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18.『胴欲』の魔女ベイジャフロル ②

 協力関係になったはいいが、どうもベイジャフロルは私を信用していない様子だった。魔女を信用しろというのがそもそもの間違いなのだろうが、そこに折り合いをつけることは難しい。


 ということで、その夜は飲み会を開いた。リンドヴェルは人形を作るのでパスしたため、別の部屋を借りて一対一ということになった。

 ……念を押して一応言っておくが、私じゃなくてベイジャフロルの提案だ。私にそんな荒々しい思考はできない。


 彼女は酒、煙草、ギャンブルなど、とりあえず「道楽」と名のつくものなら何でもやるらしい。この時点でどうして『胴欲』の魔女になったのかという狂気の源泉はだいぶ理解できそうだった。


 向こうが尋常ではないペースでボトルを開けていくので、私はむしろ萎縮して一口も飲めていない。元々お酒は苦手なのだ。総毛立つほど嫌いというわけではないが、正直美味しいとは思えない。甘いお酒ならOK。


 ちなみに魔女はウワバミかザルが殆どだ。これは魔女の体質に関係している。

 元より血液そのものが劇毒の魔女にとって、アルコールなどという弱毒は効果が薄い。そもそも毒物全般の効果が薄い。致死量は通常の4倍ほどと見積もってくれて構わないだろう。


 とか言っている間にボトル3本目。それウイスキーですけど? しかもオンザロック……いくら飲めるからといってお酒に弱い人なら気絶するか死ぬペースだ。私にそんな真似はできない。普通なら魔女でも酔う。


「んー……うま。酒を飲めば、なんか明日から全てが良い方向に回る気がする」

「あ、そ。重篤な病ね」

「信じてねぇなぁ? ほら手前も飲めよぉ。んでもって、とりあえず魔女になった理由から言ってみようや、おお?」

「あまり言いたくないわ」

「つまり男か。男だな? 惚れた腫れたのあーだこーだで魔女って感じだろ。幸薄そうな面してるからなぁ」

「……半分正解なのが怖いわね。野生のカンってやつ?」

「あははは! これが酒の加護だぜ? 第六感がぺかーっと開く!」

「だからそれ、気のせいか病気よ」


 ため息を吐きながら、彼女から勧められたウイスキーを軽々しく(あお)る。これなら酒の勢いで話してしまったんだと、自分に言い訳が利くからだ。それほどすぐに酔っ払える訳でもないが。


 大して美味しくもない、平民向けの安酒が持つキツいアルコールが私の喉に熱を持たせる。私の悩みと同じで、ちょうど苦々しい。


「……好きな人がいるの。でもそれが女の子でね」

「へぇ。そりゃまた面白い受難だな」


 ベイジャフロルはグラスを片手に他人事のようにけらけらと笑う。実際、他人事だろう。私も彼女に人に寄り添えるほど繊細さは期待していない。

 これも向こうからの信頼を得るため。そう思いながら、腰を据えて自分のことを話す。


「私の心はきっと容物(いれもの)を間違えられちゃったんでしょうね。でも、別に女の子なら誰でも好きになれるんじゃなくて……その子だから好きで……」

「そっからどうして魔女になったんだよ? まさか、男になりてぇとかいう馬鹿な理由じゃないだろうな?」

「病気よ。余命は半年。だけど魔女になれば最低でも5年生きられる」

「……『魔女の制約』か」


 魔女は儀式によって創られる。その過程でどうしても付き纏うのが、「魔女の制約」と呼ばれる危険性だ。


 制約によって、魔女になってからの平均余命は10年。魔女に身を堕としてから20年以上生きた者は、少なくとも私は1人を除いて実際に見たことがない。


 故に魔女は「(いか)れていなきゃならない」のだ。そこまでのリスクを背負ってまで魔女の力を得て、叶えたいような狂気じみた願いが存在しなければ、間違いなくこの道は選ばないから。


 その点、私は他の魔女とは少しズレていた。私からしてみれば魔女の制約はリスクですらなく、むしろ「10年くらいは生きられる」というメリットだったのだ。


 私は身に付けた魔法で願いを叶えたかったのではなく、最初のうちはただ「時間」だけが欲しかった。そして自分の力で、自分の想いを伝えたくて魔女になったのだから。


「ははっ、笑い話だぜ。リスクを恐れず、魔法の力も求めず、喜んで魔女になったような奴も、今やどん詰まりの立派な魔女(ステレオタイプ)とは……救いの無ぇこった、魔女の世界ってのは」

「ええ、まったく。……それで、信じてもらえたかしら? 私は人を貶めることに命を懸けているタイプじゃないって」

「おう。私ゃちょっと警戒し過ぎてたかもな……最近ヤバい魔女にばっか会っちまっててよ」


 そう言いながら、彼女はとくとくとウイスキーのおかわりを私のグラスに注ぐ。別にもっと飲みたくて一気に飲んだ訳ではないのだが、注がれてしまったものは飲むしかない。

 しかし彼女のペースが人知を超えているので、私はそれほど量を飲むことにはならなそうだ。にしてもこの人、やたら大きな荷物を持ち込んでいたとは思ったが、その中身が大量のお酒と煙草のストックだとは考えもしなかった。


