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文化祭開始




 全校生徒が体育館に詰められる。ステージ上では文化委員長が、生徒に嫌われない程度に簡素な挨拶を述べている。時間にして30秒もない。


 話し終え、一礼すると拍手。それに満足気な表情で応えてその場を去る。


 こうして我が緑生高校の文化祭が開幕となった。


 ――「まずはAグループからメイド衣装着て接客から何までやってくれ」


 1組教室内。森くんの呼びかけによって僕たちAグループのメイド作業が始まる。まだ体育館から戻ってきたばかりの人だらけ。着替えるために更衣室へ急がなければならないが、人が多く想像通りに進まない。


 これだから学校行事は好きになれないんだよ。


 そんな愚痴を思っても変わることは何1つない。無心にただひたすらに更衣室へ向かった。


 僕は男子の中でも気にせずネタを出来るタイプではないので、メイド姿になるのは正直恥ずかしい。見られたくないし、写真まで撮られたら永久保存される。


 しかし、そんなプライバシー云々より、流川さんにお願いを聞いてもらうことの方が僕には重要だった。


 颯爽と着替えを済ませ、同じ道を駆け足で戻る。人の目を集めるのは気にしない。


 開始時刻は10時半。今から15分後だ。余裕を持って着いた僕はそれまでに準備を整えるのだが、そんなこともままならないことが今目の前で起こっている。


 流川蘭がメイドの姿で準備をしているのだ。


 周りの女子は「可愛い」「天使」「隣に立てない」と言った言葉でギリギリ表せる最低限の褒め言葉を口にしていた。


 僕はそんな言葉も出てこないほど流川さんに見惚れてしまっていた。教室に入った早々に時間を止められたかのように動かなくなる僕。


 この気持ちと感覚を誰かに共感してもらいたい。


 しかし、視線を送り続ければ受ける側は当然気付く。流川さんに睨まれてすぐに現実に魂を持って帰って来ると、すぐに準備に取り掛かった。


 とはいえ、僕の仕事はレジ打ちであり、この場に来る人の食事券を受け取るだけの係なので大層なことはなにもない。


 この食事券が1枚1ポイントとなり、合計ポイントの高いクラスが順に好成績を残すことになる。1枚でも無くしたりしたらその1ポイントで負けたと言われるので、意外と重要である。


 ステージの出し物は僕たち教室組と違い、分けられてポイントが加算される。そのため競るのはステージ組の2組と5組を除いた6組だ。


 「お前、まじで似合ってるな。一生この姿でいろよ」


 「普通に嫌なんだけど。良いことないって」


 いじわるを言うのは同じAグループの彼方くん。彼方くんもレジ打ちとなった不器用メンバーの1人。そんな彼方くんもメイド姿が逆に似合っている。


 「それより流川さん。クールで可愛さもあって色気もあるってやばくね?」


 やはりその話になるのか、と予想通りの話をしてくれる。


 しかし、まさにその通りである。女性の理想を全て詰め合わせたような姿なのだ。見た目で足りないのは唯一幼気さだけ。その幼気さも、性格面には兼ね備えているのだから誰が何と言おうと【PERFECT】である。


 「うん。流川さんの活躍でAグループが責められることはないだろうね」


 メイド姿で教室を出れば自然と人は寄ってくる。誘われて中に入れば更に長時間流川メイドを見ていられる。これの無限ループが出来るので、何もしなくても食事券は集まって行くだろう。


 美少女がメイドになるというのは男の本能を誘うことになるからな。ホイホイ釣られてくれるだろう。


 ちなみに僕はもうとっくの昔に釣られている。


 ――それから15分、校内チャイムによって全生徒に教室組の開始が告げられる。それと同時に流川さんは看板を持ち、教室の外へ動き出す。そう、これが1組の美少女によるお誘い戦略である。


 ただ無言で看板を持つ。それだけで人は魅力に釣られてこの場に寄るのだ。流石に声出しまではしたくないとのことで断りを入れられたが、無言なのが逆に効いている気がする。


 流川さんは見るからに嫌そうで。今にも脱ぎだしてどこか別の学校の文化祭に参加したいと言わんばかりのオーラを放っている。


 我慢してほしい。僕も彼方くんもみんな、メイドは嫌なんです。


 開始早々流川効果は素晴らしいもので、10分で満席、列を作るという大盛況となっている。絶対に流川さんに釣られただろう人もいれば、息子娘のために来たという親、その他ただ楽しむためだけに来たご老人など年齢層はさまざま。


 その中で面白いのは割合で、7割流川さん効果で2割親、1割ご老人という圧倒的美少女力に流石の1言。


 会話こそ交わしていないが、先程から視線を向ければ変われと眼力を強められる。確かにもう効果は十分なんだし、戻ってもいいと思うがそれを判断するのは僕じゃない。森くんだ。


 ドンマイ流川さん。


 レジ打ちを続けながら食事券の枚数が増えることに、流川さんからキモいと言われること間違いなしのニヤニヤをしていく。この調子なら1位獲得は確定圏内なのだ、無理もないだろう。


 列がどこまで続いているのか気になり、少し覗いてみると、なんと隣のクラスの後ろまで伸びているじゃないですか。


 ここまでの大盛況にホント頭が上がらない。ありがたや。


 流川さんの背中には感謝し、すぐにレジに戻る。そして次にどんな人が入ってくるか顔を確認すると……。

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