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堕ちた月

こんにちは!

ご覧いただきありがとうございます。

初投稿、初小説です!

生温かい目で見て頂けると幸いです。

小さいころから寝る前に妄想するのが好きで、この話もその妄想から作られたものです。

いざ文字に起こすと、こんなに難しいものなのだと感じました。

主人公の月野流星は逆境の中でもたくましく育った男です。

変わりたいと強く願った彼の人生は果たしてどうなるのか、見届けて下さい!

人の本質は変えられない。

どんな教訓や戒めがあったって元々持っている素質や本能と言うべきものは確かにある。俺は小さい頃から悪意に敏感で相手が自分をどう思っているのかなんとなく分かった。そしてどんなに頭で考えても勝手に身体は動くし心は拒絶する。


俺の人生は決して恵まれているとは言えない。

家は貧乏で親父はギャンブル狂いに暴力なんて日常茶飯事。母さんは毎日泣いていた。

俺と母さんは毎日親父に殴られていた。

母さんや俺を殴っている時の親父の嬉々とした表情は大人になった今でも鮮明に覚えている。

俺が小学生の時母さんはいつものように飲んだくれて寝ている親父を包丁で刺そうとした。

俺は母さんを人殺しにしたくない。その一心で母さんを止めようと親父との間に割って入った。


「流星お願いっ!どいてっ!でないとあんたも殺されるっ!」

日に日に悪化する親父の暴力に俺も母さんもボロボロだった。

その日俺は親父に右目を思い切り殴られて眼の奥にある骨を折られた。

この後遺症は大人になった今でもあり物が二重に見えてしまう。

これが原因で俺は夢だった警察官を諦めることとなった。

俺は2人の間に立ったまま動けなかった。

母さんも俺を前に包丁を向けたまま固まっている。

「お母さん、抱っこして。」

俺は泣きながらそう言った。

すると母さんは持っている包丁を地面に落とすと声を震わせながら俺に言った。

「……ごめんね。お母さん、少し疲れてたね。流星……おいで……。今日はご飯何にしようか。」


そう言うと母さんは俺に歩みより抱いてくれようとした。

だが俺の後方を見上げ身体を震わせて怯えると落とした包丁を再度拾い上げた。


「っ!!こないでっ!!流星から離れてっ!!」


これが俺の母さんとの最後の記憶。

背後から親父に思い切り頭をどつかれた俺は右耳の鼓膜が破れ脳震盪を起こして気絶した。

それから母さんは持っていた包丁を親父に取られてメッタ刺し。

親父もすぐ警察に捕まった。それ以来親父には一度も会っていない。


俺は母方の親戚の家に預けられた。しかし母さんを殺した親父の血が、人殺しの血が流れていると言われ親戚中を転々とし、最終的には施設にいた時間が一番長い。

15歳で施設を出た後日中は清掃や飲食店でバイトをして生計を立て夜に定時制の高校に通いながら教師を目指していた。

4年かけて学校を卒業して今もバイトを続けながら通信制の大学に通っている。


「あ~あ。今日もバイト先の店長に怒られちゃったよ。明日までに髪染めてこないとクビだ~って。イマドキピンクの髪の毛くらい普通だっつ~の。」

けだるそうな話し方に全身赤系のファッション。ショッキングピンクの髪の毛。

メイクもバッチリピンクで常に甘い香りを漂わせているのが俺の彼女でえりか。このファッションは最近の流行らしい。

こいつ以外でこのファッションにしてる奴を見たことがないが。

3年付き合っているが流行の移り変わりが激しく去年は全身緑のルイージみたいな服装でデートしたこともある。

俺にとっては家族のような存在で彼女の弟の陽太君も俺に懐いてくれている。

小さい頃に親を亡くして、親戚からも憎悪の目を向けられた。後遺症で夢も叶えることが出来なかった。

だけど今はえりかがいる。不幸続きの俺の人生で、えりかとの出会いは本当に幸福だった。

今バイト帰りの彼女と合流し家まで送っているところだ。


「まあカフェだしな。今まで注意されなかったのが不思議なくらいだよ。」

「ピンクにした途端これだもんね~。なら最初から採用すんなっつ~の。あ~あ。新しいバイト探さなきゃな~。」

「古着屋とかいんじゃない?えりか好きじゃん服。」

「う~ん。でもな~。カフェの時は毎月コーヒー券貰えてたからさ~。うちも弟もココア好きだし。またカフェがい~な~。コーヒー券貰えるとこ♡」

「コーヒー券なのにココア貰うのな。じゃあこの目に悪そうな髪の毛なんとかしねーとな。」

そう言って俺はえりかの髪を持って揺らした。

肩まである長い髪はいくらお団子で隠しても目立つだろう。

「あ~ひど~い。流星こないだかわいいねっていってたじゃん。」

「俺がとかじゃなくてだな……。あ、そうだ!そいえばえりか。陽太くん元気?最近えりかの家行ってねーからしばらく会ってねーな。」

えりかが怒りそうなので話をそらした。

陽太くんはえりかの12個下の弟で小学校1年生。

人懐っこく素直な優しい子だ。懐いてくれた時は兄弟がいない俺には弟が出来たようで嬉しかった。えりかも陽太くんの事がとても大好きでコーヒー券はココアでも使えるので持って帰っては喜ばせていた。


