コンテスト
傍から見ればただでさえ甘いだろう僕たちに秋風が運ばれる。首が冷えるのはマフラーが無いからなのだが、だからと言って返してと言う気もない。こうして冷たい風が首に吹き付けることで、冬に恋人がいちゃつく雰囲気と何処か似た雰囲気を味わえるんだから。
「もう1回する?」
「いや、流石に2回は色々と厳しいから……またの機会にでも……」
「次が無いかもしれないよ?」
「……ならラストで」
次の機会はきっとある。そう思ってた僕だが、こうして上目遣いでお願いをされると断れない。それに貰ってもデメリットは何もない。
そして、2回目は味をしっかりと味蕾で捉えた。
ゴクッと飲み込む時、お返しをしたいと思ったのだがフランクフルトじゃ無理だ。だからいつかこの幸せな気持ちに恩返しと、いたずらにやり返しをしよう。
「そろそろミスターとミスコン始まる時間だから体育館行こう」
「そうだね」
広場のど真ん中に建てられた時計が指すのは13時過ぎ。13時半からのコンテストには余裕で間に合う時間に気付き、なんとか鞍馬くんと陽菜さんが1位を取るとこを見たい。
それは流川さんも同じらしく、私の代わりに出た陽菜を応援しないほど私は最低じゃない、と僕に言ってきたほどだ。
席は全員分用意されているので、遅く入場しようが座れないことはない。しかし、時間ギリギリになればなるほど人混みが凄くなるので早めに行くことに越したことはない。
手に持つゴミをゴミ箱に入れ込み、そのまま体育館へ向かった。
自分の席に腰を下ろすと隣に流川さんも座る。これはたまたまの席順で隣になっており、決して意図して座っているわけではない。
「陽菜さん勝てると思う?」
「雫と雅が出てこないなら圧勝だろうけど、出てきたらギリギリ勝つかギリギリ負けるかの2択だね」
絶対に完敗はないと言い切る。それは友達としてではなく、客観的に見た結果の答えだ。3人を男子の前に立たせたとき、最初に視界に入れた人を好きになると言えるほど競っていると思う僕はとても共感していた。
「鞍馬くんは?」
「鞍馬はムカつくけど誰が相手でも1位だと思う。顔だけは良いからね。顔だけは」
「ははっ、辛辣」
本気でムカついてるのだろう。いつもは頼りがいのないネジの抜けた、性格にモテる要素のない男が顔だけは整っているのだ。いつも構われる流川さんからしたら当然だろう。
「まぁ鞍馬も陽菜も、ポイント取れなくても全然気にしないけどね」
「ポイント無くても勝てるから?」
現在具体的に僕たちのクラス出し物が何位にいるのかは把握してないが、僕が受け持った時間帯までなら圧倒的に1位だったのでポイントは必要なかった。が、朱雀さんのクラス、7組にお邪魔した時は負けてるんじゃないかと言えるほど繁盛していた。
「それもあるけど、2人が楽しめればそれで良いでしょ?クラス出し物学年1位を目指してるのは分かるけど、前提として楽しみながらってのがあるから。それを無しにして1位だけを必死に狙いに行くのって文化祭って感じしないじゃん」
「流川さんって意外とイベント事好きなタイプなんだね」
「まぁね」
熱意が人並み以上だ。確かに文化祭は楽しむことが大前提。生徒だけの力で1からやりたいことを組み立てて行く工程すら楽しむ。それは僕も重々承知だ。
しかし流川さんは友達と一緒に楽しめなければ意味がないと解釈できることを、なんの抵抗もなく口にした。普段のツンからは想像し難いが、そんなとこもやっぱり流川さんなんだなと思う。
「1位の景品って何だろうね」
「さぁ。美奈さんも3年連続ミスコン取ったけど1位じゃなかったらしいから詳しいことは聞けてないし」
「そうなんだ。なんだか勿体ない気がする」
「それも文化祭って感じ。多分自分たちのやりたいことを全力でやって、それが評価を下げるようなことでも続行したんだと思うよ。だから美奈さんのポイントがプラマイゼロになったのかも」
「あーそういうことか。もしそうならいい思い出だし、絶対に後悔もしてないだろうね」
景品なんて求めず、一生懸命クラスで巫山戯る。これもまた一興だ。
「まぁ、私たちはクラス出し物1位を取ってミスコンとミスターコンどっちも1位で圧勝するでしょ」
「うん。後は2人とCグループ担当のみんなを応援するだけだね」
ミスター、ミスコンはステージ上に、呼ばれたクラスの男女が1人ずつ登壇し1分間の時間の中で好きなことをする。毎年出るものとしての例ではコスプレや特技披露、男女での漫才といった様々なジャンルでオーディエンスを盛り上げる。
結局人気投票なので、始まる前に8割ほど勝ち負けは決まっているが、もしかしたら誰か1人の心を変えられるかもしれないので残り2割に懸けてやらないことはない。
それに男子出場率100%に対し、女子は70%ほどで参加率も中々高い。男子1人で出るなんて鋼のメンタルだな。
――そして始まったコンテスト、呼ばれるは2年生1年生3年生の順番。クラスはランダムなので知るのは司会者のみ。
体育館に押し寄せた生徒、保護者や地域の方々。誰もがその時を楽しみにしステージ上に目を向けている。もちろん僕もその1人で流川さんだってそう。
1分間が刹那に感じるほどの名残惜しさに拍手が追いつかない。次から次に披露されるアピールポイント。
きっとあそこに流川さんが居れば、僕はどんな気持ちで拍手をしていただろうか。
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