「……魔女には変人が多いし、仕方ないわね」


 真っ先にサンサーラの顔を思い浮かべて、つい苦虫を噛み潰した表情をしてしまう。しかし、意外とああいう魔女も普遍的だったりするのだ。

 本来命を賭けるべきことではないのに、歪みきった思考のせいで異常なまでのこだわりを見せる奴。それこそが魔女。


 ……私の願いというのも、魔女でない人からしてみれば歪んでいると思われるだろう。命懸けになるほどのものではないと。

 そういう健常な感情でしか物事を見れない根っからの「ありきたりさ」というのは、全ての一般人に備わっている。


 狂人の思考は狂人にしか分からない。いつかマーシレスに言ったその言葉は、魔女の在り方そのものに深く関わっている。


「今は手前に興味が出てきたぜ。もっと教えてくれよ。その惚れた女とやらの話」

「その為の『もう一杯』ってこと?」

「そゆこと♡」

「……安酒で悪酔いする前にやめるからね」

「手前の思い切り酔ってる様子を見てみたい気もするが、しょうがねぇから我慢するぜ」


 下品にも脚を机の上に置きながら、お酒を片手にベイジャフロルは笑う。私は彼女の雰囲気に飲まれ、ちまちまと注がれたウイスキーに口を付ける。


「えっと……ああ。その子の話だったっけ」

「おう」

「可愛い子よ」

「……うん?」

「可愛いの」

「そんだけ?」

「それ以外に説明できないもの。"可愛い"って変な言葉よね。優しい、どこか子供っぽい、よく笑う、感情が顔に出やすい、不器用、努力家……そういうのを全部含んでて」

「はー、なるほどね。で、そいつとはエッチなことしたいのか?」

「ブッッッ」


 何言ってんのこの人。

 含んだウイスキーを思い切り吹き出してしまった。これちゃんと掃除しないと、リンドヴェルに怒られ……いや彼女は掃除について怒れるような立場にないか。


「ケホッ、ケホッ……!」

「おう、どした? むせたか?」

「い、いえ……不意打ち過ぎて……」

「そんな反応するけどよぉ、愛=性欲じゃねぇんだろうがこの2つは切り離せないだろ? 好きな奴とはエロいことしたいよな?」

「…………………不潔」

「なにおぅ? 不潔なワケあるかい。『腹減った』『何食いたい?』ってやり取りと同じくらい普通だ」


 そうだった。ベイジャフロルは胴欲、すなわち欲望そのものを体現したような存在なのだ。おそらく食欲、睡眠欲、性欲を全く同一の「必須な欲」として捉えているのだろう。


 しかし私がマーシレスと、そんな事を願っているというのは………………


「で? 結局したいんだろ? 手前のソレが珍しい欲望だから、私にとっちゃ面白いんだ。攻めたいのか? 攻められたいのか?」

「う、うう……」


 お酒が早めに回ってきたのだろうか。正常な判断が出来ないようになっている気がする。別に答えないでも良かったのに、グラスを両手で抱えて俯きながらも私の口は正直に動き出してしまった。


「……攻め、たいです……」

「ふははっ、そうなんだ! って事は思考は男寄りってことになるのか!」

「……しにそう」

「『変身願望』ってところか? ……ん、待てよ。だとしたら、どうして手前は……」


 どうしてこんな出会って短いような人に、リンドヴェルにも恥ずかしくて言ったことがないことまで溢してしまったのだろう。

 彼女と対面すると、自分の隅から隅までを話してしまいそうで、そしてそれに逆らえないような感じがしている。


「……いや、質問を変えるぜ。その女に何か不満はあるか?」

「無い。私の傍にさえ居てくれれば良い。だから迷ってるの。好きって伝えたら一緒に居られるか、居られなくなるかのどちらかじゃない? だったらぬるま湯に浸かっていると言われても良いから……近寄らせて欲しい」

「ゾッコンってやつか。じゃあ、その女の周囲で気に入らないモノは?」

「……その子、去年結婚しちゃったの。私、あの子が幸せそうだったから、努力して祝福しようと思ってたのに……何か色々嫌になっちゃって……」

「はは……はははっ! 見えてきたぜ、お前の剥き出しの欲望!」


 ……あれ?