「陽太はね。最近忙しくて部屋から出てこないの~。」

「忙しい?宿題が多いわけでもあるまいしなんでだよ?」

「さあね~。なんででしょ~。」

えりかはニヤニヤしながら言った。

「あーはいはい、教えてくれねーわけね。そーですかー。」

「怒った?ねえ怒ったの流星くん~。」

「ほんとめんどくせーなお前は。で、何?教えろって。」

「教えな~い。」

そんな押し問答をしていると救急車のサイレンの音が聞こえてきた。

『ウゥーン!!ウゥーン!!』

『ピーポーピーポー!』


けたたましいサイレンに思わず身体が強ばる。

救急車に消防車が猛スピードで通過した。


「どうしたんだろ~。火事かな~?」

俺は背筋がピリッとするような何か嫌な予感がした。

なによりその救急車達の行き先がえりかの住んでいる団地の方向ということに引っ掛かった。

違ったらそれでいいんだ。

心より身体が勝手に動いていた。


「えりか、悪い。ちょっと先行ってるぞ。」

「えっ?ちょっ!流星っ!!」

えりかを置いて俺は走り出していた。

この胸騒ぎはなんだ。

悪い予感で全部自分の思い過ごしだ。

そう思いながらもどんどんスピードは上がっていった。


……悪い予感は当たった。

近くまで来ると煙を上げながらえりかの住む団地は大きく燃えていた。

大きな煙を巻き上げ真っ赤な炎が全てを燃え尽くさんと広がっている。

まるで生きているかのように。

何台も消防車が止まって消火活動をしているが一向に火は消える様子はない。


俺は避難してきた住民達の元に駆けつけると陽太くんの姿を探した。

えりかの家は母子家庭で母親は今日は夜勤で一人で留守番をしていると言っていた。

住民達の中に陽太くんの姿は見当たらなかった。

俺は近くにいた人に尋ねた。

「すみませんっ!小学校低学年くらいの男の子見かけませんでしたか?」

「いや、子供は見てないね。」


団地は3階建てで火は2階を中心に燃え広がっている。

えりか達の部屋は2階で火元からはかなり近い。

入り口はかなり火の手が強く侵入するのは難しそうだ。

俺は裏手に回って入れる場所がないか探した。

裏からなら入れる場所があるかもしれない。


裏手に回ると入り口の方よりは火は回ってない。

特に2階のえりか達の部屋はまだ火の手は回っていなさそうだ。

俺は3階から伸びている配水管パイプをよじ登るとえりかの家のベランダに飛び移り侵入した。

「熱っ!!」

窓を開けようとすると取手部分がかなり熱くなっている。

これはまずい。早くしないと中にいる陽太くんが危ない。

俺は上着を脱いで拳に巻き付けるとガラスに向かって思い切り拳を振り抜いた。

何発か打ち込むとガラスは砕けた。

「よしっ!」

中に入るとものすごい焦げ臭さと熱さを感じた。

目も鼻も肌もピリピリとしている。

俺はもっていたハンカチで鼻を覆うと寝室へと進んだ。


「陽太くんっ!」

寝室に入るとベッドの下で倒れている陽太くんを見つけた。

呼吸は浅いが生きてる。

俺は陽太くんを抱えると急いで入ってきた窓から脱出しようとするとおぼろげな意識の中陽太くんが俺を制止した。

「お兄ちゃん……まって……僕の部屋に……。」

「陽太くん、悪ぃけど部屋には戻れねぇ。」


