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文化祭終了




 「はいお疲れー。今は――16時半か、何とか最後までやりきったな」


 担任の先生による僕たちに対する激励の言葉が述べられている。それほどのことをした覚えはないが、料理を作るサイドの女子はみんな疲れを表情に表して背もたれに溶けていた。


 コンテストが終わり、結果、いや景品が完全に分からなくなっている今、僕たちは先生の口から発せられる言葉を僅かな体力を振り絞り耳を澄ます。


 結果は全校生徒を体育館に呼んでもう既に終えている。


 文化委員長の総合発表と同時に、見事僕たちは総合1位を獲得したのだ。ミスターコンでは見事1位を獲得したものの、ミスコンでは朱雀さんが1年女子の票を3割独占し僅差で1位となった。


 やっぱりクールボクっ娘美少女は人気高いな。


 まさかの1年女子全員参加で、それも美少女3人を抜く全員が陽キャの頂点のようにギャグを披露しては会場を湧かせていた。なので票が1箇所に揃うことはなく、美少女の三つ巴に5人の陽キャが加わることで鳳凰院さん超えはならなかった。


 って思えば鳳凰院さんやばくね?9割ってまじでバケモノだわ。


 その鳳凰院さんも満足気に流川さんの肩をポンポンして上機嫌のままこの学校を去っていった。


 王者の風格あったな。


 流川さん出ます作戦は逆に女子に勝てないと火を付けたようで、吹っ切れた女子たちは全員出場という仇となり返ってきてしまった。まぁ今となっては気にしてない。あれが最善策だったのだから。


 それに総合優勝したんだし、全員が喜んでるだろう。


 陽菜さんには申し訳ないとは思っているけどね。


 「先生、総合1位の景品って何なんですか?」


 森くんでも知らないということは、文化委員でさえシークレットだったのだろう。ワクワク感の伝わる声色で誰もが聞きたいことを聞いてくれる。


 「景品か、景品って言っても物じゃないんだけどな」


 そう言って何も出す素振りも見せず続ける。僕たちも意識を全て口に向ける。


 「1位の()()は――1日授業をしないでいい権利を貰えるってやつだ」


 「……え?」


 「詳しく言うとだな、毎年のことで毎日授業受けてれば年間で受けるべき授業日数を余裕で満たせるんだよ。んで満たされたら別に授業をしなくても良くなるから、毎年自習とかで潰してたのを、1位のクラスは1日だけ授業を受けないでいい日を設けるらしい」


 「えぇ?!それって休みって事ですか?」


 誰よりも驚く鞍馬くんは机に上半身全てを乗り出し食いつく。大げさだが、実際みんな乗り出したいのを何とか堪えている状況だろう。それほどこの景品は驚きを与えていた。


 「いや、学校には通ってもらう。その上で他のクラスに迷惑を掛けないのなら、常識の範囲内で好きにしていいってことだ。図書室も屋上も好きに使っていい。ただしグラウンドは流石に勉強の邪魔になるから無理だな」


 「……すげぇ、俺この学校好きになりました」


 たった1日、されど1日だ。休みと言っても大差ないものが1位の景品として齎されたのだからテンションが上がる。好きになるのも無理はない。


 クラス内ではざわつきが収まることを知らない。先生も無理に止めようとはしない。1年に1度のイベントを最高の思い出として残せたのだから、そこに水を差すことはしないらしい。


 「その日にちは全員で話し合って決めて、それを森が俺に伝えに来てくれ。もちろん要望通りの日にちになるとは限らないからな。期待しすぎるなよ」


 「分かりました」


 「それじゃ、ホームルームはここまで、後は帰るなり友達とお疲れさまでした会したり、好きにしていいぞー」


 名簿帳を肩に載せ、スラッとした長い足を動かし教室を出ていく。それからすぐに教室が動物園と化する。


 お疲れさまでした会についてや、授業を受けない日についてなど文化祭らしい話し合いから、想定外の景品に対する嬉しさの共感が始まる。


 「神代ー、お疲れー」


 疲れました感の中に、俺はこのクラスに誰よりも貢献したと言わんばかりの気を感じさせる鞍馬くんが、背中に抱きつきながら溶けてきた。


 「お疲れ。鞍馬くんもナイス1位だったね」


 「俺が1位なんて決まってたもんだから嬉しさもないけどな!」


 いつかこの男に顔の敗北を味わわせてほしいものだ。


 それから森くん彼方くん陽菜さんといつものメンバーが揃う。自然と斜め後ろの流川さんも入る形で話が始まった。


 「惜しかったな香月も」


 「無理無理、雅は強敵過ぎるって。顔面だけでも強いのに、執事のコスプレされたら負け確定だよ」


 陽菜さんはメイドの衣装を着て出場し、雫は看護師アニメキャラという、全員が男子を落としに行くコスプレや衣装を着ていた。天国があるなら多分あそこだ。


 「1位は取れたんだし、完敗でも無いから良いけどね」


 親指を立ててグッとニッコリする。多少の悔しさはあっても、そこまで承認欲求の高い人ではないので本心で気にしてることはないだろう。


 「そうだな。なんであれ総合優勝だからな、このあと打ち上げでもして暴れようぜ!」


 「「だな!」」


 場所は決められてない。だから今から話し合う。そうして今日の濃い1日を振り返りながら話し合っても尽きることはなく、きっと打ち上げ会場でもそれは同じ。


 各々が紡いだ思い出はしっかりと覚えているし、忘れることもない。


 だから僕も、今流川さんから進んで僕の隣に来てくれたことを――しっかりと覚えていよう。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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