経済や移民問題に至るまで影響を及ぼしている。

「あたしたちの住んでいる地域は田舎で子供も多くなかった。家も近かったしとても仲が良かったわ。兄弟の居ないあたしにとってローズはお姉ちゃんみたいだった。」

「ハイル。あんた本人を目の前によく恥ずかしげもなくそんなこと言えるわね。」

「いいじゃない別に、減るもんじゃないでしょ。」

「はぁ、全く。」

「それで2週間くらい教会で過ごしてたんだけど、洪水が教会の方まで侵食してきて、もっと高い場所まで非難しないといけなくなったの。あたしたちはそれぞれの車に乗って隣町まで集団で非難をしようとした。その最中、思いがけないことが起こったの。」

ハイルはもの悲しい表情で話を続けた。

「隣町への唯一の道が倒木で塞がれてたの。今までいた町も浸水が進んで戻れない。まさに立往生ね。」

立往生。避難先が見つからず移動もままならず、そのまま町とともに沈んでしまった人もかなり多くいたと聞く。

ハイル達も同じ状況だったのだろう。

「車では行けないと判断してそこから全員で歩いて進むことになったの。その人たちの中にはお年寄りや足の悪い人もいてみんなで助け合いながら避難先を目指した。」

俺の住んでる町は内陸にありそこまで大きな被害はなかった。

だけど恐竜が絶滅したようにきっと人間も大きな災害や隕石なんかで簡単に絶滅してしまうんだなと思わせるような出来事だった。

この未曽有の大洪水で世界中で核シェルターが爆発的に売れたんだっけ。

そこまでして生きたいかってあの時の俺は思っていたな。

「避難している人の中には赤ちゃんもいてね、丸二日歩き続けた。もうみんなの疲労が限界だった時、その子が高熱が出て一刻を争う状態になったの。お母さんも赤ちゃんを抱きながら進んでいたからもう限界だった。あたしももう自分の事で精一杯だった。隣町まではまだ距離があった。」


「私が急いで病院まで連れて行く。そう言ってローズは赤ちゃんを抱きかかえて必死に村まで走ったの。そのおかげで赤ちゃんは無事に助かった。そしてローズはまた戻ってあたしたちに食料をもって届けてくれようとしたの。隣町にも人はいたけどあたしたちを助けに迎える余裕なんてない。雨風もどんどん増していってとても外に出られる状況じゃなかった。あたしたちも歩く気力を無くして道中の小屋で動けずにいた。それでもローズは町にあるバスに乗って食料と着替えをもってあたしたちのところまで迎えに来てくれた。」


――「あれは車?ローズっ!みんな!ローズが帰ってきた!」

「何?ローズが?」

「みんな、大丈夫?バスに乗って!着替えと食料を持ってきたよ!」

「ローズっ!コリンは?あの子は無事なの?」

「えぇ、今お医者さんに診てもらってる!抗生剤を打ったら熱も下がってる。さぁ!早くコリンのところに行きましょう!」

「ローズ……あぁ……本当にありがとう……。うぅ……。」

「安心するのはまだ早いわ。雨がどんどん強くなってきてる。隣町も数日で浸水してもおかしくない。」

「ローズ!俺が運転するよ!」

「ありがとう!サム!私の運転でここまで来たのが奇跡よ。運転よろしく!さぁ!早く乗って!」

ローズが到着してあたし達がバスに乗ると、強風が勢いを増して襲い掛かってきた。

「サム気を付けてね!」

「あぁハイル!心配するな。ゆっくり休んでな。」

そう言って運転し始めた直後だった。

「サム危ない!右!」

「え?」

右から農業用の小さなトラクターが強風に飛ばされてバスに突っ込んできた。

『ガシャーン!』

トラクターに飛ばされてバスは横転した。

「いやぁぁぁぁ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

……そこから先の事は覚えていないの。

あたしが次に目を覚ました時には病院のベッドの上だった。

あたしは全身にバスの窓ガラスが刺さって出血多量で重傷だった。

でもあたしは一命を取り留めた。ローズが助けてくれたの。

ローズ自身もひどい怪我を負っていたのに町の病院まであたしを担いで運んでくれていたの。

病院のベッドのあたしの横にはローズがいた。

あたしとローズは腕の同じ位置に注射の痕があった。

「先生、これは?」

「君は出血多量で血が必要だった。同じ血液型の子はこの子だけだったんだ。この子もかなりひどい怪我だったが絶対に君を助けるって言ってきかなくてな。輸血をしたんだ。君は何とか一命を取りとめたが今度は彼女の方が危険な状態だ。それにもし目が覚めたとしても……。」