 あたまがぼーっとする。でも、わたしのくちははっきりうごく。ひさしぶりなのに、おさけをいっきにのみすぎたのかな? でも、ぜったいによっぱらうようなりょうじゃないとおもうのに。


 かのじょはそんなわたしのじょうたいをしっているのか、いすにふかくすわりなおし、テーブルにのせていたあしをくむと、するどいめつきでわらいかけてくる。

 そのひょうじょうはいつのまにか、ほのぐらいふんいきをおびていた。かのじょのていおんのこえがいっそうひくくかんじる。


「……さっきから気に入らねェのは、手前が良い子ちゃんぶってることだぜ。いつから聖人になったんだ? 魔女ってのは犬のクソ以下だろ? 見せろよ。手前の一番汚ねぇ部分をよォ……それで初めて私は手前を、同族として認めてやる」


 あきらかにベイジャフロルのふんいきがかわった。

 ……なに、このかんかくは……? こころだけが、からだからとおのいていって……こわい。ふたりでいるというのに、やけに「こどく」だ。


 なにか……ウイスキーにもられた……?

 もしくは、どくガスとか……それとにたようなもの?


 いずれにせよ……ベイジャフロルが……わたしを……ワナにかけた。

 ……ダメだ。からだをうごかせない。いしきはあるのに、ことばだけがでてこない。


「それとも、まだ認めたくないか? じゃあ尋ねてやるよ。手前……何故『切断』と『刻印』の魔力なんか持ってやがる?」


 ――どうして私の魔法を……いや、それよりも……私の魔力がその2つだったのは、偶然得られた魔法がそれだっただけ。他に理由なんてない。


 わたしはそういおうとしたのに、ちょくぜんであたまのなかにきりがかかる。


「魔女の力は儀式の時に『何を願ったか』に左右されてる。そしてその願望にピッタリな魔法が身に付くんだぜ?」


 ――それこそ違う。魔法は望む手段を与えてくれる訳ではない。「方法の1つ」として現れるだけだ。魔法の力を使ってしまうと、望まない強引なやり方になってしまうことだって、当然有り得る。


 ……そのことばをくちにだすことがゆるされていないような、いやなかんかくだった。


「私は『胴欲』の魔女。人の欲望について、間違ったことは無ェ。答えねぇなら当ててやるよ。手前がどうして『切断』と『刻印』の魔力を持っているのか」


 ――理由なんてない。本当に偶々だ。


 やめて……いわせて。ひていさせて。


「手前が心から願ったのはな……その女に想いを伝えることでも、見守ることでもねェ。その女に近付こうとする『縁』を、片っ端から切り刻むことさ」


 ――……違う。


 ……ちがう。


()()()だよ……自分以外の繋がりを切り刻み、その持ち物に自分の名前を書く」


 ――違うッ!


「手前はその女の幸せを第一に願っちゃいねぇんだ。……さっきから黙ってねぇで答えろよ。さあHurry(早く)……Hurry Hurry Hurryッ!」


 ――そんな事はない……言うな私……言うな言うな言うなッ……!


「私の『独白』の魔力で問う……手前はその女の結婚相手を、どうしてやりたい?」


 ――違う、違う、違う違う違う違う違うッ! これは私の言葉じゃない! 私は誰よりも……自分よりもマーシレスのことだけを想っていて! あの子が幸せならそれで良くて! その為に私が不幸になっても気にしなくてッ! 自分都合にあの子を巻き込んで、不幸にさせてしまう事は愚かしくて、望んでなくてッ!


 私は……私は……



「憎くて、殺してやりたい」



 口からこぼれ落ちたその言葉は、さっきまで散々と否定していたのが嘘のように、すんなりと私の心臓に根を張った。その根は(きたな)い、醜い、地獄の花を咲かせる為に、私から何か大事なものを吸い取っていく。


「あははっ、正直に言えんじゃねぇか。手前がそこまで(こじ)らせたのは、きっと自分の欲望に向き合えてなかったからだぜ? ……これからは前向きに生きようや」

「……い、や……違う……私、私は……」

「お? 振り切るか? 無駄だね。今の手前は完全に『本音』しか言えない、胴欲の人形だ」

「……ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「……やべっ、コイツここまで壊れかけだったのか……しょうがねぇなぁ。今晩の記憶は私のもう一つの魔法で消しといてやる。だがな……手前が放った今の言葉は無くならねぇぜ。手前の心の奥底に、(くさび)のように食い込んで眠り続ける」


 ……ねむい。あたまがぼーっとするのがつよくなって、めをあけているのもむずかしい。


Be Honest(正直な欲を)、ウィスパー・マーキュリー」


 なんだっけ……わたしはなにをいったんだっけ。

 ああ、もうだめだ。ねむくて……もう……

いっけなーい!殺意殺意☆ 私、模範的市民(๑˃̵ᴗ˂̵) 幸せなストーリー大好き♡ でもある日「一部の性癖にブッ刺さりそうな筋肉女が美少女主人公の儚いヒメゴトを曝す」ような真似をしちゃってもう大変(;o;) 胸糞展開を呼びそうな奴は魔女裁判で処刑されちまえ卍 執筆者権限がマッチョキャラを一掃する("`Д)」次回「ブックマークとかをくれ」お楽しみに❤︎

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