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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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タンクの問題点

樽工房でジョッキを見せられて、自分の想像していた以上のものが受け取れそうだと感じた僕は、この先の課題について考えていた。

まずは水の屋根からの導線、屋根からタンクにいかに多くの水を流すかだ。

この世界の屋根は普通に斜めの板が水を地面へと落とすという単純構造だ。

表面に切れ目もなく平らな一枚の板が斜めについているだけだから、雨水はどこに落ちても板の向きに逆らうことなく落ちていく。

まあ、強い雨で木材が負けて抉れたり、雪みたいなものに降られたら、ちゃんと雪下ろしをしないと勝手に滑ってくれないかもしれないけど、雪はめったに降らないし、積もることはさらに稀だから気にすることはないだろう。

僕はその仕組みにもメスを入れることにした。

確かに屋根の下にタンクを置けばそれなりに水は貯められる。

けれど樽の中に落ちない水も多い。

最初は雨樋を別につけて樽まで誘導しようと思ったけど、そのためにわざわざ柱を追加したりするのはもったいない。

そして僕は今の家のボロボロな屋根と、素材の板を確認して気が付いたのだ。

屋根の板は僕が最初に想定していたものより厚みがある。

だから雨樋を付けるのではなくて、屋根の先に溝を彫って、それを雨樋に見立てればよいのではないかと。

それでも雨樋ほど水をまとめられるわけではないから、外にそのまま流れ落ちるのを防ぐことはできないだろうが、樽だって満水になれば溢れるのだから、そこまでこだわらなくてもいいだろう。



集水方法の次は水そのものの品質だ。

できるだけゴミが入らないようにしたい。

一番いいのは雨水を布で濾すことではないかと思った。

しかし布だと、樽の上部を覆うようにかけた場合、水が貯まらず、布を伝って外側を濡らすだけになるかもしれないし、中央にだけ水が溜まってしまえば濾す前に布ごとタンクに落下する可能性がある。