「そんな……。お願い!ローズ!目を覚まして!!」


他に避難してきた人たちもほぼ全員命を落としてしまった。

丸3日、ローズは目を覚まさなかった。

その間にも雨は止むことがなく、この町から出なくてはいけなくなった。

「いやよっ!絶対!あたしローズが目を覚ますまで絶対にここを離れないからっ!」

「もう一時間でも待っていられない。それにローズは一生目を覚まさないかもしれない。行こうハイル、生き残った我々が命を粗末にしては、君を助けたローズに示しがつかない。」

「でも、そんなことって……。お願いよローズ……起きてよ……。」

出発の直前までローズが起きるのを待ってた。その時に奇跡が起きたの。

「……ハイル。」

「ローズっ!良かったっ!先生っ!ローズが起きたよっ!」

「ああ、ローズっ!大丈夫か!」

「えぇ、身体は痛むけど、何とかね。」

「……目が覚めたばかりで申し訳ないがすぐにこの町を出る。ハイル、行こう。」

「うん、分かったっ!ローズっ!助けてくれて本当にありがとうっ!一緒に避難しよっ!」

「分かったわ、先生、私着替えるから先に車に向かって下さい。ハイル、起きたばかりでうまく身体が動かせないから着替えるのを手伝ってくれる?」

「うん!」

「……ああ。分かった。」

先生が先に車に向かうとあたしとローズの二人きりになった。

「さぁ!ローズ!すぐに着替えて車に向かいましょ!」

「……ハイル、よく聞いて。私は一緒に避難はできない。」

「えっ?でも避難しないともうすぐ町が水没しちゃうよ!もうほとんどの住民がもっと高い所に避難してるわ!急がないと!」

「……動かないの。」

「えっ?」

声を震わせながらローズが言ったの。

「……足が……。腰から下の感覚がないの。」

ローズの告白で頭が真っ白になった。

折角目を覚ましたのに……。

「そ……そんな……。」

「ハイル、お願い。あなたは避難すれば助かる。先生と一緒に車に乗って。」

「いやよっ!絶対に嫌っ!あたしが担いでローズを連れて行く!あなたがあたしにしてくれたようにっ!」

「あのバスの事故で、私の家族は全員死んだ。即死だった。あなたの家族も……。私がバスを持ってきたから……。本当にごめんなさい。」

「何言ってるのっ?ローズが来なかったら、あたし達全員死んでいた!赤ちゃんだって助からなかったっ!謝られる筋合いなんてこれっぽっちもないんだからねっ!」

「ハイル……最後にあなたと話せてよかった。」

「最後なんかじゃないっ!」

「あなたをこの病院まで連れてきたときね、この子はもう助からない。輸血用の血なんてないし、なにが起こるか分からないこの状況で喜んで血を提供する人なんていないから。そうお医者さんに言われたわ。でもね、奇跡的に私とハイルの血液型は同じだった。私は喜んで自分の血を提供した。あなたが助かるなら。」

「ローズ……うぅ……。」

「でも私の身体も限界だった。私の血を提供すれば、今度は私の命が危ないって。……でもね、悩みすらしなかったわ。」

ローズは笑った。あたしを見て、本当に愛おしそうに笑ってくれた。

「ふふっ……ハイルはいつも危なっかしくておっちょこちょいですぐ調子に乗って……。好きになった男の子にも意地悪するような天邪鬼で……。本当、心配ばかりかけてさ。……私ね……ずっと言ってなかったんだけど、10年前に4つ下の妹を事故で亡くしてるの。」

「……えっ?」

「グレイスさん達が私達の町に越してきたのがちょうど10年前。そのほんの少し前。私はまだ3歳の妹と川へ遊びに行った。いつもの行き慣れた川だったんだけど深い所があってね。そこに足をつられて転んで、そのまま流された。」

「そんな……だってそんなこと一度も。」

「忘れたかった……。じゃないと心が壊れそうだったの。自分はお姉ちゃんだったのに、妹を守ることが出来なかった。あの時あの場所へ行かなければ。妹は死なずに済んだのに。」

「……ローズ。」

「両親は私を責めなかったわ。だけど父も母もこのことでお互いを非難し合って、仲が悪くなっていった。私も家に籠りがちになったの。そんな時に来たのがあなたよ、ハイル。」

