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噂の幼馴染




 黒髪を肩上まで伸ばし、毛先が内側にクルッと軽く巻いている。瞳は流川さんに引けを取らないほど大きく丸い。身長は雫の少し上ぐらい、でも大人びた雰囲気を醸し出す女の子がそこにはいた。


 そしてその子は僕の薄っすらした記憶の中にも存在していた。


 「渚……?」


 つい漏れたその人を指す名前は、僕の幼馴染の名前だった。


 記憶には幼少期の頃しか顔は残っていない。しかし、一瞬で分かったのは左目の下にある小さいホクロによって。目頭のすぐ下にあるホクロは渚と全く同じ部分で、なにより顔が幼少期から成長はしたものの、可愛げの十分に残された、そんな顔立ちだった。


 「渚?」


 すぐ隣で聞いていた流川さんは不思議そうに僕を見つめている。そんな見つめられると照れてしまうのでやめてほしいがもっと見てくれてもいい。


 え?矛盾してる?そんなことよりも今の僕には目の前にいる美少女について答えが知りたかった。


 「あっ、うん。あの子が僕の幼馴染に似てたからつい」


 「ふーん」


 似てるも何も本物だと思っている。クローンじゃない限りあの人は九重渚だ。


 そして、次の順番らしい渚と思わしき女子は、友達を連れて入ってくる。その友達もなかなか整った容姿をしていて『類は友を呼ぶ』そのものだった。


 「あっ、メイドの閃みっけ!」


 その子は僕を指差すこともなく、大きな目をさらに見開いて僕を見つけたことを喜ぶ。僕のメイド姿を見て笑うこともなくただ嬉しさを顔に出しているようだった。


 やはり渚で間違いないようだ。


 「渚なのか?」


 本人に聞こえるように問う。


 「うん、そうだよ!いぇーい久しぶり!」


 「マジで?!なんでここに?」


 自然な流れでハイタッチ。3人のお友達も知り合いなの?と聞き出そうな面持ちだ。


 「私の学校すぐ隣でさ、緑生の文化祭がもうすぐだからお邪魔しようって思ってみんなで来たんだ。それに緑生に閃がいるのも耳にしてたから私は閃目当てで来たの」


 ニッコリ笑顔で締め括られる。美少女幼馴染の笑顔はめちゃくちゃ心に響くもので、ドキッとしてしまう。


 「それでそれで、隣のめちゃくちゃ可愛い子は閃の彼女?!」


 不意に爆弾を投下する渚。流川さんがどんな人か知らないからそんなことが言えるんだろうが、僕の流川さんなんて勘違いでも言ったら後で学校裏でシバかれそうだ。


 「違うよ。この人は同じクラスの流川蘭さん。僕の友達」


 「へぇ、そうなんだ!流石に閃には勿体ないか」


 ごもっとものことだ。少し傷つくが、本当のことなので受け止める。でも本当は傷つくように、釣り合う2人と言われないかなとは思っている。


 「いつも私の閃がお世話になってます」


 流川さんを見て一礼しながら1言。


 渚のものになったわけではないが、美少女に言われると悪い気はしない。それも久しぶりに会えた幼馴染なのだから余計に嬉しさが込み上げる。


 「私、九重渚って言います!よろしく!」


 「う、うん。よろしく」


 初めて流川さんが押されてるとこを見た気がする。渚もコミュ力オバケは変わってないようでなによりだ。それに距離感もバグってるので、今は両手で流川さんの右手を掴んで上下にブンブンしている。


 頑張れ流川さん。


 「それじゃ、私たちもお邪魔するね。また後でー」


 「うん。また後で」


 後ろは詰まっていないものの、鳳凰院さん同様長居は良くないと判断し、テーブルに友達と談笑しながら向かった。


 それにしても、この教室には視線を奪う人が多すぎる。隣の流川さんに、表には出ていないが奥にはまだ陽菜さんもいる。少し前に来てオムライスを美味しそうに頬張る鳳凰院さんと、今来た幼馴染の渚。4人も美が集まっているこの教室。空気が美味しすぎるのはそれ故らしい。


 渚は僕を唯一名前だけで呼ぶ友達だ。だからそれだけでも嬉しさからドキッとしてしまうことも少々。美少女は何やっても最高だ。


 「神代ってああいう子がタイプなの?」


 「え?タイプ?」


 何かしらツッコまれるとは思っていたが……。


 「いつもよりニコニコする回数が多かった気がするから」


 そんなに見られてたのか。やはり恥ずかしい。


 ってか流川さんの前でニコニコしないのは流川さんがキモがるからなんだけどね。


 「渚にそんな感情は抱いたことないよ。友達として気が楽だから増えたんじゃないかな」


 「……じゃ、私とはそんな関係じゃないってこと?」


 「そんなことないよ。流川さんと関わるのは楽しいし、色んなことでドキドキさせられるから飽きないよ。それに気が楽だから一緒に笑い合えてるんだしね」


 下心なんて全く無い。思っていることを素直に伝えた時、気付くのが遅れた。こんなことを言われたら嫌がるはずだ。


 「あっ、ごめん!今のは、その……なんていうか……嘘じゃないけど言い過ぎたっていうか……」


 焦る僕に対して黙ったままの流川さん。一旦落ち着いて顔を覗いてみると、頬を薄くだが赤く染めた表情がそこにはあった。


 「流川さん……?」


 「……何?」


 「いや、頬が赤いかなって。具合悪いなら……」


 「具合は悪くないよ。ただ……」


 「ただ?」


 「……何でもない」


 何でもないで納得するのはムズムズを残すのでしたくないが、深く踏み込めばお互い良いことはないだろうからストップする。


 「あらあら、なんだか面白そうなことになってたみたいだけど」


 そんな僕たちの間に入ってくるのは、やはりこの美人大学生だ。


 「少年、あまりこの子をイジメてやらないであげて。いつもツンツンしてるから押されると弱いんだから」


 「美奈さん!」


 「ごめんごめん。そんなに睨まなくてもいいじゃん」


 この2人はいつになっても仲がいいところは見られそうにない。茶化す鳳凰院さんと茶化されるネタを握られる流川さん。どちらも似た性格をしていると思うのは僕だけか?


 「んじゃ、私はここでお暇ー。また会えるといいね少年」


 「は、はい。また」


 満足気な表情を浮かべてスキップをしてもおかしくないテンションで教室を出て行く。


 ちょっとした通り魔だな……。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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