意外性は胸を刺す
しかしそんな僕のことは知らず、流川さんは話しを続ける。罪な女とはこう言う人を言うのか?
もう僕の耳にはせせらぎなんて微塵も聞こえない。蝉の鳴き声がたまに聞こえるぐらいで流川さんにどれだけ集中しているか、安易に理解できた。
「そうだ、川に来たんだし水切りしない?」
「水切り?」
流川さんの提案する水切りというものがどんな遊びなのか僕には十分分かっていた。でも聞き返したのは信じられないことばかり起きすぎた副作用だ。
「うん。好きな石3つぐらい選んでどっちがより跳ねさせれるか」
「いいよ。やろう」
次から次に襲う流川さんの1%はダメージがでかすぎる。まさにチート武器だ。石もチート級の平べったい石か、良く跳ねそうな石を持ってくるんじゃないだろうか。勝ち目なんてあるない考える前に、他に考えることが多すぎる!
きっとこれは素の流川さんの1つなのだろうが、僕はまだ受け入れられない。苦手だから、嫌いだから、合わないからというマイナスな理由でではない、ツンツンから想像ができないという単純な理由からだ。
それから別れて石を探す。正直石はなんて何だっていい。相手より跳ねさせれば勝てるもので遊びだから真剣にやる必要もない。
僕は平べったい石2つと重くも軽くもない直径10cmの石を使うことにした。
「集めたよ」
「いいね。じゃ最初はどっちがする?ジャンケン?」
「ジャンケンにしよう」
「おっけー」
おっけーとか僕に言ったことあったっけ?もうここに来て流川さんのことになるとバカなのがさらにバカになる。それも可愛いもんだからバグるバグる。
「最初はグー、ジャンケン――パー
「――グー」
「勝った!じゃ私からだね」
「うん。頑張って」
流川さんがどれだけ肩が強いのか、才能があるのかは知らないけどなんとなくわかる。絶対に上手いって。
投げるシュミレーションをする。しっかり勝ちに行っているようだ。負けたら罰ゲームとかあるのだろうか。あるなら真剣の真剣にやるけど。
「投げるね!」
「うん」
「よいしょー!!」
低い姿勢から放たれた平べったい石は何度も水を嫌った。3回4回……まだ嫌う。どうやら川底に沈みたくないようだ。石に意思持たせるなよ流川さん!…………。
夏の蒸し暑さに風が送られ、不思議と涼しく感じる。こんな風が毎日続けばいいのに……。
結局8回目に石は川底に沈んでいった。なので7回が記録となる。
「7回!7回だよ神代!すごくない?!」
まだ1回目、1回目なのに流川さんは心臓を止めに来た。ってかもう止まってるんじゃないか?
川底に行った自分の1投目の石を指差しドヤドヤしてくる。これがまた可愛すぎるもので、ニヤけざるを得なかった。でも睨まれることもキモいと言われることもなく、パァーという文字が付きそうな顔をしては図太い矢を心臓に刺してきた。
やめてくれ……いや、やめてほしくないけど……。
これが葛藤というものか。まだ今の流川さんを見ていたいと思うがまだ死にたくないとも思う。優先すべきは圧倒的に心臓だ。
「勝てる気がしないんだけど……」
「そんなことないでしょ。意外と跳ねるから頑張って」
「分かった、頑張るよ」
いやいや、流川さんが今のテンションで頑張ってって応援してくれてるんだぞ?男として投げないわけないだろう。
この時点でさほど他の男子たちと代わらないぐらい気持ち悪くなった僕は3つの中で1番期待できない石を持ち、投げる。
「お願いします!」
5回は最低でも跳ねるように願いを込めて放つ石は1度川を嫌うとそれから何度も嫌った、そしてついには流川さんの7回を超え、8回9回と回数を重ねる。そして11回目で川底にさようなら。
「めちゃくちゃ跳ねたんですけど」
「すご!」
負けたのに悔しい表情を見せるどころか僕の上手さを褒めてくれていた。いい気持ちしかしない。まぁたまたまだと思うけど。
それから2回目に入った。流川さんは8回跳ねさせたのに対して僕は9回。先程より少ないが勝っている回数だ。
もしかしたら僕には水切りの才能があったり?だとしてもめちゃくちゃ必要ないんだが。もっと他の才能が欲しかった。
そして3回目、これでどっちが勝つか決まる。今では差はあるものの僅差と言っても過言ではないほど十分巻き返せる回数。流川さんなら難なく乗り越えて来そうなとこが若干心配なとこだ。
「ねぇ神代、これで私が勝ったら私の言うこと1回聞くってことにしない?」
思ってみない提案。それも罰ゲームにはならなさそうな提案だ。
「いいよ。勝てたらね」
「ありがと!よし、やる気出てきた!」
肩をぐるぐる回す。まだ本気じゃなく、やる気も出せたのか。
「じゃいくよ。せーの!」
最後の石が何度川を嫌うのか。しっかりと目で追うと5.6.7と回数が増える。まだ沈む気配はない。これは……。
そして10を超える。でもまだ跳ねて跳ねて跳ね続け、沈んだときには14回も回数を伸ばしていた。
「やったぁ!!」
両手を空に向かって伸ばし大喜びの流川さん。そんな流川さんを見て言うことを聞くのもありかなと思ってしまう。
「めちゃくちゃ上手いじゃん」
「でしょ?これは私の勝ちで決まったんじゃない?」
「さーどうだろうね」
一応負ける気はない。けど負ける気はしてる。なんか森とか川とか、自然が流川さんを応援来てる気がして空気感に馴染めない。
そんな中でも投げなければいけない。
「よし、最後の1投」
石にめちゃくちゃ跳ねろと願いを込める。このまま反対側まで届いてくれとも願う。そしてそんな溢れんばかりの願い事を載せた石を投げる。
「おりゃ!」
まっすぐ低空飛行する。そして1度川に着く……が、それ以上石が跳ねることはなかった……。
「え?0?」
「え?私の勝ち?」
何が起きたか先程からは想像できないことに2人とも言葉を失う。流川さんは自分が勝ったのかすら分からないほど。
「あれだけ上手かったのに最後の最後でこんなことあるんだ」
まさにその通りだ。予想外すぎる展開に僕は苦笑いするしかなかった。
「でも、これって私の勝ちだよね?」
「まぁ、そうだね」
「よし!ならいいや!」
ハイテンションでなんとか現状を乗り越えたようだ。流川でも予想外のこと起きたら頭働かなくなるんだな。朝っていうのもあるだろうけど。
そうして僕と流川さんの水切り勝負は僕の敗北によって締めくくられたのだった。
「お、そろそろ良い時間だから私戻るけど神代はどうする?」
「僕も戻るよ」
「おっけー、じゃ行こう」
「うん」
スマホで時間を確認してみんなが起き始めた頃だと思ったのか帰ることになった。まぁ誰かにこのことバレたらめんどうなことが増えるからそこはしっかりしないとな。
流川さんは僕の前を歩く。
僕は後ろで落ちてる石を拾って頭にコツンと軽くぶつける。
「痛っ」
夢ではなかった。あれ程の流川さんの意外な部分を見たのに現実なんて……。信じられないのは最後まで変わることはなくなんだか朝から疲れた気分になっていた。
「何してるの?行くよ」
「あ、うん!」
天使を心配させるのは良くない。
駆け足で流川さんの隣に向かった。
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