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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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樽と柱

ただ不安に思ったところで親方が飛んできてくれるわけではない。

それに一人で来るというのは僕が決めたことだ。

ここで交渉を止めれば、親方に恥をかかせることにもなりかねない。

何より僕は、いいかげん前世の引きこもりの僕から卒業しなければならないのだ。

そのためにもここで踏ん張らなければと、僕は勇気を振り絞った。


「それで……小さくして二つ。置けるサイズにしたいんです」


急に噴き出した親方と、その時言われた子供らしくないという言葉、そして自分が何か間違えたのではないかという感情、これらが自分に押し寄せたことで動揺しながらも、今度は僕が話を続けようと、どうにか切り出すと、彼は笑いを収めた。


「いやそれより、水甕代わりなら、家建てた後にあいつを買ってきゃいいんじゃないか?」


そう言って、親方は話をしている所から見える位置にある大きめの樽を指しながら、あれを水甕代わりにするというのなら、家ができてから納品できるぞと付け加えた。

僕が言われた方を見ると、そこには壁の木材と同化するように置かれた大きめの樽があった。

確かにその樽には注ぎ口もついているし、上に穴を開ければとりあえず僕の伝えた要件は満たすことができる。

けれどサイズは僕が考えているものよりかなり小さい。

そもそも後から納品されては、家の柱の一部として家に設置するのが困難になってしまう。

だから設置するのに適性サイズのものを発注したいのだ。


「いえ、欲しいサイズはけっこう大きいので、もし家を建てた後にというなら、材料を運び込んでその場で組み立ててもらわないといけないと思います。希望サイズの完成品を運ぶのは難しいかなと」


彼の中で想像していた樽のイメージと、僕が発注したいと思っているものは違っていたらしい。

僕の話を聞いた親方は、自分で示した樽を見てから僕に改めて尋ねた。


「なるほどな。あれよりでかいもんってこたあ、そのに置いとく家具ってわけじゃねぇのか……。んじゃあ、まず高さはどんくらいだ?」

「家の屋根より少し低いくらいが希望です。できればその高さのをふたつ……」

「ふたつ?」

「はい」


水筒一つを設置したいと言っただけで大きすぎると爆笑された僕は、さすがに最初四つ、四隅に付けたかったのだとは言えなかった。

この二つは家とガレージの屋根を繋ぐ柱にしたいのだ。

だから二つ同じものというのはバランスを取るために妥協できない。

僕の意図は伝わらなかったようだが、考えがあることは伝わったらしい。

親方はとりあえずその理由を聞いたらまた話が進まなくなると判断したのか、先に自分が受注する者の全容を知りたかったのか定かではないが、話を続けるように促した。


「まあいい。幅は?」

「えっと……、このくらいを考えてます」


僕が水筒より数回り小さい円を指で作って彼に見せると、彼はまた眉間にしわを寄せる。


「ずいぶん細長いな」

「はい。屋根の支えの一部にするつもりです。柱の代わりと水を貯める機能を備えたものにしたいので」


僕がここで柱の話をすると、親方はそのイメージを掴んだのか、ニヤッと笑った。

何となく言葉遣いといい、笑い方といい、うちの親方に似たものがあるように思うが、僕はその考えをとりあえず頭の片隅に追いやって話を聞くことに専念する。


「ほう。何となく使いどころが見えてきた気がすんな。ただそのサイズでも水が入った重みで土台が崩れちまう気がするがなあ……」


ここの親方もやはり水を入れた大きなものを乗せると土台が崩れるという見解らしい。

けれどそれは先にうちの親方にも指摘された部分だ。

当然、どうするつもりかは決めてある。


「これは、穴のないとこに置きます。それなら土台が抜ける心配はないので……」

「つまり、土台を地面のあるとこまで広げて、そこに固定して柱か……。確かに普通の樽なら、中身入れてようが、人がふざけて乗ろうが、多少乱暴に扱おうが壊れねぇように作るから……まあ、細くしても柱の一つくらいにはなるか」


樽だけが柱として家を支えるのは難しいかもしれないが、他に柱があるのなら、樽にかかる負荷はごく少ないものになるし、問題ないだろう、屋根は落ちてこねぇよな、などとぶつぶつ考えながら口にしている親方を見ながら、僕は不安になって口を挟んだ。


