小悪魔か魔女か
恥ずかしがる様子もなく、ホントに聞きたかったことを率直に聞いてくる。人の恋に興味があるとは思ってなかったが、流川さんも女子だ。当然のことかもしれない。
「昔は好きだったよ。いつも遊んでくれる時笑ってて、優しく接してくれて、僕が不安な時は必ず渚が居たから自然と好きになったんだ」
幼い頃の気持ちの変化は早い。だからあの好きも正確な恋だったとは断定出来ない。でも言えるのはあの時渚が居てくれて僕は幸せだったってこと。ドキドキ感の有無は分からない。予想ならきっとしてない。だってホントに子供だったから。
「だから今は異性としては好きじゃないよ。さっき見た時も可愛いとは思ったけどそれだけで、好きだなとは思わなかったし。結局はどこまで行っても渚は僕の友達なんだと思う」
1人で無心に語る僕を、いつも通り変な神代と思うような目で見ることはなく、ただ薄っすら口角が上がっていた、ただそれだけが確認出来た。
「そっか、勿体ないね。あの子は神代のこと好きそうだったけど」
「それは見間違いだよ。渚も僕を友達以上思ってないよ」
「どうだろうね。色々変な神代には恋愛なんて分からないでしょ」
「それはそうかも」
「まぁでも神代にあの子はレベルが高過ぎるかな。もっとレベル下げないと恋は実らないよ」
「それは僕も重々承知してますよ」
ということは流川さんと僕は釣り合わないと決定されたも同然。渚が劣るとは思っていないが、最低でも同じ土俵に立てるレベルの美少女だ。そんな人と僕が似合わないなら意味は変わらない。
小さな穴が胸のど真ん中に空いた気分だ。何でこうなるか、そんなこと1秒で答えは出る。
「早かれ遅かれ神代ならいい人見つけれるでしょ。他の男子に比べたら全然いい人だし」
「どうだろうね」
ただのいい人が好かれるなんてデータはどこにも無い。結局はその人にとっての好意を持つべき相手となるかならないかの2択。それを何億という人の中から選ぶから選択肢は増えるんだ。
いい人と付き合う……か。
「最終手段は流川さんと付き合ってあげようかな。流川さんは一生彼氏出来なさそうだし」
いつもなら死ぬ覚悟で聞くことも今は何とも思っていなかった。それに今日ここに座って話す度に地雷を踏まないようにと考えることもなかった。だから不意にドキッとさせられることもない。
「……最終手段……ま、まぁそれなら良いんじゃない?」
いや、全然ドキッとした。めちゃくちゃドキッとした。もう鼓動が強過ぎて痛かったぐらいドキッとした。
ちょっとばかり詰まったようだが、まさかの肯定にグッと心臓を摑まれた気がした。いや、実際そう感じた。
「冗談で言ってるのか本気なのか分からないから……その、よろしくないです……」
「……冗談だし本気でもあるんじゃない?それは聞いた自分がどう捉えるか次第でしょ」
「……じゃ冗談で」
本気なら僕にとてつもないダメージが入る。それは今この状況では表に出してしまうので避けたい。電話で聞くのならまだ避けようは幾らでもあるが、面と向かって話してる今、ボロを出すのは好ましくない。
間ができる。それは仕方ないものであり、同時に何とかしないといけないとお互いが考えていると分かる気まずい時間でもある。それを切り開くのはいつだって僕だ。
「手、止まってるよ。せっかく朱雀さんが作ってくれたのに勿体ないよ」
残された4つのたこ焼きたち。僕らの会話をどう思って聞いているのだろう。たこ焼きになりたい。
初めて思ったな。
「なら、食べる?」
「は?え?」
「これだけの量を私だけで食べるのも勿体ない気がするし、ちょうど神代も居るんだから食べてよ」
今度はもう聞かない。強制で食べろと言ってくる。
「なら、食べようかな」
幸い爪楊枝は2本あるので間接キスで恥ずかしがるという、今どき逆に恥ずかしいことはしないで済む。
「じゃあ――」
「待って」
爪楊枝に手を掛けた僕を無理矢理声に出して止める。
「あーんしてあげるよ」
「アーンシテアゲルヨ?」
完全に頭が溶けた。本能が流川さんの声を聞いた瞬間にそれを処理せず僕は口を開いたのだ。
「な、なんでそんなことを……」
「理由は……ないよ」
いや、絶対にあるやつじゃん。
ツッコミたいけどそんな状況ではない。見る人はいないだろうが、それでも周りを見渡してしまう。何としてでもこの恥ずかしくて照れる気持ちを隠したいのだ。
目の前の美少女以外に。
「美少女のあーんだよ?人生であるかないかレベルのレアなものだよ?素直に受け取りなよ」
これがあの流川蘭とは到底思えない。ツンツンはどこに行ったのか、面影すら見えない。
絶対にどこかに潜んでいるだろ。
初めてツンツンが出て来てくれることを祈った。
「わ、分かりました。お、お願いします」
これから先僕はどんな不幸なことも受け入れないといけないかもしれない。そんな覚悟を決めながら口を大きく開く。
「はい、あーん」
半目で見える流川さんの手に持たれたたこ焼き。それが舌に載せられると口を閉じて噛む。美味しいだろうが味は分からない。何もかもこの小悪魔美少女のせいだ。
やっぱり魔女だな。
「どう?」
「美味しいです……あと、幸せです」
「そう、それは良かった」
罵られることも睨まれることもない。こんな現実を見ていられるのは今だけなのかもしれない。
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