うちではそれをうまく利用して雨をしのいでいるので、どうしてもその考えが先に浮かぶ。

ゴミが入らないという意味では良いが、貯水できないとなれば、そもそも設置した意味がなくなってしまう。

実は当初、外れない蓋をロウト型にして、そこに布を張る方法というのも考えた。

布はロウトに合わせて円錐型に縫ったものをいくつか用意して、それを取り替えるようにする。

それならば仮に足を滑らせても、ロウトの口が小さければ樽の中に落ちることはない。

ただ、衛生面を考えるなら、上のロウトははずせるようにして、たまには中を清掃したいとは思っていた。

しかし蓋はともかく、円錐型のロウトなど、どう作ればいいのか。

布はともかく、本体の作り方が浮かばない。

薄いビニールやプラスチックのようなものがあれば、それを丸めて使えるけれど、それに似た材質を僕はこの世界で見ていない。

何より蓋ですら作ったら持ちあがらないだろうと樽工房の親方は言っていた。

だったら同じサイズかそれ以上の重さになるであろうロウト案は不採用だ。

樽工房で話を聞いたことで、樽ならばタンクとしての機能も、衛生面も配慮されていることが分かった。

竹の水筒を使った場合、掃除が必要になったら上から中に入って汚れを掻きだすことになると思っていたのだ。

もちろん、そういう作業が不要になるわけではないが、沈殿物を流せるのなら、中に降りて掃除をする回数は減らすことができる。

それだけでかなりの進歩だ。

けれどそれが最適解ではない。

屋根とタンクのことを考えているうちに、僕は水質維持という新たな課題に直面するのだった。



ちなみに各工房に足を運んだからといって、トイレやタンクのことだけ考えているわけではない。

それらをどう配置するのか、他の部屋はどうするのか、家全体のことも考えている。

僕はその樽を穴の開いていない所に置いて、柱の代わりにして屋根になる板を乗せることに決めている。

だからタンクは二つ、そしてガレージは土の上で、手洗い場については水が穴に流れるよう工夫する。

そしてレイアウトは皆で過ごせる場所と両親の寝室、キッチンにトイレ、そしてどこかに自分の部屋、これでほぼ固まった。

あとはこれを親方に説明して細かい修正をしていくことになるだろう。

いくら樽工房で心が沸きたったからといっても、冷静さを失った訳ではない。

親方に聞かれそうなことは分かっている。

とにかく視野が狭くなっていると注意を受けるのだ。

だから僕は家の全体像と共に、樽工房にタンクの依頼をしたいと相談することにしたのだった。




親方に全体像を説明すると、早速ため息をつかれた。


「そりゃあ、まあ、穴じゃねぇとこに置くのは問題ねぇが、そのタンクってのは、上に穴が空いてて、家の二階の高さなんだよな。誤って人が落ちたらどうすんだ?しかもさっき、定期的に掃除するとか言ってたよな」

「……自力で浮上して引き上げてもらうか、水量が少なければ事前にロープを下ろしておくしかないですね」


僕がその場しのぎでそう答えると、親方は頭をガシガシと掻き始めた。


「つまり、出入りは上からしかできなくて、中が空なら落ちてその衝撃で死ぬかもしれねぇんだな。つーか、掃除する時に水を抜いてからやんだろ?掃除の時にタンクん中に浮上するだけの水が入っている可能性は低いんじゃねぇのか?」

「……そうですね」


家の二階から落ちても、人間は割と丈夫なので打ち所が悪くなければ生きている可能性は高い。

けれどここ世界に高度な医療技術はなさそうだし、打ち所が悪くて即死していたら、そういうものがあっても生きてはいられない。

そもそも、そんな医療を受けられるようなお金を用意するのは、貧困層のうちでは無理な話だ。

そして正直、降りる方法は後で考えればいいと考えていない部分でもあった。

家にある梯子を下ろして、掃除が終わってタンクの中から出たら梯子を持ち上げて回収、その梯子を使ってタンクの上から庭に降ればなんとかなるんじゃないかくらいにしか思っておらず、掃除の頻度もそんなに頻繁ではないので、落ちるとか、不測の事態というのは想定していなかったのだ。


「人が入って掃除すんなら、そこの口までは簡単に上がれるってことだ。そうなると上から落ちない措置が取れねぇなら、穴をあけっぱなしってのが良いとはいえねぇな。いっそ格子でもつけて開かないようにした方が良いくらいだ」


僕は親方がここで格子という言葉を出してくれたことに少し感動していた。

穴を完全にふさぐ蓋ではなく、格子なら確かに水がその隙間からタンクに落ちるけど僕のような人間が落ちることはない。

僕も考えなかったわけではないが、親方が僕の作りたいものを理解してくれていることが純粋に嬉しかったのだ。


「わかりました。何か対策を考えてみます」

「ああ、そうしてくれ。とりあえず危険だと分かっている構造は容認できねぇな。お前が工房の親方で責任取る立場だったら何も言わねぇが、うちの工房でつくるものだからな。それにお前だったらもっといいもん作れる気がするぞ。とはいえ問題は蓋だけだろうから、樽は発注できる」


親方曰く、トイレはサイズが決まっているし、パーツをたくさん持っているのですぐに発注する必要はないが、タンクに使う樽は完全に特注だ。

僕が必要とするサイズの樽を作るための外側の金具、まずはこれを樽工房から発注してもらい、それに合わせて樽を作ってもらうという二段構えのため、今から頼んでもかなりの時間がかかる。

だからこちらのほしいサイズが決まっているのなら、早く頼んだ方がよく、遅れれば遅れるほど家の完成が遠のくとのことだ。

それに樽工房の親方は、しっかりした蓋をこの段階で付けるのは得策ではない、逆に後からでも付けられる、そう言った。

僕は完成した実物をヒントに蓋について考えた方が良いかもしれない。


「蓋については後から付ける方法を決めて追加をお願いすることになると思いますが、樽工房への発注をお願いします」

「ああ、蓋のことは伝えとくから安心しろ。まあ、こっちでも少し向こうで話すことになるんだろうが、樽が完成しねぇと蓋もへったくれもねぇからな。最悪、蓋だけならこっちで作っても問題ねぇだろう」


親方も蓋について考える時間はまだあるという。

それならばと僕は、トイレよりも先に樽の発注を決めたのだった。

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