陽太をおんぶしながら2階から飛び降りた。

『どすっ!』

子供とはいえ人を担ぎながらの着地はかなり膝への衝撃がかかる。

「いっってぇ。」

下には草が生い茂っていた事もありかなり痛かったが無事下に降りることが出来た。

「はぁ……はぁ……。よかった……。」

はやく団地に到着できて良かった。

えりか達の部屋の見ると先程までいたベランダにはもう炎が広がっており少しでも遅かったら死んでいた。


安堵したのも束の間、えりか達の部屋の上を見ると小さい女の子不安そうな顔をして窓からこちらを見ていた。

今にも火は3階まで燃え広がりそうだ。

「くっそ!まじかよ。」


俺は急いで救急隊のもとに陽太を送り届け言った。

「この子をお願いしますっ!意識はあるから後はなんとか。」

「うそっ!あなた中に入ったんですかっ!?」

「あぁ!でもまだあそこの3階に逃げ遅れた子供がいるっ!」

「ええ、わかりました。とにかく今は近づかないで下さいっ!危険です!」


必死の消火活動も虚しく火はどんどん燃え広がっている。

このままじゃあダメだ。絶対助からない。

そんなことを考えているとえりかが息を切らしながら到着した。

「流星っ!いったいなんで…。陽太は?陽太は無事なのっ??」

えりかは取り乱して今にも泣きそうだった。

俺はえりかの両肩に手を当てると諭すように話した。


「えりか、落ち着け。陽太くんは無事だ。多少煙を吸っているが意識もある。さっき救急隊の人にお願いして今は救急車の中だ。」

「はぁ…はぁ…。良かった。本当に…うぅ…。」

安堵したのかえりかは泣き出した。

だがこうしてはいられない、早くあの女の子を助けに行かないと。

「えりか、聞いてくれ。3階にまだ女の子が取り残されている。このままだったら死んじまう。」

「だめっ!やめてっ!流星も死んじゃう!この火見たらわかるでしょ!陽太を助けてくれただけでも十分だよ。お願いっ!後はあの人たちに任せよう?ねっ!?」


「えりかっ!もしかしたら助けられるかもしれないんだ。えりかは陽太くんの側に居てくれ。」

「流星っ!!」

「おいっ!きみっ!待ちたまえっ!!」

救急隊とえりかの制止を振り切り俺は再度裏口に回った。


裏口に回り3階を見ると先程までいた女の子の姿が見えなくなっていた。

俺は3階まで登りきるとベランダに飛び移り中を見た。

中は煙が充満しており陽太の時よりまずい状況だった。

急いで窓を割り中に入った。

女の子の泣き声とパチパチと天井が燃えている音が聞こえてきた。


玄関の方はもう既に燃えてしまっていた。

俺は寝室に進むと先程の女の子が居た。

「おい!大丈夫かっ!?」

「……ぐすっ……さっきの……お兄ちゃん。」

「もう大丈夫だ!さあ!逃げよう!」

俺は女の子の手を掴むと出口に進もうとした。


「だめっ!」

女の子は俺の手を振り払った。

「おい……どうした……早くしないと火がきちまうぞっ!」

「ままが……ままが……。」

女の子が泣きながら指を差すそこ先にはベッドの横で倒れている女性が居た。

俺は駆け寄ると息をしているか確かめた。


「良かった。まだ息がある……。苦しそうだが……ベッドから落ちてまともに煙を吸わなかったのか。」

呼吸はしているが意識はない。