ローズの目には涙が浮かんでいた。

知らなかった。あたしが来る前にそんな事が合ったなんて。

「私は家の窓から、あなたが庭で遊んでいるのをなんとなく見ていた。あなたを見る度妹の事を思い出して暗い気持ちになった。でもどうしてか、あなたの事を目で追ってしまっていた。」


――『コツンッ!』

窓に石が当たる音がした。

「おーいっ!家にいないで出ておいでよーっ!一緒に遊ぼ―っ!」

最初は無視していた。

「おーい!お姉ちゃーんっ!」

カーテンを閉めて拒絶する意思を示した。

するとしばらくしてハイルの泣き声が聞こえてきた。

「助けてー!お腹が痛いよー!死んじゃうよー!」

「えっ?」

窓を開けるとお腹を抱えて苦しそうにしているミアがいた。

私は急いで家を飛び出して彼女の元へ駆け寄ったわ。


「ねえっ!ちょっと、大丈夫?お腹のどこが痛いの?」

私が駆け寄り背中を擦りながら心配するとハイルは思い切り私に抱き着いた。

「ばぁ!捕っかまえた~!」

「ちょっとあんた!嘘ついたわね!」

「だまされる方が悪いんだよ~だっ!」

そう言うとハイルは私にタッチして逃げていった。

「お姉ちゃんがおにね!さぁ!あたしを捕まえて~!」

「ちょっと!あんたねえっ!待ちなさいー!」


それが私とこの子の出会いだった。

彼女との時間は私の凍った心を溶かしてくれた。

一緒に過ごす時間が、私にとってかけがえのないものになっていった。


「ローズ!それじゃあ、ハイルがお姫様ね!あたしたちはでっかいお城に住んでいるの!ドレスもいっぱいあってお食事も甘~いドーナツがいっぱい出てくるんだよ!」

「素敵だね、ハイル!ハイルがお姫様なら、私は何になればいい?」

「う~んとね……ローズもお姫様!ハイルのお姉様でハイルのお世話もするの!」

「お姉……さま?私、ミアのお姉ちゃんになってもいいの?」

「うん!いいよ!優しくて、ちょっと怖いけど、ハイルの大好きなお姉ちゃん!」

「……うん。ありがとう……。でもハイル!お姫様になっても自分の事は自分でやらないとダメなんだからね!あんたのお漏らし布団、いつまでお母さんに洗濯してもらうつもりかしら。」

「あぁ!お姉ちゃんずるい!ハイルがお漏らしすることからかっちゃダメって言ったでしょ!」

「あれぇ~。そうだったっけ~。」

「もう!お姉ちゃんなんて嫌い!」

「ふふっ。ごめんね。今度ハイルの好きなドーナツ作ってあげるから許してね。」

「えっ!ドーナツ!やったー!お砂糖いっぱい入れてね!」

「はいはい、約束ね。」

「うん!」




――「ハイル……。私はあなたを助けることが出来て本当に良かった。後悔はない。」

「ローズ……。あたしも……ローズに助けられた。でもまだ何の恩返しもできてない……。」

「ハイル、あなたは生きていてくれたらそれで良いの。私と……妹のジェシカの分まで……。」

「ローズ……嫌よ……そんなの……。」

「……もし生まれ変わったら、今度はでっかいお城に住んで、ハイルとジェシカと3人で、お姫様みたいに暮らしたいな。豪華なドレスをたくさん着て。」

「……ドーナツもいっぱいあって。」

「ふふっ。そうだね。私が沢山作ってあげる。お砂糖いっぱいの……ドーナツ。」

「……生まれ変わっても、あたしのお姉ちゃんになってくれる?」

「……うん。約束……ね。」

「……ローズ。ありがとう……。大好きだよ。」

「あたしもよ、ハイル……。私の大好きな、妹。」

『ガチャッ』

「ローズ、ハイル!駄目だ!もうこの町も持ちそうにない!」

「ハイルを連れて行って!無理やりにでも!お願い!!」

「……分かった。」

「ローズっ!いやっ!ローーズッ!!」


――「あたしはそのままローズを置いて避難して助かった。ってわけ!」

あっけらかんとハイルは言った。

「はぁ、ハイル……しゃべりすぎ。」

ローズは呆れている。

「だって、ローズの武勇伝。流星にも知ってもらいたいし!」

「恥ずかしいからやめろ。それにこれだけ過去の話をされたら、隊長としてやりにくい。」

「でもすげえよローズ。最後までミアや他の人のために行動し続けたんだもんな。」

「そうよ!だからローズ隊長を崇め、讃えなさい!」

「なんでお前が偉そうなんだよっ!」

「ふふっ、でも流星、私もあなたに一目置いてるのよ。あなたの下界での行動は、あの子に聞かせてもらったわ。とても立派よ。一番初めの審問の時も、私はあなたがサタンの手先とも、嘘つきだとも思えなかった。」

