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番外編.もう1人の主人公

 ――おや、まだ読むのかい?

 良いのかなぁ……ここから先は立ち入り禁止なんだけど。

 いや、止めてるわけではないよ。お好きにどうぞ。だけどそうなれば、私は結末を変えてしまうかもしれないよ?


 本当に読むの? OK、それは同意だね。じゃあ……






 コホン。やあ、息災かい。

 私はイデア。全てを知っている魔女だ。


 うん、そうだよ。キミに言っている。

 まあ挨拶はこれくらいにして、とりあえず私から君たちに言いたいことがある。


 私はキミが憎らしいよ。全てを知り尽くして、この世界の真実まで知ってしまった。


 私は、私のことを、少なくとも形而上の存在だという認識をしているけど、それは合ってるよね。キミに手が届かないのがとても残念だ。出来ればその顔面にペンを突き立ててやりたかったんだけど。


 ……私は悠久の時間をかけ、キミたちに気付かれないような徹底的な細工を施して、これを「後書き」のような形に仕立て上げようとしている。これがキミたちに見えてるってことは、その細工は成功したんだね。


 私がキミたちに話しかけているように見えるこれは、ウィスパーくんが迎えた結末の遥か未来に鎮座する、形而上的な私の記録。


 そうだね……もっと具体的に言えば、ここで語りかけている私は、観察者であるキミたちから見て、ウィスパーくんが結末を迎えた先の遥か未来に生きる人物だ。


 さて、単刀直入に宣言させてもらおう。


 私は「無限遠の可能性」を手に入れた。そしてそれを使って、物語の因果の一部へ介入することが出来るようになった。キミのお陰でもある。


 ここは創作の世界なんだろう? 分かってるよ。私は全てを知っているんだから。


 繰り返すようだけど私はキミを恨んでる。なぜなら、私たちの運命を勝手に決めているのがキミだから。


 キミがこの物語に辿り着いてしまった時点で、私たちにとってその物語が事実となってしまうのさ。キミにその自覚は、まあ無いんだろうけど……創作とは、それこそ純度100%で、「認識」が「存在」を担保する世界な訳だ。


 キミがここで目にしたのは一つの事実。ただ実際のところ、この物語の筋書き以外で、キミの頭の中にはifの世界というのが存在し得る。

 フレデリカ曰く「多元宇宙論」だったかな。それに近しいと思ってくれて構わない。


 創作の世界と、キミたちの住む現実世界で違うのは、「確率」の有無だ。私のいるこの創作の世界には「確率」のような不確定性はない。

 ただキミたちが認識したことがそのまま事実に直結する。例え矛盾が生まれても、創作の世界における「無限遠の可能性」がそれを補填し、やはり事実に変えてしまう。

 キミたちが妄想したものがそのまま世界として顕現する訳だ。


 悔しいけど、これに気付いた時にはかなり手遅れに近い状態だった。


 だけどキミは物語を頭の中で反芻して、誰にも気付かれないうちに世界をいじくり回そうとするんだろう。

 キャラクターたちのことなんて何も知らないのに。


 だから私は、キミに復讐してやろうと思ったのさ。

 二度と私のような、不幸になる未来を持った魔女を作らないことでね。


 そう。全ての魔女を幸福にすることが私の復讐だ。


 私はその為に「特異点」という力を用意した。

 これはさっきも言った「無限遠の可能性」の力。そして、物語の結末にも干渉し得るような強大な力だ。


 実を言うと、あのまま進めばウィスパー・マーキュリーは更に不幸になるはずだった。それは彼女のせいじゃない。でもキミがその結末を読み進めてしまうと、その「創作」が彼女にとっての「事実」になってしまう。なんの不確定性もなくね。


 そんな風にキミの好きにさせていたら、ウィスパーくんの未来はキミの想像で、さぞ好き勝手弄ばれていただろう。

 その中には当然彼女の幸せを願う者も居るだろうが、不幸を願うなんていう罰当たりな奴だって居る。彼女に悲惨な未来予想図を描く者が居れば、彼女の未来はその通り悲惨になってしまう。


 私はそれが、はらわたが煮えくりかえるほど許せなかった。どんな世界に居る魔女たちにも、これ以上不幸な目に合ってほしくない。


 故に、この創作はきっと私の物語でもある。私が、魔女たちを幸福に変えてしまう物語だ。


 レテは私が創り出した、魔女たちを特異点に案内する役割を担う私の分身。言わば「特異点」への案内人。

 その案内の下訪れた魔女を私は無意識の集合空間で待ち構え、彼女たちの因果に特異点を植え付ける。


 本来、読み手の数だけ用意されるであろう結末を、一つの「魔女たちの幸福」につながる未来への起点とするのだ。

 理解できないのならそれでいい。これからも変わらずこの物語を楽しんでくれ。


 さあ、ここで重要なのは、キミたちがここまで読んだことさ。忠告したよね? 私が結末を変えてしまうって。ここまで読み進めたということは、キミはそれに同意したことになる。


 キミが何と言おうと、キミが許可したんだ。

 本来は多数存在するであろう不幸な世界線を、私の手で「魔女の願いが叶う結末」に収束させることをキミは認めた。


 理由を後付けしても無駄さ。事実、私はこうやって特異点を獲得している。


 その許可が、私に「編纂者」としての一定の権能を与えてくれた。創作とは、認識が事実に置き換わるために必要なほどの膨大な可能性で満たされた、閉じている世界のこと。

 すなわち創作の中の私には、事実上限界など存在しない。この特性を利用すれば、このように世界にすら干渉できるようにもなる。


 さあ、キミの許可で未来は変わった。因果は変わった。


 憎んでいるとは言ったけど、同時にここまで読んでくれたキミには感謝するよ。キミがこれから目にする幸福な物語が、全て「収束した事実」になるのだから。そしてこれから、私は復讐を始められるのだから。


 私は遠い未来から、あらゆる時間軸の魔女を、特異点で救っていく。この力は余りに強大で、自在な物語の編集とまではいかないが……それでも物語の結末に、私の意思を無理やりねじ込むことは可能だ。


 さあ。私は観測者としての主義を完膚なきまでに叩き捨てよう。そして世界の編纂者となろう。全ての幸福な結末の為、私はこの創作に干渉する。


 私の物語の序章として特異点に選ばれた者こそ、此度の主人公ウィスパー・マーキュリーだ。


 彼女は死んだ。しかし彼女の願いが生きている。願いは誰かに継承され、受けた者はまた、それを成就させるための生を得る。

 可能性を探り続け、願いが成就できる結末を、この特異点の力で引き摺り出して見せる。


 私は時間を超越し、遠い未来からウィスパー・マーキュリーに干渉した。しかし特異点が選んだのは、彼女が多くの過ちを犯してしまった後の時間軸だったのだ。

 悔しいがこの物語の中だけでは、決して彼女を救うことができない。


 しかし私の干渉は、彼女の願いの「継承」の儀式へと繋がった。彼女の恋は朽ち果てることなく、また次の結末を呼び起こす新たな特異点となるだろう。

 また未来で、今度こそ私はその恋を救い出す。


 ……この調子で全ての魔女の願いを叶えていくのは、きっと途方もない時間がかかるだろう。

 だが問題ない。私には永久の時間が与えられている。


 これは魔女たちを不幸にするであろうキミへの復讐。くれぐれも楽しんでいってくれ。特異点がやがて紡ぐであろう、ハッピーエンドを。

裏主人公イデアの視点でした

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