だがどうする、一度に2人は助けられない。

意識のある女の子ならおんぶをして助けることが出来るが大人を担いで下に降りるのはかなり厳しい。

それにあの娘はまだ子供だ。

きっとお母さんも自分の命よりも娘の命を助けたいと願うはずだ。

俺は女の子に向き直るとゆっくりと話しかけた。


「いいかい?まず君を助けてその後すぐお母さんを助ける。だから早く俺と行こうっ!」

「いやっ!ままを先に助けてっ!」

「命には優先順位がある。お母さんもきっと自分の命より君の命を優先する筈だ。」

「いやっ!絶対にいやっ!」

頑として女の子は断り続けた。


駄々をこねられても仕方ない。

無理やりにでも連れていこう。

そう思い女の子を抱き抱えようとした。


「みいちゃんより赤ちゃんの命の方が大切なの!」

「……えっ?」

「ままのお腹の中には赤ちゃんがいるの。」

……気がつかなかった。

後ろを振り返り良く見るとお母さんのお腹は衣服に隠れているが膨らんでいるように感じた。


「くそっ!」

この火を見ても2人は助けるのは絶対に無理だ。一か八かで2人は担いで飛び降りるのも先ほどの陽太君の時に難しいと分かった。

女の子だけでも助ける方が結果として良い選択だと思っていた。

だがお母さんの中にはもうひとつの命がある。

トロッコ問題ではないが自分が命を選ばなければいけない状況になったときに何が正しい選択なのか分からない。


俺は気が動転してしまい呆然とした。

すると女の子が俺の袖を握りながら言った。

「助けに来てくれるんだよね?」

「……えっ?」

「また助けに来てくれるんだよね?だったらみいちゃんは大丈夫だから。お母さんを先に助けて。」

女の子は両手を合わせて握りしめると身体を震わせながら俺に笑顔でそう言った。

怖くてたまらない筈なのに。

「赤ちゃんはね、男の子なんだ。弟が出来たらね、みいちゃんいっぱいお世話するの。みいちゃんお姉ちゃんになるから。」

ポロポロと涙を流しながらみいちゃんは言った。

「……わかった。絶対助けるから。君も……弟も……お母さんも。約束だ」


みいちゃんにベランダで姿勢を低くして待たせるとお母さんをおんぶして身体を部屋にあったテープで簡易的に固定させると急いで下に降りた。

パイプはかなり熱くなっておりかなり熱い。

パイプを降りきった頃には俺の手はただれて痛々しかった。


「お腹に赤ちゃんが……。なんとか助けてあげてください。」

「すごいな……君は。」

下で待っていた救急隊にお母さんを引き渡すと再度3階に行こうとした。

だが3階は既に火が燃え広がっている。

素人目に見てもわかる。今助けに行っても女の子が生きている可能性の方が低い。

助けに行けば死ぬ確率の方が高いだろう。

だが俺は気づいたらパイプに手を掛け登ろうとしていた。心よりも先に身体が動いていた。


「おいっ!何をする気だ!」

救急隊の1人が俺向かっていった。

「まだベランダに子供がいる。」

「ベランダに人影はない。きっと怖くて中へ入ってしまったんだろう……もう無理だ、助からない。あなたは2人の命を救った。ヒーローです。あなたが起こした火事でもあるまいし、もう十分です。この火の中に飛び込もうなんて命を投げ捨てるのと同じだ。」

