お互いの貢献度
考え事をしても現実は何も変わらない。この謎多き美少女と2時間半をともにして、豪華な晩御飯を食べるためにできるだけポイントを集めるのが1番気にするべきことだ。
僕は僕の中だけでしっかりと切り替えを行う。隣の天使はツンツンだと。
そうして森の中をひたすら歩く。足元に注意しながらも目線は木の枝にある。泥濘もない足場に滑らされることはないだろうが森では木の実や葉っぱによってコロッとひっくり返される。そうなれば洗濯が大変だ。避けたい。
日差しは遮られるので日焼けを気にすることもない。毎年紫外線は強くなっているらしいので何年後かには紫外線対策が当たり前の世の中になるだろうか。ならないといいんだけど。
地に意識を向ければ自然と流川さんへの意識もなくなると思い適当なことを考えている。が、そんな器用なことができる僕ではなく、普通に流川のことが気になって仕方ない。
身長だけでも女子にしては存在感が物理的にあるのに、オーラまで存在感があるなら無視するほうが難しい。こんな何もない森の中ならなおさら吸い寄せられる。
美少女は皆等しく魔女だな。
「キャンプに来て楽しめてる?」
無言は耐えられない。だからこの時間を楽しい時間にすると決めた僕は無理にでも話しかける。やると決めたらやるんだ。
「それなりには楽しめてると思うよ」
「それなら良かった。僕が無理矢理誘った感じだったから楽しんでなかったらどうしようかと思ったよ」
「そう?でもほとんど雫と陽菜のおかげだけどね」
だとは思っていた。雫と陽菜さんがいなければそもそも流川さんはここにはいないし、キャンプすることにもなってなかっただろう。
やはり流川さんにとって2人は原動力となる存在なのだろう。2人が良いならいいよと言ったように、2人のために空気を壊さないようにしているところから見て仲の良さは計り知れないものがある。
実際僕たちの友情なんてどれくらいのものか計れない。指数がないのも理由は同じだ。
「僕たち男子の貢献度はどのくらい?」
「んー、あれ」
と、指差す方には枯れた葉っぱが落ちていた。
「……0ってことですか」
それが0を表しているかは僕のニュアンス取りで勝手に思っただけだが、意味はほとんど同じだろう。枯れ葉と男子が一緒に扱われる。こんなに悲しいことはあっていいのか。
しかし考えれば流川さんに特別なことは何もしていないし、直接関わった男子もいないから雫や陽菜さんだって枯れ葉という答えになっていたかもしれないな。
美少女は思ってるより辛辣だからもっと上を行くだろうが。
「まぁでも、神代だけこれだけはあるかな」
人差し指と親指で1cmにも満たない空間を作る。その幅が広いと捉えるか狭いと捉えるか、僕は広いと捉えた。
「ホント?」
「マジ」
嬉しかった。流川さんを少しでも楽しませることができたのか、そう思うだけで心のどこかが満たされる気になる。
それに「マジ」の言い方も、気怠げさこそ伝わってきたものの不快感もなく、のんびりマイペースな流川さんの1面を見れたポイントだった。
このツンツン天使は謎だからいいのかもしれないな。
「逆に、神代の貢献度に私はどれだけ加算されてるの?」
「んーっとね」
正直言うなら60%ぐらいなのだが、そう言えばキモがられる事間違いなし。自ら首を絞められに行くほど森くんにはなっていない。森くんがドMの代名詞になるの、なんかいいな。
「これぐらいかな」
親指と人差し指の間を5cmほど開く。
「ふーん。あんまり貢献してないんだ。あれだけ一緒にいて」
予想外の返答だった。そのぐらいか、だけで終わると思っていたのに思ったよりダメダメな返答をしてしまったようだ。
「全体の60%ぐらいだから結構貢献してるよ」
正直に言うしかフォローできる言葉は思いつかない。でも言ったことで悪いことが起きる気もしなくなっていたから身構えることもない。
「60%とあの間隔が同じって全然思えなかったんだけど」
「まぁ、それは僕がミスをしたってことで」
「機嫌取りなら今すぐ100m離れて」
機嫌取りじゃなかったら1m近づいていい?なんて聞けたらカウンターなんだけど、それはツンデレが相手なら。今僕が相手にしているのはツンしかない美少女天使だ。カウンターがあるのなら募集したいものだ。
「嘘じゃないし機嫌取りでもないから離れないよ」
「……分かったけど、離れないって彼女に言ってよ。私にそんな身震いしそうな言葉言わないで」
「……彼女居ないから誰にも言えない……です」
え?今胸抉られた?
それぐらいの感覚を味わったのだが、抉られてはいなかった。しかし僕には大きな大きなダメージ。彼女なんて今までできたことがない。そんな遠い話だから余計に痛む。
そもそも離れないって言ったのは流川さんのせいであると僕は思う。確かに言わないこともできたが、言ったほうが伝わりやすいかなって思っただけだ。決して深い意味を込めて言ったのではない。
まったく、恋とは難しいな。
「ごめん。なんか入ったらダメなとこ入ったみたいで」
「いやいや、全然問題ないよ。事実だし」
全然は嘘。
「そっか。それなら神代は私の、私は神代の楽しいの貢献度を上げに探そうか」
切り替えが早いものだ。こういうとこも流川さんって感じがする。
「そうだね」
お互いに貢献度を上げに行っているが、僕は密かに流川さんの好感度も上げに行くつもりで承諾をした。
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