ベランダが玄関
――「それで?私の好きな物を聞いてどうするの?」
文化祭を終えて既に2週間が経過し、11月に入った今日、僕は雫に対して好きな物について聞いていた。とっくに文化祭の熱は冷め、2学期残るはテストだけという時間経過の早さに素直に驚かされる。
「確か流川さんの誕生日が近かったから何か参考にならないかなって思ってさ」
そう。今日から1週間半後に我らが天使の誕生日を迎える。日頃誰よりもお世話になっているし、困らせたり幸せを貰っているのでそのお礼も兼ねてプレゼントをしたいと思った。
「へぇー、閃くんって意外とグイグイ行くタイプなんだね」
「そういうタイプでは無いけど……ただ、お礼をしたいだけ。雫だってプレゼントしたりするでしょ?」
「うん、するけど、閃くんは絶対に下心あって蘭ちゃんにプレゼント贈るだろうから、そこは違うかなー」
「……はぁぁ」
聞く耳を持たないからため息をついているのではなく、実は下心満載で図星だから誤魔化すためにため息をついたのだ。それには気付かない雫でも、その必要のないぐらい僕について詳しいので、下心の有無なんてはっきり分かってるだろう。
「とにかくそういうことなら私が蘭ちゃんから直接聞き出そうか?」
「良いの?」
「そうした方が閃くんには都合良いでしょ」
「ならお願いしようかな」
「おっけー、任せて」
「僕が頼んだからとか言わないでね」
「もちろん。私は閃くんの味方だからね」
胸をポンと叩いて活躍しますと言わんばかりに堂々と構える。雫はとても信頼出来る親友だ。
そうして雫に流川さんの好きな物について聞いてもらうことになった。僕は流川さんが可愛い物が好きだとは知っているが、具体的なものは知らない。
野菜が好きと抽象的に言われているものだ。なんの野菜が好きなのかは不明。だからピンポイントで答えを知るべくだんだんと選択肢を絞るつもりだったが、その必要もなくなった。
帰り際に隣並んで話していたので、気付けばお互いの家の前。簡単に挨拶を交わしてそれぞれの家の中へ帰って行った。
――それからしばらくして日が完全に落ち、時計の針は20時を過ぎた頃、早速雫からメッセージが届いた。驚きもしないのは雫の行動力を把握しているから。
ちょっと遅く感じたのは流川さんがメッセージを中々確認しなかったからだと推測出来る。
『蘭ちゃんは可愛いものが好きの一点張りだったよ』
流川さんについて熟知している雫が好きな物を聞いてくることに不信感を抱いたのかもしれない。しかしそこは雫も頭を使って悟らせないように、上手い言葉遣いで乗り越えただろうからあり得ない可能性が高い。
やはり普通に好きなものが可愛いものなのだろうか。
まぁ無難にぬいぐるみを贈れば失敗はない。しかしそれは何度か実行したことで、日頃の感謝としてはインパクトが弱い。
何か策があれば……。
『詳しく聞くことは出来なさそう?』
僕がそうメッセージを送るとその瞬間にベランダに続く扉がノックされる。メッセージを送るのが面倒くさくなったらしい。
僕はスマホをベッドの上に起き扉を開ける。
「難しいかなー。蘭ちゃんって好きな物無さそうだし、あっても教えてくれないだろうしね」
時々雫は自分の部屋と僕の部屋がほとんど繋がっていることを良いことにやって来る。基本意味ないことで来るが、今日は珍しく理由があった。
「雫でも無理なのか」
親友と呼べる間柄である雫でさえ聞けないなら、もうそれは諦めろと言われているも同義。詮索してまで好きな物を知りたいとは思わないので、どうあがいても結果は変わらないだろう。
ベッドに堂々と寝そべる姿はオフの雫だ。全身しっかり見ると、流川さんに引けを取らない美少女ぶりに羨望の眼差しを向ける。
「やっぱり雫の好きな物を参考にするしかないかな」
「私を参考にしても蘭ちゃんとは真逆でもないだろうし、ありきたりなものだからいい方向には転がらないかもよ?」
「でも、何も情報が無いよりましだよ」
「そっか。私も全面協力するって決めてるから、閃くんが良いなら私もいいけど」
「ホントに助かる。いつか雫にもお礼するよ」
「それは楽しみ!」
ヒントとして何の役にも立たなくても、役に立っても雫の情報は、選択肢を絞ることには役に立つ。ならばそれ相応の報酬を貰うべきだ。
何にするか考え事が増えるのは面倒くさがりには重いが、雫のためなら無理にでも考える。恩は恩で返すのが道理だ。
――それから1時間ほど流川さんへのプレゼントの話やその他文化祭のこと、その後の1日授業をしないでいい日の過ごし方について広く浅く話した。
そこでしっかりと雫からヒントやアドバイスも貰い、手持ちいっぱいならぬ頭のメモリいっぱいとなった。
「私は戻ってゆっくりするね」
「うん、色々ありがとう」
「バイビー」
元気よく扉を開くとヒューッと冷たい風が体に吹き付ける。寒っと思った時には雫はもう自分の部屋のベランダにいた。体が冷えるのは女子には大敵なのにわざわざこっちまで来てくれたことは申し訳なかったとも思った。
ここでもう1つ、僕は確信していた。
雫は僕の恋を本気で応援しているんだと。
そうして僕はその日から毎晩プレゼントについて考え始めた。と言っても案は浮かばないので、これいいかもとふと思った物に決めていた。
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