天使は全知
「まさか、これが可愛くて取りたかった……とかですかね?」
それしか可能性はない。じゃないと枝を集め癖でもない限りこんなどうでもいいような枝に執着しないだろう。
「……そのまさか」
「あ、ああーそういうことか。はは、はは……」
どうすればいいんだこの空気。めちゃくちゃ可愛すぎて可愛い!!って叫びたいけどできない、通用しない人だから対応に困る。
「それじゃ取るってことでいい?」
表に出す表情は爽やかイケメンそのものだが、実際はやべぇやべぇと新種のヤギのように言いたくてぐしゃぐしゃの表情をしたい。
「うん。お願いできる?」
きました普段では見られないようなる流川さんの表情。睨まれることが多いからこれをやられるたびにドキッとするのだ。でも毎回ドキッとしたいからそれもありっちゃありなんだけど……。
神代閃、流川さんのお願いなら聞かないことはありません。と想像内にいる流川さんに向けて言う。現実はどうなのか?それは無理だ。失言したらその回数プロボクサーのストレートを顔面に受けるって知っててわざわざ失言する人はいないだろう?
「了解」
あれだけ脳内で喋りまくって、いざ発言してみると1言で終わるという。おかしくて1人で笑いそうだ。おっと、1人で笑えばジャブが飛んでくるんだった、気をつけなければ。
枝は木から生えてはおらず、折れた枝がさらにその木の枝に引っかかってる状態だ。なので折って取ることはしないで済む。
女子にしては手足の長い流川さんでもギリギリ届かなかったらしい距離を僕はそこまで苦労せずに手が届いた。身長は僕の長所の1つかも、と少し活躍できたことに感動する。
178cmでも身長を活かせる部活に所属してないし、体育でもそれほど力は発揮できてなかったので宝の持ち腐れ状態だったのだが、あまりないがこういうことで活躍できたのならそれだけで嬉しい。
――そしてなんとか無事に枝を手に入れることができた。
「はい、どうぞ」
「え、私が取ったんじゃないからいらないよ」
「じゃ、なんで頑張って取ろうとしたんですか……」
「なんとなくだよ」
美少女だから素直じゃないのはメリットになってるけど、美少女じゃなかったらもう……いやそもそも取ってあげようとしてなかったかな。やばい、あの3人といると下心が出て流川さんと関わってしまう。やめなければ……。
「それじゃ、これは剥がして捨てるか」
これも分かってる。捨てるなら私がもらってあげるってパターンですよね?
わざと剥がすふりをして言われるのを待つ。
が、流川さんは何も言わないまま。僕は剥がすふりを続ける。ここまで剥がそうとして剥がせないのはもはや天才の域だ。
なんでなんで、前は言ってきたのに。
何かを間違えたか過去を振り返るが何も違えてはいないはずだ。相変わらずアホらしく考えても答えは出せない。
「速く剥がしてよ。そうやって私がやめてっていうの待ってるんでしょ?」
うん、バレてた。流川さんは全知の域にいたようだ。僕が今なぜ剥がそうとしているのか全てを理解した上で黙っていたのだ。こういう男子は何度も見てきたのだろう。慣れてます感がすごく伝わってくる。
僕は他の男子と同じってことか……。
あれだけ交流があったというのに、差ができてないことに悲しむ。ってか僕今日悲しみすぎじゃない?
「すみません。剥がさないのでもらってください」
僕の負けだ。勝ち負け考えてるのは僕だけだが、一方的にボコボコにされた感じだ。ストレートもジャブも何もかも食らった。
「うん、もらう。でも取ってくれたことはありがとう。これで3度目だよ」
「あーそうだね。ハチとネコとイヌ、ホントに可愛いの好きだね」
落ち込み度マックスに近い僕に一筋の光が入ってきた。3度目、つまり回数を覚えてくれてたということに僕は素直に嬉しく思った。興味のないことなら忘れる流川さんだからなおさらに。
あー取って良かった、話しかけて良かった。
「そろそろ戻った方がいいよ。誰かが置きに来たらバレるし」
幸せな時間はそう長くは続かない。名残惜しみながらも流川さんの言う通りに僕は斜面を駆け上がる。流川さんはその後ろをゆっくりついてくる。
たった10分の流川さんとの時間だったが1時間ほど疲労したのと大差ないほど疲れた。理由は全部自分。情けないがこれもまた僕らしくていいんじゃないかなと思う。
そして薪になる枝や木を集めること1時間半、最後の雫がスタート地点に戻ってくることで薪集めは終了した。
「おかえり蓮水さん。ケガはない?」
「うん、大丈夫だよ。心配ありがとう」
「蓮水さんのことなら常に心配してるよ」
鞍馬くんはやはりバカだった。そんなこと言えばキモがられるのになんの躊躇いもなく言うもんだからこっちが恥ずかしくなってくる。
今更いい人ぶっても意味ないのに……。
きっとクラスが違うのでバレてないと思ってるのだろうが、残念なことに陽菜さんと流川さんは鞍馬くんのこと全部話してるので意味がなかった。
「みんなお疲れ様ー。たくさん集まったね」
量を見るに1番少ないのは雫。1番多いのは森のくんだった。
「それでさ、みんな木とか集めてるとき、変なシールとか見なかったか?」
森くんの発言にビクッとしたのは僕だけで、流川さんはそんなことなかった。さすがです、僕ももっと耐性つけます。
僕と流川さんが黙っていると彼方くんが見たといい、他にもシールあったんだと安心する。すると陽菜さんも鞍馬くんも雫もあったと言い始めた。変な偶然もあるものだ。
「実は明日やる予定なんだけど、この敷地内のどこかに動物のシールを貼ってあるんだが、それを見つけて1番ポイントの高い人が夜ご飯を豪華にできるってゲームをやろうと思うんだよ」
「へぇー面白そうじゃん」
「ありだな」
なかなか好評で詳しい話は明日の午後にまた説明すると言うことになりひとまず休憩することになった。
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