この先はどこまで行ける
11月15日の土曜日、曜日なんて関係ないがたまたま休日だったのは僕の日頃の行いが良いからかも。なんて思いながら偶然を運だと思い、僕は流川さんの家に向かっていた。
そう、この日が流川さんの誕生日。特別な日に被ることはなくとも、この日は僕にとっては特別な日だ。あの流川さんの家にお邪魔出来て、1人でお祝い出来るのだから。
流川さんは親の借りたマンションに一人暮らし。流石にご両親が居る家に僕が1人で行けるわけもなく、右手に例の物を持って向かっている途中。
もちろん人気で至高の流川さんを祝いたいと思うクラスメートは多く、何人も昨日の放課後に押し寄せては休日パーティーしないかと誘っていた。
しかしそれらを大きな声を出して全て蹴り、家でゆっくりしたいからと誕生日でなくても安易に出来ることをやると言い切ってその場を切り抜けていた。正直その時僕もお願いをするのを辞めようと思ったが、そんなことで挫けててはこの先仲を深めることは出来ないと思い、僕と流川さん以外誰も居なくなった教室で誘った。
すると気まぐれ流川さんは二つ返事であっさり承諾してくれた。
その瞬間にペコペコ2回音速でお辞儀をしたのはこの先忘れることはなさそうだ。
「しっかし、仲を深める……か……」
防寒対策完璧の服装に暖められながら、誘ったときの気持ちを蘇らせて僕はひたすら歩いている。
仲を深めることが僕が流川さんとゲームセンターで出会った当初、1番に思ったことだった。今思えばそれから派生した気持ちは何もなく、ただずっと変わらず流川さんと仲を深めたい深めたいと連呼するように思っていた。
でも実際は仲がいいとは言えるほど距離は近い。それは僕の思い込みではなく、きっと流川さんだってそうだ。少なからず出会った時と今では差は生まれているはず。
だから考える。いや、考えさせられる。
僕たちは一体この先、どこまで行けるのだろうか。と。
自然なことだと思う。あの流川さんと男子の中では誰よりも抜け出ているほど親しいんだ。僕は当たり前のことを当たり前のように考えている、平凡で面白みのない男子。だけど気持ちは思春期男子だ。それだけは変わらない。
行けるとこまで行ってみたい。
そう答えは出している。この時点でもう出逢った頃の僕ではなくなっていると、流石に分かった。
友達として、そのままの関係でいいのならこの先が気になることはあり得ない。でも気になる。
すると流川さんの顔や仕草が勝手に脳内にばら撒かれる。それを1つも逃さないよう拾い集めては過去を振り返る。どれもこれもいい思い出ばかりで、拾いたくないと思う過去は存在しなかった。
「僕って……そうなのかな」
そうなんだよ。
確信しろと厳しく伝える僕がいる――分かってるって。
ポツリとでも声に出さなければ頬が染められそうだった。ただでさえ僕は染めやすい頬を持つ赤面男子。そうらしいから少しでも染めないように発散した。
誰も僕は見ていないが恥ずかしさから、照れから無意識に体は動いてしまう。そうプログラミングされているかのように。
気付いてしまえば困ることは更に増える。雫にキャンプで言われた応援するという言葉、それを簡単に理解出来るほど僕はこの気持ちを知った。
「うわぁ、今思えばめちゃくちゃ恥ずかしいな」
主にキャンプでの触れ合いが大きなダメージを胸の奥底に与えてくる。脳裏に浮かばせないようにしても関係ない。
きっとその時からこの気持ちはあって、でも知らないフリではなくホントに知らなくて、ただ楽しい時間を共有出来てることが幸せと感じてるんだってそう思ってた。
勝手に書き換えられてたんだ。
進む足は確実に一歩を踏みしめて歩く。頭の中での自分と体の自分で分かれているかのようだ。でも気持ち悪さも違和感もない。
11月中旬とは思えぬ暖かさに自分が流川さんとの思い出に染められているから、とまではまだ理解していない。この時は体温が心地良くて何もかも上手くやれる、ランナーズハイのような感覚に陥っていたと思っていた。
まだ恋愛に鈍い僕だったが、確かに気付いた気持ちは迷いを生んだ。
「どうしよう、今から一対一で流川さんの家にお邪魔するのに……」
こうなるならいつものメンバーを誘って来るんだった、とIFでしかない後悔をする。でも薄々気付いていたからいつものメンバーで誕生日パーティーをしようとは言い出さなかったんだとも思う。
真意を知る方法は今の記憶を持って過去に戻るしかないので、もう忘れることにする。それに今集中すべきは到着したマンションに住む天使についてだ。
何階建て?15ぐらいかな、最上階を見上げるのは首によろしくないマンションの前で僕は一息つく。
「気持ちに整理が付いてないから今日は……乗り切ろう」
覚悟の一息だった。今日は誕生日を心からお祝いすることだけ考える。だってそうでないと、流川さんの誕生日で好意のない人からいきなり伝えられたら困るだろう。
だから一旦この気持ちはまだ気付いてないフリをする。
そして僕はマンションのエレベーターに乗り、流川さんの住む階を押し――マフラーも取った。
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