「まあ……でも……。みんなそうなんじゃねーのか?ここにいるカレドニアの人たちは。」

「そうね、私もここにいる人たちはみんな、崇高な魂を持った善人だと思っている。だけどそれだけではない……それだけではきっといけないの。」

「……少し、俺には難しいかも……ははっ。」

「そうね、私ももう少し自分の考えをまとめてから話すべきだったわ。ごめんなさい。」

「ローズが謝る必要なんてないわよ、このばかの理解力が足らないだけなんだから。」

「んだとてめぇ!黙って聞いてりゃ!」

「何よ!本当の事を言ったまでよ!少なくともあたしは今のローズの言いたいことが分かったし!」

「じゃあなんだよ!いってみろよ!」

「だからあんたが特別って事よ!他の人にはない何かをあんたが持ってるって言ってるの!」

「だからそれが何かって聞いてるんじゃねーかっ!」

「はぁ?あんたやっぱりばかね!そんなのあんた自身が一番知ってるに決まってるでしょ!」

「二人とも、もうやめろ!もうこの話は終わり!キーファ参謀長が一生懸命働いてくれてる間に、喧嘩なんてするな!」

ローズに咎められて、この話は終わった。

俺自身が一番分かってる……。駄目だ、さっぱり分からねえ。

そう言えば審問の時も、ローズ隊長は終始俺の事を庇う発言をしてくれた。

でもきっとローズ隊長は、根っこの部分では自分と同じ、頭より身体が先に動いてしまうような人物だって思ってくれたのだろう。

うん、そうに違いない。半ば強引に解釈をして自分を納得させた。


そのまましばらくはクマに変身したキーファさんの後ろを付いていった。

キーファ参謀長が来てくれてよかった。来なかったらこの迷宮を勘だけで進まなくてはいけなかった。

10分くらい歩いただろうか見える景色は変わらず俺たちは相変わらずクマの大きなお尻を眺めていた。

「長い迷路だ、本当にこんなところにマルケル司祭はいるのかよ。」

「確証がなければこんなに迷いなく進めまい。きっとこの先にマルケル司祭は居るはずよ。」

「あんたほんと文句ばっかり、男でしょ!もっとシャキッとしなさいよ!」

「うるせえな!言われなくてもシャキッとしてるよ!傷もいたくねえ!ピンピンしてるぜ!」

ん?傷も痛くない?自分で言って疑問に思った。

戦闘中はアドレナリンが出ているから痛みを感じなかったとしても、この道中まではそうはならないはずだ。

あの口裂け女との戦いではかまいたちのような風に切りつけられて皮膚がパックリ割れてしまっていた。

致命傷ではなくとも縫わなければいけないような傷だった。なのに痛くない。

俺は切られた腕をめくった。傷は確かにあったが皮膚はくっつき再生しかけている。

いくらミカエル様の加護のあるカレドニアの世界とはいえ、この再生速度は異常だ。

俺は自分でも知らない秘密が、俺自身の中にあるのではと強く思った。


そう思った矢先キーファさんが変身を解除して人間の姿に戻った。

「止まれ。この先にマルケルがおる。」

キーファの示す先には大きくひらけた部屋がある。そこには明らかに人の手で作られた照明も天井にぶら下がっていた。

今までの細長い道とは訳が違う。明らかに何かありそうだ。

キーファさんは鼻を押さえながらぼやいた。

「それにとても臭う。血と悪魔と……、様々な臭いが混ざって凄まじい臭気となっておる。」

「誰かが争っている……、もしかして!マルケル司祭じゃねーのかっ!?」

「だといいけど……。ローズ隊長っ!どうします?」

「マルケル司祭だろうとそうでなくとも。私達のやることは変わらない。敵を倒して、次の戦闘が優位になるように情報を集める。私が先頭だ。2人とも付いてこい。キーファ参謀長はご自身の身を守れる所まで下がっていてください!」

