不正はバレる絶対に
「なんで写真を撮ったの?それも僕と」
「なんでって、撮りたいと思ったからだよ。それ以外なくない?」
「いや、うん、それは分かってるんだけど……」
日本語は難しい。語彙力が豊富ではない僕に関してはそう思うことはとても簡単だった。伝えたいことが上手く伝わる機械かなにか作られてくれば僕みたいな人に優しいと思うんだけどな。
「流川さんが僕と写真を撮るとは思わなかったから、そもそも流川さんって男子とは写真撮らなさそうだからなんでかなって」
「そういうこと?それは――お礼かな。ここまで背負ってくれたことに対しての。私って男子どもに人気なんでしょ?だから神代も嬉しいかなって」
前半は感謝してるのが伝わってきたが、後半は嫌そうにホントに男子が嫌いなんだと伝わってきた。キモいとか言いたいんだろうけどまだ背負ってるからなんとか耐えたな。
「嬉しいけど……もらいすぎてる気がするんだけど」
「それは心配しなくても、お釣りの分良いように扱われてくれればいいから」
「奴隷じゃないですか、それ」
「唯一の奴隷。嬉しいんじゃないの?奴隷って。よく森とか喜んでるけど」
「あー、それは森くんが特殊だから喜んでるんだと思うよ。僕は微妙」
んー、もしかしたら今の僕も喜んでしまうかもしれない。はっきりしないが、あり得ると思うのはドMの階段を登ってるからかもな。
「やっぱり森はキモいことには変わりないんだね」
「否定はしない」
いないとこで散々な言われようだが、内容は共感しかないものだったので否定はしない。森くんだけじゃなく他の2人もなかなか変態度が高いのは秘密だ。
「そろそろ歩こうかな。これ以上このままだと神代に何されるか分からないし」
「了解」
別に何もしないし、出来ないからしようにもできないんだよな。パンチを受けたいほどイジメられたいとは思っていない。
腰を下ろして降ろしてあげる。名残惜しいが仕方ない。
不思議なことに流川さんは汗をかいておらず、さすがは天使だと思った。暑さを感じにくいのか、もしそうだとしたら羨ましい。
疲れてないと思ってたが、それは流川さんを乗せた時に発動するバフのようで、背中から柔らかい感触が消えたと同時に疲労を感じる。メリットはとことんメリットだが、デメリットもそれ以上にとことんデメリットだ。
釣り合ってない……。
「後半分ぐらいで終わりでしょ?急がないと負けるよ」
深呼吸のため立ち止まり息を吸い込んでる最中、息切れも疲れも感じさせない流川さんはポイントを集めることが楽しいようで、そんな流川さんを見ただけで息を吹き返せるほど僕の脳はチョロかった。
「すぐ行くよ」
先に歩き出したので走って追いつく。その速さはゲームセンターに向かう日より遥かに遅かった。
流川さんもその日その日によって変わるんだろうな。
距離は離れてなかったのですぐに追いつけた。手には枯れ葉も毛虫も脅かせる道具は何も持っていない。あれだけで満足した僕はそれ以上を求めない。
関係が悪化すれば困るのは自分だ。ドMだとしても自分の首は締めたくない。
「私より多く見つけないと、もう関わってあげないからね」
わざと上から目線で言っているな。
「そうなったら仕方ないから関わるのやめるよ」
「……冗談だよ冗談」
「なーんだ」
僕の予想外な発言に戸惑いを見せた。冗談にわざとノッてやらない。それだけで十分なほど面白い一面を見せてくれる。流川さんはやはり何をしても可愛い。
「行くよ。勝って美味しいご飯を食べるために」
「了解です天使様」
「やめてそれ。ウザいから」
「あっ……すみません。調子に乗りました……」
忘れた頃に来る鋭利なツンは、油断していた僕の体全体を酷く貫いた。
それからというもの、木に貼られたシールを見つけては棒を置いて写真を撮る、を繰り返した。撮る際には僕と一緒に写真を撮ることは1度もなく、ただシールだけを画角に収めていた。
たった1回だけだったが、たった1回だったからこそ意味を成した写真となった。流川さんとのツーショットはこの日から一生の思い出になるはずだ。
――そして、日はまだ森中を照らし制限時間まで残り4分で僕たちペアはスタートラインに戻ってきた。そこには森香月ペアと彼方蓮水ペア、そしてソロの鞍馬くんが絶望の表情で腰を降ろしていた。
……ドンマイ鞍馬くん。
「よーし、帰ってきたな。早速結果発表でもするか」
森くんは鞍馬くんの目の前で煽りながらさらに絶望へと引きずり込む。ホントに友情関係とは美少女の前では意味を成さないんだと教わった。
そして各々スマホを取り出し、写真のフォルダを開く。
「一応口でも伝えるが、俺たちは合計21pt獲得したぞ」
「まじか、あぶねぇ。俺たちは23ptだな」
「僕たちは26ptだから今のとこ1番だね」
「まじで?!俺ら3位じゃん!」
森香月ペアが3位、彼方蓮水ペアが2位、僕たちが1位。暫定だが、1人である鞍馬くんは……。
もう確定していると思った森くんは鞍馬くんのポイントを聞かなかった。
「まてよ……それなら俺が1番じゃないか!!!」
「は?」
落ち込む様子から一転、誰よりも元気になった鞍馬くんが息を吹き返した。自信満々な様子だ。
「見ろよ、俺は合計32ptだ!1人でだ!」
「そうか、ちょっと写真見せてくれ」
森くんは驚くこともなく、ただ写真だけを確認し始めた。その間にも鞍馬くんは暑苦しく元気さを全面に出していた。
「いいぞ!森、お前が最下位なんて思ってもなかっただろ?どんな気持ちだ!」
「ああ。最高な気持ちには変わらないぞ。だってこれお前不正してるだろ?」
「……は?ふ、不正?なんと事だか分からないな!」
明らかに動揺を見せる。これはホントに不正したのかもしれない。それならもうここにはいられないほど悪口を言われるが。
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