忘れ物お届け屋
そして無事に流川さんの連絡先をGETできた。嬉しさから自然とニヤけてしまうのは不可抗力だ。でもこの顔を見られては何と言われるか分からない。キモいなんて言われたら立ち直れそうにない。
我慢しても微妙に口角は上がっているのが分かる。このぐらいなら気づかれないだろうが。
流川さんを目の前にしてから暑さを感じていない。日陰でも暑すぎるほどだったのに。それほど流川さんに対してパニックになっていたのだと思う。
「なんで神代はここにいるの?」
僕の気持ちなんて知らない流川さんは聞いてくる。正直に答えるべきか否か。答えは1つ。
「流川さんの圧に耐えられなくなって……」
正直に答える。僕は嘘がつけない。嘘をつきたくない。
「私の圧?」
基本何をしても流川さんには圧がある。喋りかけるな、触れるな、視線を送るなという圧。今回はそれのどれにも当てはまらないものだった。
「朝、噂のことで気にしてないか流川さんの方をチラって見たら僕を睨んでたからそれに耐えられなくて逃げる形でここに来たって感じ」
「何それ。私睨んでなんかないのに」
「え、そうなの?」
「睨んだら喜ぶやつとか、叫ぶやつとかいるから誰も睨まないよ」
「あーーはいはい」
たくさんいるから特定はできない。なぜこんなにもドMがうちの学校には多いのか気になるが。いや、むしろドMにさせられているのかもしれない。
そうでなければ流川さんの前では生きていけないと脳が錯覚してるのかも。どちらにせよ森くんをはじめとしたドM男子集団はこれからもぞんざいに扱われると思うと頑張れと応援したくなる。
「とにかく戻った方がいいよ。暑いし誰かに見られると困るのは私だけじゃないし」
「うん。そうだね」
結局怒られることはなく逆に得したという不思議展開だったが何事もなくすんでよかった。でも僕の中にはあの朝見た圧がなんだったのか答えが出ておらず、違和感として残っているのがムズムズしていた。
いつか分かればいいんだけど。
屋上のドアを閉めることで夏の陽とお別れする。外の日陰と校内とでは天と地ほどの差があった。校内のほうが何倍もましで感覚が狂ったのか涼しく感じる。
僕と流川さんは時間差で教室に戻る。僕が後で流川さんが先。距離のおかげで途中で会話することはなく、各教室から聞こえるさまざまな声のおかげで静寂に包まれることもなかった。
そして教室に戻ったのは流川さんが戻っておよそ1分経ってから。誰にもどこに行くとは伝えていないので森くんや彼方くんにどこに行ってたのか聞かれたらトイレに行っていたと言えば問題ない。
クーラーのおかげで余計涼しく感じる。いや、もう寒いまである。僕1人の意見でクラス冷房を切るわけにはいかないので我慢。
流川さんはというと、弁当を出して友達と楽しく会話をしながら食べている。先ほどからは考えられない表情に不意に笑顔になるのはきっとホッとしたからだろう。
カバンに手を伸ばし弁当を取り出そうとする。
「お前どこ行ってたんだよ。探したぞ」
「ん?あー彼方くん」
早速話しかけてきたのは彼方くん。いつも弁当を一緒に食べている……というわけではないのだが。ちなみに僕はいつも1人で食べている。理由は好きだから。1人が落ち着くし何にも気を使わなくていいので楽。
「どうしたの?」
探す必要があることとはどんなことかシンプルに気になる。
「蓮水さんがお前に用事があるって呼んでるぞ」
「雫が?」
蓮水さんとは隣のクラスにいる蓮水雫のことで、中学のとき隣に引っ越してきて、それから仲良くなった陽気な女の子。渚に次ぐ第2の幼馴染のような感じだ。
名字とさん付けで呼ばない女子は渚と雫だけ。仲のいい女の子なら名字だけか下の名前とさん付けだ。
「分かった、ありがとう」
たまに呼ばれることはある。その時はだいたい僕が忘れ物をしたとき。雫が待っているとこはいつも同じなので分かりやすい。助かる。
2度目の教室退出。いつ弁当を食べれるのだろうか。そう思いながらも無視はできない。
教室出て2つ先の教室の入口までやってくる。僕が教室に不在の時雫は戻ってしまうので僕がここに来なければいけない。そしてここに来て顔を見せるだけで、雫が出てきてくれるというとても優しいシステムとなっている。
僕の顔を見た瞬間に目をパァーっと光らせる。まるで好みの小動物を見つけたときのように。そして友達に両手を合わせこちらにくる。おそらくちょっとごめんと1言入れたのだろう。
雫もなかなか可愛い容姿をしている。少なからずこの3組では1番と言っていいだろう。そんな雫が少し動くだけで視線を集めるのはやはりいつ見てもすごいと思う。ちょっとしたインフルエンサーだ。僕の所属する1組では流川さんが圧倒的。学年、学校を含めても1番ではないかと思う。
そう、容姿だけなら。でもツンとした性格なのは少し残念……と思われるが実はそこまでではないのかと思っている。あの、ぬいぐるみをもらって感謝をするときの流川さんを見ると。
そんなことを考えているとあっという間に僕の目の前に23cm低くて可愛い女の子がやってきた。
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