「はい!」

「あぁ!わかったぜっ!」

「承知した。」


ローズを先頭に、俺達は正面の大きくひらけた部屋へと向かった。

『ガキンッ!ガキンッ!』

「なんだ……こりゃあ。」

目を疑った……。広間へと辿り着くと、そこには今までの悪魔とは比べ物にならない程大きな悪魔が居た。

「あれは!フリードっ!!」

悪魔の正面にはフリードの姿があった。

そして良く見ると回りには無数の悪魔達の死骸がある。

「うそっ。この数を、たった一人で……」

「フリードっ!おいっ!大丈夫かっ!?」

「むっ、その声は……っ!流星!それにローズっ!」

「大丈夫かフリードっ!加勢にきたっ!」

「フリードっ!よく持ちこたえたね。もう大丈夫よ。」

ハイル!とローズが合図をするとミアが弓を取り出してあの巨体目掛けて攻撃を繰り出した。

「それだけでかい図体だと、当てるのは簡単ねっ!」

ハイルの光の弓矢と共に、ローズは槍を取り出して力を込めた。

金色に輝く槍は何倍にも大きくなるとローズはそれを思い切り悪魔に向かって投げつけた。

光牙槍(こうがそう)!」

槍投げの要領で投げられた槍は悪魔の元へ到着する頃には同じくらいの大きさになっていた。

「グゥアァァァァッ!!」

心臓には槍、頭には矢が命中して、悪魔に大きな隙が生まれた。

「ふっ、来て早々派手にやってくれる。」

フリードはその隙を逃さず高く飛び上がるとその悪魔の首元まで一気に距離を詰めた。

光の刃(ふぉとんぶれーど)!」

大きななぎ払いは大木のように巨大な悪魔の首をいとも簡単に切り落とした。

剣先から出た光の刃は研ぎ澄まされ、洗練されており、切れないものはないのではないかと思える程だった。

「すごいっ!みんなっ!あんな化け物を、あっという間に倒しちまった。」


「く……くそっ!こいつが最後の切り札だったのにっ!」

爪を噛み悔しさを滲ませながら祭服を着た男は狼狽えて(うろたえて)いた。

巨大な悪魔で見えなかったが、悪魔の背後には赤黒く巨大な蜘蛛の卵の用な物があった。

「フリード。これは一体。」

「悪魔の巣だ。ここから奴らは悪魔を召喚して、村を襲わせた。」

「それじゃあ、ここで死んでる悪魔も。」

「あぁ、全てここから出てきたんだ。」

優に100体は越えているであろうこの悪魔達、全てここから出てきたと考えると本当に恐ろしい。

「きっと他にも、何ヵ所か同じような悪魔の巣がある。まさかカレドニアの住民の中に、裏切り者が居るなんて。」

フリードはそう言うとマルケル司祭の方を見て睨んだ。

「あ、あんたの方が化け物だよフリードっ!こんな筈じゃなかった。こんな筈じゃあ……。それになんで……お前らはこの場所が分かったんだっ!?フリードには追わせるように仕向けたが。追っ手が来ても迷わせられるように、こんな構造にしたのにっ!」

くそっ!くそっ!とマルケルは地団駄を踏んでいた。

「マルケル、事情は全て城で聞かせてもらう。おとなしく投降しろ。」

「神様……どうか……どうか助けて……。」

息を荒くしながら、神に祈りを始めた。

「あんたが祈ってるのは何の神?ミカエル様に背いて。よく祈りなんて出来るわね。」

ミアがそう言って悪態をつく。

マルケルは袋のネズミ。もう逃げ場なんてない。

ところがマルケルの曇っていた表情は途端に明るくなった。

「……はっ!はははぁっ!神はまだ俺を見捨てては居なかったっ!」

感情の起伏が激しくもう頭が可笑しくなってしまったのかと思った。

だが違った。マルケルは瞳孔の開いた眼でこちらを見据えると勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「おい女ぁ。俺が誰に祈ってるかだって?教えてやるよ。俺が祈ってるのは……サタン様ただ1人っ!」

『ザシュッ!』


……俺の背後で何かが生々しい音がした。

肉を引き裂くような、そんな音。

「ぐはぅっ!」

『ポタ……ポタ。』

苦しそうな声と何かが滴り落ちる音。

……振り向くとそこには腹部と心臓を貫かれたローズ隊長と、手から自分の身長くらいの長さの鋭利な爪を出して不適な笑みを浮かべるキーファの姿だった。


「ローズさんっ!!!」


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