最後の四大美少女
それからというもの、流川さんは頬を赤く染めることはなくいつも通り他愛のない会話を出来るほどまでに回復した。
そしてその時刻とほぼ同じにして僕たちAグループの活動は終了した。長くも短くも感じない、ただ達成感と渚に会えた嬉しさ、そして流川さんが頬を染めたことだけが頭に根強く残っていた。
渚に会えたことが何よりも記憶に残るべきことだと自分でもハッキリ分かっている。なのに流川さんに意識が持って行かれるのだ。もう理解が出来ていない。
これは重症かもな……。
更衣室で着替えを済ませるとBグループの鞍馬くんにハイタッチして交代をする。ハイタッチはしなくてもいいが、鞍馬くんのやる気を出させるためにも強めに叩いてやった。
時刻は12時過ぎ、まだまだ文化祭は序盤と言っても過言ではない時間帯。これから何をするか、なのだがそれはもう決めてある。
流川さんと文化祭を回るのだ。
嫌がられるつもりで頼んだら、あっさりOKを貰ったので恥ずかしさ半分持ちながら喜んだ。色んな人に見られるけど良いのかと聞いたら、別に気にしない、楽しければそれでいいと予想外の答え。
ここに来て流川さんについて知れてきた気がする。
多分だが、流川さんは僕のことが嫌いではない。つまりは他の男子と一緒ではないということ。そう思える理由は1つ、嫌がる流川さんを最近見なくなったことからだ。
普通に嫌だとか、断られることはあるがその全てが冗談。本気で僕を嫌がったことがないと、記憶を遡ると思ったのだ。
これもそう。男子と見て回るなら絶対に気にしてたし、楽しい楽しくない関係なしに断るはず。
成長というよりか、僕が近づくのではなく僕に近づいて来ているんだと思う。都合のいい捉え方で言うと、僕色に染まっているということ。
勝手な解釈も甚だしいが、そうでないと僕のなかで辻褄が合わない。だから違っていてもそう思う。そう思って接してみて、睨まれたりしたのならそれは僕の間違い。逆なら僕の読みは正解。
どっちに転ぶかはこれから決まる。
――時刻は変わらず12時過ぎ、制服ではなくクラスTシャツを着て教室前で待つ……こともなく、既に先に着替え終えた流川さんに合流する。
女子って着替え時間掛かるんじゃないの?
早着替えしてきたのだろうが、汗1つ息切れすらなかったのでそんなこともないことが証明された。早すぎだろ。
「お待たせ」
「うん、おかえり」
黒のTシャツが流川さんの髪と容姿、全てにマッチしている。制服を着ている際は可愛いが勝つのだが、今は圧倒的にカッコいいが勝っている。
この時点で視線を集めるのはもちろんだ。クラス内含め、廊下を行き来する人も足も目も止められる。マウントを取る余裕もなく、こんな視線を日々受けながら生活していると思うと、心配になる。
「それじゃ、行こうか」
隣に並んで歩き出す。歩幅は違うが合わせるのは簡単だ。
「何か食べたい物ある?」
「んー、片手で持って食べれるものとか良さそう」
「良いね、なら7組に行こう」
他クラスにポイントを加算しに向かうのは正直なんとも思わない。たった1、2票で逆転はないだろうし、文化祭は楽しむために行われるんだ。1位よりも楽しむことが圧倒的に優先だ。
7組はたこ焼きやフランクフルトといった、屋台と聞いたらこれ!という出し物をしている。手に取りやすく、作業も簡単で美味しい。僕たちのクラスと競るクラスだ。
着く前からいい匂いが鼻腔を刺激する。
「あっ、神代くんと流川ちゃんだ。久しぶりー、2人揃って何か買いに来てくれたの?」
どこか気怠げさを感じさせる喋り方に、相変わらずのマイペースを感じる。マイペースなのは失礼ながらシンパシーを感じるな。
「うん、何かは決めてないから雅のオススメとかでお願い」
「僕のオススメか……ちょっと待ってて」
そう言ってあたりを見回す朱雀さん。一人称僕がこんなにも似合う女の子はこの世にいないだろうな。
友達風に会話をしている僕たちだが、実はホントに友達である。僕と朱雀さんは毎度図書委員として不思議な縁から同じ日に割り当てられ、そこから意気投合。流川さんとは陽菜さん繋がりで、よく遊ぶ仲らしい。
やはり類は友を呼ぶ。
それに、僕には美少女と仲良くなれるバフが付いてるらしく学年4大美少女に加えて渚と鳳凰院さんとも仲がいい。これは前世で得を積みすぎたのかもしれない。
「お待たせー、流川ちゃんはたこ焼きで神代くんはフランクフルトー」
心地よい声とともに渡してくれる。夜寝る時ずっと聞いていたい声だ。
気持ち悪いこと言ってるが本心からなのでなんと思われても構わない。キモいと言われてちょっと傷つくだけ。
「ありがと雅」
「こちらこそ」
美少女の会話は無限に見てられる。それも似たタイプの2人でキレイ系。なので可愛いがほっこりするのに対し、見惚れて我を忘れる感じがする。ここの空気もとても美味しい。
いや、流川さんと一緒ならどこでも美味しく感じるの間違いかもな。
再び歩き出す。朱雀さんを眺めていたかったが図書委員の仕事があれば見れるし話せるのでスポッと忘れる。
「ベンチでも探して座ろう。レジ打ちでも立ちっぱなしだったから疲れてるでしょ?」
「まぁね。気が利くじゃん」
「出来る男だからね」
「たまにポンコツだけど」
「それは演技」
「ふふっ、なわけないでしょ」
しっかり聞こえた笑い声。ほら、きっと流川さんは変わり始めてるんだよ。
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