「……そうですね。無理な約束はするもんじゃなかった。」

そう言うと俺は救急隊の制止を振り切りパイプを登った。無理やり止めようとする手を振りほどき3階まで登っていく。

「おいっ!やめろっ!戻れっ!」

「子供を連れてくる。絶対助けてくれよ。」

俺の手から焦げ臭い臭いがしてくる。ただれた肌にはピンク色の肉がむき出しになっていた。


ベランダもかなり熱く息を吸うのもかなり辛い。

中へ入るとまだ火の手が回りきっていない寝室からみいちゃんの泣き声が聞こえた。

「はぁ……はぁ……。良かった……。」

俺はみいちゃんの方へ行くと思い切り抱き締めた。

みぃちゃんの体は小刻みに震えている。とても怖かっただろうに。

「もう大丈夫だ。怖かったな……。」

「お兄ちゃん。来てくれたんだね……。」

「……約束したからな。さあ……逃げるぞ。」

みいちゃんを共に姿勢を低くしながらベランダに向かって進んでいく。

だが猛烈な速度で進む火の手が行く手を遮るように燃え広がった。


「くそっ!危ないっ!!」

天井が崩れて俺たちの上から燃えている木材が降ってきた。

俺は反射的にみいちゃんを庇うように覆い被さった。

火は俺に燃え移った。


「うわぁーーーっ!」

熱くとてつもなく痛い。

俺は必死で立ち上がろうとするも落ちてきた木材が重くて立ち上がれない。

みいちゃんだけでも……と必死で身体を起こし逃がそうとした。

「お兄ちゃんっ!お兄ちゃん!」

「に……逃げろっ!そこの……窓の下には救助隊の人がいる……。」

「いやだっ!お兄ちゃんも一緒に逃げるのっ!」

みいちゃんは燃える天井の下敷きなっている俺に向かって手を差し伸べている。

俺も彼女に向かって手を差し出す。

『バンっ!』

俺の真上から何かが爆発したような音がした。背筋にピリッと悪寒が走った。

「危ないっ!離れろっ!!」

俺はみいちゃんに、向かってそう叫んだ。

反射的にみいちゃんは少し下がったがそれと同時に天井から火のついた木材が一気に落ちてきた。

……俺の視界や音や感覚すべてがなくなった。

俺が最期に見たのはみいちゃんの泣き腫らした顔だった。


みいちゃんは助けられたのかな?

死に際に俺が考えたのはその事だった。

死ぬ前には今までの人生が走馬灯のように駆け巡ると言うが俺はそうはならなかった。

思えば俺の人生。最低だったな。

親父はくそで俺のせいで母さんは殺された。

良かれと思ってやったことが結果として最愛の人の死へと繋がった。

せめて胸を張れるのは人生の最後に人のために死ねたこと……。

死ぬには早すぎる気もするけどまあ良いか。

みいちゃんは助かったのかな……。

失いつつある命の中で俺はそんなことを考えていた。


人の祖先は海から生まれたように還る場所もまた海なのだろうか……水中に入ったような包まれた感覚の後に深い深い深淵にゆっくりと入っていくような、そんな気分だ。


……どれくらい時間が経っただろう。

長い眠りから覚めたときのように、ぼんやりとした意識のなかでゆっくり起き上がった。

「……ここは?」

周りは綺麗な緑色の草原で所々に色とりどりの花が咲いていた。

花びら一枚一枚の先に小さな丸い球体がある。始めて見る花だ。

特徴的なその花はほのかに甘く落ち着く香りがした。


前方を見ると白を基調としたとても大きなお城のような建物が見える。

「あの建物は。」

今まで生きてきて見たことのないくらい大きな建物だ。東京ドームよりもはるかに大きいその建物からは無機質ながら、人の気配も感じた。

あぁ、くそっ。頭の中が混濁して整理がつかない。

俺はたしか燃えた天井の下敷きになって死んだ筈だ。

だとするとここは死後の世界……。

天国……なのか?

俺はもう一度近くにある花を見てみた。

こんな花今まで見たことがない。

特になんだ、この丸い球体は。

俺は花びらの先の小さな球体に触れてみようとした。

そうすると背後から女の声が聞こえてきた。


「やめた方がいい。」

背後からの声に思わず声が出た。

「うわっ!」

驚きながら振り返ると俺から10メートル先に真っ白な服に身を包んだ金色の瞳の女がこちらを見下ろす様に立っていた。

腰まで伸びた銀色の髪が風に揺られてなびいている。力強くも優しい瞳で俺の方を真っ直ぐ見ている。

身長は俺より少し低いくらいだがスタイルが良くモデルの様な体型だ。

顔立ちもかなり整っているがまだあどけなさも残っているような雰囲気で年齢も俺と変わらないか、もしかすると年下なのかもしれない。

動揺している俺を他所に彼女は続けてこう言った。

「これは爆火草。この世界の爆弾の原料で中身が外気に触れると爆発する。」

「……そんな危ねえもんがなんでこんなところに。」

「ああ……。ここはね、立ち入り禁止なの。騎士団の私有地。」

「ちょっと待てって!この世界とか軍とか何言ってるのか全然わかんねーよ!」

「……あなた新入りでしょ?付いてきて。案内する。」

そう言うと彼女は俺を横切り城のある方向に向かって歩きだした。

「おい待てって!案内するってどこにっ!?それにここは一体なんなんだっ!」

俺がそう言うと彼女は振り返り涼しげな笑みを浮かべこう言った。

「ここはカレドニア。下界と天界の架け橋よ。」



最後までご覧いただきありがとうございました!

いかがでしたか?

感想ございましたら書いていただけると幸いです!

また気に入って頂けたらブックマークといいねも是非お願いします!

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