「柱にはなりますか?屋根の一部が穴よりせり出したようになるんで、それを支えることを想定しているんですけど……」


使い方を正確に伝えた方がよさそうだ。

独り言の内容を考慮すると、もし親方の想定と違った配置なら屋根が落ちてくるかもしれないらしい。

それは困る。

僕が柱をどの位置に設置しどのように使いたいかを伝えると、親方は言葉を濁して言った。


「うーむ……。保証はできねぇが、問題ねぇと思うぞ?」


本来の使い方ではないので明言は避けたいらしい。

珍しくあいまいな表現ではあるが、とりあえず進めてくれるということは、できる可能性の方が高いということだろう。


「よかった!」


とりあえず課題をクリアできそうだと判断した僕は思わず喜んだ。


「他にあるか?」


そう親方に聞かれたので、僕はオプションを提示していくことにした。


「あと、上から水を入れて、下から出したいので、その、さっき勧められたお酒の樽の注ぎ口みたいなのを付けてほしいです」

「酒と同じか。そうすると穴は一番下と程よい位置ってことになるが、お前の言う注ぎ口というのはどの高さを想定してんだ?」

「流しより少し高い位置を想定しています」

「なるほどな。けど、それより樽に水が溜まってなかったら上から水はでてこねぇぞ?」


注ぎ口より数位が低ければ水は出ない。

だから想定した位置より注ぎ口の位置が高いのが気になったのだろう。

僕からすればそれは別に大した問題ではなかった。

僕がやりたいのは水回りの作業を楽にすることで樽の水を使い切ることではないのだ。

それに水位が高い所にある状態をキープしたいからこそ、普通の樽ではなく、高さのある樽を作りたいのだ。


「はい。理解しています。……あの、一番下の注ぎ口って何ですか?」


僕はさっきの親方の言葉で引っ掛かっていた部分について質問することにした。

水を出すために必要な注ぎ口以外にもう一つ別の何かが付くらしい。

それは何に使うものなのか、本当に必要なものなのか。

僕が子供らしく小首を傾げると、そんな僕を見て親方は自分の額を手のひらでパチンと叩いて笑った。


「ああ、まだ子供だから酒は飲めねえか。酒はな、種類によっちゃあ沈殿物ってのが下に溜まっちまうんだ。だからできるだけ下の方にもう一つ注ぎ口みたいなもん作っといて、そっから沈殿物を流し出す。まぁ、酒樽に溜まってるのは美味いし、捨てるには惜しいもんだから、料理に使ったりするが」


沈殿物、おそらく日本酒でいうなら酒粕のようなものだろう。

酒の種類によってはそういうものができるらしい。

発酵や醸造の過程なのか、作成の過程なのかは分からないが、樽に酒を足すなり、新しく酒を作る際に、とにかくそういう沈殿するような物を出す必要があって、そのために必要な機能が樽には備わっていると、そういう話だ。


「じゃあ、それがあれば掃除も楽になるってことですか?」

「まぁ、一番下を開ければ当然樽の中身は全部なくなるけどな。樽の場合は、一度開けたら出てくる分を出してから、最期に水入れながらその口に向かって汚れを流しこむようにして使う。まぁまた入れるのは同じ酒だからな。多少残ってても問題はねぇんだ」


酒粕のような物は同じ酒を 入れるだけだから残っていても味が変わるわけではないので問題ないということらしい。

確かにコップならおかわりする時にいちいち洗わなくてもいいやってなるので、似たようなものだろう。

しかも酒はアルコールなので、飲まない僕にこの世界の酒の度数などは分からないけれど、殺菌作用が少なからずあると考えれば問題なく、きっと過去に酒がダメになったということもないのだろう。

何より樽にあるこの機能、知らなかった僕はそれに感動していた。

できるだけきれいに使わなければ、定期的に自分が中に入って掃除をしなければとは思っていたが、簡易的な掃除ができる、中に入る際、水もしっかり抜けるというのなら言うことはない。

僕は溜まってしまったぬかるみの中に降りて掃除をする覚悟をしていたのだ。


「定期的に掃除できたらいいなって思っていたんでちょうどいいです。僕も樽の中には水しか入れない予定だし、違うものが入るとしたらゴミや埃なので、それを取り除けるだけでいいんです。すごく考えられてていいですね」

「おう、そうか……。まぁ、考えたのは俺じゃあねぇけどな!」


僕が褒めたことで気分をよくしたのか、うちの親方がこの工房に何を求めているのかを理解してくれたのか分からないが、彼は突然立ち上がった。


「ああそうだ、水筒じゃあねーけど、似たようなもんを作ってるから見せてやる。ちょっと待ってな!」


そしてそう言うなり何かを取りに行く様子でどこかへ行ってしまった。

取り残された僕はどうする事もできないので、とりあえず工房内を見回した。

その時、さっき代案として出された樽が目に入ったので、何となくそれを観察し始めた。

そして僕は前の世界の知識と目の前の樽を比較しながら、頭をフル回転させるのだった。

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