枯れる心
不機嫌な空を眺め、泣きたいのはこっちだと思った。次の瞬間、ピシャッと空がうるさく光る。どうやら反論を許す気はないらしい。こういう誰にも会えない日ほど、誰かに会いたくなる。
誰かが隣にいてくれることが当然であった頃のことを思い出す。当たり前を失ってからどれだけの時間が経っただろう。今の暮らしには慣れることができても、孤独に慣れることはできないままだった。
変わらない世の中を憂いて眺めた空は時間に合わせて姿を変えた。真っ暗な夜空、星の輝きは私には眩しすぎた。不意に一つの星が夜空を流れ落ちた。それを追うように、真似るように、私の頬を涙が流れ落ちた。
冷たい肌に涙の通り道が微かな熱を残す。私の中にあったのは安心だった。他人の温度を忘れ、言葉の使い方を忘れてもなお、孤独な境遇に涙できるだけの人間らしさがあったことは救いだった。
その瞬間、私の中から人間らしさが一粒流れ落ちたことに気が付いた。私の表情は青ざめた。涙に人間らしさを感じたのであれば、私の中にはあと何滴の人間らしさが残っているのだろうか。考えるほどに恐ろしくなった。
嫌だ。人間でいたい。私でありたい。そう思うほどに涙は勢いを増して次々と流れた。
ついに涙は枯れた。渇いた心では孤独を潤せない。夜空に星の姿は見えない。ぽつり、ぽつりと降り出した雨は街明かりに照らされ、まるで星のようだった。