2度目の試験
ゲームセンターまでの道のりがここまで短く感じたのは初めて。そう思えるほど流川さんと一緒の時間が充実していた。追いついてきたということは僕のほうが遅いということなので自然と流川さんの歩く速さに自分の歩幅を合わせる。
たまに独りでに盛り上がり、流川さんを見て話すとサラサラしてキレイな髪が僕の目を惹いていた。でも見惚れるのは一瞬、すぐにこっち見るなと言われる。申し訳ないけど一瞬でも視界に入れてしまえば何度も見たいと思ってしまう。
魔女のようだ。今日から僕だけ天使じゃなくて魔女って呼ぼうかな。なんて思うが、天使って言葉が1番似合うのはもう知っているので魔女呼びはさよならだ。
「ついたね。大丈夫?疲れてない?」
「大丈夫。暑いから早く入ろうよ」
さすがといったとこだろう。スポーツ万能な流川さんはこのぐらいでは疲れないし、疲労による汗もかかない。僕もそれだけの体力があれば今頃運動部に所属していただろうか。いや、そんなこともないかな。
体力があっても技術が問われる運動部なら不器用な僕には向かない。手先が器用なだけで体全体を動かすことは苦手だ。
ゲームセンターに入ると冷気が僕たちを癒やしてくれる。これがあるから夏はいい。温かいより涼しいが好きな僕は夏派だ。暑い寒いはとても嫌いだが。
「どこのゲームで腕前確かめる?」
「えーっと……」
あたりを見渡し、1番確認しやすい台を探している。その姿すら可愛いと思うのはきっと先の件が少しは関わっている。余韻が残っているのだ。
「あっ、あれにする」
と、指差すのはこの間の台とほとんど変わりないクレーンゲームだった。これならこの前僕が流川さんの目の前で取って証明してみせたので証明とはならないんじゃないかとも思ったが、たまたまを疑っての同じ台にしたと思い了承する。
「あれを何回で取れば信じてくれる?」
「んー5回かな」
「オッケー」
台の前に立ちお金を投入しようとする。
「これは私がやれって言ったやつだからお金は私が出すよ。いいの?って聞き返さないで、いいから」
「う、うん。分かった」
別に五百円ぐらい僕が出しても良かったんだけど。まぁ流川さんがそういうなら従わないわけにはいかない。
そして改めて百円玉が投入される。その際台に手をついていた僕と百円玉を投入した流川さんの距離がゼロに等しいものになる。とてもいい匂いがしてこれが男を虜にするフェロモンかと勝手に想像してはバカをしていた。
そんなこと微塵も気にした様子のない流川さんに気付かれないよう、クレーンを見つめる。一点に集中したこの見方は横から見れば気持ち悪いものだっただろう。
そしてそれからすぐに音を立てて動かせますよーと合図される。僕はスイッチを切り替えて真剣に取りに行く。今回の獲物は猫のクッション。家にあれば全然使えるもので、僕自身、取るのもありだと思っていた。
腕や足があったクマや、羽やお腹が重いハチと違って形が統一されているクッションはどちらかといえば取りにくい。重心を重い方から軽い方に持っていけばすぐ落ちるのだが、重さも左右統一されていると片方に寄せてもなかなか動かない。
「んーとねー」
別の策を考えるが、考えるというほど時間を使うこともなく解決策は思いついていた。
滑り止めがあるとはいえ、二本の棒の上に乗るクッションは先端がちょこっと乗っかってるだけで2度3度同じとこを持ち上げ重心を寄らせるだけで落ちてくれるので今回も猫のお尻を持ち上げることにする。
――そして4度目、猫のクッションは無抵抗のまま景品となった。鐘を鳴らすのは鳳凰院さんではない。
その間を眺めていた流川さんはチラッとしか見ていないが、落ちろ落ちろと両手を握りしめ、小さく「あー惜しい」と言っていた。聞こえてた、見てたなんて言ったらボコボコにされるだろうからこれは僕の中に秘めておく。
「はい、4回で取ったよ」
「ありがとう。たまたまじゃなかったんだね」
素直に褒められると嬉しい。長所といえる長所がない僕が誰かの笑顔を作れるんだから。
「これで信じてくれる?」
「もちろん。でも神代って何もできなさそうなイメージだったけどこういう特技を知って意外と得意なものあるんじゃないって思ったよ」
「そうかな?」
やっぱり流川さんにも何もないって思われてたんだと凹むが、すぐに立ち直れた。こうやって僕の一面を良く見てくれる人がいるってことに幸せを感じた。
今回のありがとうは、この前の心臓を刺激するような言い方ではなかったがそれでも十分なほどだった。普段笑うとこを見るのは女子と話すときだけで、男子から見られてると感じたらすぐ睨む流川さんだからこうやって一対一で笑顔を見せてくれるのは特別な存在になれたようで浮かれる。
そうなると雫が羨ましい。流川さんと親友と言えるほど仲のいい雫ならいつでもご尊顔を拝めるわけだし、毎日が天国で学校行きたくないと思うことがないだろうに。
でもそう思う僕のことも男子は羨ましく思うのだから僕は強欲な人かもしれない。
「おっ、出禁少年と緑生美少女ちゃんじゃん」
ここに来て見ないと思ったが、シフトの時間ではなかったのか鳳凰院さんが僕たちのとこにニコニコしながらやってきた。
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