夢鏡
いつものように姿見を合わせて後ろ姿を見る。
軽くしばったポニーテールが可愛く揺れた。
そのときに思い出してしまったんだ。
学校で聞いた『合わせ鏡』の噂を。
深夜2時に4枚の鏡を合わせると、なにか特別なことが起こるという。
友達の響子がそんな事を言ってたっけ。
よくある噂話。
その時は試すことなんてないと思っていたけれど、私の部屋にはちょうど4枚の鏡があるのだ。
よくない直感に押し止められる気持ちと、試してみたい好奇心がせめぎ合った。
一睡もできなくて、結局好奇心に負け深夜2時、4枚鏡を立て掛けてその中心にたつ。
さあ、一体なにが起こるのか……。
4枚目の鏡の中の自分と緊張しつつ対面すると、何のことはない、緊張して少し顔色が悪くなっている見慣れた私の顔があった。
……ほっとした。
当たり前だと思う気持ちと、なにも起こらなかったことに対する安堵。
安心感に、ふうと一つため息をつく。
多分私の心の奥底には、恐怖心があったのだろう。
安心すると同時に、鏡の中の自分と安心感を分かち合いたい気分が湧き上がってきた。
「やあ!」
私が右手を上げると鏡の中の私も右手を上げる。
……強い違和感を覚えた。
鏡の中の自分は逆の手を上げるんじゃなかったか?
鏡の中にいる自分を自分と認識できない動物がいるそうだ。
それは、その動物が馬鹿だからじゃなく、鏡像の自分が左右逆の動きをしているからなんじゃないのか?
私が右手を上げると鏡像は右手を上げる。
鏡像が左手を上げれば……。
なんてことだろう。
私の右手が上がっていく。
これじゃあまるで鏡の中だ。
私は鏡を見ていたつもりだけれど、そうじゃなかった。
私が見ていた景色は現実。
私は鏡の中にいるのだ。