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不思議な天使に惹かれないわけがない




 出発してどれくらいかな、8分?ほど経った時、まだ木は見つけられなかった。どれだけ雫が凄くて鞍馬くんが大変だったかここに来てよく分かった。


 ちゃんと写真を撮って帰って来た4人と同じように諦めることは許されないのでひたすらゆっくりでも前に進む。怖すぎ!


 「神代、あとどれくらい?」


 「え?僕も分かんないよ」


 「えぇ……」


 先程から流川さんはどれくらい?という質問ばかりで前を向いて歩かない。


 「もしかして流川さん、やっぱり怖いの苦手なんじゃ?」


 「は、はぁ?違うって」


 「それなら僕、今から全力ダッシュで帰ってもいい?」


 「……やれるもんなら」


 僕の中では流川さんは怖いのはやはり苦手なんだと確信に近いものがあった。出発前からあたふたしていたのが気になるし、距離を気にするのも、前を向かないのも何もかも怖いからなんだと。


 だから僕は勇気を振り絞って怖いのを我慢する。そして後ろを振り返り帰るふりをする。それもダッシュで。


 「あっ!ちょっ!」


 そんな僕をすぐに引き止める。


 「何?」


 「ご、ごめんって!怖いの苦手!苦手だから!」


 やっと正直に話してくれた。素直じゃなく、ツンツンさを感じさせない姿は可愛い過ぎた。が、僕の心臓は流川さんの可愛い一面より、暗闇で帰ろうとしたことに対する恐怖が勝っていた。


 クソー、ここが肝試しじゃなければ。


 「やめてよ、そういうことするの。心臓に悪いじゃん」


 僕もです。一生やりません。


 「なら一緒に横並びで行こうよ。僕は流川さん以上に怖いのは無理だから」


 「……私も変わんないよ?」


 「ならなおさら一緒に」


 「分かったって」


 手は握らないが握れる距離にはいる。でも握ったとこで恐怖が緩和されるわけではないので握らない。パンチも受けたくないしね。


 微風が頬を掠める。涼しいのはきっと幽霊のせい。ここでならなんでも幽霊のせいにできるな。どこかで聞いたことあるフレーズだが。


 フュューと風が吹く。今までより少し強く音が立った。


 それと同時に服の裾が掴まれた。


 「びっくりするじゃん」


 「ごめん、ちょっと掴んでていい?」


 「え?良いけど……」


 思わぬ提案に拒否はできず、そのまま流川さんは掴んだまま歩き始める。それほどまでに怖いのかと意外性に注目するより、あっ裾掴まれてる幸せ、という一般男子のように脳を溶かされてしまった。


 だって可愛くお願いをされるんだ。誰だって首を縦に振るだろう。


 それから奇跡的に1度も叫ぶことなく目的地だと思われる木に辿り着いた。樹齢500年は超えてそうな木だ。


 「ここで写真撮るんだよね」


 「神代がやって。それでもうパって撮ってパって帰ろ」


 何が何でもここから逃げ出したい一心の流川さん。確かに分かるが、怯える流川さんを見ていたいのもまた1つ。普段、可愛いのが想像できないからたまに見れると癒やされる。


 そんな僕にはもうそれほど恐怖というものはなく、流川さんをどうしたら可愛くできるか、いや、可愛いとこを見せてくれるかということに思考を費やしていた。


 しかし無理なものは無理。いじわるをするときの回転速度はバカな僕でも速いと思ったがそんなこともなかった。


 スマホを取り出して写真を撮る。こうしてみれば昼から夕方にかけてのゲームを思い出す。流川さんとのツーショット良かったな。


 僕はスマホを横にして画角に木を収める。


 「流川さん。一緒に写真撮らない?」


 もちろん木も撮る。でも流川さんと肝試しをしてるんだから今しかできないことをやるべきだ。


 「え?ここで?」


 「ここだからだよ。一生無いかもしれないからさ」


 「……分かったから、早くしてね」


 「うん、ありがと!」


 拒否らないのは少なからず僕が嫌いだからではないのかも。そんな浮かれた気分でシャッターを切る。


 肝試しに似合わない笑顔の僕と、肝試しにピッタリな怯えた流川さん。しっかりとブレなく写真として写っていた。


 流川さんはどこにいても天使だな。


 「ほら、いい感じ」


 「……神代だけね?私は良くない顔してる」


 「そう?全然可愛いけど」


 「……あ、ありがと」


 裾を強くキュッと握った気がした。


 暗くてよく見えないけど喜んでいるようで良かった。今が昼間ならこんな流川さんを見れなかっただろうから、運が良かったことにひたすら感謝する。


 「戻ろうか」


 ここからがリターン。再び同じ距離を歩かなければならないが、それはもうどうってこともなかった。怖さは残ってる。でもそれ以上に得られるものが大きすぎて気にならない。


 「その前に、屈んで?」


 「屈む?なんで?」


 「いいから」


 膝を曲げて前屈みになる。この態勢になるよう教育されたのかと言われんばかりのおんぶ態勢だった。


 そんな僕の背中に流川さんは乗る。さっきもあったなこれ。


 「私もうガクガクで歩けないからお願いしてもいい?」


 「はい、了解です」


 バレたことは正直に言うようになったものだ。ツンツンし過ぎてたのが当たり前だった時なら信じられないだろう。


 ってか流川さんは男子が嫌いな割に距離感がおかしい気がする。僕にだけなのだろうが、おんぶしてと言ったり朝のような謎の一面を見せたりと、不思議だ。


 まぁ、それを知るのは僕だけだし流川さんと接したのも僕だけだから男子に対してはそれが普通なのかもしれないが、今のところよく分からないのが事実だ。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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