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僕の麗しき箱庭  作者: まくのゆうき


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樽工房への訪問

こうして迎えた休日。

僕は親方に教えてもらった樽工房の職人を訪ねた。

すると樽工房の親方が自ら出てきてくれたので、自分の欲しいものが小さい樽で、それを家に置きたいと説明したのだが、意味が分からないと眉間にしわを寄せた彼から質問を受けることになった。


「ちっさい樽?そんなもん、何に使うんだ?」

「水を保存したいんです」


用途を聞かれた僕が素直に答えると、彼はさらに深く眉間にしわを寄せた。


「そんなの、水甕でいいだろ」


彼の言葉はもっともだ。

うちだって今は水甕を使っている。

でもそれでは井戸から汲んで来て貯め置く作業を減らすという目標は達成できない。

そして樽の方が良い理由はもう一つ。

まず僕はそれを伝えてみることにした。


「いえ、長い時間保存できるようにしたいんです。水甕はどうしてもゴミやホコリが入ります。でも樽はお酒を悪くすることなく長く保存できるものだから、水にもいいかなと思って……」

「そりゃあ、理屈はそうだが……」


酒屋から飲み屋に出された酒はすぐに開封されて数日でなくなるだろうけれど、酒屋の樽は中身が入った後、未開封で長く置かれている。

それは前の世界でもこの世界でも同じということは事前に調べてわかっていた。

そしてよくよく考えて、前の世界でも木製の飲料水用水槽タンクというのは存在してたのをメディアで目にしたことがあったのを思い出したのだ。

確か鉄などより錆びにくく、木は厚みがあり光を通さないから藻などが発生しにくい、環境に優しい、みたいな紹介をされていた気がする。

メディアの紹介なので、そもそも悪い事なんて言わないかもしれないが、木製のタンクは外に立っていて、木製の家に藁の屋根という、昔ながらの景色にも馴染むなあって思った記憶がある。

それを思い出した事もあって、飲料水にも使う雨水を保存するのにはいいと、前向きに考えられたのだ。


「それと保存した水を、樽を傾けないで側面から注げたらいいなあ、なんて思ってます」


僕が長期保存以外の大事な要件をそれとなく伝えると、彼はうちの工房の親方と同じようにうなった。


「ふむ。そうか。それで注ぎ口の大きさとか決まってんのか?普通の樽の大きさって訳にゃあいかんだろう?何せ本体のサイズがちっせぇんだから」


どんなものが欲しいのか、全体が見えないとこちらから提案はできないと親方に言われた僕は、自分の考えたものを聞いてもらうことにした。


「全体案はあります。でも、親方さんの目から見て、ダメなところがあれば教えてほしいです」


僕はそこで初めて本当の使用用途について伝えることにした。

樽の大きいものを置いて、雨水を貯めたいこと。

そして貯めた水は、水甕のように汲み上げる形式ではなくて、雨水を注ぎ口から桶に入れられるようにしたいこと。

伝えたのはこの二点だ。



話を聞いた親方は、僕が話し終わると楽しそうに笑った。


「こりゃあ、聞いてた通りだな」

「何がですか?」

「あんたんとこの親方から、面白いのをよこすって聞いてたんでな」

「そうなんですか?」

「ああ。こりゃあ、面白そうだ。あそこの親方が言ってきたってことは、こいつは家に設置するってことだろう?」


そこは僕がわざと説明から省いた部分だった。

僕の説明からそれを汲み取られたことに動揺して言葉が出ない。


「あ、いや、それは……」

「まあいい。そういうのは嫌いじゃねぇ!言っとくが、うちの専門は樽とか水入れだがな、別に家が作れねぇわけじゃあねぇ。だから察しちまうわけだ。どうせ普段から簡単に手の内明かすなとか言われてんだろうが、扱っている商品や納品先は違えどあそことは繋がりがある。相手が悪かったな。諦めろ」

「……そうですね」


確かに工房からの紹介だし、その工房を知っていれば何を扱っているのかは当然分かる。

親方から前に、他の工房の商品に手を付けるのはマナー違反だと説明された。

逆にどの工房が何の商品を扱っているのかきちんと知らなければ、競合してしまう可能性があるから、周囲と仲良くやろうと考えている工房の親方ならば大抵把握しているという。

よく考えれば、親方が自分と競合したり仲の悪い工房を僕に紹介するわけがない。

そしてまた、ここでも親方は僕の話を先に通しておいてくれたのだなと理解する。

一人で頑張ろうとやってきたけれど、親方の力がなければ、ここできちんと話を聞いてもらうことはできなかったのかもしれない。

一度大人を経験しているはずなのに、親方に甘える結果になるなんてまだまだだなと、僕は思わずため息をついた。



「で、結局樽は水甕サイズか?」


僕が少し感傷的になっているところに、樽工房の親方は容赦なく質問をしてきた。

それで僕は、まだ話は終わっていなかったのだと我に返って慌てて答えながら、カバンの中に入れてあった水筒を取りだした。


「いえ……、これより低くて、サイズも小さくしたいんです」


僕が参考になるサイズとして出したからか、彼は出された水筒をじっと見た。

触ってはいけないと思ったのか手に取ったりはしないが、商品を見るその表情は真剣だ。


「これは、竹の水筒か?」

「は、はい……」


この親方もこの近辺にない竹という素材を知っているらしい。

僕は、まずその事に驚きながら返事をしたが、彼はお構いなしに続ける。


「もしかしてお前、これを設置したいとか言ったのか?」

「はい」


本当はこれを使いたかった。

けれど大きすぎるから小さいものにしなければならないと指摘されたのだ。

そこで代替案として出てきたのが樽で、小さい樽も依頼すれば作ってもらえるだろうということで紹介されてきたのがここなのだ。

大人になった経験、その時の知識はところどころ残っている僕だけれど、その時の僕は頭でっかちで少し手先が器用な引きこもり。

元々対人関係の能力が低い僕に、交渉術なんて高尚なものは持ち合わせていない。

それにこの親方はすでに僕の情報を持っているらしい。

だったら素直に話した方がいいだろう。

僕が真面目に説明を終えると、ずっと我慢していたのか親方が急に噴き出した。


「ぶはははっ!デカすぎ、デカすぎるだろ!そりゃあ小さくしろって言う。俺でも言うぞ!何かお前、アイデアは奇抜だし、頭も悪くなさそうなのに、どっかのネジが緩いっつーか、ちょっとずれてるっつーか、何か足りてないのな。いやあ、子供らしいところがあって安心したわ」


どうやら僕はまた子供らしくない事をしていたらしい。

逆にそう指摘された僕は、前にも同じようなことを指摘されていたのを思い出した。

今の僕は、少なくともまだ十をいくつか過ぎたばかりの成人していない子供なのだ。

いくらこの世界の子どもたちの働き始める年齢が一桁でも、さすがに保護者不在で交渉の場に立ったり、自分で構造を説明したりするのは、やりすぎだったのかもしれない。

もしかしたら親方についてきてもらうのが正解だったのだろうか。

僕は今回の自分の行動そのものが間違っていたのではないかと、急に不安を覚え始めたのだった。

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